事業計画の作成は、稟議や投資判断のための「資料」である以前に、不確実性の高い新規事業を前に進めるための意思決定と実行のための設計図です。
本記事では、事業計画を作るうえで必要な要素を「アジェンダ(検討項目)」として整理し、全体像と推奨フローを示したうえで、各項目のポイント・作成手順を紹介します。
1. 概要:事業計画の全体像・全体フロー・アジェンダ
1-1. 事業計画の全体像(完成イメージ)
事業計画は、最終的に次の2つの形に落ちると運用しやすくなります。
- 1枚サマリ(意思決定者向け):結論と判断材料を、短時間で把握できる形
- 詳細版(合意形成・実行推進向け):根拠・計画・数字・リスク・体制まで一貫して説明できる形
意思決定者が見ている論点(=計画が満たすべき条件)は概ね4つです。主に売れるか、勝てるか、儲かるか、出来るかの視点を持ちましょう。
- 市場性(伸びる余地)_売れるか
- 勝ち筋(差別化・優位性)_勝てるか
- 収益性(儲かる構造)_儲かるか
- 実行可能性(体制・ロードマップ)_出来るか
1-2. 全体フロー(推奨順序)、アジェンダ
事業計画は「文章作成」ではなく、成果物を順に作る工程です。推奨順序、アジェンダは次の通りです。
- A. 市場・顧客・課題:誰の、どんな課題を、なぜ解くことが必要か
- B. 価値提案・差別化:その課題を解く時、自社が選ばれるか
- C. ビジネスモデル:どこでどう収益化し、コスト構造はどうなるか
- D. GTM:どう獲得し、どう伸ばすか(チャネル・ファネル・KPI)
- E. 実行計画:体制・ロードマップ・マイルストーン・意思決定ゲート
- F. 財務計画:売上ドライバーと費用、損益分岐、投資回収の目安
- G. 資料化(伝達):1枚サマリ、ストーリー、想定QA
このアジェンダが一貫してつながり、矛盾がなく、第三者が判断できる状態になっていれば事業計画としての成立に近づきます。
2. 各項目別説明:アジェンダに対するポイントと作成手順
以下では、各アジェンダについてポイントと作成手順を紹介します。
詳細分析やテンプレートは各社の事情に応じて拡張できますが、まずはこの骨格作りからスタートすると良いでしょう。
2-1. 市場・顧客・課題を固める(Why / Who / Problem)
事業計画の土台は「課題の実在」と「顧客の特定」です。ここが曖昧な計画は、後工程(価値、GTM、数字)をどれだけ作り込んでも崩れてしまいます。
ポイント
- 顧客は「ユーザー/購買者/決裁者」を分けて考える
- 課題の強さは、頻度・深刻度・代替手段・支払い意欲で判断する
- 市場規模は“計算”より先に“市場定義(何を同一市場とみなすか)”が重要
- 競合は「製品」だけでなく「現状の代替行動」まで含める
作成手順
- 顧客セグメントを仮置き(誰が困っているか)
- 課題をAs-Is/To-Be/Gapで文章化
- 課題の強さを評価(上記観点で)
- 市場定義(対象×用途×地域×価格帯)を固定
- TAM/SAM/SOMを概算し、競合・代替を整理
- 検証すべき最大不確実性(例:課題が本当に痛いか)を特定
2-2. 提供価値と差別化を設計する(Value / Why us)
価値提案は「機能の説明」ではなく「採用理由の設計」です。顧客の意思決定(導入・購入・継続)を動かす論点に落とします。
ポイント
- 価値は“顧客の成果”で語る(時間短縮、コスト削減、売上増、リスク低減)
- 差別化は“比較表”より“選ばれる理由”として表現する
- 早期に検証できる最小価値(MVP)まで削る
- 検証計画は「不確実性の大きい順」に並べる
作成手順
- 価値提案を1文で定義(誰に/何を/どう良くする)
- 代替・競合に対して「採用理由」を抽出
- 提供形態(プロダクト+運用+体験)を設計
- MVPを定義(最小で価値が伝わる範囲)
- 仮説を分解し、学習KPIと検証手段を決める
2-3. ビジネスモデルを作る(How we make money)
価値があっても、儲からなければ事業になりません。収益とコストの構造を、説明可能な形にします。
ポイント
- 「誰が」「何に対して」「いくら払うか」を固定する
- 単価は“原価積み上げ”ではなく“価値と支払い意欲”から当たりをつける
- ユニットエコノミクス(LTV/CAC等)で成立条件を確認する
作成手順
