マーケティングの定義

日本マーケティング協会が34年ぶりに刷新した「マーケティングの定義」。オーセンティックなマーケティングの定義と照らし合わせ、変化点とその背景の社会変化について考えます。(読了時間:3分30分程度)

更新日:2024年3月13日


 

34年ぶりの「マーケティングの定義」の刷新を受けて、なぜ、今、マーケティングの定義を変えるのか、その背景を考察しました。

シナプスでは、マーケティングは「顧客ニーズへの適合と競争優位を構築する活動」と定義しています。

一般認知としては、市場調査のことをマーケティングと呼んだり、広告宣伝・販促活動をマーケティングと呼んだりしていることが多いようですね。比較的「売上をどう上げるか?」を主眼においた考え方や理論体系であることが多いのがマーケティングでしょう。

さて、先日、日本マーケティング協会がマーケティングの定義を刷新していました。前回の制定が1990年ということで、実に34年ぶりの刷新だそうです。背景としては、デジタル化も進み、価値観も変化してくると、今までの定義では立ち行かなくなった、ということだと理解しています。

(マーケティングとは)顧客や社会と共に価値を創造し、その価値を広く浸透させることによって、ステークホルダーとの関係性を醸成し、より豊かで持続可能な社会を実現するための構想でありプロセスである。

注 1)主体は企業のみならず、個人や非営利組織等がなり得る。
注 2)関係性の醸成には、新たな価値創造のプロセスも含まれている。
注 3) 構想にはイニシアティブがイメージされており、戦略・仕組み・活動を含んでいる。

https://www.jma2-jp.org/home/news/916-marketing

新たな「マーケティングの定義」にみる変化点

34年ぶりのマーケティングの定義の刷新。大きな変化点としては、大きく次の3点と理解しました。

  • 主体が企業や組織だったものが、「顧客や社会と共に」となったこと
  • 「価値」が主軸になったこと
  • 目的が「より豊かで持続可能な社会を実現する」ことになったこと

主体が「顧客や社会と共に」となったこと

まず、一つ目は主体の変化です。

近年、様々なところで「共創」というキーワードをみかけます。今は、企業が自前ですべての価値創造をするのではなく、お客様や社会と一緒に新たな価値を作っていく、ということが当たり前になってきました。典型的にはSNS等の活用によって、ユーザとともに価値を作っていくことなどが挙げられるでしょう。

今や価値の源泉はモノにあるのではなくコトにありますので、どういう体験価値を作るか、ということがマーケティング活動の主軸になり、結果的に「共に作る」ということがより重要になった、ということなのではないでしょうか。

「価値」が主軸になったこと

二つ目は「価値」が主軸になったことです。

価値というキーワードはかなり前から出ているもので、決して目新しいものではありませんが、1990年の段階ではまだ企業や組織が商品やサービスをつくり市場を創造していく、ことが主軸だったのに対して、前述のとおり「価値」をどうつくるか、がマーケティング活動の主軸である、という認識を示したものと理解できます。

目的が「より豊かで持続可能な社会を実現する」ことになったこと

そして、三つ目について。

日本マーケティング協会でもその重要性を挙げていますが、SDGsに代表されるように、社会全体がサステナブルなものでないといけない、という通念が市民権を得ています。すでに社会の要請として社会に害悪と思われるものは財としての価値がなくなってきています。グローバルな視野では通用しないエリアもあるかもしれませんが、少なくとも日本の消費者の多くが必要性を感じている、ということで言えば、日本マーケティング協会が制定する定義としてはとても理にかなったものと感じます。

マーケティングのオーセンティックな定義

一方でマーケティングの大家であるコトラー先生は何と言っているでしょうか?「マーケティング・マネジメント第16版」(コトラー、ケラー、チェルネフ著)では「マーケティングとは」について3つの観点で説明しています。

マーケティングとは、組織の目標と調和する形で人々や社会のニーズを明確化し、それを満たすことである。

アメリカ・マーケティング協会によるマーケティングの定義は以下に引用されるものです。

マーケティングとは、顧客、クライアント、パートナー、社会全体にとって価値のある提供物を創造、伝達、提供、交換するための活動、一連の制度、およびプロセスのことである。

また、マーケティングの社会的な定義は、次のとおりです。

マーケティングは、個人や集団が価値ある製品やサービスを創造し、提供し、自由に交換することを通し、必要なものやほしいものを手に入れる社会的なプロセスである。

コトラー先生も「社会」というキーワードを掲げており、一企業の活動そのものが社会的意義を意識しないと市場に、社会に受け入れられない、ということを示唆しています。

なお、1990年に日本マーケティング協会で制定されたマーケティングの定義は以下となっています。

マーケティングとは、企業および他の組織1)がグローバルな視野2)に立ち、顧客3)との相互理解を得ながら、公正な競争を通じて行う市場創造のための総合的活動4)である。

1)教育・医療・行政などの機関、団体などを含む。
2)国内外の社会、文化、自然環境の重視。
3)一般消費者、取引先、関係する機関・個人、および地域住民を含む。
4)組織の内外に向けて統合・調整されたリサーチ・製品・価格・プロモーション・流通、および顧客・環境関係などに係わる諸活動をいう。

定義がこうなりました、というだけの話ではあるのですが、定義というのは物事を規定する、ということでもあります。今の時代、マーケティング活動の成功確率を上げるには、「社会や顧客と共に」「価値を作り」「より豊かで持続可能な社会を実現する」ことを目指すことが肝要である、ということだと考えるべきなのでしょう。

マーケティングの定義|ライター


コンサルティング事業責任者 後藤匡史

株式会社シナプス 常務取締役 コンサルタント。

10年以上のマーケティング・コンサルティングの経験を有する。化粧品、外食、エンターテイメント、メディア、サービス、精密機器、電子機器、電気部品、医療機器、農業など数多くの領域を支援してきた。

多くの企業が陥る「顧客不在の戦略立案・実行」に対して提言。真のニーズを中心とした組織へと生まれ変わらせることをミッションとして、数多くの企業を変貌させてきた実績を持つ。

研修では、マーケティング研修のほか、問題解決スキル研修やファシリテーション研修での実績が豊富で、「すぐに使えるビジネスの実践的なスキル」を伝える講師として評判が高い。SMBCコンサルティング セミナー講師。

1973年生まれ、2007年シナプス入社、2008年取締役就任、2021年より現職。2021年よりアグリテックスタートアップのテラスマイル株式会社の非常勤取締役を兼任。


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