『良い戦略、悪い戦略』リチャード・P・ルメルト

シナプス海老原です。

これまで、100冊以上の経営書を読んできましたが「一番好きな企業戦略本は、何か?」と聞かれれば「良い戦略、悪い戦略」と答えます。

著者は戦略論の大家「リチャード・P・ルメルト」。世界で最も影響力のあるビジネス思想家ラインキング」に毎年選出されている大御所です。


1.「良い戦略」に活かされる9つの強みの源泉-④戦略設計


「良い戦略」ではどのように強みが生み出され活用されているでしょうか。
「良い戦略」に活かされる9つの強みの源泉、「テコ入れ効果」「近い目標」「鎖構造」「設計」「フォーカス」「健全な成長」「優位性」「ダイナミクス」「慣性とエントロピーの打破」について説明します。

9つそれぞれ面白いのですが、まず特に類書で解説が少なくかつ重要と考える「戦略と設計」について解説します。


2.企業戦略と実行-戦略設計が基本方針と行動をつなぐ


2-0. 企業戦略:戦略が問題か? 実行が問題か?

「戦略はよいが戦略実行に問題がある」「戦略よりも実行が大事だ」といった、戦略と実行を切り離した議論をよく聞きます。一方。そもそも「実行可能な戦略を作るべき」という立場の人もいます。

さて、ここで「実行できる戦略」とは、どんな戦略なのでしょうか。重要なのが、今回取り上げる「戦略設計」です。

2-1.戦略設計が「基本方針」と「行動」をつなぐ

別コラム『良い企業戦略コンセプトの基本構造ー診断、基本方針、行動』で説明した通り、戦略思考を使った、良い戦略の基本構造には「診断→基本方針→行動」という3つが含まれています。

ここで、行動とは「実行」や「戦術」と言い換えても良いでしょう。「戦略は絵に描いた餅ではなく、実行されなければならない。実行ステージまで考えて初めて戦略である」という主張はよく聞かれます。

その戦略実行に必要なものが「戦略設計」です。

2-2.戦略実行には「基本方針」綿密に戦略設計された行動計画・プランが必要

「戦略の基本方針」とは、言葉の通り基本的な方針・方向性です。この中に詳細な行動計画は含まれません。

一方、実行レベルでは、特に大きな組織で動く場合、行動とはたくさんの実行計画の塊です。良い戦略では、この実行計画のすべてが一貫性を持って戦略設計されています。事前の戦略設計があって初めて組織は一環した行動がとれるのです。

3.戦略設計の成功事例:ハンニバルのカンナエの戦い

3-1.ハンニバルの戦略によりカルタゴ軍5万人で、8万人のローマ軍が大敗北

ハンニバルは、紀元前8世紀のカルタゴ(現在のチュニジア)の将軍で、天才戦略家と呼ばれるような人です。

ハンニバルの、有名な戦いの一つに「カンナエの戦い」があります。このカンエナの戦いにおいて、カルタゴは5万人に対して、8万人のローマ軍は大敗北を喫します。詳細は省きますが、ハンニバルは「包囲作戦」を行います。この包囲されたローマ軍は戦死者6万人、捕虜1万人の大敗北を喫します。1日の戦死者の数では現代でも最大とされている大勝利です。

3-2.ハンニバルの戦略:包囲作戦


カルタゴ軍vsローマ軍


ハンニバル率いるカルタゴ軍は5万人。対するローマ軍は8万人。人数からするとカンナエの戦いでハンニバルは非常に不利な状態でした。

綿密な戦略設計に基づくハンニバルの包囲作戦


「包囲作戦」の基本方針は、シンプルです。先端の戦っている兵士が引きながら、周りの騎馬兵が回りを囲みます。

さて作戦はシンプルですが、この基本戦略の実行は簡単でしょうか?実際の戦場をイメージしてください。

カルタゴ軍は、所属が異なる軍が揃った急増軍でした。ましてや、5万人vs8万人という10万人以上の兵士が参加した戦いです。そして、紀元前8世紀当時ですから、混乱した戦闘時の連絡手段も限られます。現代のように無線で指示を飛ばすことなどできません。

