VOC事業開発メソッド-成功する新規事業プラン作成ノウハウ

シナプス家弓です。
「シナプスでは「VOC(Voice Of Customer)事業開発」というメソッドを用いた新規事業開発に関わるコンサルティングを提供しています。本稿では、新規事業開発のプロセスをできるだけ詳細に解説していきます。


新規事業開発にVOCが必要な理由


イノベーションにVOCは必要か?

顧客の声、顧客ニーズがビジネスの上でとても重要であることは、今さら言うまでもありません。それは当然新規事業開発にあたっても重要な情報となるはずです。しかし、一方では「イノベーティブな新規事業は顧客の声からは生まれない」という考え方もあります。つまり顧客自身も気づいていない潜在下にあるニーズに応えてこそ革新的なビジネスチャンスであると、、、
では新規事業開発においてVOCには価値がないのでしょうか?確かに顧客が声にして語っている欲求には、すでに他社から商品サービスが提供されていることも多いでしょう。しかし、重要なことは顧客を徹底理解することにあると思うのです。
顧客の現状(AsIs)を理解したうえで、その顧客がより満たされた将来像(ToBe)を描く。そのギャップが顧客の抱える課題であり、本質的ニーズなんです。人間の本質欲求に根ざしたユニークなToBeが描かれれば、とても革新的なビジネスモデルが描けるかもしれません。



そのためにも、愚直にVOCに徹底的に耳を傾け、そこから顧客がおかれている現状を把握、理解することが求められます。顧客の現状を理解し尽くすことによってはじめて顧客の将来像を描けるのだと思います。

あと出しじゃんけん型新規事業とは

しかし、世の中で誰ひとり思いつかなかったビジネスだけが新規事業ではありません。自社にとって成長をもたらす新しい事業には積極的に取り組む意義があるはずです。すでに他社が取り組んでいても、十分に勝算があるなら果敢に後発参入するべきです。これを「後出しじゃんけん型新規事業」と呼んでいます。
その場合、競合となる先行企業のソリューションを徹底研究することが必要ですよね。それを最も理解しているのは誰だと思いますか?そうです。顧客です。そのソリューションを利用している顧客がどんな時、どのように使用し、何を感じているのか?そこに「不」はないのか?その現実をしっかり理解するためにも改めてVOCに徹底的に耳を傾けることになるはずです。


VOC事業開発はヒアリング活動がポイント

VOCを把握する行為が顧客ヒアリングです。このヒアリングの量と質によって新規事業開発の品質が決まると言っても過言ではありません。しかしVOCの量と質を確保することは意外と難しいものです。

100人の顧客の声を聴く

現代社会において、顧客は多様化しています。様々な価値観を持ち、個別の事情があり、顧客の声は様々です。ゆえにできるだけ多くの顧客の現実を知っておきたいところです。ところが意外と人は初対面の人と話をすることに抵抗があり、フットワークが重くなりがちです。 初動のフットワークを軽くするためには、強制力を持ってメンバーを動かさねばなりません。アタックリストを作り、担当分担をし、誰が(Who)いつまでに(When)何をするか(What)を明確にしたアクションプランを策定し、その進捗管理をして行動促進していきましょう。 対象となる商品やサービス特性にもよりますが、100人のVOCを集めたいところです。

VOCの質を高める仮説検証型ヒアリング

ひとことで「顧客の声」と言っても、表面的な言葉を聞いているだけでは得るものは少ないでしょう。VOCの行間に潜んでいる現場で起こっている現実、使用者の感情、背景となる事業環境など、様々な視点から積極的に洞察することが求められます。私はいつもプロジェクトメンバーの皆さんに「顧客の現場を3D映像で再生できるくらい赤裸々に現実を把握しましょう」と叱咤激励しています。 そのためには高度なヒアリングスキルも必要となるので、ヒアリングに関わるレクチャー、トレーニングも必要となります。

ここで重要なポイントを一つ挙げるとすれば、ヒアリングにあたって必ず仮説を立てることにあります。現実がわからないからヒアリングをするわけですが、それでも今わかる範囲で仮説を立て、それをヒアリングで検証するというスタンスが不可欠です。


