「あなたは新規事業プロジェクトでPDCAサイクルを回すことができますか?」
「高速PDCAの回し方を知っていますか?」
新規事業プロジェクトはプランニングも重要ですが、成否の半分以上はPDCAサイクルを正しく回せるかにかかっています。また、不確実なカオスプロジェクトでは、「高速PDCA」を回すスキルも必要です。PDCAサイクルのコツを掴み、経験を積めば、どんなカオスプロジェクトでもPDCAサイクルを回し成果を出すことは可能です。
私は10年以上「新規事業立ち上げ期」や「社内初プロジェクト」など、不確実なカオスプロジェクトマネジャーばかりしてきました。カオスプロジェクトでは、事前予測が難しく、プロジェクトスケジュールが2倍ぶれることは日常茶飯事です。さらに、そもそもプロジェクトが途中で中止になる場面も何度も見てきました。数々のカオスプロジェクトを、ほとんどぶれなく完了させてきたPDCAサイクル8つのコツ(PDCAサイクル3つのコツ+高速PDCAサイクル5つのコツ)を解説します。
PDCAサイクルとは
PDCAサイクルとは
PDCAサイクル(PDCA cycle、plan-do-check-act cycle)は、事業活動における生産管理や品質管理などで、Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善)の 4
段階を繰り返すことによって、業務を継続的に改善する手法です。
※Wikipediaより
- Plan:従来の実績や将来の予測などをもとに業務計画を作成
- Do:計画に沿って業務を行う
- Check:業務の実施が計画に沿っているかを評価
- Act:実施が計画に沿っていない部分を調べ改善
なぜプロジェクトマネジメントにPDCAサイクルが必要か
なぜプロジェクトマネジメントにおいて「PDCAサイクル」が必要なのでしょう。どんなに労力をかけても、事前に完璧なプロジェクトプランを作ることは不可能です。そのため「仮説でプランを立て、実行しながら改善する」というPDCAサイクルが、特に不確実なプロジェクトでのプロジェクトマネジメントの基本です。
プロジェクトPDCAサイクル3つのコツ
PDCAサイクルのコツ ①目的・目標は明確に
PDCAサイクルを回すことの必要性は知られていますが、実際のプロジェクトで、PDCAサイクルが効果的に使われ、継続的に改善しているプロジェクトは少ないものです。
PDCAサイクルの成果がでない原因はなんでしょうか。最大の要因は「PDCAサイクルの目的・目標が明確でないこと」でしょう。
あなたは、何のためにPDCAサイクルを回すのでしょうか?PDCAサイクルの基本は「改善」です。しかし、例えば、「業務の改善」のような曖昧な目的・目標を置くと、プロジェクトメンバーの意思統一ができません。「業務Aの時間当たり処理速度を上げる」「製品Bの納期を3ヶ月から2ヶ月に短縮する」といった、具体的かつ数字で図れる目標をプロジェクトのPDCA目標として設定しましょう。
生産管理・品質管理では、PDCAサイクルの目的・目標が明確
PDCAの定義でみたように、PDCAサイクルは元々は生産管理や品質管理の業務改善手法です。生産管理や品質管理では、目的・目標が明確です。例えば、「不良品率を5%下げる」「作業時間を10%短縮する」などです。PDCAサイクルの目的・目標がわかりやすく、途中の改善効果も明確に数字で測れます。
ホワイトカラー業務のPDCAサイクルは、目的・目標が曖昧になりやすい
プロジェクトにおいて、「PDCAサイクルで何を改善するか」「目的」は常に明確でしょうか。「メールの返信スピード?」「資料の品質?」「営業のやり方?」。特にホワイトカラー業務では、生産管理と違い、改善の大方針レベルでも、たくさんの方針が考えられます。
目的・目標が明確に定められていないと、そもそもPDCAサイクルで業務改善することはできません。しかし、特に、ホワイトカラー業務については、目的・目標が不明確なまま、PDCAサイクルに失敗することは多いのです。
PDCAサイクルのコツ ②実行計画と進捗は月、週、日単位でチェック
プロジェクトの規模にもよりますが、戦術・実行レベルの行動プラン、スケジュールは、「日単位でプロジェクト状況をチェックしてPDCAサイクルを回す」のが基本です。
例えば、遅れているタスクがあれば、リカバリできる単純な遅れか。構造的な要因で、解決策を打つ必要があるかを、すぐに判断します。
大きなプロジェクトになると、日単位の遅れの積み重ねで、最終的に2倍、3倍の遅れになることも、ザラです。
PDCAサイクルのコツ ③プロジェクトスケジュールには2割のバッファ
プロジェクトプランを作るとき「プロジェクト全体スケジュールで、2割のバッファを残す」のが、PDCAサイクルのコツです。
プロジェクトが進むと予想外の状況が必ず起きます。バッファ期間がゼロのプランでプロジェクトを設計すると、そもそもPDCAサイクルでトライ・アンド・エラーをする余裕がありません。
予想外のことが発生する前提でPDCAサイクルを回せる余地を残しておくのです。※そして、必ず「予想外」のことは起こります。
