事業計画を考えるならWithやAfterよりOODAループを回せ

事業計画を作成するうえで、Withコロナ、Afterコロナという考え方では分析が出来ず、OODAループを回すことにより、変化の激しい今を生き抜くことができます。その考え方を示します。

COVID-19、新型コロナウイルスの感染拡大によって、ビジネスの前提が大きく変わり始めています。業種にもよって変化の度合いはかなり異なりますが、全く影響を受けていない業界というのは皆無でしょう。 そのことを受けて、Withコロナでの振る舞いを考えろ、とか、Afterコロナでの戦略を今のうちから練っておくべきだ、等の意見が増え始めています。Withコロナとは、感染がまだ広がっている、落ち着いていない状態、まさに今のことです。そしてAfterコロナとは感染が落ち着き疫学的には正常に戻った状態、とでも言いましょうか。 考え方としては一理あるのですが、私はむしろBefore、With、Afterと三つもフェーズにわけること自体が意思決定を誤ると思っている派です。

むしろ、今から先の事業計画を考えるのであれば、ここ数年で一気に有名になったOODAループを回すべきだと思うのです。

WithやAfterはなぜダメか?

Withコロナ、Afterコロナ、と考えるのは概念としては決して悪いものではありません。Beforeにやっていたことがいまでは通用しないので、現状を正しく考えましょう。そして、感染が収まった後は社会の前提が変わっているので新しい前提の中で戦略を組み立てましょう。戦略の前提が変わるタイミングがあるので、注意しましょう、ということです。ですが、実際に分析をしようとするとこの考え方は役に立たないことに気付くでしょう。 なぜなら、「いつ・どのように感染が終息するか?」によって前提条件が大きく変わるからです。

2020/5/6現在、日本では5/31まで緊急事態宣言が出されています。では、5/31まででWithコロナが終わるのでしょうか?ぱっと思いつくだけでも4つくらいのシナリオがありそうです。

  • シナリオ1) 5/31に日本国内での感染が終息し既存の薬がかなり効くことが分かってほぼ正常に戻る(超楽観シナリオ)
  • シナリオ2) 5/31に緊急事態宣言は解除されるが感染者がそれなりに存在するので3ヶ月くらいマスクありで過ごし半年後くらいに免疫獲得されて落ち着く(楽観シナリオ)
  • シナリオ3) 5/31に緊急事態宣言は解除されるが、マスクあり状態が1年ほど続く
  • シナリオ4) 緊急事態宣言が7月末まで延長され、その後も第三波、第四波の感染拡大が起こり、緊急事態宣言の解除が半年くらいかかる(そこそこ悲観シナリオ)

例えば、すそ野の広い自動車産業で考えると、工場停止、ライン調整等、現時点でかなり事業を縮小させています。これがシナリオ1なら日本だけでなく世界的にも感染が終息し、経済も正常に戻るでしょう。多くの企業でIT化が進んだのでオフィスワーカー中心に在宅勤務やフレックスタイム制等かなり自由度の高い働き方になり、仕事の仕方が少し変わります。これが、シナリオ2、3になると、あと3ヶ月~6ヶ月は事業縮小状態なので、場合によっては中小企業が一部つぶれるかもしれません。シナリオ4まで行くと、一部だけでなくかなり多くの企業が倒産、倒産しないまでも従業員の解雇等を行うはずです。そうなると、経済全体がかなりダメージを受けるはずです。

というように、どのシナリオになるかによってAfterコロナの戦略どころか、Withコロナの戦略も変わるのです。シナリオ4だと、「今を何とかしのぐ」というところから、「死なないために出来ることを全部やる」というモードに切り替える必要すら出てきます。

そして、難しいのは、どのシナリオになるのかさっぱりわからない、というのが現状なのです。したがって、戦略のベースとなるマクロ環境分析が出来ない、つまり戦略を考えることができない、ということになります。

OODAループとは?

