シナプス後藤です。

以前、ある会社様から研修依頼を受けて、「今年の受講者は女性だけにしたいんですけど」と言われており(後藤がファシリテーターで良いのか、という議論をとりあえず置いておくと)、面白い議論ではありますが、「女性だけにする」合理的な理由があるのか、「女性だけ」という選択肢を考えて良いのか、等一度整理したことがあり、改めて記載します。
頭の整理のために書きますが、ジェンダー論や差別論に発展する可能性のある結構ナーバスな議題でありますが、そちらの話が主ではないことも付け加えておきます。

なぜ女性だけでやるのか?
元々は、研修の組み立ての事情(これは個社の課題です)からきている部分もあるのですが、一方で女性だけでやることのメリットもありますので順番に考えていきましょう。

組織的事情

1) 女性管理職が少ない

 男性主体の組織構造を持つ企業だと、女性管理職が相対的に少なくなります。昔はそれでも良かったかもしれませんが、現在では3つの理由で女性管理職の比率は高めたいところです。一つは多様性の議論で、企業の意思決定のためには色々な属性がいたほうが精度が高まるだろう、という話です。二つ目は、人不足に関わることですが、男性を前提に考えていると人不足のこの社会では優秀な人材を獲得できない可能性も高く、女性も優秀であれば活躍の場があるべきです。三つめは、その企業の顧客に女性が存在する限り、女性もいたほうが望ましい、ということです。BtoB型であってもお客様が女性というケースはあり、「女性」というだけでまとめるのは乱暴なのは承知ですがそれでも性別の差はそれなりに大きいと想像します。

2) 能力の高い女性に上に上がって欲しい

 女性は比較的男性と比べて出世を望まない、と聞きます。これは聞いた話で、一般論的にそうだと私が思っているだけですが、能力的に優秀であっても「私にはまだまだその資格がない」とチャンスを取りにいかない傾向がある、というのです。せっかく優秀なのにそのポジションにつかないのは企業にとっても損失でしょう。
というような組織的事情もあり、会社としてもこういった研修を実施することで「女性に対して組織として後押ししたい」というメッセージを投げる事にもなります。

研修組み立て上のメリット

3) 男性社会における女性の動き方を話しやすい

 とくに、男性主体の会社だと「ガラスの天井」と言われるように女性がどこかのタイミングで出世の機会を失う、というケースがあると聞きます。実際に天井がある組織もあれば、「昔はあったけど今はないけど当事者たちがそう思い込んでいる」というケースもあるかもしれません。
現実問題として、「アンコンシャスバイアス」というキーワードでジェンダー問題やダイバーシティの文脈では良く語られることです。最近でこそ改善するための動きも様々行われていますが、それでも女性役員比率や女性管理職比率の議論がなくならないので、何らかの構造的問題が含まれていると考えるのが自然でしょう。

幸いにしてガラスの天井が存在しなくても、例えば、「年上の男性部下にどう接するか?」「上司や顧客のセクハラまがいの言動にどう対処すべきか?」など、女性ならではの状況に対する意見交換をしやすくなります。

4) 女性ならではのライフイベントへの対応を議論しやすい

 少なくとも今の日本社会では多くの会社において「出産・育児」でキャリアの分断、つまり休職しなければならない状況に陥ります。また、日本社会でなくても生物学的に出産前後は稼働が難しくどうしても様々な制限がかかります。
これらの議論も、やはり女性だけの方がやりやすいだろう、という仮説を持っています。

現実には、「女性」と言っても様々な方がおり、勿論「出産・育児」を選択されない、「結婚」を選択されない方も多く存在しますし、家庭環境でもパートナーの方のスタンスによってかなり状況は変わります。ですが、ライフイベントが実際にキャリアに影響を与える側面も大きいので議論をしておいた方が良いでしょう。

反対者の意見

では、なぜ女性だけだといけないのか?
「女性だけの研修」とするとネガティブな意見が出ることもあるようです。

5) 差別的ではないか?

