新規事業、よくある3つの落とし穴-事業性編

千三つの新規事業開発。少しでも成功確率を上げるために、どこにどのような落とし穴があるのか、あらかじめ理解しておきたいところ。新規事業コンサルティングの経験から導かれる、新規事業のよくある落とし穴について、事業性の観点からまとめた記事です。1分30秒程度で読了頂けます。

更新日:2024年3月12日

新規事業開発は一般に千三つと言われる通り、成功までの道のりはかなり険しく、様々な難所があります。近年、様々な理論や書籍も出てきて多くのリスクは回避できるようになってきていますが、まだまだ多くの落とし穴が存在します。この記事では、よくある落とし穴について解説します。落ちないように事前にご準備ください。


新規事業コンサルタント・後藤匡史

新規事業コンサルティングや新規事業開発研修では、ニーズやソリューションの仮説づくりや仮説検証ポイントについて、壁打ちセッションで過不足等の指摘をさせて頂きます。この記事では、そうしたコンサルタントとしての新規事業支援の経験を踏まえて、事業性の観点から新規事業のよくある落とし穴についてまとめてみました。

新規事業、事業性における落とし穴

事業性編でご紹介する新規事業の落とし穴は、次の3つです。

  • 領域選択ミス
  • よくよく調べるとニーズが無かった
  • ソリューションが受け入れられない

新規事業の落とし穴|事業性編|領域選択ミス

最初にご紹介するのは「領域選択ミス」です。例えば、「100億円の事業を期待しているのに、この事業領域では3億円が限界であることがわかった」「市場は大きいが競合も多く成長もしないため参入余地が全くなかった」といったケースです。

領域選択が誤っていた、というケースは、新規事業開発プロセスのどんなタイミングでも発覚しますが、多くの場合、「事業答申」の場で発覚します。(往々にして担当者は途中で気づくことが多いです。)

新規事業開発では、多くの場合、会社の期待値として「売上100億円」「営業利益率10%以上」のような何らかの基準を課されます。そして、100億円をつくろうと思ったら、当然ながら100億円以上の市場規模が必要になります。一方で、世の中には様々なニッチマーケットが存在しており、あまりにニッチな市場領域を選んでしまうとそもそも売上達成は不可能、という状況に陥ってしまいます。

また、新規事業として参入するのであれば、出来れば「成長市場」の方がチャンスは大きいです。もちろん、成熟市場でも新たな価値を提供することによって再活性化することは可能です。(例えば、ほぼなくなりそうになっていたレコード針がDJブームによって再燃した、というケースのように。)

ただ、こういったケースは稀です。

領域選択ミスは、新規事業開発のスタート地点、すなわち、事業アイデア検討の段階である程度決まります。場合によっては、会社の新規事業戦略方針として領域(ドメイン)を決めるケースもあります。ここで、期待する売上高や想定される成長性(未来の話も併せて)を加味しておきたいところです。すなわち、「期待売上に満たない事業案は最初から検討しない」ということが望ましいということです。

新規事業の落とし穴|事業性編|ニーズが無かった

新規事業アイデアは、多くの場合、「こういうこと困っているんじゃないか?」という仮説をもとにスタートします。初期段階では仮説という名の妄想と呼んでもよいかもしれません。

一般的な新規事業開発プロセスでは、仮説を立てた後には仮説検証を行います。具体的には、VOC:Voice Of Customer、すなわち、ユーザと目される方に徹底的にインタビューを行います。多くの場合、ここで妄想に近い仮説だったものが検証され、確かにPainが存在している、ということが検証されます。


しかし、インタビューを行っても落とし穴にはまるケースがあります。多くは2パターンです。

  • ① 思い込みから抜け出せず仮説検証できなかった
  • ② 善意からの「それ、いいね」に騙されてしまう

① 思い込みから抜け出せず仮説検証できなかった

新規事業のアイデアを練るのに時間をかければかけるほど、そのアイデアに思い入れが出来ます。思い入れが出来ると、実際にユーザの困りごとの存在を確認しなくても「絶対にユーザは困っているはずだ」という信念に近い思い込みが出来上がっていきます。そうなると何を聞いてもバイアスがかかってしまい、ユーザの声を素直に受け取ることが出来なくなってしまいます。その結果として、ちょっとした「いいね」を拡大解釈してユーザニーズがあると誤認してしまうパターンです。

② 善意からの「それ、いいね」に騙されてしまう

もう一つはインタビュー時に「それ、いいね」というコメントを得られてしまうケースです。インタビューには「機縁法」と呼ばれる知り合いを通じたインタビュー手法があります。その際、一生懸命に事業を成功させようと奮闘している方が来たらどうでしょう?「それ、いいね!出来たら買うよ」と言いたくなりませんか?