どうやって実行できたのでしょう。この答えが戦略設計です。

3-3.ハンニバルの綿密な戦略設計があったから基本戦略が実行できた

「包囲作戦」というシンプルな基本戦略を実現するのに、「戦略の設計」は非常に重要な役割を果たします。

ハンニバルは、事前に相手の動きを読み、個々の兵士の行動を包囲作戦に向けて、一貫性がとれた行動となるように詳細な戦略設計を事前に行っていたのです。

4.ハンニバルから学ぶ戦略設計

4-1.事前準備:あらかじめ入念に練り上げられていた

ハンニバルの包囲戦略は、その場で思いついたものではありません。あらかじめ情報を収集し、入念に計画されたものです。

戦略設計とは、戦略の基本方針だけでなく、実行計画・行動プランが全体の整合性を持ってあらかじめ入念に練り上げられていることが必要です。

4-2.予測:敵の行動を予測していた

戦略策定での基本要素の一つは、「敵の考えや行動を予測すること」です。ハンニバルは、ローマ軍の訓練度、軍隊組織の傾向、相手の2人の指揮官の特徴や傾向を事前に把握していました。

敵の行動を予測した上で、ローマ軍を包囲作戦という罠にはめたのです。

4-3.設計:明確な意図を持って全軍の行動をコーディネートした

カンネーでのハンニバルの戦略で、すばらしいのは、軍団の行動が時間的にも空間的にも巧みにコーディネートされ、調和がとれていることです。

10万人以上が入り乱れる戦場内で、相手の歩兵軍団や騎兵集団があらかじめ立てられた戦略通りに複雑な動きをやってのけたことにローマ軍は、驚愕したでしょう。ハンニバル以前には、このように創造的な戦略を実行した例はなかったのです。

5.「選択」「意思決定」より戦略設計

「戦略とは選択とか意思設計である」とよく言われます。「理論書などでは、可能な限りの選択肢を列挙、評価し成功率を分析したうえで決定を下す。」とされています。

しかし、ルメルトは、戦略設計について以下のようにまとめます。『今日でも有能なストラテジストがやっていることは、決定ではなく設計であり、選択肢の中から選ぶのではなく自らデザインしている。マネジャーが意思決定者だとすれば、ストラテジストはデザイナーだと言えよう』

参考情報

1.参考原書「良い戦略、悪い戦略」

良い戦略、悪い戦略』リチャード・P・ルメルト (著)、日本経済新聞出版社

2.海老原一司のシナプスビジネスナレッジコラム

海老原一司:チーフマーケティングコンサルタント
1974年生まれ。早稲田大学理工学部修士課程をへて1999年日本テレコム株式会社入社。IT業界を中心に大企業・ベンチャーなどの事業会社で クラウドサービスなどの10年間以上のプロダクトマネージャ経験を持つ、BtoB事業の新規事業立ち上げ、事業成長のスペシャリスト。プロマネとして新サービスを3年で100倍の売上にした経験を持つ。

2014年シナプス入社。BtoBマーケティングプログラム責任者。
立教大学経営学部講師』(2015年~現在)
グロービス経営大学院(MBA)』(2010年卒)

オススメ書籍『良い戦略、悪い戦略』シリーズ


3.マーケティング戦略の基本を学ぶ企業研修


マーケティング研修(基礎編)

1万人が受講したマーケティング基礎プログラムです。「マーケティング戦略基本プロセスの流れ」「論理的思考法」「顧客ニーズの本質」を学びます。単なる知識に終わらずマーケティングの実務応用に使える論理的マーケティング思考法を身につけます。「マーケティング戦略思考」を共通言語として組織浸透させるための社員集合研修として最適です。

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