新規事業、よくある3つの落とし穴-組織編

千三つの新規事業開発。少しでも成功確率を上げるために、どこにどのような落とし穴があるのか、あらかじめ理解しておきたいところ。新規事業コンサルティングの経験から導かれる、新規事業のよくある落とし穴について、社内調整や組織行動の観点からまとめた記事です。6分程度で読了頂けます。

更新日:2024年4月1日

新規事業開発は一般に千三つと言われる通り、成功までの道のりはかなり険しく、様々な難所があります。特に、新規事業を進めるうえでは社内の調整、他の組織との調整が極めて重要です。社内調整時に気を付けておきたい、5つの落とし穴についてお伝えします。


新規事業コンサルタント・後藤匡史

新規事業を進めるうえで、避けては通れない社内調整。ここを誤ると、せっかくの事業プランが日の目を見ることがなくなる可能性も。コンサルタントとして新規事業についてご相談をお伺いする中で感じた、円滑な社内調整のための5つのポイントを記事にまとめました。

新規事業のための社内調整、そのポイント

組織編でご紹介する新規事業の落とし穴は、次の5つです。

  • 無駄なアドバイスは上手にスルー
  • 「新規事業は邪魔者」と心得る
  • 適時に投資が受けられるよう仕込む
  • 作った計画に縛られない
  • トップ交代に備える

新規事業の落とし穴|組織編|無駄なアドバイスは上手にスルー

それは、アドバイス?個人的な意見?

新規事業を進めていると、社内の方からアドバイスを頂くケースがあります。

「それ昔やったけどそのやり方だとうまく行かなかったんだよね。」 「こういう感じが今どきの女子には受けるんじゃない?」

みたいなアドバイスという形をとった極めて個人的な意見です。

悩ましいのは、この手のアドバイスを頂ける方は善意であり、しかもそこそこ役職が上の方だったりすることです。

原則論として、役に立つアドバイスは受け入れればよいし、役に立たないアドバイスは無視すればよいだけなのですが、これが役員の発言だったりすると、役員自身は単なる思いつきで軽く言ったものが「会議の議事録として記録され」「経営管理部隊が進捗確認をしてくる」ようになってしまうことも。

また、新規事業担当者としても手探り状態であることも多いので、適切に取捨選択することができず、これらのアドバイスを真に受けたくなることはあるでしょう。

アドバイスに対する基本の考え方

まず、冒頭に挙げたようなアドバイスは一つの意見として取り扱いましょう。「昔やってみたがうまく行かなかった」というアドバイスは、その当時なぜ失敗したのか、を確認して環境が変化していれば取り合わなければよいし、同じ環境なのであれば「どうやって回避するか」を考えたいところです。

また、「こういう感じが受けるんじゃない?」はその方がターゲットに対する深い理解があるなら真摯に受け止めるべきでしょうし、ターゲットを理解していないなら無視すべきです。誰が言ったのか(どの肩書の人が言ったのか)は関係なく、事業において重要な問題提起か、重要でない問題提起か、という視点から判断すればよいでしょう。

感謝の気持ちを表すことを忘れない

ただし、新規事業をうまく進めていくうえで、対応そのものは丁寧にしたいものです。なぜなら、彼らは(的外れであっても)善意で言っていることが多く、本来的には成功して欲しいという気持ちの表れでアドバイスをしてくれているからです。したがって、アドバイスに対しては「貴重なご意見をありがとうございます」という感謝の気持ちを素直に示しましょう。

新規事業の落とし穴|組織編|「新規事業は邪魔者」と心得る

既存事業にとっての新規事業

インターネットでの取引が拡大すると、多くのメーカーがECでの販売を指向するようになります。近年はD2C(Direct To Consumer)という名称で事業が立ち上げられています。これらの取り組みは、多くの企業の中で「新規事業」の形をとります。

EC事業は、既存事業にとってはカニバリゼーションを起こす、つまり、既存のお客様の売上をスイッチする邪魔な存在になりかねません。例えば、メーカーがD2Cを始めるとスーパーやコンビニなどの小売にとっては自分たちの売上をとられることになるので困ります。そうなると、「どうしてくれるんだ!」と担当営業を責めたり、場合によっては「こちらの方が魅力的になるように値引きしろ」という圧力になったりするわけです。

既存事業側の協力が得られない理由

また、特にBtoB型の新規事業では顧客ヒアリングを行うために、既存顧客を訪問するケースもあります。当然ながら、既存事業の担当営業に紹介してもらう必要があるでしょう。ここで注意したいのは、お客様にとっても担当営業にとってもヒアリングに付き合うメリットは何もない、ということです。

これらは、新規事業が既存事業の人たちにとって邪魔以外の何物でもない、と思われている可能性があるということを示唆しています。したがって、放っておくと事業開発に協力してくれないばかりか邪魔されるということにもなりかねません。

既存事業に快く協力してもらうには

対策方法として、一つは、トップマネジメントから新規事業の重要性を説明するなどもありますが、もう一つ、心がけておきたいのは、新規事業の担当者自身が既存事業のキーパーソンと関係性をもっておくことでしょう。端的に言えば、仲良くなっておけば、協力も得やすいですし、何かあったときにもキーパーソンから既存事業の方に「まあまあ」ととりなして頂けるかもしれません。