OODAループは、米国空軍のジョン・ボイド大佐が提唱した考え方です。

観察(Observe)- 情勢への適応(Orient)- 意思決定(Decide)- 行動(Act)

を回していく(ループ)ので、OODAループと呼びます。 戦争において、両軍の動きが予測の範囲内で、考える時間もしっかりとれる、という状況の場合にはPDCAが役に立ちます。計画(Plan)を精緻に作り、それにあわせて実行(Do)し、実行結果を確認(Check)し、改善(Action)を行う、という流れです。この前提には、正しい計画が作れる、というものがあります。 ところが、戦闘機の戦場では時々刻々と戦況が変わり、戦況に合わせて意思決定していかないとすぐに撃ち落されます。それこそマッハで飛んでいるので、「正しい計画」など立てている時間がないのです。したがって、まずはレーダーや目視などで状況を観察(Observe)し、味方の位置、敵の位置、自分の位置、武器、戦略的な目的、敵の意図等を状況判断・仮説立て(Orient)を行い、「戦うのか、回避するのか、様子を見るのか」を意思決定(Deside)してそれにあわせてミサイルを打つなり旋回するなりの行動(Act)を行います。その行動を元に敵も味方も動くし、自分の状況も変わるのであらたに状況の観察を行います。 これが、OODAループです。

OODAループが有効なのはまさに、「時々刻々と状況が変化するケース」です。

どうOODAループを回すのか?

OODAループを回すためにはOODAの4つのステップにプラスして最初にビジョンを描いておく必要があります。

[1] ビジョンを描く

まず、当たり前の話ですが企業体として、あるいは事業としてどうありたいのか、を考えておく必要があります。場合によっては走りながら考えることになるかもしれませんが、やはりゴールは欲しいのです。それは「顧客の課題を解決する」かもしれないし、「企業の持続的な成長」かもしれない、「従業員の生活を守る」かもしれない。今までと違うのは、企業が、あるいは事業がなくなってしまう可能性が大いにあるのです。だからこそ、何を大事にすべきなのか?何を達成すべきなのか?という大きなゴールを決めておきたい、そして従業員と共有しておきたいのです。
環境変化が速い場合、現場での意思決定スピードが極めて重要です。したがって、大きなゴールを社長一人が知っているだけでは全く間に合わず、現場の社員一人一人が意識をしておきたいのです。

[2] 収集すべき情報を収集する

続いて必要なのは、Observe、情報収集です。フレームワークでいえばPEST分析や3C分析がこれに当たります。 少なくとも最低限の情報として、

  • 顧客ニーズの変化
  • 競合の動き
  • 自社の組織状況(製品、購買、従業員など)、キャッシュポジション、等
  • 現在の感染状況推移
  • 政府の方針、各種法制度等の動向
  • 社会のコンセンサス
  • (自社ビジネスに大きく影響する)ITの変化(たとえば、Zoom等も含む)

あたりは見ておきたいところです。 上記はすべて一週間単位くらいでは変わっていきます。なので、自分が考えている「常識」が一週間で通用しなくなる、くらいの感覚で事実情報を集めたいところです。 とはいえ、情報収集が目的ではないので、情報収集だけで終わる、ということの内容に効率よく集めて、「情報マニアにならない」ことです。

[3] 課題が何かを明確にする

情報がある程度集まったら、Orient、ここでは「今、何が課題なのか?」を明確にしたいところです。フレームワークでいえば、SWOT分析がこれに当たります。シナプスではSWOT分析から導き出される課題を「戦略目標」と呼んでいます。
例えば、「在宅勤務が続くことで一般消費者が○○に不満を持ち始め、当社の技術を使えば△△が提供できるのではないか?」とか、「競合が●●をはじめて反応が良いようだが、当社も同じことをもっとうまくできるのではないか?」とか、「このままだとキャッシュがあと半年しかもたないが、自粛モードはまだまだ続きそうで、一方、無利子の借り入れは可能そうだ」等です。
これらのメッセージを抽出したいのです。