カオスな新規事業プロジェクトで必要な高速PDCAサイクルとは
カオスプロジェクトでは、高速PDCAサイクルを回す
不確実性の高いプロジェクトでは、事前に緻密なプランを立てる意味があまりありません。時には緻密なプランが逆に仇となります。プロジェクトは「ざっくり戦略プランを作って高速PDCAサイクルを回す」しかありません。
「PDCAサイクル」と「高速PDCAサイクル」の最大の違いは目的
カオスな新規事業プロジェクトで鍛えた高速PDCAサイクル5つのコツ
私が新規事業のプロジェクトマネジャー現場で磨いた、「カオスプロジェクトで高速PDCAサイクルを回す5つのコツ」について解説します。
高速PDCAサイクルのコツ ①戦略基本方針と戦術レベルのプランは区別
プロジェクトプランを立て、いざプロジェクトがはじまると、「すべての階層のプランを、同じスピード感で高速PDCAサイクルを回してしまう間違い」をよく見かけます。
「上位レベルの戦略基本方針のPDCA」と「日々の行動の戦術レベルのPDCA」は、PDCAサイクルのスピード感覚が異なります。
高速PDCAサイクルを回すといっても、上位方針は短期間に何度も変えてはいけません。一方、日々の戦術レベルの行動は、行動結果を反映し、PDCAサイクルでどんどん改善します。
「高速PDCAサイクル」といっても「スピードの感覚はプランの階層によって異なる」のです。
プランのレベル | 高速PDCAの回し方 |
---|---|
戦略の基本方針 |
|
個別戦略レベル |
|
戦術・アクションレベル |
|
高速PDCAサイクルのコツ ②最初は上位の戦略基本方針だけプランニング
高速PDCAサイクルで最初に立てるプランは、上位の「戦略基本針しか立てない」ようにしましょう。
不確実性の高いプロジェクトで、細かい実行計画を立てるのはナンセンスです。まず動いてみてみて、何度か高速PDCAサイクルを回し、読みの精度が上がってきてから、PDCAサイクルを回すプランの範囲を徐々に下位のプランに広げていきます。
高速PDCAサイクルのコツ ③上位の戦略基本方針は頻繁に変えない
高速PDCAのよくある間違いに、「とにかくやってみることだ。高速PDCAサイクルを回して、どんどん変えていけばいいんだ。」とプランの全レベルを頻繁に変えてしまう人がいます。
日々の戦術レベルは、毎日変えていってもかまいません。しかし、上位の戦略基本方針レベルを頻繁に変更することは、高速PDCAサイクルの回し方としてNGです。
「戦略基本方針が変わる」と、その下位の個別戦略レベル、戦術レベルでやるべきことがすべて変わります。「高速PDCAサイクルだ」といって、戦略の上位方針まで短い期間でコロコロ変えるプロジェクトマネジャーも多いです。
しかし、あまりに短期で上位基本方針が変わるため、今までのPDCAサイクルで積み上げた改善成果がゼロリセットになり、改善が進まないプロジェクトは多いです。このようなプロジェクトのメンバーは、「PDCAをやっても無駄」という意識が芽生え、PDCAサイクルを回さなくなります。
高速PDCAサイクルのコツ ④プロジェクトスタート前からPDCAを始める
高速PDCAサイクルを回す場合、事業計画やプロジェクトがスタートする日には、すでに「PDCAサイクルが何周かしている」のが理想です。
例えば、「4月からの事業計画では、4月までにプランを作って、そこからPDCAサイクルを回しましょう。」と考えるのが普通のプロジェクトマネジャーでしょう。
しかし、不確実性の高い事業のプロジェクトは、プランがスタートしてから、PDCAを回したらプランのブレが大きいのは当然です。
例えば、私がプロジェクトマネジャーをするときは、「これは、プロジェクトのキーだ。大きなボトルネックとなり得る」、と思う戦略仮説・活動手法・実行ツールなどは、プロジェクトスタート時点で、すでにヒアリングや自分で実行して、小さなPDCAサイクルを回し「これはいける」と有効性を判断し終えています。キー事項の仮説検証が終わり、PDCAサイクルの2周目に入っているわけです。よって、プロジェクトの成果がでる確率やプロジェクト期間の予想精度もあまりブレません。
高速PDCAサイクルのコツ ⑤目的は選択肢をつぶして基本方針を見つける
「普通のPDCAサイクルの目的」は、「ある決まった業務数値の改善」です。しかし、「カオスプロジェクトでの高速PDCAサイクルの目的」は、たくさんのオプションを試して「いける/いけない」を切り分けることでしょう。「改善」ではなく、「複数オプションから適切な基本方針を見つけること」が目的です。
とりあえず、手探りで進めてみる。失敗も当然ありますが「このオプションは先がないとわかること」自体が重要です。複数の戦略・戦術オプションを試し、少しずつノウハウをためます。
新規事業の高速PDCAのコツまとめ
PDCAサイクルと高速PDCAサイクルのコツについて解説しました。
PDCAと高速PDCAは、早い/遅いではなく使われる文脈が違うことに注意しましょう。「PDCAは業務改善」「高速PDCAは事業プラン自体を見直すこと」と、そもそも目的が異なる。ここを区別できない掛け声だけの高速PDCAは、ほぼ失敗します。