 上記のメリットを書いていて私自身も思うくらいですが、「女性ならでは」のことを書くだけでも性差別があるように感じてしまいます。
このお話を頂いた直後に多くの(主に女性の)方にインタビューさせていただき、私自身も日本の中では柔軟な考え方になっていると思います(実際に、そう言われたこともあります)。そんな私でも「大丈夫かな」と思うくらいなのです。
さらには、メッセージを間違える、あるいは組み立てをまちがえるとセクハラになってしまってもおかしくないですし、また、男性側にとっても「なんで女性だけなの?」みたいなことを考えてしまう可能性もあるわけです。逆差別なんだと。

ジェンダーバイアスの議論では、すでに男性が優遇されているため、「女性を積極的に優遇する」というのはマイナスをゼロに戻す行為であり問題ない、という論調が主流では、と思います。ですが、男性側からすれば、「なんで女性だけなんだ」と思ってもおかしくないでしょう。

6) 女性の活躍は組織の課題であって、本人の課題とは関係ないのでは?

 これは主に受講対象者から出そうな意見ですが、「女性が管理職になれないのは組織の課題で合って、当事者である我々に研修すべき話ではない」というものです。例えば、上司からのセクハラは典型で、セクハラされる女性が悪いのではなく、確実にセクハラをする上司が悪いです。だから、「男性社会での動き方」を考えるのであれば、むしろ組織の男性が研修を受けるべきことではないのかと。

実際問題として、このリクエストを私に頂いたのはその会社の経営者でしたが、その方ご自身も十分にこの問題を理解されていない部分もあるように感じました。オーダーを頂くくらいですし、会話していても知識としては持っているようには感じましたが、とはいえ、今まで染みついた考え方はなかなかアップデートできない、という課題はありそうです。

だから、本質的に、「上司の課題」という指摘は正しいと私も思います。

7) 女性「だけ」でないといけないのか?

 上記の3や4は女性だけの方が話しやすいということを言っていますが、本当かと。議論を深めるのであれば、男性側の意見もあった方が良いのでは、という意見も出ます。また、もし1や2のような主にリーダーシップを扱う研修を行うのであれば、男性も一緒にやった方がそれこそ組織的にも研修的にも議論が深まるのではないかと。

本来的なダイバーシティの効果を考えるならこの指摘も正しく、やはり男性側の意見もあった方が良い、というのはよくわかります。とはいえ一方で、「男性がいるから議論しにくい」という側面もあるだろうとは思います。

8) 女性にも色々いる

 とくに4の話をする場合、女性には様々なタイプの方がいます。出産して子育てしながら働く人、その中でもパートナーの理解や支援が多い人・少ない人、結婚して退社し専業主婦を望む方もいれば、結婚・子育てを望まず仕事に生きがいを見出す人もいます。こういった人たちが一堂に会して議論しても議論がかみ合わないのではないか。むしろ、女性同士の変な空気の読み合いで、建前議論だけになってしまうのではないか。

インタビューの際に、女性リーダーの敵は同じく女性リーダーだ、という話も聞きました。例えば、その昔は女性が活躍しようと思ったら、家庭をある程度犠牲にして残業もバリバリしながら仕事に向き合うしかなかったケースが往々にあったと聞きます。その時代に出世された女性は、「女性は仕事と家庭の両立を目指してはいけない」という気持ちを心のどこかで持っています。だから、「子供が熱を出したくらいで帰るな!」という方がいてもおかしくありません。

ということで

様々なメリットデメリットが想定されますが、私自身の現時点の結論は、「メリデメあるが、メリットの方が大きい」と考えています。もちろん、デメリットを少なくする様々な対策は必要ですが、だからといって「やらない」という選択肢よりはやるという選択肢の方が良いでしょう。
正直、こういったダイバーシティに関わるテーマは専門ではなく、ビジネスロジックの方が得意なのですが、たまたまそういうシーンに関わったため言語化してみました。

ダイバーシティやジェンダーに関わる議論は時期とともにアップデートされますのと、当社の専門領域ではありませんので、おかしい点があればご指摘をお願いします。私の考え方もアップデートして参りたいと思います。


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