新規事業、よくある3つの落とし穴-進め方編

千三つの新規事業開発。少しでも成功確率を上げるために、どこにどのような落とし穴があるのか、あらかじめ理解しておきたいところ。新規事業コンサルティングの経験から導かれる、新規事業のよくある落とし穴について、「進め方」の観点からまとめた記事です。4分程度で読了頂けます。

更新日:2024年4月1日

新規事業開発は一般に千三つと言われる通り、成功までの道のりはかなり険しく、様々な難所があります。既存事業と違い、新規事業は進め方も大きく異なります。新しいものを作る、スケールさせるからこその重要なポイントがあります。ここでは、新規事業の進め方に関して、3つの落とし穴を紹介します。


新規事業コンサルタント・後藤匡史

新規事業の進め方に決まりはありませんが、コンサルタントとして新規事業に関するご相談をお聞きする中で、進め方でつまづいてしまうパターンが見えてきました。新規事業の落とし穴、進め方編として記事にまとめてみました。

新規事業、進め方における落とし穴

進め方編でご紹介する新規事業の落とし穴は、次の3つです。

  • Stage・Gateの枠に縛られる
  • プロダクトを作りこみすぎる
  • 勝負ポイントで勝負できない

新規事業の落とし穴|進め方編|Stage・Gateの枠に縛られる

新規事業でよくある進め方の一つがステージゲート法です。ステージとゲートで構成したこの進め方は採用している企業も多く、上手く使えばかなり有効に働くのですが、間違った使い方をすると硬直的になり、その枠組みに縛られてしまいます。

一般に、ステージゲート法は、ステージごとに検証すべきことを検証し、その検証が出来たらゲートでKPIチェックし、合格したら次のステージに進む、というやり方が採られます。この仕組みが強すぎると、「一回ゲートを通過したらそこで決めたことは変えられない」ということが起こります。

例えば、顧客ニーズの検証ステージで「A」というニーズの存在がある程度見えたのでゲートを通過させた。ところが、次のステージでの検証中に、「実はニーズAが薄弱だった」、「Aを満たすソリューションができないことが分かった」という2点が判明したと仮定しましょう。

こうした場合、前のステージに戻ってニーズ仮説から再度建て直せばよいのですが、往々にして「Aは前提として他に満たす方法はないか?」を一生懸命に考えてしまい、そこから抜け出せない、といった状況に陥りがちなのです。

新規事業では事業計画等「計画」を提示することがほとんどでしょう。計画通り進められるに越したことはありませんが、特に新規事業においては、「計画」はあくまでもその時点での仮説であって、かなり早い段階でうまくいかない、あるいは別のうまく行くやり方が見つかります。

したがって、Stage-Gate法で進めている場合でも、必要に応じて前工程に戻るということも含め、柔軟に対応するスタンスでいることが肝要です。

重ねますが、新規事業の進め方のポイントは、計画を柔軟に変えていく=臨機応変に物事を進めることです。それは、Stage-Gate法のような仕組みも柔軟に活用していく、そういうスタンスでいることを意味します。


新規事業の落とし穴|進め方編|プロダクトを作りこみすぎ

たまに知り合いから「PoCを行う上で検証ポイントをどうしたらよいか?」という相談を受けることがあります。PoCの進め方を最初から相談いただけるのであれば適切にアドバイスできるのですが、困るのは「こんな感じでスマホアプリを作ってみたんですけど、これでどこまで検証すればよいでしょうか?」といった相談です。

スマホアプリを作りこんでしまってユーザと目される方に使ってもらう形のPoCでは、最初に検証されるのは「そのアプリが使いやすいか」でしょう。そのアプリのUI(ユーザインターフェイス≒使い勝手)がダメとなると、その段階で「このアプリは使えない」という評価を下されてしまいます。しかし、多くの場合、ここで検証したいのは「ユーザが持っている困り事に対するソリューションになり得るか?」です。「このアプリが使いやすいか?」はもっと後のフェーズです。

このように、あるタイミングでプロダクトを作りこんでしまうケースをよく見かけます。これの何が問題なのでしょうか?

