近い目標

シナプス海老原です。

これまで、100冊以上のビジネス書を読んできましたが「一番好きな企業戦略本は、何か?」と聞かれれば「良い戦略、悪い戦略」と答えます。

著者は戦略論の大家「リチャード・P・ルメルト」。世界で最も影響力のあるビジネス思想家ラインキング」に毎年選出されている大御所です。

1.「良い戦略」に活かされる強みの9つの源泉

「良い戦略」ではどのように強みが生み出され活用されているでしょうか。

「良い戦略」に活かされる9つの強みの源泉は、「テコ入れ効果」「近い目標」「鎖構造」「設計」「フォーカス」「健全な成長」「優位性」「ダイナミクス」「慣性とエントロピーの打破」です。

9つそれぞれ面白いのですが、特に他の戦略書で解説が少なく、かつ重要と考える「近い目標」について解説します。

2.良い戦略に活かされる強みの源泉 ②近い目標

戦略において、「近い目標」とは、「手の届く距離にあって十分に実現可能な目標」を意味します。近い目標は高い目標であってもよいですが、達成不可能な目標ではいけません。

「近い目標」ではなく、もっと大きな目標がよいと考える人もいるでしょう。しかし、それは「近い目標」と「低い目標」と混同している可能性があります。

3.近い目標設定の成功事例:アポロ計画

3-1.ケネディ大統領が選んだ近い目標設定「月面着陸宣言」

1961年アメリカ合衆国大統領ジョン・F・ケネディは、「1960年代中に人間を月に到達させる」との声明を発表します。アポロ計画です。

これは、かなり「壮大な目標」と考えられることが多いですが、フォン・ブラウンという著名なロケット科学者が月面着陸の実現性を考慮した上で設定されています。この科学的根拠に基づいた実現可能で、わかりやすい「近い目標」設定を掲げることにより、アポロ計画を成功に導くことができたのです。

3-2.アメリカがソ連に勝つための戦略目標を立てる

ケネディ大統領演説時期は米ソ冷戦の時代で、軍事に関わる様々な分野で米ソは競争しています。その中でも重要な分野「宇宙開発競争」で、ソ連は1961年4月ボストーク宇宙船により、人類初の有人宇宙飛行を成功させていました。このため宇宙開発競争にて、アメリカはソ連の後塵を拝しています。

「宇宙開発競争でソ連に勝てる」ということで、目標設定されたのが「月面着陸」です。つまり、「アポロ計画」は、アメリカがソ連に宇宙開発競争で勝つための戦略目標として立てられた「近い目標」なのです。

3-3.なぜ近い目標として月面着陸が選ばれたか

  • 月面着陸成功には、ソ連はロケットの性能を10倍に飛躍させる必要があり困難。
  • 一方、ソ連より上回っているアメリカの技術リソースをアポロ計画に集中すれば、月面着陸に必要なロケットの性能は達成できる

4.近い目標を立てる意味

4-1.曖昧さをなくす

近い目標設定は、戦略目標の曖昧さをなくし、みんなの目標イメージが統一でき、リソース集中がしやすくなります。例えば、次の2つの目標を見比べてください。

  • 1960年代中に人間を月に到達させる
  • ソ連に宇宙戦争で勝つ

前者は、壮大ですが、非常に明確で、大量の人数が関わるアポロ計画プロジェクト参加者の意識を統一させることができます。

一方、後者は、「では具体的に何をすればよいのかと迷い」各々が勝手な解釈で行動しリソースを分散させるでしょう。

4-2.足場を固め選択肢を増やす

戦略本の多くでは、状況が流動的になったらリーダーはより先を見越して手を打つべきと言います。

しかし、流動的になるほど先の予測は困難です。将来が不確実であればあるほど、遠くを見通すよりも、近い目標を設定し、足場を固めて選択肢を増やすことが重要になります。

参考情報

1.参考原書「良い戦略、悪い戦略」

良い戦略、悪い戦略』リチャード・P・ルメルト (著)、日本経済新聞出版社

2..海老原一司のシナプスビジネスナレッジコラム

海老原一司:チーフマーケティングコンサルタント
1974年生まれ。早稲田大学理工学部修士課程をへて1999年日本テレコム株式会社入社。IT業界を中心に大企業・ベンチャーなどの事業会社で クラウドサービスなどの10年間以上のプロダクトマネージャ経験を持つ、BtoB事業の新規事業立ち上げ、事業成長のスペシャリスト。プロマネとして新サービスを3年で100倍の売上にした経験を持つ。

2014年シナプス入社。BtoBマーケティングプログラム責任者。
立教大学経営学部講師』(2015年~現在)
グロービス経営大学院(MBA)』(2010年卒)

オススメ書籍『良い戦略、悪い戦略』シリーズ


3.マーケティング戦略の基本を学ぶ企業研修


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