「顧客ニーズヒアリング研修」は、提案型営業のキモ、顧客ニーズヒアリング力を高める企業研修です。顧客ニーズヒアリングの論理的仮説検証プロセスを身につけます。実在の顧客のニーズ仮説を立てコンサルタントの仮説検証ノウハウを伝授します。
研修プログラムの詳細は『「営業活動の原点を学ぶ「顧客ニーズヒアリング研修」』をご覧ください。

VOC事業開発メソッドオーバービュー

  1. キックオフ
  2. 市場機会仮説立案
  3. 基本戦略構築
  4. ソリューション詳細化

【1stフェーズ】新規事業開発キックオフ

新規事業開発にあたっての基本方針、指針を明確化するフェーズ。新規事業開発に関わるプロジェクトでは、最初に取り組むべきことが3つあります。

まず新規事業の「コンセプト」を決めること。 つまりどのような新規事業を創りたいのかという指針を明確にします。 それとともに「プロジェクトチーム」を編成します。 特に、どのようなメンバーで構成するかは重要な意思決定ですね。 最後に、社内にアナウンスして、この活動をオーソライズすること。

ここはトップマネジメントとの濃密なディスカッションをもとに意思決定をいたします。


新規事業コンセプト構築

  • 事業フィールド
  • 事業開発目的
  • 事業要件定義

事業フィールド定義

新規事業といっても、どんな市場でも、どんな事業内容でも構わないというわけではないでしょう。 全社戦略として自社の事業ドメインをどう定義づけているのか? 今後伸ばしたい事業分野はどこか?といった視点でフィールド(主戦場)を決めるべきでしょう。

事業開発の目的確認

多角化には様々な目的が考えられます。
そもそも今何のために新規事業が必要なのか? 自社を取り巻く事業環境などを整理・分析して、「今、新規事業が必要である必然性」を明確にしておきたいところです。

  • 既存事業が成熟期を迎えているので「新たな成長機会」を獲得したい
  • 現在の事業の柱に加えて二本目の柱を構築して「経営の安定化」を図りたい

事業要件定義

経営トップの立場としては新規事業に対して様々な期待があるでしょう。 そもそもどのような事業を検討しなければならないのか? 以下のガイドラインを参考として、新規事業の目標を定めましょう。

経営期待成果(売上、利益など)

全社の経営インパクトは考慮する必要があるでしょう。「どれくらいの事業規模を期待したいのか?」「事業規模より収益力なのか?」検討すべき事業の事業成果目標を明確化しておきましょう。

期待定性要因(変革レベル、シナジーなど)

定性的な目標も必要です。定性目標は、それぞれの企業の戦略やカルチャーにもよります。

  • 現有リソースのシナジーを重視して、既存事業の周辺の事業開発を期待するケース
  • 逆に、現業からぶっ飛んだイノベーションを求めるケース
時間軸要件(ローンチ、黒字転換、累損解消など)

一般的な事業会社で見られる傾向として、下記のような時間軸で要件付けしているケースが多いです。

  • 「ローンチ」(ex.3年以内にローンチできること)
  • 「黒字転換」(ex.ローンチ後3年以内に黒字化)
  • 「累損解消」(ex.ローンチ後5年で累損解消

新規事業プロジェクトチーム組成

同時に社内にプロジェクトチームを組成します。重要なのはメンバー選定。チームとしての多様性、個々メンバーの思い入れ、周囲に対する影響力といった視点から社内のキーパーソンをリストアップしてください。メンバー編成が決まったら、キックオフパーティをやって、しっかりチームビルディングに取り組みましょう。

プロジェクトメンバーとチーム要件

シナプスが提供するプログラムは社内にプロジェクトチームを組成していただき、そこで新規事業開発の提言を作成します。新規事業を立ち上げるからには、やはり社員自らが考え、検討し、情報収集、意思決定をするというプロセスに取り組むことが重要なんです。自らコミットして作り上げた新規事業案には思い入れが生まれますよね。それがその後の立ち上げのアクションの原動力になるはずです。

チーム特性

チーム特性として重要なのは「多様性」です。様々な視点からアイディア抽出~検討~評価をしなければならないので、個々人の属性、個性、スキルなど多様なメンバー編成が望ましいのです。下記を参考に多様なメンバーを加えたいところです。