新規事業は分からないことだらけです。つまり、不確かなことが多い。既存事業ならば前提をそのまま是として進められますが、不確かなことの上に不確かな仮説を重ねても、早晩瓦解することは目に見えています。したがって、少しずつニーズの把握、ソリューションの組み立てを進めていく必要があるのです。まだ仮説の検証が不十分な段階でプロダクトを作りこんでしまうと、問題点として次の二つが挙げられます。

  1. 本来検証したいことが検証できない
  2. 予算を使いすぎてしまいこの後リカバリできない

発明王トーマス・エジソンの名言に「私は失敗したことは一度もない。1万通りのうまくいかない方法がわかっただけだ。」というものがあります。裏返せば、成功に至るには、数多くの「うまくいかない方法」を検証していく必要がある、ということです。

言い換えると、成功のために失敗が必要、ということになりますが、ここで注意しておきたいのは、「再起できない失敗」はしない、ということ。例えば、食品事業を立ち上げようとしているときに「食中毒を出す」等は再起できない失敗に近いでしょう。また、スタートアップの場合は調達したすべてのお金を成果が出る前に使い切る、ということが再起不能に当たるかもしれません。すなわち、「これがダメになったらおしまい」という状況は避けたいのです。

新規事業ではうまくいかないことが当たり前なので、どれだけ「簡単に試せるか」が重要です。試してみて失敗しそれを利用する、そのスタンスをもって新規事業を進めてください。

新規事業の落とし穴|進め方編|勝負ポイントを外す

事業がうまく進んでいる場合、どこかのタイミングで勝負ポイントが訪れます。勝負ポイントとは大きく投資をして事業を伸ばすタイミング・ポイントのことです。勝負ポイントを外してしまうパターンは二つあります。早すぎるか、遅すぎるか、です。

新規事業における勝負ポイントは、(1) PMFを達成している状態、で(2)市場が急速に成長するとき(正確にはその少しだけ前)、です。特に(1)のPMFはかなり重要で、PMFが達成する前に投資を始めるとトラブルの拡大再生産になってしまいます。


PMFとはProduct Market Fitの略で「製品・サービスが市場に受け入れられた状態」のことを指します。自分たちの製品・サービスが顧客ニーズに対して適切な価値提供ができ、お客様が「価格を支払っても欲しい」という状態であり、それに対して製品・サービスを提供できる状態のことです。

新規事業では早く成果が欲しいので、どうしても広告投資だったり営業強化だったりを先行したくなります。しかし、まだPMFが達成されていない場合、「顧客ニーズに合っていないが広告を打ちまくる」≒広告投資の無駄遣い、や、「モノが出来ていないのに顧客に売ってしまう」≒販売後に山のようなクレーム対処に追われてしまう、ということになってしまいます。

また、逆に市場が急激に成長しているのに拡大投資に踏み切れなければ、「需要を取り逃す」ということになってしまいます。多くの場合、自社がやらなければ競合が市場を席巻しますので、遅れて取り返せなくなってしまうのです。

事業プランが良ければどこかで勝負ポイントは来ます。その時までにいかに早くPMFを達成するか、すなわち失敗をしながらPDCAを回しておくか、そして、勝負ポイントが来たと思ったら一気に投資をして勝負をすることができるか、この見立ても重要です。

以上、新規事業の進め方で陥りやすい落とし穴について記載しました。

新規事業の落とし穴|進め方編|ライターご紹介


後藤 匡史(ごとう まさふみ)

株式会社シナプス 常務取締役/コンサルタント

10年以上のマーケティング・コンサルタントの経験を有し、化粧品、外食、エンターテイメント、メディア、サービス、精密機器、電子機器、電気部品、医療機器、農業など数多くの領域を支援してきた。多くの企業が陥る「顧客不在の戦略立案・実行」に対して提言し、真のニーズを中心とした組織へと生まれ変わらせることをミッションとして、数多くの企業を変貌させてきた実績を持つ。研修では、マーケティング研修のほか、問題解決スキル研修やファシリテーション研修での実績が豊富で、「すぐに使えるビジネスの実践的なスキル」を伝える講師として評判が高い。SMBCコンサルティング セミナー講師。

1973年生まれ、2007年シナプス入社、2008年取締役就任、2021年より現職。2021年よりアグリテックスタートアップのテラスマイル株式会社の非常勤取締役を兼任。



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