SNSでアンケートを集めよう、と思ったら気を付けたい三つのポイント

シナプス後藤です。

新規事業開発では、顧客の声を聴くことはとても大事です。そのため、アンケートは重要な一つの手法で私も推奨している派です。
近年、SNSの進化(特にfacebook)とともに「アンケートに回答してください」というものを頻繁に見るようになり、「このアンケートは良く練られている」と回答しながら思わず唸ってしまうものもありますが、「これはちょっと、、、」と反対に意味で唸ってしまうものも多く見かけられるので、せめてこれだけ気を付ければよくなるのに、というポイントを三つ記載します。

  • ①アンケートで何を知りたいの?事前に仮説立てをしよう
  • ②バイアスに注意、その質問は間違った結論を導くよ
  • ③お願い文は分かりやすく、これがあるだけでだいぶ違う

なお、私は仕事として調査設計を行っていますので、本業で取り組む場合にはもう少し様々な観点で注意していますが、プロでなくても最低限この三つを注意していただければかなりの成果は出るのではないかと思います。

①アンケートで何を知りたいの?事前に仮説立てをしよう

アンケートには必ず目的があります。新規事業開発のシーンで使われるのは大きく三つ、[1] ニーズは何か、[2] 市場はあるか、[3] ソリューションは何か、でしょう。(詳細に言えば、ターゲットセグメントやプロモーション計画、タッチポイントのチェックなどいろいろありますが、概ね私が見かけるアンケートは上記3つですね)

いずれでも、必ず「これが分かれば、次のステップに進める」という検証ポイントがあるはずで、その検証ポイントに対して事前に仮説を立てておきたいです。
例えば、「ダイエットアプリ」のビジネスを考えたとしましょう。このアプリを使うとダイエットが出来る、というようなものです。
まず、これをやってはダメな例、から。

【あなたはダイエットをしたいと思いますか? Yes / No】

「これ聞いてどうするの?」系の質問ですね。
普通にアンケートを取ると5-6割くらいなんじゃないかと勝手に妄想しているわけですが、ダイエットをしたい人が60%とわかると何の意思決定につながるのか?もし仮に、セグメント分けして、〇〇の人は90%以上ダイエットした、が分かったとしてどのような意思決定につながるのか?
それが分からないと質問の無駄打ちになります。

【ダイエットのお困りごとをご自由に記載してください】

「回答者に期待しすぎ」系の質問ですね。
アンケートは基本的には「自由回答」に向かない手法です。Facebook等で友達前提であれば必ずしもダメとは言いませんが、これで良いアイデアにつながるコメントが拾えるのは「稀」です。例えば、稀なケースですが、回答として「美味しいものを残さなければならないのがつらい」とかを記載いただいたとして、それだけが知りたいわけではなく「どんなシーンで」「なぜつらくて」「それを防ぐためにどのような対策を取っているのか」まで知りたいのですよね、きっと。だとすると、この質問はアンケートではなくインタビューで明らかにすべきもので、n=1でもよいのでアンケートをして探った方が望ましいと思います。(そのためのスクリーニングとして聴くのはアリですが、上記のような回答が来るのは稀なので、仮説を元に設問選択肢のある形の質問を作って「後でインタビューさせてください」と書いた方が良いです)

では、どうしたら良いか?
まずは事業課題、戦略課題、マーケティング課題を明確にすべきなのですが、ここは本論ではないので置いておいて、概ね次の流れで考えます。
(1) 何を意思決定したいのかを明確にする
(2) 意思決定に必要な情報を抽出する
(3) 「多分こうなっているだろう」という仮説を作る
(4) 設問を設計する
(5) 一回やってみる、知り合いに回答してもらう

(1)何を意思決定したいのかを明確にする

①誰のニーズに応えるべきか?②どのニーズに応えるべきか?③ビジネス投資すべきか?④どのようなソリューションを作るべきか、等様々考えられます。
例えば、「ニーズは何か?」と「ソリューションは何か?」では質問が変わってきますので、ビジネス上の課題を整理するのがまず第一です。
例えば、「ダイエットアプリ」の場合に、「ダイエットをしたい人は多い、自分もしたいと思っている。体重やカロリーを管理すればダイエットできるのは分かっているが、『入力管理が大変だからダイエットできていない』人が結構いるのでは?この困り事を持っている人が十分に多ければアプリ開発を具体的に検討したい」、程度の文章化をしておきましょう。

(2)意思決定に必要な情報を抽出する

意思決定したいことが決まったら次は「何が分かると意思決定ができるのか」を整理します。ロジカルシンキングやクリティカルシンキングが得意な方はここで「ピラミッドストラクチャー」が役に立ちます。
必要な情報の粒度ですが、最終的にアンケート設問に落とし込みますのでかなり具体的なレベルで記載する必要があります。
例えば、「市場性の検証」ということでいうと、

