新規事業開発では、早い段階で顧客のニーズをつかむ必要があります。そのためには、顧客の声VOC(Voice Of Customer)を聴く活動が欠かせません。 それでは、質の良いVOCを収集するためにどのようなアプローチをとればよいのでしょうか?
ポイントは3つです。
- 仮説を立てる
- 数をこなす
- 本当に欲しがる人を最低一人見つける
1) 仮説を立てる
顧客の声を聞く場合に、最初に行ってほしいのは、仮説の構築です。仮説とは、何らかの現象・事例・法則性等から導き出される推定のことです。例えば、「世の中がこうなっているから、消費者は〇〇を欲しいに違いない」とか、「〇〇は、△△なセグメントの人が購入するに違いない」などです。 主に、考えていただきたい点は、ターゲットセグメント仮説とニーズ仮説です。 つまり、
- 誰が買うのか?
- 購入しそうな人はどのような属性で、どのような心理状況で、どのような購買行動をとるのか?
と、
- なぜ欲しいと感じるのか?何に困っているのか?何を解決したいのか?
- ニーズが発生する背景(社会的変化や環境状況)は何か? を考えてほしいのです。
なぜ仮説が必要か?
仮説がないと、聞くポイントがぼやけてしまい、事業案を先に進めることが難しいからです。ヒアリングできる時間は限られているでしょうし、特に事業開発ではスピードは重要な要素です。
たまに、「仮説を持たない方が良い」という文献を見かけるケースがありますが、これは本質的には「バイアスをかけるな」という意味です。事前に思い込みが強いと、相手が言っていることを素直に聞けなくなってしまうので、間違った解釈をするケースはあります。ですが、それ以上に仮説を持たないデメリット(無駄な話をする、事業案を検証できずにいつまでたっても先に進めない)の方が大きいです。 よほどスキルがあったり、業界知見が深ければ仮説を持たないというのも選択肢ですが、慣れるまでは仮説を文章化して、ヒアリングごとに仮説を磨く(文章を書きなおす)ことをお勧めします。
2) 数をこなす
顧客の声は、量が質を担保します。
以前、ある事業開発をテーマとした研修を実施していた時のことです。事業開発の研修では、複数のグループが半年くらいかけてそれぞれ事業案を考え、最後に事業部長へ提案します。そのプレゼンテーションであるグループはプレゼンテーションが面白く、事業案も深く練られていて、事業部長のコメントや他のオブザーバの質疑も極めて本質的な議論でとても盛り上がりました。ところが、あるグループは全く盛り上がらず事業部長からも辛口のコメントで締めくくられました。 この差は何か? 差を分けたのはVOCの数でした。かたや何十件も周り丁寧にヒアリングを重ねて事業を検証していたのに対して、盛り上がらなかったテーマは様々な事情でVOCの数が数件程度だったのです。その結果、仮説に仮説を重ねるだけで新たなアイデアも出ず、つまらない事業提案しかできませんでした。
研修では往々にして、事業を選択した領域だったり、メンバーのスキルだったり、プレゼンターの力量だったりが影響することもありますが、こと事業開発をテーマにする場合、ほとんどVOCの数に比例します。上述の研修でも、盛り上がったテーマは、当初、我々コンサルタントや事務局からは「難しいからどこかで見切りをつけたほうが良い」という意見でしたが、メンバー自身で丹念に検証を重ねることで、我々の常識をひっくり返してきたのです。
事業開発の場合、数を重ねているうちに、「強いニーズを発見する」ということが多々あります。ですので、とにかく数をこなし、その領域では世界一詳しくなるくらいの気持ちで当たるのが良いでしょう。
3) 本当に欲しがる人を最低一人見つける
事業開発で常に気になるのは、「本当に売れるのか?」ということです。なかなか成果が出ない事業開発においては、買ってくれそうな方を見つけることが難しいのが実情です。ところが、事業開発をやっているとある日、「それ、いつ発売されるの?」という質問を受けることがあります。この質問はかなり欲しいということを示している可能性が高いです。それがより具体的な要望(こういうことに困っているのでこういう機能を付け欲しい、こう使うつもりだが可能か、等)を伴ってくると、要望に合えばかなり高い確率で購入するでしょう。 一方で、「それあったらいいよね」「そういうの欲しいんだよね」というコメントがあったとしても、具体的な質問が続かなければ、恐らく買わない可能性が高いです。
本当に欲しがる人が一人でもいる、ということは、ニーズが世の中に存在することを示しています。似たような人が世の中に何人いるかによって市場規模は変わってきますが、事業開発の初期の失敗の多くは「ニーズがないのに製品を作ってしまう」ことなので、これが回避できるのは極めて大きいです。 また、ある一定量のユーザが存在すると、事業を継続しながら改善できる可能性が高いので、その点でも重要です。
まとめ
以上、ニーズを収集する、VOCのポイントを三つ記載しました。
- 仮説を立てる
- 数をこなす
- 本当に欲しがる人を最低一人見つける
この三つのステップはかなり重要なので、ぜひ取り組んでいただきたいですが、たまに、「仮説が不十分だからもう少し考えてみます」というコメントを聞きます。もう少し考えて精度が上がるなら考えたほうが良いですが、往々にしてこの手のコメントは自信がないことの裏返しであることが多く、その結果、VOCが取れないという事にもなりかねません。 ですので、とにかく顧客の声を聴く、VOCを取りに行く、ということが大前提として合って、そのうえでより精度の高いヒアリングのための手法とお考えいただくと良いと思います。結局は数が質を生むのですから。