ビジネスでは仮説が有効に働きます。一方で、「仮説」というのはあくまでも仮の説ですから、仮説の段階では思い込みや妄想との差がわかりにくいです。その結果として、仮説を立てているつもりでいながら思い込みで失敗するケースも見られます。
また、最初から「私のカンでは」「私の経験では」「ここは度胸でエイヤ」というKKD法を多用される方もいらっしゃいますね。これではビジネスの成功確率はなかなか上がって行きません。
では思い込みにとらわれず、仮説思考になるためにはどうしたらよいのでしょうか?
1.私は大丈夫だ、と思っている方のセルフチェック
まず、下記の質問についてご自身を振り返ってチェックしてみてください。
□思い込みでミスをする経験が多い
□勘が鋭いほうだ
□行動するのは自分が完全に納得してからだ
□自分は周囲より優秀だ(またはセンスが良い)と思っている
□私は思い込みはあまりしない方だ
この中の一つでも当てはまる方は注意したほうが良いでしょう。
特に最後の「私は思い込みはあまりしない方だ」と考えている方は、そう思い込んでいる可能性がありますのでご注意頂きたいところです。
どこにもチェックが付かなかった、という方も周囲のメンバーや部下、後輩などが陥ってそうであれば、この後もご覧ください。
2.思い込みと仮説の違い
思い込みと仮説では何が違うのでしょうか?
思い込みと仮説の違いには三つのポイントがあります。
(1) 正しいと信じている→あくまで検証が必要だと思っている
思い込みとはまだ定かでない事象に対して「(自分が考えたことが)絶対に正しいと信じている」ことを指します。仮説とは、「多分合っていると思うけど、実際には検証してみないとわからない」という考え方をします。
100%正しいと考えているか、少しは間違っている可能性もあると考えているか、の違いです。
現実には「100%正しいとは言い切れないけど」と思っている方もいらっしゃると思いますが、そういう方であっても「でも検証しなくても正しいと思うよ」と考えている方はやはり思い込みになります。
(2) 根拠を示せない→少ないながらも根拠がある
仮説を立てる、というのは「おそらく〇〇に違いない、なぜならば〇〇だからだ」という構造で考えます。すなわち、なんらかの結論に対して、根拠が(たとえ薄弱であったとしても)存在しているのです。
だからこそ、「なぜそう考えたのか?」を説明でき、その妥当性の検証が必要、と考えていれば仮説と言えますし、根拠が説明できないとすれば思い込みと言わざるを得ません。
仮説の検証は多くの場合、この根拠が正しいかをチェックすることに他なりません。KKD法のうち、経験は根拠になるケースもありますが、「私の過去の経験でこれこれこういうことがあり、それが今回のケースに類似している」ということであれば立派な根拠になります。一方で、経験が具体的に語れない場合はカンとほぼ同義と考えてよいでしょう。
(3) 他の可能性を無視→全体感をもって可能性を評価している
思い込みになっている場合、もっと良い選択肢が思いつかないので、「これしかない」となってしまっていることが往々にしてあります。
仮説を立てるということは、「いくつかの選択肢の中でこれが良い」と考えるということでもあり、いいかえれば、いろいろな選択肢を評価するから妥当性のある根拠が出せる、ということでもあります。
3.なぜ「思い込み」が発生するのか?