[4] 方針を決める

メッセージの中から「何を取り上げ、どういう方針で進めるか?」を決めます。つまり、Decide、意思決定をするということです。
OODAループで重要なのは決めるべき時にはかならず「決める」ということです。もっと情報を集めないと決められない、と言っている場合ではありません。情報が足りない、を言い始めると永遠に集まりません。なぜなら、集めている間にそれまで集めた情報が陳腐化するからです。
従って、「とにかく決める」ことが重要です。

[5] 行動し情報を収集する

決めたらAct、つまり実行します。OODAループの場合、拙速を重要視します。とにかく動き、そしてその反応を見ながら改善していけばよいのです。 注意すべき点としては、「ノックアウトしてしまう」ことは避けましょう。例えば、外食産業がTakeOutやUberEATSを利用したデリバリーなどを始めています。これらはガンガンやるべきですが、絶対に避けたいのは「食中毒を出す」ことです。これは飲食業にとっては致命的で今までの努力を無にすることになります。よって、なまものを提供しない、とか消費期限に気を遣う、等が必要になります。ノックアウトしないことは試してみる方が良いです。今なら多少サービスレベルが低くても、世の中全体が「いろいろ模索している」状況なので、謝れば許してもらえることも多いでしょう。つまり、事業者としてお客様の状況を見ながら「何は謝れば許してもらえることで、何はノックアウトしてしまう事なのか?」をOrientの段階で見極めておきたい、ということでもあります。

そして、行動したら必ず行動結果をObserveしましょう。顧客の反応、業界や競合の反応、自社組織の状況、等ですね。これらを改善していくことによって、最初は拙いサービスであっても繰り返すごとにどんどん良くなっていくはずです。

長期的な目線は必要か?

Afterコロナを考えろ、とはすなわち「長期的な目線を持て」ということでもあります。必要かどうか、でいえば、もちろん必要です。例えば、(まだいつになるかわかりませんが)ウイルスが落ち着き風邪と大差ない状態になったときには自分たちの業界がどうなっているのか、その時自社はどういうサービスを提供していたいのか?を考えることも必要でしょう。もし、自明なものがあるなら、例えば、シナプスの企業研修事業の場合、「オンラインでの研修」は今後当たり前になっているので提供しないという選択肢は無いと考えています。勿論、従来型の集合研修の価値はあると思っていますので、それを止めるとも思っていませんが、オンラインにはオンラインの良いところがあります。だから、今のうちにいろいろなことにチャレンジしようとしています。 一方で、Afterコロナの戦略を決めるか、というとそれはナンセンスだと思っています。というのは上述通り、前提条件が読めないので、例えば、「Afterコロナの段階でどの製品を打ち出すべきなのか?」を考えても仕方がない。それよりは今の状況変化にどれだけ合わせていけるのか、という事に注力しています。

つまり、長期的な目線はもちろん必要で、大きなビジョンや変わらないことは取り組むべきですが、変わってしまう事、読めないことは、無理やり読んでも仕方がない、ということです。仮説を立てることは重要ですが、仮説の精度が低すぎてどうしようもない、ということですね。

さいごに

COVID-19の影響により、企業活動も、個々人の生活も激変しています。今はそれぞれの安全優先なのは間違いないですが、かといって、企業活動が止まってしまえば、生活や収入の観点で個々人の安全が失われてしまいます。 With、Afterがかなり高い精度で読める方、あるいは業界であれば、Withコロナの戦略、Afterコロナの戦略、と考えればよいかと思いますが、精度に自信がなければ、OODAループで動いてみることをお勧めします。 OODAがわからなければ、「とにかくラフにPDCAを回しまくる」と言い換えても良いかもしれません。先行きが読めず、環境の変化が激しすぎるからこそ、与えられた情報で判断し行動する、OODAループが多くの企業人にとって重要な考え方になった、ということなのです。

OODAループを組織として使っていくには、組織文化の醸成も重要になってきます。ですが、まずは「とにかく動く」というメンタリティを持って事業運営していかなければならない、という認識をもっておくことだけでもかなり違うのではないでしょうか。


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