新規事業、よくある3つの落とし穴-本人編

千三つの新規事業開発。少しでも成功確率を上げるために、新規事業担当者本人が意識しておくべき落とし穴についてお伝えします。6分程度で読了頂けます。

更新日:2024年4月18日

新規事業開発は一般に千三つと言われる通り、成功までの道のりはかなり険しく、様々な難所があります。その難所に立ち向かう上で、新規事業担当者本人が注意しておきたい落とし穴について記載します。


新規事業コンサルタント・後藤匡史

新規事業を担当されている方が陥りがちな6つの落とし穴について、本人編として記事にまとめてみました。

新規事業担当者が注意しておくべき落とし穴

本人編でお伝えしたい新規事業の落とし穴は、次の6つです。

  • 思いきった行動が出来ない
  • フレームワークを埋めることが目的化する
  • スキルが足りないと思い勉強ばかりする
  • 本業が忙しいという理由で手が止まる
  • 残業なしで進めようとする
  • 周囲の抵抗にあい、気持ちが折れる

新規事業の落とし穴|本人編|思いきった行動が出来ない

新規事業は高速でPDCAを回すことが成功の近道です。顧客のニーズを知るために知らない方に話を聞いたり、とりあえずモックアップを作ってPoCを行ってみたり、中途半端な製品、サービスの状態でローンチしたり、ということが求められるケースがあります。

その時に出てくるのは「こんなことをやってよいのか?」という既存事業で培った常識的な良心です。既存事業では何かの失敗をすることで失うものがたくさんあります。そのため、失敗を回避しようとする傾向があります。これは既存事業ではある意味で正しい行為です。その結果として、事業計画も半年かけて作ったりするわけです。

一方、新規事業では半年かけて作った事業計画でも、1週間くらいの顧客インタビューの最中で修正せざるを得ないことに気づかされることもままあるわけです。

すなわち、行動してPDCAを回さなければ新規事業はうまくいかない、そのために「Do」が重要なのです。

発明王トーマス・エジソンの名言の一つに「私は失敗したことはない。一万通りのうまく行かない方法を発見したのだ」というものがあります。まさに、新規事業は新しいチャレンジを繰り返しながら成功確度の高い方法を組み立てる活動です。

一点、注意点として「再起不能の失敗」は回避してください。スタートアップの再起不能のほとんどのケースは「資金ショート」ですが、大企業の場合は既存顧客や既存事業に大ダメージを与える、大きな投資に失敗して事業の固定費に乗せられる、等です。

軽微な失敗そのものは問題にならず、だいたい、1か月もすればみんな忘れますが致命的になると新規事業をつぶさざるを得なくなります。

「再起不能の失敗」にさえ気をつければ、失敗をこなしたほうが良いことが多いです。思いきった行動を心がけましょう。

新規事業の落とし穴|本人編|フレームワークを埋めることが目的化する

新規事業の担当者になると「何をしてよいかわからない」という話を良く聞きます。その時によりどころになるのが新規事業フレームワークです。例えば、ビジネスモデルキャンバスやリーンキャンバス、はたまた3C分析やSWOT分析などの一般的なフレームワークもあります。

これらのフレームワークを埋めてみること自体は新規事業開発にとって効果があるでしょう。しかしながら、リーンキャンバスがすべて埋まっても良いビジネスかどうかの担保はありません。

当社シナプスでもフレームワークを教える研修は存在します。実際、使ってみると効果が得られることも多いです。ただ、フレームワークはツールでありより良い事業を作る一つの手段です。新規事業担当者が目指すべきは「儲かる新規事業を作ること」であって、フレームワークを埋めて満足して頂いては困ります。

少なくとも私が知る限り「これだけ埋めておけば良い事業ができる」というフレームワークは存在しません。加えて言えば、どんな状況でも使えるフレームワークも存在しません。

あらためて強調しておきたいのは、「フレームワークはツールとして使えるところで使う」こと。決して手段を目的としないように肝に銘じておきたいものです。

新規事業の落とし穴|本人編|スキルが足りないと思い勉強ばかりする

新規事業の担当者にアサインされると当然ながらやったことがないことがほとんどなので何から手を付けるかで悩みます。また、新規事業のフェーズが進むと新たにわからないことが出てきます。

今は一昔前と比べて、新規事業やスタートアップに関する理論も進化していますし、優れたコンサルタントや、実務家からの書籍、動画、セミナー等様々あります。それらは確かになるほど納得できることも多いし、学ぶことで新規事業を加速させることもできるでしょう。

だからといって、「お勉強」に終始してしまうと、結果的に新規事業は一歩も進みません。考え方を知ること、セオリーを知ることは大事です。しかし、新規事業は学問ではなくビジネスであり、「やってみて初めて分かること」が多いし、多くの新規事業に関する本、動画、セミナーでも、「とにかく行動せよ」と言われているはずです。

学ぶことが大事なのはそのとおりです。ただ、学ぶことも手段であり、目的は「儲かる新規事業を作ること」です。そして、一番学びが多いのは、いろいろなセオリーを知ることではなく、実際に実行してみて市場からの反応を確認しPDCAを回すことです。

セオリーは大事、ですが、それ以上に「それを使って得た体験」が新規事業開発には何より大事だと考えます。

新規事業の落とし穴|本人編|本業が忙しいという理由で手が止まる

新規事業の立ち上げ時期は、フルアサインされることはなく、本業、既存部署の業務をやりながら兼任で進めることが多いです。兼任は何かと問題もあるのですが、既存の業務をすぐに外せなかったり、立ち上げ期にはそこまで業務負荷がかからない(ように見える)ということが理由でしょう。