  • 職種(開発、営業、管理など)
  • 事業領域(BtoB、BtoC、業種業態など) *役職(マネジメント視点、現場視点など)
メンバー特性

動機:メンバーに共通して求められる必要条件はそれほど多くはありません。唯一挙げておきたい要件は「新規事業の必要性を痛感していること」あるいは「新規事業を考えたいと思っていること」でしょうか。要するに新規事業開発の取り組みに心から前向きに取り組んでいただけるということ。動機づけはとても重要です。

影響力:あるとベターなのは「周囲のメンバーや組織への影響力」を持っていること。新規事業開発~立ち上げには様々な部門部署の協力を取り付けながら変革を起こしていくことが必要です。そんな時にこの影響力は武器となり、変革のスピードを上げてくれます。

チームビルディング

チームが組成できたら、是非キックオフパーティをやろう!お互いの想いを共有し、コミュニケーションの基盤を一日も早く構築することは想像以上に重要なことです。

社内オーソライズ

社内広報

キックオフ時に限らず都度プロジェクトの進捗状況など社内に広報していきましょう。関連各部署などにも十分認知してもらい、必要に応じて協力をしてもらえる環境を整えたいところです。

職場の巻き込み

時々起こるコンフリクトが、プロジェクト活動と職場の現業との板挟みです。当然プロジェクトメンバーには負荷がかかるので、職場の協力体制が必要です。メンバーの上司にはもちろんのこと、職場全体の理解を促したいところです。

【2ndフェーズ】市場機会仮説立案

新規事業のネタとなる「市場機会仮説」を立てます。

まず、新規事業で解決したい「顧客が抱える課題」を徹底的に洗い出します。ポイントはあくまで顧客視点で新規事業を考えること。いきなり商品や事業アイディアで考えると固定観念を破れません。ここで挙がったアイディアをスクリーニングして、事業化可能な顧客ニーズを抽出します。このプロセスから徹底してVOCヒアリングを実施して、顧客がおかれている現状、目指す状態など顧客ニーズの詳細化を図っていきます。


そしてそこからこの時点で考えられるソリューション仮説を立てましょう。「自社でできること」という制約を設けずに、あらゆる社会的リソースを駆使してソリューションを考えることが大切です。

その「顧客ニーズ仮説」と「ソリューション仮説」を評価して、二次スクリーニングを行います。このフェーズのアウトプットとして3~5案程度に絞れると効率的ですね。

アイディアジェネレーションのコツ

アイディアジェネレーションのコツ:質より量

まずアイディア抽出からスタートします。ここでは新規事業のネタとなるアイディアをできるだけ数多く出し尽くしましょう。

ポイントは「質より量」です。 最初の10~20案くらいに出てくるアイディアは、誰もが考えそうなアイディア、これまでも検討されてきたアイディアです。

40~50案くらいになってくるとアイディア出しが 徐々に苦しくなってきます。 80~100案となると、もうそれは苦しまぎれです。 でもそんな中に今までにはないユニークなアイディアが 見つかることがあります。

プロジェクトとして最低でも100案以上のアイディアが必要でしょう。

アイディアジェネレーションのコツ:顧客視点に徹する

このアイディア出しをする時、重要なことは、「新規事業アイディア」を考えるのではなく、顧客視点に立って「顧客が抱えている課題」を考えること。

具体的に「誰のどんな課題を解決したいのか?」といった視点でアイディアを徹底抽出しましょう。 新規事業アイディアを考えると、具体的な商品、つまり手段を描くことになりやすいんです。 「顧客の課題」で描くということは、事業の目的で考えることになります。

まず顧客視点に徹し、目的を明確にしてから手段(商品やソリューション)を考えましょう。

アイディア・ジェネレーション・ワークシートの活用

アイディア打しの方法としては、 ブレインストーミングで自由に発想すれば良いのですが、私たちはここでいくつかのフレームワーク(アイディアジェネレーションワークシート)を活用してもらっています。

まずPEST分析を通じてマクロ環境変化のたな卸しを行い、そこから市場機会につながる「マクロテーマ」「テクノロジー」の軸を洗い出します。

それに「市場フィールド」を加えた3つの軸を組み合わせたフレームワークを使うとアイディア抽出がしやすくなるでしょう。

アイディアジェネレーションの視点:PEST分析

市場機会はマクロ環境の変化によってもたらされることが多いようです。 そこで、まずマクロテーマを抽出するために、PEST分析を行います。

PEST分析とは、政治・法規制(Politics)、経済(Economics)、社会(Society)、技術(Technology)の4つの視点から市場機会につながる重要なマクロテーマを洗い出すフレームワークです。


