『良い戦略、悪い戦略』リチャード・P・ルメルト

シナプス海老原です。

これまで、100冊以上のマーケティング本・戦略本を読んできましたが「一番好きな経営戦略本は、何か?」と聞かれれば「良い戦略、悪い戦略」と答えます。

著者は戦略論の大家「リチャード・P・ルメルト」。世界で最も影響力のあるビジネス思想家ラインキング」に毎年選出されている大御所です。

今回は、本書の戦略思考法のベースとなる「戦略フレームワーク活用のコツ「診断」「基本方針」「行動」について解説します。


1.戦略フレームワーク基礎構造「診断」「基本方針」「行動」


ルメルトは、「良い戦略は、『診断』『基本方針』『行動』という基本構造を持っている」と言います。

ルメルトは、「カーネル」と表現していますが、「経営戦略のフレームワーク」と考えても良いでしょう。それもおそらく最もシンプルな経営戦略の基本フレームワークです。

1-1.経営戦略基本フレームワーク ①診断(Diagnosis)

戦略思考では、まず状況を診断し、取り組むべき課題を見極めます。良い診断は重要な問題を選り分け、複雑な状況を明確に解きほぐします。

戦略思考プロセスの診断作業の中心は「異な何がおきているかを洗い出すこと」にあります。

「何をするか」を決めることだけが戦略戦略ではありません。より根本的な問題は、状況を完全に把握することです。

1-2.経営戦略基本フレームワーク ②基本方針(Guiding Policy)

「基本方針」は、診断で見つかった課題にどう取り組むか、大きな方向性と総合的な方針を示します。「基本」というのは、大きな方向性を指し示すだけで、具体的に何をすべきかを逐一教えるものではないからです。

英語では、「Guiding Policy」なので、「ガイドとなる方針」ですね。

1-3.経営戦略基本フレームワーク ③行動(Action Plans)

「多くの人が『基本方針』を戦略と名付けて、底で終わってしまう。これは大きな間違いだ。」とルメルトは言います。

戦略は、行動につながるべきものであり、何かを動き出させるものでなければなりません。戦略思考プロセスには、必ず「行動」が含まれている必要があります。すべての行動を書き連ねることはないですが、具体的に何をすべきかは、明確にする必要があります。

2.実践的戦略フレームワーク「診断」「基本方針」「行動」

2-1.ルメルトの経営戦略フレームワークは、すぐ学んで実践できる

マーケティンや経営戦略には、数多くのフレームワークがあります。私が知る限り、最もシンプルでわかりやすい経営戦略フレームワークが、この「診断」「基本方針」「行動」です。

複雑な戦略フレームワークを学んでも実践では使えません。3つしか要素がなく、プロセスもわかりやすいので、日々の業務で使えるのが基本戦略フレームワークのよいところです。

2-2.ルメルトの経営戦略フレームワークは、わかりやすく説明しやすい

経営戦略の難しさは「実行」にあります。どんなによい戦略を立案しても実行に移されなければ無意味です。実行されるには、経営戦略コンセプトを、わかりやすく説明し、社員に理解される必要があります。

「診断」「基本方針」「行動」という、経営戦略フレームワークは、戦略論を知らない人にも理解されやすいシンプルな概念です。

3.戦略フレームワーク「診断→基本方針→行動」の事例

3-1.IBMのルイス・ガースナーCEO就任後を戦略フレームワークで読み解く

IT業界での伝説的な企業再建事例にIBMがあります。

1993年4月にルイス・ガースナーがIBM会長兼最高経営責任者(CEO)に就任紙、1993年までの3年間で累積赤字総額150億ドルに陥ったIBMを経営再建しました。さて、ガースナーは、どのような戦略思考プロセスに基づいてIBMを再建したのでしょうか。

3-2.戦略フレームワーク ①ルイス・ガースナーの診断

ルイス・ガースナーは、IBMの問題は、総合メーカーであることでなく「総合的なスキルを活かせないことである」と診断します。
当時のコンピュータ業界は、垂直統合から、CPU(インテル)、メモリ、OS(マイクロソフト)などの各モジュールごとのプレイヤーが力をつけて水平分業化に向かっていました。この判断は当時のコンピュータ業界の流れに逆行するともいえる、画期的な診断といってもよいでしょう。