市場性= 市場規模 × ニーズの強さ
 市場規模:当該ニーズを持つ人が何人存在して、いくらのお金を出すか?
  当該ニーズを持つ人・・・「〇〇に困っている人」の共通でもつ属性
 性別、年齢、職業、家族構成、
ライフスタイル、価値観、
△△の使用度合い、等
 いくらのお金を出すか?・・・現在代替品にどの程度お金をかけているか
 ニーズの強さ:どのくらい困っているか?
  〇〇があることでどのような問題が起こるか?
  金銭的なダメージは?
  現在、〇〇に対する対策をしているか?
くらいなレベル感では分析しておきたいです。ただし、ここまで精緻に出来る方はあまり多くないので、そのあとの(3)仮説の作成で補強できることを考えてここで無理することもないでしょう。

(3)「多分こうなっているだろう」という仮説を作る

調査設計で最も重要なフェーズが「仮説構築」です。すなわち、「多分、こんな状況になっていて、この仮説が正しければ俺のビジネスはうまくいく」という考えを持っておきたいのです。
例えば、ダイエットアプリの例では、「ダイエットをしたい人は多い、自分もしたいと思っている。体重やカロリーを管理すればダイエットできるのは分かっているが、『入力管理が大変だからダイエットできていない』人が結構いるのでは?この困り事を持っている人が十分に多ければアプリ開発を具体的に検討したい」と書きました。これも一つの仮説ですが、もう少し掘り下げて、「今は、体重計は乗っているけど気付いたときにお風呂に入る前に載って『あぁ、、、』と嘆いて終わっている。その日や次の日は食べるものに気を付けるがそのあとつい食べてしまう。カロリーも食事を選ぶときになるべく低カロリーにしようとしているが自分があとどれくらい食べて良いかわからない。おそらく健康診断で問題になる40代以降の男性は機会があればやりたいと思っているに違いない」というようなイメージです。

(4)設問を設計する

いよいよ設問を設計します。
設問は分かりやすい日本語で、なるべく選択式アンケートで作成します。もちろん、自由記述型でもよいのですが、これが多いということは仮説が甘い、ということになります。
選択式のアンケートは回答者が回答もしやすく、結果が出た後の分析もしやすいです。自由記述型は、記載者が一生懸命に書かないといけないので「よほど問題意識が強く(言語化できる程度には考えている)」「(がんばって書いてくれるほど)親切な方」でないと重要な情報は出てきません。
それでも自由記述型で聞きたい、というケースももちろんあります。ですが、それらのほとんどは、アンケートではなくインタビュー調査で行うべきものです。
例えば、「ダイエットアプリ」の例だと

【ダイエットに対する普段の取り組みをご自由にご記入ください】

と聞きたくなりますよね。その場合、自由記述だと、「食事の時に油ものを控えるようにしています」等の回答が来ます。でも知りたいのは、「控えるってどれくらい?なぜ油ものなの?具体的に油ものって何のことを言ってるの?現実には結構食べてるんじゃないの?一日の総摂取カロリーはどれくらいのなの?油もの食べた後運動するの?体重計はどれくらい乗るの?」などたーくさん気になってしまうはずです。もっと言えば、その「なぜ」を聞かないと知りたいことが聞けないはずなのです。すなわち、アンケートを止めてインタビューをしましょう、ということですね。

(5)一回やってみる、知り合いに回答してもらう

アンケートを作る人はたいてい、「自分の思い込み」に侵されています。なので、専門用語を使ったり、暗黙の前提で記載したりしてしまいます。また、単純な見落としで不適切なアンケートを作成しているケースもあります。ですので、関係者以外の知り合いに一回試してもらうことが極めて重要です。
(例えば、私も仕事でアンケートを取るときは必ず社内のプロジェクトに関与していないメンバーに回答してもらっています。)

どういうものが見えてくるかというと、

【あなたは一日にどれくらいのカロリーを摂取していますか? 
A:1000kcal未満、B:1000-1500kcal、C:1500-2000kcal、D:2000-2500kcal、E:2500-3000kcal、F:それ以上】

という設問を作ります。これをアンケートとして取ると回答者が最初に考えるのは
「いや、調べたことないからわからない」でしょう。でも、回答しなければならないので、「うーん、わからないけど、2000くらいだったら気持ちがいいからCと回答しよう」くらいないい加減さで回答します。(厚労省が推奨する40代の摂取カロリーは2650kcalらしいですね。)
これを事前に試してもらっていれば、
【あなたは一日にどれくらいのカロリーを摂取していますか? 
A:1000kcal未満、B:1000-1500kcal、C:1500-2000kcal、D:2000-2500kcal、E:2500-3000kcal、F:それ以上、G:わからない・考えたことがない
と修正が出来ます。