思い込みが表面化するのは、誰かとの対話シーンが多いです。その際、思い込みは「私の方が正しい」という自己認識からスタートします。自己評価が高い程、この傾向が出てきます。
よくあるシーンは後輩や部下からの提言に対するアプローチで「〇〇さん、Aをやった方が良いのではないでしょうか?」と言われると、「(こいつ何にも考えてないな、リスクが高すぎてやらないに決まってるだろ)ダメ」という回答になることが往々にしてあります。
考えの偏り(バイアス)がかかって思い込みが強化されるケースもあります。例えば、確証バイアスやエコーチェンバー現象と呼ばれるものがありますが、これは、思い込みが正しいロジックだけを抽出しようとするものです。
よく思い込みのダメな例を説明する例として一酸化二水素という成分を説明するケースがあります。一酸化二水素はH2O、つまり水のことなのですが、「一酸化二水素は危ない」と思うと例えば、「一酸化二水素で毎年何万人無くなっている」(水難事故)、とか、「重篤な病気になる人は必ず一酸化二水素を摂っている」(飲料水を飲んでいるだけ)、等を自分の思い込みを強固にする根拠として取り上げてしまい、それ以外の情報を見なくなる、という影響があります。
近年はSNSやYoutube等の影響で「自分が見たいものだけ見る」という行動がとりやすくなってきているので、より確証バイアスが進んでいく現象もみられます。
4.思い込みから抜け出す3つの方法
思い込みから抜け出すには次の3つの方法があります。
(1) ロジックを整理する
まず、思い込みと仮説の違い、で記載した観点をチェックしたいですね。
すなわち、[1] あくまで検証が必要、[2] 根拠がある、[3] 全体感をもって可能性を評価、の3つについての対策を行います。
一つ目は、検証が必要、ということですが、「何が前提条件になっているのか?」を明らかにするのがポイントでしょう。自分の考えていることが間違っている、と考えた場合、何がどうなると間違っていることになるのか。思い込みの場合は、「これは何が起こっても正しい」と思いがちですが、自分の案が成立しない要件を考えてみると、何が前提条件になっているかが見出しやすくなります。言い換えれば、その前提条件を検証する、というのが仮説検証のポイントになるでしょう。
二つ目は、その根拠を考えることです。特に一つ説明するときに「なぜこれが正しいのか、その根拠は、、、」と考えて頂くことでロジックがより明確になってきます。根拠を自身で考えることで思い込みが明らかになるケースもあるでしょう。
三つめは全体感をもって可能性を評価、すなわち、他の案はないか、をMECE(モレなくダブりなく)に考えてみることです。ポイントは、単に案を考えるだけでなく、他の案が自分の案よりうまくいくとしたらどういう条件下なのかを合わせて考えて頂くとよいでしょう。
(2) いろいろな情報を取る
思い込み、視野狭窄になる理由の多くは、持っている情報が少ないことにあります。例えば、東京から大阪に移動するときに「新幹線」というアイデアしか持っていないと何らかの理由で新幹線が止まったときに「再開を待つ」という選択肢しかなくなってしまいます。もし、飛行機でも良い、高速バスでも良い、自家用車でも良い、というような選択肢を知っていれば最初からベストな選択肢を探すはずです。東京駅近くにいて梅田付近に行くなら新幹線の方が良いかもしれませんが、羽田の近くにいて伊丹方面に行くなら飛行機も有望選択肢でしょう。
普段から「いろいろな観点の情報を収集しておく」ということも思い込みから抜け出すきっかけになるケースがあります。
(3) 客観的な視点でディスカッションする
思い込みから抜け出すには一人で取り組むのには限界があります。なぜなら思い込みに頭が支配されているからです。そんな時に役に立つのが「他社とのディスカッション」です。この時ポイントになるのは、「自分自身が客観的な視点に立ってみること」ですね。他の方の発言に対して、いったんフラットに受け止める必要があります。
エコーチェンバー現象に陥った方は客観的な評価が出来なくなる、という説もあり、抜け出すには「信頼している人と対話する」ことが必要だ、とも言われます。もし、「思い込みが強い人を何とかしたい」と思っているのであれば、信頼関係が出来ている、すなわち、「この人の言うことは一理ある」と思ってもらえる人とのディスカッションが必須になるでしょう。
5.思い込み対策のために相手に対するリスペクトを
思い込みを自分で抜け出せればベストですが、思い込みの厄介なところは自分だけでは抜け出しにくいし、他者からの指摘も冷静・客観的に受け止めにくいところにあります。
そのため、結局のところ、常日頃から相手に対するリスペクト、すなわち、「この人の言っていることには一理ある」と思いながら対話したり、考えたりするスタンスを持つことが早道かもしれません。
以上、思い込みから抜け出すための方法をご紹介しました。
皆さんのビジネスのお役に立てば幸いです。