新規事業の活動の多くは「多少後回しにして大きな問題にならないように見える」ものがほとんどです。例えば、顧客ニーズのインタビューは今すぐにしなくても事業が終わることもないし、お客様に迷惑をかけることもありません。戦略構築も同様です。その結果として、本業が忙しくなると新規事業の活動が止まります。

ところが、新規事業を進めるには「行動すること」が必須です。戦略仮説を作り検証する、顧客ニーズを聞く、PoCを進める。これらを通じて初めて良い事業が立ち上がるわけです。言い換えれば、行動しなければいつまでたっても良い事業になりません。

我々が新規事業に関わる場合、例えば、VOCをとる場合には「とにかくアポの連絡をいつ入れるかを決める」ようにしています。アポ連絡をしてしまえば、そのあとは相手がいることなのでこちらの事情で止めることが少なくなります。しかし、アポの連絡だけはこちら側が動かなければならないからです。

本業が忙しいという理由で新規事業の活動を止めないように、「何をいつやるのか」をつねにスケジューリングし、そのスケジュールは死守する、そのルールをご自身に課して動きたいものです。


新規事業の落とし穴|本人編|残業なしで進めようとする

ワークライフバランスや働き方改革が進んだ昨今、残業そのものが難しくなってきました。

とはいえ、新規事業に関わると「時間に関係なく作業の必要がある」ケースは多々あります。典型的にはVOCで、特に消費者向けのビジネスを検討している場合は、消費者インタビューが土日になるケースが多々あります。(BtoB型の場合は、相手の活動時間を考えるとビジネスタイムになることが多いですが)

また、スピード感をもって立ち上げないといけない場合、やらなければならないことがてんこ盛りになりますのでどうしても定時時間では足りなくなるでしょう。

スタートアップの場合は、キャッシュが尽きればそこで会社がつぶれますので残業などお構いなしに24時間365日活動されている創業者は山ほどいます。また、残業規制のない国ではもっとスピード感を持った働き方をしている人も山ほどいます。それらのスタートアップと競争で勝たなければいけない場合、休んでいる場合ではないでしょう。

そうはいっても、スタートアップと大きく違うのは、「失敗しても倒産/失業しない」のが大企業の良いところです。それに甘えることももちろんできますが、もし、解決したい課題があるのでしたら、「定時」というルールに無理に合わせないようにしたいものです。

新規事業の落とし穴|本人編|周囲の抵抗にあい気持ちが折れる

新規事業開発は失敗の連続です。そして多くの場合、敵は社内に出て来たりします。「そんなものは出来ない」「余計なことをしないでほしい」「俺たちが稼いだ金を無駄遣いしやがって」等、様々な理由で社内の抵抗に遭います。

また、明示的に否定されなくても、社内の部署に依頼をしても動いてくれないことも多々あるでしょう。そうなると、担当者ご自身の気持ちが折れて、事業開発にパワーが注げなくなります。

対策は3つです。

同時に出来ると良いと思いますが、まず一つは新規事業は賛成されにくいもの、と思っておくことです。

既存事業をやっている方々は自分たちが会社を回していると考えています(し、多くの場合実際そうです)ので、けんかをしても仕方がないわけです。一つ一つに腹を立てたり、へこんだりするのではなく、そういうものだと思っておく、とのも心の置き所でしょう。(往々にして、成功し始めると見方が増えるものです)

二つ目は、社内外に仲間を作っておくことです。社内で仲間ができると良いですが、社外でも同じように新規事業に取り組んでいる方と会話していると共通の問題意識や共感を得られますので、気持ちのコントロールがしやすくなります。

そして三つめは、私はこれが一番大事だと思っていますが、何のために新規事業にチャレンジしているのかを意識し続けることでしょう。具体的に言えば、顧客の声をできるだけ多く聞き、「自分たちが取り組むこのビジネスは顧客にとって価値のあるものである」ということを強く信じることです。そのため、できるだけ多くのVOCを実施しておきたいところです。

以上、新規事業担当者として意識しておきたいことを整理しました。新規事業は何かと大変ですが、目的志向、すなわち「解決したい課題にフォーカスする」ことを忘れないようにしたいものです。

新規事業の落とし穴|本人編|ライターご紹介


後藤 匡史(ごとう まさふみ)

株式会社シナプス 常務取締役/コンサルタント

10年以上のマーケティング・コンサルタントの経験を有し、化粧品、外食、エンターテイメント、メディア、サービス、精密機器、電子機器、電気部品、医療機器、農業など数多くの領域を支援してきた。多くの企業が陥る「顧客不在の戦略立案・実行」に対して提言し、真のニーズを中心とした組織へと生まれ変わらせることをミッションとして、数多くの企業を変貌させてきた実績を持つ。研修では、マーケティング研修のほか、問題解決スキル研修やファシリテーション研修での実績が豊富で、「すぐに使えるビジネスの実践的なスキル」を伝える講師として評判が高い。SMBCコンサルティング セミナー講師。

1973年生まれ、2007年シナプス入社、2008年取締役就任、2021年より現職。2021年よりアグリテックスタートアップのテラスマイル株式会社の非常勤取締役を兼任。





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