- 課金点(支払対象)と課金方式(サブスク等)を決める
- 主要コスト(提供・獲得・運用)を洗い出す
- 粗利構造を概算し、成立条件を明確化
- LTV(顧客生涯価値)とCAC(顧客獲得コスト)、回収期間など、最低限の健全性指標を置く
- 価格レンジを複数案で持ち、検証で絞る
2-4. Go-To-Market(GTM)を設計する(どう獲得し、伸ばすか)
GTMは「売れるはず」を「売る手順」に落とす工程です。初期ターゲットを絞るほど、実行可能性と検証効率が上がります。
ポイント
- 初期ターゲットは“最も刺さる層”から選ぶ(広げない)
- チャネルは、顧客の意思決定構造と購買プロセスに合わせる
- ファネルとKPIで、改善すべきボトルネックが分かる設計にする
作成手順
- 初期ターゲットを決める(セグメントの優先順位付け)
- チャネルを選定(直販、代理店、オンライン等)
- ファネル(獲得→成約→継続)を描き、KPIを置く
- 検証で最初に見たい指標(先行指標)を決める
- 拡張シナリオ(横展開、上位プラン等)を整理
2-5. 実行計画に落とす(体制・ロードマップ・マイルストーン)
実行計画は「やることリスト」ではなく「意思決定と進捗管理の仕組み」です。Go/No-Go基準まで含めて設計します。
ポイント
- 3/6/12カ月で、成果物ベースに区切る
- マイルストーンは「できた/できない」で判定可能にする
- 関係部署(法務、情シス、CS等)のボトルネックを先に織り込む
作成手順
- 体制(役割・責任者・意思決定者)を確定
- ロードマップ(3/6/12カ月)を成果物で分解
- マイルストーンと判断基準(Go/No-Go)を設定
- 提供・運用の論点を洗い出し、手戻りリスクを下げる
2-6. 財務計画を作る(数字はドライバーで作る)
数字は“辻褄合わせ”ではなく“前提の翻訳”です。GTMのKPIと連動するドライバーで組みます。
ポイント
- 売上=顧客数×単価×頻度/継続 を基本形として置く
- 費用は「固定費」「変動費」「投資」を分ける
- 重要なのは精緻さより「変更時に影響が追える」こと
作成手順
- 売上ドライバーを決め、GTMのKPIと接続
- 主要費用(人件費、開発、販促、原価、外注)を積み上げ
- PL骨子を作り、損益分岐と黒字化時期を確認
- 投資回収の目安を置き、意思決定に必要な材料にする
2-7. 伝わる形にまとめる(稟議・経営会議・投資判断)
資料化は「見せ方」ではなく「意思決定のための論点整理」です。判断者の評価軸に沿って、結論から提示します。
ポイント
- 1枚サマリは「結論→根拠→計画→リスク→要望」で固定
- 詳細版は“突っ込みどころ”を先回りして潰す
- 想定QAを用意し、意思決定の速度を上げる
作成手順
- 1枚サマリを作成(結論と投資判断材料を凝縮)
- 詳細版に根拠と補足(市場、価値、モデル、GTM、数字、体制、リスク)を配置
- 想定QAを整理(市場性、差別化、数字根拠、実行性、リスク対応)
3. おわりに:行き来する前提で作る(PoC/MVPの重要性)
ここまでのフローは「最短ルート」ですが、実務では一直線に進むことは稀です。むしろ、以下の往復が前提になります。
- 市場・課題(2-1)↔ 価値(2-2)↔ GTM(2-4)↔ 財務(2-6)
- 実行計画(2-5)を引くと、MVPの範囲やチャネル選定に手戻りする
- 数字の辻褄が合わないときは、モデルかGTMか価値のどれかが曖昧であることが多い
このとき重要なのが、PoC(概念実証)やMVPです。
PoC/MVPは「作ること」が目的ではなく、不確実性を減らし、意思決定を前に進めるための学習装置です。最初から完璧な計画を作るのではなく、
- 仮説を置く
- 最小の検証(PoC/MVP)で確かめる
- 学んだ内容で計画を更新する
この反復によって、事業計画は“当たる計画”に近づき、同時に“実行できる計画”になります。
事業計画は提出して終わりではなく、検証と更新を前提に運用し続けることで、はじめて事業を前に進めるものになります。売れるか、勝てるか、儲かるか、出来るかの視点で繰り返し確認をしていきましょう。
新規事業コンサルティング
ワークショップ型の取り組みで、メンバーや組織への教育・啓発を行いながら新規事業が生まれる土壌づくりに取り組み、お客様企業の課題に合わせて最適な支援をします。