シナプス海老原です。

あなたは「戦略と実行」のどちらが重要だと思いますか?「変化の激しい時代では、戦略を立てることに時間を使うより、とにかく実行スピードが重要だ」という意見もあります。

私は、戦略と実行のどちらが重要かという議論は不毛で、「実行出来る戦略立案」が重要だと思います。戦略と実行をつなぐために必要な概念が、「戦略の設計」です。

私の一番の戦略おすすめ本「良い戦略、悪い戦略」で指摘される「戦略における設計の重要性」について解説します。著者は戦略論の大家「リチャード・P・ルメルト」。世界で最も影響力のあるビジネス思想家ラインキング」に毎年選出されている大御所です。

「良い戦略、悪い戦略」では、「9つの強みの源泉」として、「テコ入れ効果」「近い目標」「鎖構造」「設計」「フォーカス」「健全な成長」「優位性」「ダイナミクス」「慣性とエントロピーの打破」を上げています。

9つのうち他の書籍で言及がなく、重要概念である「戦略設計」について解説します。


1.実行できる戦略立案のコツ-良い戦略に「設計」あり


1-1.戦略立案の「設計」が「基本方針」と「行動」をつなぐ

「良い戦略」には「診断→基本方針→行動」という3つが含まれています。
※参考コラム『戦略フレームワーク活用のコツ「診断」「基本方針」「行動」

ここで、行動とは「実行」「戦術」と言い換えても良いでしょう。「戦略は絵に描いた餅ではなく、実行まで考えて初めて戦略立案である」という主張はよく聞かれます。その戦略実行に必要なのが「戦略設計」です。

1-2.戦略立案には「基本方針」と綿密に設計された行動計画が必要


「基本方針」とは、基本的な方針・方向性で、詳細な行動計画は含まれません。

一方、組織で動く場合の「行動・実行」とはたくさんの実行計画の塊です。
良い戦略立案では、1つ1つの具体的な行動計画が作成され、さらにすべての行動計画一貫性を持っています。事前の戦略設計・コーディネートがあるから、組織は一環した行動がとれるのです。


2.実行できる戦略立案事例:ハンニバルのカンナエの戦い


2-1.ハンニバルの戦略立案によりカルタゴ軍5万人に、8万人のローマ軍が大敗北

ハンニバルは、紀元前8世紀のカルタゴ(現在のチュニジア)の将軍で、天才戦略家とも呼ばれます。

ハンニバルの、有名な戦いの一つに「カンナエの戦い」があります。このカンエナの戦いにおいて、カルタゴは5万人に対して、8万人のローマ軍は大敗北を喫します。

ハンニバルは次に説明する「包囲作戦」を行います。そして、包囲されたローマ軍は戦死者6万人、捕虜1万人の大敗北を喫します。1日の戦死者の数では史上最大とされる大勝利です。

2-2.カルタゴ軍vsローマ軍:ハンニバルのカルタゴ軍は人数では圧倒的不利


ハンニバル率いるカルタゴ軍は5万人。対するローマ軍は8万人。人数からするとカンナエの戦いでハンニバルは非常に不利な状態でした。

2-3.綿密な戦略設計に基づくハンニバルの「包囲作戦」


「包囲作戦」の基本方針は、シンプルです。先端の戦っている兵士が引きながら、周りの騎馬兵が回りを囲みます。

さて、作戦はシンプルですが、この基本戦略の実行は簡単でしょうか?実際の戦場をイメージしてください。

カルタゴ軍は、所属が異なる軍が揃った急造軍でした。ましてや、5万人対8万人という、10万人以上の兵士が参加した戦いです。そして、紀元前8世紀当時ですから、混乱した戦闘時の連絡手段も限られます。現代のように無線で指示を飛ばすことなどできません。

実行できる戦略立案の答えが戦略設計です。

2-4.ハンニバルの綿密な戦略立案時の設計があったから基本方針が実行できた

「包囲作戦」というシンプルな基本方針を実現するのに、「戦略設計」は非常に重要な役割を果たします。

ハンニバルは、事前に相手の動きを読み、個々の兵士の行動を包囲作戦に向けて、一貫性がとれた行動となる詳細な戦略設計・立案を事前に行っていたのです。

3.ハンニバルから学ぶ実行できる戦略立案のコツ「設計」

3-1.戦略立案のコツ ①設計の「事前準備」

ハンニバルの包囲戦略は、その場で思いついたものではありません。あらかじめ情報を収集し、入念に立案・計画されたものです。

戦略設計とは、戦略の基本方針だけでなく、実行計画・行動プランが全体の整合性を持ってあらかじめ入念に練り上げられていることが必要です。

3-2.戦略立案のコツ ②設計の「予測」

戦略立案での基本要素の一つは、「敵の考えや行動を予測すること」です。ハンニバルは、ローマ軍の訓練度、軍隊組織の傾向、相手の2人の指揮官の特徴や傾向を事前に把握していました。

敵の行動を予測した上でローマ軍を「包囲作戦」という罠にはめたのです。

3-3.経営戦略立案のコツ ③明確な意図で全軍行動をコーディネート

カンネーでのハンニバルの戦略立案で、すばらしいのは、軍団の行動が時間的にも空間的にも巧みにコーディネートされ、調和がとれていることです。

10万人以上が入り乱れる戦場内で、相手の歩兵軍団や騎兵集団があらかじめ立てられた戦略通りに複雑な動きをやってのけたことにローマ軍は、驚愕したでしょう。ハンニバルは、明確な意図を持って全軍の行動をコーディネートしました。ハンニバル以前には、このように創造的な戦略立案をし、実行した例はなかったのです。

まとめ:戦略立案とは「選択・意思決定」より設計

「戦略とは選択・意思決定である」と言われます。また、理論書では、「可能な限りの選択肢を列挙、評価し成功率を分析し意思決定決定を下すべき」とされています。

しかし、リチャード・P・ルメルトは、戦略設計について以下のようにまとめます。

『今日でも有能なストラテジストがやっていることは、決定ではなく設計であり、選択肢の中から選ぶのではなく自らデザインしている。マネジャーが意思決定者だとすれば、ストラテジストはデザイナーだと言えよう』

参考情報

1.参考原書

良い戦略、悪い戦略』リチャード・P・ルメルト (著)、日本経済新聞出版社

2.海老原一司のシナプスビジネスナレッジコラム

1974年生まれ。早稲田大学理工学部修士課程をへて1999年日本テレコム株式会社入社。IT業界を中心に大企業・ベンチャーなどの事業会社でクラウドサービスなどの10年間以上のプロダクトマネージャ経験を持つ、BtoB事業の新規事業立ち上げ、事業成長のスペシャリスト。プロマネとして新サービスを3年で100倍の売上にした経験を持つ。

2014年シナプス入社。BtoBマーケティングプログラム責任者。
『立教大学経営学部講師』(2015年~現在)
『グロービス経営大学院(MBA)』(2010年卒)

戦略おすすめ本『良い戦略、悪い戦略』コラムシリーズ



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