インタビューを受けてくださる方は基本的に善意で対応してくれる「いい人」です。いい人だからこそ、一生懸命な方にはポジティブな反応をしたくなってしまいます。その結果、「それ、いいね」をユーザにニーズがあると誤認してしまうのです。

では、どうやって回避すればよいでしょうか?

回避するにはユーザインタビューは必須ですが、その際、「困り事」を確認したいところです。欲しいかどうか、ではなく、「困っているかどうか」を確認したいのです。「欲しいですか?」「買いますか?」の回答は善意でYesというケースでも「困っているか?」という問いに対して善意でYesと答える人はほぼいないんでしょう。余計なバイアスがかかりにくいのです。

また、一つの成功パターンとして、「自分自身が当事者である」ことも一つのやり方です。自分自身がニーズがある、すなわち困り事があり、何とかしたいと思っている。誰が買わなくても自分が絶対に買うのだ、というペインがあれば、一つのニーズにはなるでしょう。

なお、ごくまれに思い込みでスタートしてユーザインタビューを全くせずに思い込みだけでモノを作ってしまうケースがあります。その結果として「ニーズが無かった」ということになるわけですが、これは落とし穴に落ちているのではなく、目の前の穴にただ飛び込んだだけ、というのが一般的な評価ですのでここからは割愛しています。最低限ニーズは確認しておきたいものです。

新規事業の落とし穴|事業性編|ソリューションが受け入れられない

3つ目は「無理なソリューション」を取り上げてしまうケースです。ムリなソリューションにはいくつかのパターンがありますが、代表的なものは次の3つです。

  • 技術的に不可能
  • 法的に無理
  • 社会的に受け入れられない

まず、技術的な観点は例えば、「タイムマシンを作りたい」というようなケースです。少なくとも現在の人類の科学技術では不可能で達成できません。さすがにここまで無理筋は過去見たことがありませんが、意外と落とし穴にはまりやすいのが、「試作は出来るが量産が難しい」というケースです。技術的な課題は多くの場合、「絶対に無理」とは証明しにくいものの、事業立ち上げに必要なスピードが得られないと結果的にプロジェクト停止になります。

続いて、法的に無理というパターンです。最近だと、民泊(AirBnB)や乗り合いタクシー(Uber)などがそれにあたるでしょう。様々なロビー活動などによって少しずつ変わってきていますが、法的にNGな事業アイデアはよほど力を持ったプレイヤーでない限り突破が難しくなります。

最後は「社会的に受け入れられない」というものでしょう。倫理的にNGなものは勿論ですが、ここでは「今までの常識的な行動を変えることが難しい」ケースについて取り上げます。例えば、ダイエットソリューションが分かりやすいのですが、ダイエットは多くの方がしたい、すなわちニーズはあります。ただ、半年間おいしいものを我慢し辛いトレーニングをしてダイエットしたい、とは思っていないのです。従い、ソリューションの形態がまずければユーザは受け入れません。(その意味ではライザップはとてもうまくソリューションを提供したと思います)

では、ソリューションを受け入れてもらうにはどうしたらよいか?一つはPoCでしょう。特に技術的な検証とユーザが受け入れるかどうかの検証は欠かせません。出来る限りライトにPoCを進めていきたいところです。 また、法的な確認については、特に大企業で新規事業を行っている場合は法務部門の支援を受けると良いでしょう。スタートアップでは弁護士への相談にもコストがかかりますが、大企業であることのメリットは最大限活用したいものです。

以上、事業性の観点から新規事業のよくある3つの落とし穴について記載しました。

落とし穴に落ちたとわかるのは、落ちてすぐではなくしばらくしてから、ということも多いですし、さらに言えば、「落ちたことに気づかない」ということもあり得ます。そうならないように客観的なレビューを定期的に入れておくと良いかもしれません。

新規事業の落とし穴|事業性編|ライターご紹介


後藤 匡史(ごとう まさふみ)

株式会社シナプス 常務取締役/コンサルタント

10年以上のマーケティング・コンサルタントの経験を有し、化粧品、外食、エンターテイメント、メディア、サービス、精密機器、電子機器、電気部品、医療機器、農業など数多くの領域を支援してきた。多くの企業が陥る「顧客不在の戦略立案・実行」に対して提言し、真のニーズを中心とした組織へと生まれ変わらせることをミッションとして、数多くの企業を変貌させてきた実績を持つ。研修では、マーケティング研修のほか、問題解決スキル研修やファシリテーション研修での実績が豊富で、「すぐに使えるビジネスの実践的なスキル」を伝える講師として評判が高い。SMBCコンサルティング セミナー講師。
1973年生まれ、2007年シナプス入社、2008年取締役就任、2021年より現職。2021年よりアグリテックスタートアップのテラスマイル株式会社の非常勤取締役を兼任。




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