  • 政治(Politics)
    政治面では、政策や法規制などの動向を挙げます。例えば、規制緩和や規制強化は様々な顧客ニーズを生む可能性がありますよ。
  • 経済(Economics)
    景気や投資動向、為替や金利など、経済要因は事業環境に大きな影響を与えます。
  • 社会(Society)
    人口動態(少子高齢化、人口減少)、文化、流行、生活習慣などの変化から新しいビジネスは生まれます。
  • 技術(Technology)
    技術革新は様々なソリューションを生み出し、新たなニーズを解決に導きます。

テクノロジー

自社リソースとして、ユニークな技術を有している場合など、その技術リソースを活用して解決できる顧客課題を抽出してみることも有効です。

あるいは自社技術ではなくても、前述のPEST分析から導き出された社会全般で起こる技術革新も抽出しておきましょう。 これらが新たなソリューション機会を生み出すので、世の中の技術動向に着目をしておくことは必要ですよね。

ただし、この視点はソリューションから考えることになりやすいので、市場フィールドやマクロテーマと組み合わせることで、顧客の視点を補うことが必要です。

そうすれば「この技術を使えば、こんな顧客のこんな課題を解決できるはず、、、」といった発想ができるでしょう。

市場フィールド ①成長市場

今後注力していきたい市場フィールドがあれば、それを軸として顧客課題を洗い出ししてみましょう。

一般に注力対象となるのは、今後成長が期待される市場フィールドです。 今後の成長性を検討して、候補となる市場を挙げてみましょう。

市場フィールド ②既存接点のある市場

また、もう一つの視点としては、すでに接点を持っている市場も魅力的です。 すでに、その市場にリーチするチャネルがあったり、顧客にブランド認知されていたりすれば顧客にアプローチしやすい環境が整っています。

アイデアジェネレーションワークシート実例

この3つの視点を組み合わせたワークシートのイメージは以下の通りです。 「何でもよいから自由に考えよう」というより、こういったワークシートが活用すると、発想の軸足が生まれ、ヌケモレの少ないアイディア抽出が可能となります。


事業アイデア一次スクリーニング

アイディアジェネレーションで抽出された顧客課題について、一次評価を行い、ラフスクリーニングを行います。
これまで抽出されたアイディアは100案を超えるでしょう。それを大まかな判断基準で足切りをします。

そこで用いられる判断基準は様々ですが、ある程度の事業規模を望むなら「市場ポテンシャル」と「ニーズの強さ」が適切です。

一次スクリーニング評価軸

  • 市場ポテンシャル
  • ニーズの強さ


ポテンシャルが大きくて、かつ皆が強いニーズを持っている、顧客課題はビッグビジネスに育つ可能性があります。

市場ポテンシャルは小さいが、一部の人にとっては深刻な課題で、強いニーズを有している、事業はニッチビジネスとしての可能性があります。 高収益事業につながる顧客課題です。

決してニーズが強いとは言えない、つまり課題解決はしたいが、高い対価を払う気にはならない、顧客課題もあります。 多くの人に低価格で使ってもらうコモディティを狙うか、いっそのこと顧客には無料サービスにするフリーミアムモデル(広告モデルなど)を目指すべきです。

一次スクリーニングで20案に絞る

どこまで切り捨てるか?どこから残すか?は、新規事業コンセプトによりますが、「市場ポテンシャル」「ニーズの強さ」の2軸を使って大まかな足切りを行い、20案程度に絞り込みます。

顧客ニーズ仮説精緻化4のコツ

ここから顧客ニーズ仮説を詳細化、具体化していきます。

VOCヒアリングの徹底

顧客ニーズ仮説精緻化で重要なことは徹底して顧客の声(Voice Of Customer=VOC)に耳を傾けること。

私たちは想像以上に顧客を理解していないことが多いものです。 表面的に分かっているつもりでも、顧客の生活現場(BtoC)、作業現場(BtoB)の現実、そこで起こっている困りごと、その時顧客はどのような感情を待ち、何を考えているのか?

