前回は、顧客の課題の本質について考えてみましたが、今回は、顧客の購買プロセスについて。
購買プロセスの複雑性
顧客は課題を解決するために、ソリューションの購買検討を始めます。その購買プロセスを明らかにすることが、まず営業の第一歩だと思うのです。
BtoBマーケティングの特徴として、「購買プロセスの複雑性」が挙げられます。
一般に、企業の購買は、様々なルールのもとに行われています。誰が起案して、どのようにそれが承認されていくのか?購買プロセスは長くて、多くの人が関与し、起案から執行まで時間がかかる。それが企業の購買の特徴だと言えるでしょう。
それなら、そのルールを明らかにしておくことが不可欠です。以前担当していた生産設備の購買プロセスを例に取り上げてみましょう。
【使用者】
生産設備の使用者は、工場の製造部門です。もっと具体的にいえば、生産ラインの作業者一人ひとり。基本的には、彼らのニーズが原点となっているはずです。
【起案者】
しかしながら、実際に起案をするのは生産技術部門が担当します。その担当者が製造部門の現場ニーズをくみ取って、さらには経営全体のあるべき姿を実現するための提案を考えます。
【関与者】
そして、実際には多くの関与者、意見具申者が存在します。例えば、製品の設計部門や情報システム部門。どの程度の関与が起こるかは会社によって異なると思いますが、製品選定などに様々な意見や情報を提供する役割を果たすことが多いですね。
【承認者】
購買プロセスの最終意思決定者です。実質的には「Go/NoGo」を判断するだけということもあります。また、決済額によって、承認者の階層は異なることがほとんどです。大きな決済は取締役会で、、、ということもありますよね。
【購買者】
そして、最終的に取引サイトの窓口の役割を果たすのが購買部門ですね。価格など取引条件を交渉する相手となります。
いかがでしょう?これだけの関与者がいるわけです。この購入に関わる意思決定者をDMU(Dicision Making Unit)と呼び、DMUが何段階かにわたるステップを押し進めて、購入に近づいて行くかたちとなります。
このプロセスとDMUの存在をしっかり把握していないと、適切な営業対応をすることはできませんよね~。
プロセスによる関心事の変化
そして、さらに営業を難しいものにしているのは、顧客の関心の対象が「プロセスによって異なる」こと。そして、「相手によっても異なる」ことです。
最初は、課題を解決することができる機能を持った商品を選定することが担当者にとって、最も関心のあることかもしれません。
しかし、その次には、どの企業が最も信頼できるか?に関心が移ったりします。そのためには「その企業の導入実績」などが重要な情報になるかもしれません。
さらに、最終プロセスでは、価格や納期など具体的な取引条件が最も重要な関心事となるはずです。
このように、顧客の関心事は購買プロセスのステージ毎に変化します。これは、購買取引に関わる「狭義のニーズ」と言っても良いかもしれません。
DMUによる関心事の違い
一方で、DMUによっても関心事は異なるはずです。営業にしてみれば、「あの会社はヒトによって、言うことがバラバラだ」と、グチをこぼしたくなるかもしれません。
しかし、それは仕方ないことなんですよね。部門が違うということは、当然会社のなかでの役割が違うわけです。役割が違えば、ニーズも異なるのは当然のことでしょう。
先ほどの生産設備の例で言えば、次のように整理できます。
- 生技 = 全体の生産性が気になる
- 製造 = 使い勝手や歩留まりが気になる
- 設計 = 生産品質が気になる
- 情シ = 他システムとの相性が気になる
- 購買 = 納入価格が気になる
それぞれの立場を考えて、何が求められるのか?それをどう説得、納得してもらい、自社製品の魅力を理解してもらうかが重要な営業の役割といえるでしょう。
営業にとって本質的に重要なこと
営業として重要なことは、顧客理解です。それも「顧客ニーズ」の理解は当然のことながら、「顧客の購買プロセス」の理解が求められています。
私たちシナプスにも、顧客の「購買プロセス調査」というリサーチを依頼されることがあります。先日あったのは、「今後は中小企業をターゲットして攻略したい」というものでした。
営業戦略を組み立てるには、まず顧客の現実を事実ベースで掴むこと。これが全ての立脚点だと思います。
株式会社シナプス 代表取締役 家弓正彦