②バイアスに注意、その質問は間違った結論を導くよ

先日、悩ましいアンケートに回答しました。全体的にはよく考えているなーと思うものだったのですが、2番目くらいの設問で、
【あなたのお名前を教えてください】
という設問があったのです。狙いは「気になる回答があった場合にインタビューを依頼したいため」であることが目的だったそうです。
狙いはわかりますが、アンケートの最初にこれを書くと、「私が後藤という名に懸けてアンケートを答える」ということになります。
例えば、(上述では違う内容でしたが)
【仕事中に居眠りしたことがありますか? Yes/no】
という質問があったら、Noと回答するでしょう。(いや、本当は疲れていて寝落ちすることもありますよ、そりゃ。)

記名式のアンケートはそこそこ存在しますが、調査手法を理解している方は「必ず本人確認のための設問は最後にもっていく」ようにします。それは上記のようなケースがあるからです。
同じくバイアスがかかりやすいものとして、自分の仮説の正しさを押し付けるための質問を作ってしまうことです。

【生活習慣病を防ぐためには適切な体重が重要と言われていますが、適切な体重を維持すべきだと考えますか?】

というような「これyesと答えないとあなたのリテラシー疑いますよ」という設問を作ってしまったりします。上記の設問は、次の設問で十分です
【体重を管理したいか?】
生活習慣病の話も適切かどうかも関係ありません。

あくまでもアンケートは回答者の行動実態や思っている本音を明らかにするためのものです。

とはいえ、例えば上司から予算を引っ張るためにアンケート内容を操作する目的であれば必ずしもダメとは言えないのが難しいところですが、、、
「体重を管理したいか」と聞くと30%のyesでも、「生活習慣病予防のために体重管理重要」は90%がyesだったりするので、「90%以上が体重管理が重要と言っています!」というプレゼンテーションを作るならバイアスをわざとかけていくのも選択肢とは思います。

③お願い文は分かりやすく、これがあるだけでだいぶ違う

Facebook等SNSでアンケートを回付する場合、「多くの方に回答していただく」ためにやれることはたくさんあります。また、不適切な方には回答しないでもらう、ということも必要です。そのためには、案内文(お願い文)をわかりやすくする必要があります。
例えば、下記のフォーマットでは如何でしょう。

【〇〇についてのアンケートご協力のお願い:〇〇の方へ】

私は現在〇〇で、〇〇を行っておりまして、より良いサービスを提供するためにアンケートをお願いしています。

〇〇についてのアンケートです。
〇〇の方にご回答を頂きたいです。(〇〇以外の方は申し訳ありませんがご回答不要です)
回答時間はおよそ〇分です。

アンケート結果はご本人が分からないような形で統計データとして使わせていただく可能性があります。
また、アンケートをご回答いただいた中で気になった方には詳細にご質問させて頂きたいので個別にご連絡差し上げる可能性があります。

お忙しい中恐縮ですがよろしくお願いします

〇〇株式会社 〇〇

記載ポイントは
(1) 何のためのアンケートなのか?
(2) 誰に回答して欲しいのか? 誰に回答して欲しくないのか?
(3) どのくらいの時間がかかるのか?(短い方が良いが長くても書いておいてほしい)
(4) アンケート結果をどのように使うのか?(個人情報は守られるのか)
(5) 自分は誰なのか?
が明確になっていると望ましいでしょう。
この中で一番書いていないのが(2)で、これがないと回答してよいのか悪いのかで迷います。
例えば、
【ダイエットアプリに関するアンケートです。男性の方で体重が気になる方も増えてきていると思いますがそのソリューションを検討しておりますのでご回答をお願いします。約5分で終わります。】
とだけ書いてあった場合、
「体重かぁ、今かなり絞り込んだからようやく気にならなくなったから回答不要かな」
「女性の私は回答しても良いのかな?とりあえず回答しておこうかな」
というような気持になります。全員に回答して欲しいなら「どなたでも」と書くべきだし、ターゲットを絞っているなら「男性、体重が気になっている人だけ」と書くべきです。

まとめ

以上、長くなりましたが、SNSでのアンケート収集はかなり使える手法でもありますし、私もなるべくご支援したいとは思っています。だからこそより効果的な使い方をしていただけるとアンケートを収集する側も回答する側にもお互いメリットがあるのではないかと思います。
ポイントは三つです。

①アンケートで何を知りたいの?事前に仮説立てをしよう
②バイアスに注意、その質問は間違った結論を導くよ
③お願い文は分かりやすく、これがあるだけでだいぶ違う

なお、結構思い付きで書いていますので、「もっとこうしたほうが良い」「こんなことに困っている」などあれば、ご連絡ください。本稿を改善して参りたいと思います。

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