こういった顧客を取り巻く生々しい現実を把握することがビジネスの立脚点となります。 本当は顧客の生活現場、作業現場を直接観察したいところです。

しかし、顧客が企業の場合、セキュリティ上そうもいかないことが多く、その分VOCを徹底収集して、顧客の現実を洗いざらい明らかにすることが必要となるのです。

VOCの徹底収集、仮説の検証、ニーズの詳細化、具体化を図っていく、このプロセスだけは足で稼ぐしかないのです。

まず、100人分のVOCを集めよう!

AsIs/ToBe分析

VOC収集によって何を明らかにすべきでしょうか? ヒアリングにあたって有効なフレームワークが「AsIs/ToBe」です。

AsIsとは「現在の現実」、そしてToBeは「ありたい状態」です。 顧客ニーズの本質はこのギャップを埋めることにあります。



まず、生々しいAsIsをつかむことから始めるとよいでしょう。

顧客は、不便、不都合、非効率など様々な問題、困りごとを抱えているものです。 今、顧客はどのような現状に置かれ、どのような問題に直面しているのか? 顧客のリアリティを生々しく把握しなければなりません。

私は「顧客の現実を3D映像で再生してください」と表現をしています。

それに対し、ToBeとして「顧客はどのような状況を実現したいと思っているのか?」を明らかにすることになります。

目指したい状態、個人なら実現したいライフスタイル、企業なら実現したい事業成果など、目的・目標としてのToBeを描きます。顧客の欲求はToBeの実現です。

ToBeは上位目的で

ありたい姿(=目的)を描くと言っても、そこには落とし穴があります。 目的にはその上に上位目的があります。本質的に実現したい状態は、その上位目的に目を向ける必要があるのです。

例えば、お客様(企業)から値引き交渉を受けているとします。その目的は、「仕入れ原価の低減」と定義できます。 しかし、その上位目的に目を向けると「コストダウン」と定義できます。すると仕入れ原価だけではなく、製造コスト低減も重要な目標に入ってきます。

さらに上位目的を「利益確保」と定義すると、コストだけではなく「売上拡大」という目的も加わります。


様々な目的設定の中で、実現可能性と効果インパクトでどのようなToBe(あるべき姿)を描くかを考えます。

この例なら、今売上拡大とコストダウンと、どちらの実現可能性が高く、利益インパクトが大きいのか?を検討し、目指すべき利益確保の姿を描きます。

潜在ニーズを探す

新規事業を考える際、顧客のニーズが重要な市場機会となります。 しかし、顧客は現状に満足しており、特に強い欲求がないということもあります。 そこにはビジネスチャンスがないようにも思えますが、本当にそうでしょうか?

実は顧客自身も気づいていない「潜在ニーズ」というものがあります。 現状(AsIs)に不満はないが、それは単により望ましい状況(ToBe)に気づいていないだけかもしれません。

つまり、顧客が欲しいと思っているかどうか?が重要なのではなく、我々はビジネスのプロフェッショナルとして、顧客により望ましい状況を提案し、ToBeの実現を啓発していかなければならないのです。

ソリューション仮説構築3のコツ

ベストソリューションを考える

ソリューション仮説は、顧客が目指しているToBe(ありたい状態 = 目的)を実現するための手段です。ここで初めて企業の取り組み事業やソリューションイメージを考えることになります。



そこにはいくつかの手段が考えられます。
様々なソリューション案を考え、そのなかからベストソリューションを見出しましょう。

トータルソリューション化を図る

顧客にとって理想的な状況を実現するため、複数の課題を解決し、その上位目的を達成しなければならないかもしれません。 つまり、複数のソリューションを組み合わせたトータルソリューションです。



例えば、「コストダウン」というニーズを抱える企業に提言をするなら、「間接コスト+仕入原価+製造原価」を統合した情報システムをトータルソリューションとして提案できそうです。

自社の枠組みを解き放つ

ソリューション仮説構築で、陥りやすい過ちが、自社で実現できることのみを前提としてソリューション仮説を検討しまうことです。

真のベストソリューションを見いだしましょう。 前述の例で説明するなら、製造原価をさらに引き下げるためには、生産管理システムの導入だけではなく、生産プロセスの改善コンサルを導入することで、更なるコストダウンが可能となるなら、合わせて提案したいところです。