3-3.戦略フレームワーク ②ルイス・ガースナーの基本方針

ルイス・ガースナー就任時のIBMでは、これまでの技術の蓄積を活かして、水平分業で戦うべきという意見が多くありました。

ルイス・ガースナーは、分業化ではなく、統合化を進める。ハードウェア中心ではなく、顧客向けのソリューションに力を入れていくという基本方針を示しました。

ハードウェアの会社ではなく、ITソリューション、ITコンサルティングの会社になろうとしたわけです。

3-4.戦略フレームワーク ③ルイス・ガースナーの行動

まず、顧客を軸にした営業体制に移行しました。「金融」「製造業」など業界軸を中心とした組織体制しに、顧客の業界に精通したセールス担当者を育成します。

これまでの垂直統合で、すべて自前主義を徹底してきたのを方向転換します。例えば、顧客のソリューションのために必要と考えられるソフトウェア企業を自前主義に拘らず買収しています。代表例は、1995年にトップシェアグループウェアのLotus Notesを持つLotusを買収しました。以後も運用管理ソフトウェアを持つTivoliを買収しています。

一方、顧客ソリューションへの寄与が低いと見なした、ハードウェア事業は撤退・売却しています。代表例が「ハードディスク事業」でしょう。

4.「診断→基本方針→行動」戦略フレームワークでチェック

4-1. 目標設定は経営戦略ではない

自社の経営戦略が、実行面に問題があると考える経営者は、「経営戦略立案」と「目標設定」を混同している方が多いようです。

「売上30%増」などの業績目標設定、そのものは、ルメルトのフレームワークでは、経営戦略とはいえません

ここには、診断も基本方針も行動もありません。単に目標があるだけです。診断に基づいた目標の実現のための基本方針や行動が含まれて初めて「経営戦略」と呼ぶに値します。

4-2. 戦略フレームワーク活用を阻む思想「成功すると考えたら成功する」

「ポジティブシンキング」「引き寄せの法則」「思考は現実化する」など、「ニューソート運動」と呼ばれるものがあります。つまり、、信念を貫けば必ずできる、できないと思ってはいけない。これらば、経営戦略フレームワークの活用を阻む典型的な思想です。もちろん、精神力・気合いなど「人間の意思の力」は重要です。

しかし、診断→基本方針→行動の基本プロセスに、ニューソート運動の考え方が入った経営戦略は、ほぼ確実に失敗します。過去何度も私は、その「悪い戦略」の渦中で過ごしてきました。強い意識は基本フレームワークと使うときではなく、「できた良い経営戦略計画をやり抜くこと」に使うのです。


戦略フレームワークとシナプスのマーケティング戦略プロセス


シナプスでは、マーケティング思考プロセスの基本として「マーケティング戦略アプローチ」を採用しています。ルメルトの経営戦略フレームワーク(戦略のカーネル)と対比させると、ちょうど1:1に対応していることがおわかりでしょう。

  • 環境分析 → 診断
  • 基本戦略 → 基本方針
  • 具体的施策 → 行動

参考情報

1.参考原書「良い戦略、悪い戦略」

良い戦略、悪い戦略』リチャード・P・ルメルト (著)、日本経済新聞出版社

2.海老原一司のシナプスビジネスナレッジコラム

1974年生まれ。早稲田大学理工学部修士課程をへて1999年日本テレコム株式会社入社。IT業界を中心に大企業・ベンチャーなどの事業会社で クラウドサービスなどの10年間以上のプロダクトマネージャ経験を持つ、BtoB事業の新規事業立ち上げ、事業成長のスペシャリスト。プロマネとして新サービスを3年で100倍の売上にした経験を持つ。

2014年シナプス入社。BtoBマーケティングプログラム責任者。
『立教大学経営学部講師』(2015年~現在)
『グロービス経営大学院(MBA)』(2010年卒)

マーケティングと戦略実践ナレッジシリーズ




3.マーケティング戦略の基本を学ぶ企業研修


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