規模の経済性と経験曲線

シナプス後藤です。

コストリーダーシップ型の競争優位性を確立する場合に、「規模の経済性」と「経験曲線」はよく出てくる概念ですが、デスクトップパソコンの事例を用いてみていきたいと思います。

規模の経済性、とは?

規模の経済性(Economics of scale)とは、規模が大きくなると経済効率が高くなる、という経済学のメカニズムです。いくつかのパターンがありますが、単純化して解説すると、「1億円で工場を立てたとして、そこで1個だけ製品を作ればコスト1億円、1億個作れば、一つ当たり1円となる」というものです。
設備産業、装置産業型の業界は規模の経済性が効くことが知られており、概ねシェアが高い企業の方が利益率が高くなります。

経験曲線、とは?

経験曲線(Experience Curve)は、累積生産量が増加するに従い、単位コストが減少する、という経験法則を示した曲線のことです。
たくさん作ればコストは下がる、ということですが、下がる理由には様々あり、上述の規模の経済性もありますが、従業員の熟練度や材料調達額の低減、その他さまざまな要素によりコストが下がっていくことが知られています。
経験曲線が示されやすいのは主に工業化された製造業です。
以前、ブロイラー(鶏肉)の経験曲線を見たことがありますが、放し飼いで育てられていた1940年以前まではコストがほぼ下がらず、ケージに囲い込み工業化を始めた1940年代以降急激にコストが下がっていました。

パソコンに見る経験曲線

では、パソコンの価格推移を見てみましょう。
データを単純化するために、JEITA(電子情報技術産業協会)のパーソナルコンピューター国内出荷実績をもとに単価を導き出したものが下記です。


PCの平均単価推移


このグラフから、2012年まで価格がどんどん低下しているのがわかります。
このグラフは出荷をベースとしているのでコストではなく「価格」ですが、背景に低コスト化が影響しているのは間違いないでしょう。(とはいえ、例えば、価格.comのような低価格を普及するプレイヤーの影響も大きいと思います)

規模の経済性と経験曲線、どちらの影響?

ところが一方で2013年以降、価格低減が止まりむしろ価格が上がります。
なぜでしょうか?
パッと想像するのはPCのタイプの違い、例えばノートPCとデスクトップPCでは動きが異なるかもしれません。

2007年以降のデスクトップPCだけで見てみましょう。やはり同じ傾向が見て取れます。


つまり、それ以外の理由があるということです。
では、今度は、出荷台数と単価のグラフをX-Yグラフで示します。特に、単価が低減しなくなった2012年以降で示してみましょう。


そうすると、今度は台数と単価が反比例することがわかります。
特にデスクトップは徐々に販売台数が低下し、3百万台を切る年が多くなってきています。これはグローバルでも同様の傾向と考えられますが、PC単価に大きく影響する半導体、たとえばCPUやメモリ等は規模の経済性が極めて大きく影響する製品であることが知られています。

おそらく、単年度の規模の経済性の影響が、経験曲線による影響に勝った、ということなのではないかと思います。
※もう少し精緻に見ていくと、半導体特有の需給変動である「シリコンサイクル」の影響も大きいはずですが、複雑になるので割愛しました。


規模の経済性や経験曲線は、経営戦略を考えるうえで基本的な法則ですが、影響が出るケース、出ないケースがありますので、「どういう条件下だと成り立つのか」を意識しておくとよいかと思います。


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