現代はアライアンスが当たり前の時代です。
他社と組むことによって、顧客にとってさらに望ましいソリューションが描けるなら積極的にアライアンスを検討するべきです。
世の中の様々な企業のリソースを総動員して、顧客にとって最高のソリューションを提供します。

【3rdフェーズ①】二次スクリーニング

最後のフェーズで、基本戦略とソリューションの詳細化を図ります。


事業アイデア二次スクリーニング

ここまで、約20案の新規事業アイディアが抽出されています。 3rdフェーズの冒頭で、最終的にトップマネジメントに提案する3案を決定します。

  • 市場ポテンシャル
  • ニーズの強さ


市場魅力度評価

市場魅力度は一次スクリーニングで「市場ポテンシャル」と「ニーズの強さ」という2つの要素を用いました。 改めてこの2つの視点による評価を精緻化するとともに、「成長性」という軸を加えて総合的な市場魅力度を評価ください。冒頭のコンセプト構築のパートで事業要件を定義していたはずです。 そのなかで「どれくらいの事業規模を期待したいのか?」に対し「年商100億円のビジネスを創りたい」としていたのなら、それに見合った市場ポテンシャルが必要です。

適社度評価

2ndフェーズのソリューション仮説立案で、自社が取り組む必然性の評価が見えてきます。 自社の強みが活用できる事業案なら競争優位が描けます。 一般に「市場魅力度」が高ければ「競合度合」は激烈です。自社リソースで競争に勝てるのか? をしっかり見極めます。 多少市場の魅力は劣っていたとしても、そこで圧倒的な競争優位を描けるならニッチビジネスとして、高付加価値化の可能性があります。 一方で、どんなに市場性が魅力的でも勝つための指針が見えなければ新規事業として取り組むべきではありません。 もちろんアライアンスを活用し勝てるビジネスモデルが成り立つ可能性はあります。 ただ、自社にとっては低付加価値型ビジネスになりやすいでしょう。

【3rdフェーズ②】基本戦略構築

ターゲティングの詳細化・具体化のコツ

2ndフェーズで「顧客が抱えている課題」を「誰のどんな課題を解決したいのか?」という視点で抽出しました。 「誰の」を考えた時に、具体的な顧客イメージが描かれたはずです。 その顧客ターゲットをより詳細化、具体化します。

ペルソナを描く

ペルソナとは、ターゲット顧客のなかでも、最も理想的な一人の顧客を描く手法です。 実際にネーミングを施し、イメージ写真をも掲載するとよいでしょう。 そのうえで属性(年齢、性別、職業、収入、居住地、家族構成など)を明確化します。 また、その顧客の趣味、働き方、ライフスタイル、日常のエピソードなどを描くことで、心理特性(性格、価値観など)も設定します。



競争環境分析のコツ

戦略競合は誰か?

ビジネスは必ず競争環境にさらされています。 全く新しい事業だとしても何らかの競争のエネルギーは働いています。 競争のエネルギーには以下3つの種類があります。今、戦うべき真の競合プレイヤーを明確化しましょう。

  • 先行プレイヤー(既存競合)→ 追いつき一気に追い越す
    自社にとっては新規事業でも、すでに参入しているプレイヤーがいるかもしれません。
    先行者は誰か?どのようなソリューションを提供しているか?といった競合分析を行い、早急に追いつき、一気に追い越す戦略を立てる必要があります。
    一般に先行者優位の法則があると言われますが、実は追随参入するフォロワーにも優位点があります。
    すでに先行者が商品サービスを市場に投入し、顧客から評価を受けているので、それを徹底してベンチマークできるのです。
  • 既存ソリューション → 現状を打破する
    これまでにはない新しいソリューションには直接競合は存在しません。しかし、正確には代替品の既存のソリューションと競争します。
    既存のソリューションと比べて魅力的であれば、市場は新しいソリューションにシフトします。魅力がなければ、既存ソリューションが引き続き使用されます。
  • 潜在競合(参入想定プレイヤー)→ 追随を許さない
    新しいソリューションで顧客の現状課題を打破できれば、当面はファーストムーバーとして独占市場を獲得できるかもしれません。
    しかし、魅力的なビジネスには追随参入が起こります。追随に対する競争戦略を3つの視点から分析し、構築しておくことが重要です。
    「まず追随参入が予想されるのは誰か?」「どれくらいのタイムラグで参入を果たすか?」「その参入を遅らせるために何ができるか?」「競合参入後、いかに戦うか?」