企業全体としては、既存事業がキャッシュを生み出すからこそ新規事業に投資ができるわけです。そのリスペクトを忘れずにおきたいものです。

新規事業の落とし穴|組織編|適時に投資が受けられるよう仕込む

新規事業開発に必要な投資

事業を立ち上げるためには投資が必要です。しかも、必要なタイミングで投資する必要があります。スタートアップ(ベンチャー企業)の場合は、必要な投資を行うために資金調達活動を行います。大企業の中での新規事業の良いところは、「資金ショート(*)」がないことです。したがって、お金がない心配をする必要はそれほどありません。

*資金ショート:お金が無くなって倒産すること

そうはいっても、必要なタイミングで必要な投資はしたいものです。例えば、調査費、プロトタイプ開発費、生産ライン投資、広告投資、等ですね。事業が形になり大きくなるほどより投資が必要になります。

予算確保のためにやっておくべきこと

一方で、企業活動においては子どもが親におやつ代をもらうような気軽さで投資予算を出してもらうわけにはいきません。企業の予算計画に従って投資されるわけですから、出来れば前もって予算を確保しておきたいものです。

可能であれば、新規事業開発室などの新規事業部隊の中で予算を多めにプールしておいて、必要に応じた投資を機動的に行っていきたいものです。それが難しいようであれば、ある程度前もって先読みしながら予算確保しておくことが必要になります。

新規事業開発では目の前の課題のクリアに追われがちですが、一歩先回りして考えておくことも必要でしょう。

新規事業の落とし穴|組織編|作った計画に縛られない

事業計画どおりに進まない新規事業

新規事業を上市するタイミングでは、必ず事業計画の形で社内に計画を提示します。しかし、困ったことに、書いた計画通りにはほぼ間違いなく進みません。理由は二つあり、一つは元々新規事業は読みにくく難しいことに加えて、もう一つの理由として「ある程度魅力的な事業計画にしておかないと承認されない」という側面があるからです。

しかし、無理な事業計画を書いてしまったとしても、承認されてしまった以上、会社内ではそれが「正」として進みますので、必ず年度末には目標達成できたのかを説明する必要が出てきます。

計画未達の場合の対策

もちろん、計画通り、あるいは計画以上の成果が出ることが理想です。しかし、ほとんどの場合、計画通りに進むことはなく、特に売上計画において未達が続く可能性が高いです。対策として計画提出時に「低い目標」で出してしまうとそもそも事業案が通らない可能性もありますので、出してしまった後の対策について説明します。

出してしまった後でも、全社的な計画を変えるのは難しいです。なぜなら、既存事業なども併せた全社計画になっているので、新規事業のブレを期中に反映させるわけにはいかないからです。そのための対策としては「新規事業組織内で妥当な修正計画を作っておく」ことです。以下にご紹介するweb記事で詳説していますので、よろしければご覧ください。


新規事業の落とし穴|組織編|トップ交代に備える

トップ交代は新規事業存続の危機

ほとんどの企業は、経営トップや新規事業開発の担当役員が定期的に変わります。上場クラスになると概ね5-6年程度でトップが変わることが多いのではないでしょうか?新規事業はトップが変わると「止める」判断が下されやすいものの一つです。理由は止めることが簡単なのに加えて、止めればすぐにコストカットに繋がるからです。

新規事業では担当者は「行ける」と思っているが、それ以外の人は確信がない、というケースが多々あります。そんな時に、上から「この事業は大丈夫なのか?」と聞かれると「難しいです」と答えたくなってしまうかもしれません。

新規事業を継続する、2つの方法

そうならないようにするには一番の対策は立ち上げてしまうことでしょう。何らかの形でお客様がついている状態になっていれば、つぶす判断がしにくくなります。検討中、PoC中だとつぶされてしまう可能性がありますので、経営トップの任期、役員の任期は意識をしておきたいものです。

また、役員内に支援者を別途作っておく、ということも一つのやり方です。取締役レベルの役員が支援者になっている場合には、取締役会で「あの新規事業をどうすべきか?」という議論になったときに進めるべきという意見を出してくれる方がいる、ということになります。

以上、新規事業開発における社内調整での落とし穴について記載しました。

新規事業の落とし穴|組織編|ライターご紹介


後藤 匡史(ごとう まさふみ)

株式会社シナプス 常務取締役/コンサルタント

10年以上のマーケティング・コンサルタントの経験を有し、化粧品、外食、エンターテイメント、メディア、サービス、精密機器、電子機器、電気部品、医療機器、農業など数多くの領域を支援してきた。多くの企業が陥る「顧客不在の戦略立案・実行」に対して提言し、真のニーズを中心とした組織へと生まれ変わらせることをミッションとして、数多くの企業を変貌させてきた実績を持つ。研修では、マーケティング研修のほか、問題解決スキル研修やファシリテーション研修での実績が豊富で、「すぐに使えるビジネスの実践的なスキル」を伝える講師として評判が高い。SMBCコンサルティング セミナー講師。

1973年生まれ、2007年シナプス入社、2008年取締役就任、2021年より現職。2021年よりアグリテックスタートアップのテラスマイル株式会社の非常勤取締役を兼任。



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