自社分析

競争戦略を構築するためには、自社リソースの現状を把握します。リソースのたな卸しを行い、自社の有する強みを明確化しておきます。 新規事業に活用できる主たるリソースには、以下のようなものが考えられます。

  • 技術(製品やサービスの開発に用いられる技術力など)
  • チャネル(販売やサービス、メンテなどに要するチャネル)
  • ブランド(顧客に対する認知度、知覚品質やブランドイメージなど)

技術動向予測

技術についてはマクロ環境として、今後起こるであろう技術革新に関する将来洞察をしておくとよいでしょう。 いつごろまでに、どの程度の技術革新が起こるのかを把握することで、中長期的な製品開発などの戦略構築の判断材料となるはずです。 具体的なアクションとしては大学や研究機関などの有識者に対して、インタビュー調査を行うことが多いと思います。

競争戦略の構築



コストリーダーシップ戦略

ビジネスモデルに関わるコストが圧倒的に低いことによって生まれる競争戦略です。 これは単なるコストダウン努力だけで実現するものではなく、明らかにコスト優位となる仕組みや仕掛けがビジネルモデルに組み込まれていること必要となります。

差別化戦略

顧客に提供される付加価値の高さによって生まれる競争戦略。 差別化戦略をとる場合、差別性となる付加価値を明確にします。 顧客にとっての価値がある付加価値で、かつその顧客の購入の重要なKBF(購買決定要因)でなければなりません。 差別化戦略で、注意すべきは模倣です。ゆえに競合の追随を遅らせることがポイントです。

集中戦略

特定の領域に集中することによって、低コストや高付加価値によって生まれる競争戦略。 ポイントは投資対象を絞るということです。 つまり、全方位に事業展開している競合に対して、自社の強みに特化した領域に絞ることで競争優位が生まれます。

ポジショニングマップ作成

顧客の視点から当社のソリューションが選ばれる理由を示したものがポジショニングマップです。
タテ軸×ヨコ軸からなる二次元マップで競争優位を示す戦略がビジュアル化され、とてもわかりやすく表現できます。
ここでのポジショニングマップの留意点は、2本の軸は必ず顧客バリューで定義されること。
ポジショニングはあくまで顧客にとって魅力的な位置づけを示すことが目的なので、軸は顧客主語で考えなければなりません。


【3rdフェーズ③】VOCによる事業化検証

戦略仮説のVOC検証 → 戦略・ソリューションのBrushUp

基本戦略とソリューション設計は、VOCによる検証作業と同時進行で行います。 顧客と話をすれば、必ず新しい発見があります。顧客の生活シーンや作業シーンを見れば見過ごしていたものに気づきます。 VOCが戦略やソリューションをリアリティあるものにブラッシュアップしてくれるのです。 つまり、仮説/検証サイクルを何度も繰り返して精度を上げていくイメージです。

プロトタイプ制作(ペーパープロト、テストWebサイト、イメージ動画など)

VOC検証の最大の武器は「プロトタイプ」です。 実際に顧客プロトタイプを見てもらい、使ってもらい、顧客の視点から評価をしてもらうのです。 意外と作りて本位のプロダクトとなっており、顧客から不評を買うことも少なくありません。 プロトタイプをレベル分けすると「ペーパープロト」と「モックアップ」とに分類できます。

ペーパープロト

「ペーパープロト」とは、ソリューションの機能や利用プロセス、Webイメージなどをペーパー上で図解説明したもの。 ペーパーだけではなく、動画で表現できるものもあればさらに顧客に利用をイメージしやすく、 有益なフィードバックが得られるでしょう。

モックアップ

「モックアップ」とは文字通り模型として現実のプロダクトに近いモノを顧客に示すことが望ましいです。さらに、最小限の機能を疑似的に使えるように評価をしてもらうとよいです。

デプスインタビュー

VOC検証の方法として、デプスインタビューがあります。デプスインタビューでは1対1で1~2時間をかけ、個人の意見を深く掘り下げ、複雑な顧客の現状、ニーズ、ゴールなどを探ります。 プロトタイプを活用して、じっくり話を聞きます。

できれば最低でも20人の顧客と話をしたいところです。 それはターゲットど真ん中のコアターゲットだけでなく、その周辺も含めて4セグメント程度の 顧客の声をつかんでおきたいところです。 それによってコアターゲットの特性をより深く理解できるはずです。


エスノグラフィー

エスノグラフィーとは別名「行動観察」とも呼ばれ、顧客の日常の行動と観察、記録する調査手法です。つまり、顧客の現実の姿や行動をありのままに理解し、課題は解決策を検討していくために行われます。 実は顧客自身も自分の行動には説明できないことも多く、顧客自ら説明できないことに目を向けるのに非常に効果的です。

【3rdフェーズ④】ソリューション詳細設計

ソリューション詳細化

基本戦略構築と並行して、ソリューションの詳細化を図る必要があります。商品やサービスの仕様、ビジネスモデル全体の設計を行い、前述の基本戦略と同期を図っていきます。

【3rdフェーズ⑤】ビジネスモデル詳細設計

ビジネスモデルとは、企業が収益を生み出すためのしくみを指します。さらにそれをブレイクダウンすれば、顧客に価値提供するしくみであり、かつ競争優位を生み出すためのしくみと言ってもよいでしょう。 ビジネスモデルは「バリューチェーン」と「ビジネスフロー」の両面で検討します。

バリューチェーン設計

バリューチェーンとは、ビジネスプロセスを機能分解して描くフレームワークです。 検討新規事業に必要となるビジネスプロセス、機能構成を洗い出します。 できるだけ具体的に洗い出し、その機能の内容、しくみ、活動を詳細化します。 その際、「これらが顧客に対してどのような価値創出につながっているのか?」「競争優位性を生み出しているのか?」を明らかにします。


アライアンス検討

バリューチェーンを運用していくために、それぞれの機能を担うプレイヤーを選定します。 自社がすべてを担ってもよいのですが、ここでは顧客に最大の価値提供ができ、競争優位を描くことを目指して、「誰をこのビジネスモデル参画させる必要があるか?」という視点でアライアンスを検討します。 広く世の中の企業、団体、個人に目を向けて外部リソースの徹底活用します。

ビジネスフロー設計(モノ、カネ、情報)

ビジネスモデルの仕組みをより分かりやすく表現し、具体化するためにビジネスフローを描きます。 本ビジネスに参画するプレイヤー(顧客も含む)間におけるモノ、カネ、情報の流れを描きます。 各プレイヤーの本ビジネスモデルへのかかわり方が見えるようになり、事業の全体像が分かりやすく表現できます。


【3rdフェーズ⑥】事業計画策定(収支計画/投資計画/人員計画)

ここまでで、顧客ターゲットと競争戦略が明確化され、ソリューションやビジネスモデルが描かれ、 具体的な施策やアクションも計画化できるはずです。

次は、これらを事業展開していくための金の動き(事業計画)を描きましょう。 事業開始や回収機関にもよりますが、概ね5カ年計画程度で描くことが多いと思います。 少なくとも、単年黒字化、累損解消のタイミングは明確に示す必要があります。

収支計画

まず、売上高を推定しましょう。その基本となる材料は市場ポテンシャルです。想定顧客の人数×年間消費額などから推定します。 それに競合環境などを勘案し目標シェアを設定、それを売上目標とします。 経費の詳細は読みにくいところですが、原材料費、人件費、販促費などが大きいところでしょう。 人件費は後述の人員計画で精緻化することとして、その他販売管理費は、特別な施策を行わない限り全社平均などを代用してもよいかと思います。

投資計画

主な投資としては、開発投資、設備投資などが考えられます。 開発投資については、事業開始までにどのような開発課題があるのか? それにどれくらいの投資が必要か? その後継続的にどれくらいの投資がかかるのか? といった開発計画を描くことになります。 これにはマクロ的な技術革新がいつどの程度進展していくかをも視野に入れておく必要があるでしょう。 設備投資としては、主に生産設備、物流関係、IT関係、その他事業の拡大とともにどのような体制、設備が必要かを洞察し、数値化します。

人員計画

営業組織、技術組織、生産組織など、事業運営のために必要な組織体制を描きましょう。

ビジネスモデルの運営に必要な組織、要する人員です。また、人員計画から、人件費が算定され、収支計画に反映されます。




全体フロー、プロマネのコラム