東証プライム上場の電気機器メーカー様は、日常よく目にする電気機器に使われている部品で世界トップシェアの企業です。現在の業界ポジションに甘んじることなく新たな取り組みに挑戦する組織的な価値観の醸成を目的に各階層で人材育成プログラムを展開されています。
今回ご紹介するのは、技術系の若手社員を対象にした問題解決スキル研修プログラムです。他部門の人と協力しながら多角的な視点で問題解決を行うスキルを身につけさせたいという目的で実施されています。
製造業を取り巻く環境と課題
「2022年版ものづくり白書」では、製造業を取り巻く事業環境の変化として、「原油価格の高騰」、「部素材不足」、「デジタル」、「ビジネスと人権」、「カーボンニュートラル」の5点が取り上げられています。いずれも不可逆の劇的な変化であり、これらの環境変化に対応・適合するには、自己を変革していく能力「企業変革力(ダイナミック・ケイパビリティ)」の強化が最も重要と指摘されています。2年前のものづくり白書では、企業変革力の高い企業にみられる傾向として、「経営者のリーダーシップの強さ」、「人員の入替や転換の多い柔軟な組織構造」などを挙げており、以下に引用の論を裏づけています。
今や現実の組織は組織能力の従属変数であり、急速に変転を続ける最適戦略を打ち続けられる組織能力を持っていることが真の競争優位性の源泉なのである。
冨山和彦著「コーポレート・トランスフォーメーション」文芸春秋刊より
変革力の高い組織に学び、次のような形を志向する企業が増えると思われますが、現実とのギャップは大きく、理想像とは隔たりを感じます。
- フラットな組織構造
- プロジェクト型の組織運営
- ジョブ型雇用
- 能力要件の期待値は「どの会社でも通用する能力」
このギャップを埋める具体的な施策は様々にありますが、比較的着手しやすく効果が期待できる施策のひとつが「次世代リーダー層の採用・選抜・育成・配置・評価・処遇体系の改革」です。
こうした背景もあって、東証プライム上場の電気機器メーカー様では、5,6年前から次世代リーダー育成に取り組まれ、プログラムを展開されています。
人材課題の解決アプローチ
変化が激しいVUCA時代の次世代リーダー育成
担当コンサルタントの村上に、プログラムの背景や目的、狙い、プログラム設計のポイントを訊いてみました。
シナプスに研修のお問い合わせを頂いた経緯を教えてください。
コンサルタント 村上美奈子
こちらの事例の電気機器メーカー様では、5年ほど前から入社5~6年目の技術系若手社員を対象に問題解決研修を実施されていたのですが、コロナ禍での集合研修ができなくなったことをきっかけに、プログラムを見直される中で、弊社にお声がけを頂きました。
問題解決研修を5年ほど実施されているとのことですが、人材育成上の課題は何だったのですか?
コンサルタント 村上美奈子
この研修プログラムは問題解決スキルの開発を主目的にしていますが、その根っこには次世代リーダーを育てたいという思いがあります。
製造業の人材育成は、OJTに寄ったものであることが多く、そのOJTも「見て盗んで覚える」といった指導スタイルが主流であり、形式知化には無頓着であると言われています。加えて、ものづくり・製造に関する技能・技術習得が優先されてきており、事業や仕事に関する知の習得は個人任せになっている実態もあります。
こちらの電気機器メーカー様では、変化が激しく不確実性が増す時代に対応するためには人材に投資する必要があると考え、計画的に次世代リーダーの育成に取り組まれています。
この研修を受けた方々は将来的にものづくりのリーダーとして事業を牽引することを期待されています。今後は、問題解決スキルに加えて、変化対応力、巻き込み力などを段階的に身につけて頂くことが必要になると考えています。
二兎を追う、アクションラーニング
このプログラムの特徴を教えてください。
コンサルタント 村上美奈子
この研修プログラムはアクションラーニング形式を採用しています。アクションラーニング形式とは、インプット(研修)とアウトプット(現場での課題実践)を繰り返しながら、課題解決を体感しスキル化を図る手法です。
課題テーマはこの企業様の技術テーマから受講生が設定します。このプログラムでの課題解決の活動は業務に位置づけられており、人事評価とも紐づいています。
業務としての取り組みとすることで、社員個人としてのスキルアップと、事業推進上の課題解決を両立させる、意欲的なプログラムです。
欲張りなプログラムなんですね。他にもこのプログラムに期待されている効果があったら教えてください。
コンサルタント 村上美奈子
期待されているのは、2つあると考えています。一つには、「問題解決に対する技術本部内の共通言語が作られる」こと。二つ目は、「新たな取り組みに対する挑戦する組織的な価値観の醸成」です。
一つ目に挙げた共通言語化ですが、製造業ではものづくりに関するナレッジを優先させてきたため、事業推進や仕事の進め方について外部の知見の取り入れが進んでいません。また、自社内で独自に開発できたとしても相当な時間がかかってしまいます。
他社で磨かれた標準的な手法を学び自社に適用するコツを得た人がその手法を社内で実践する。これを繰り返せば、進め方に関する誤解や衝突がなくなり、仕事のスピードが上がり、組織全体の生産性を高めることにつながります。
二つ目の挑戦する価値観の醸成については、上司推薦で選抜されたメンバーが自らテーマを設定し課題をクリアしながら解決策を模索するプロセスを業務に組み込んでいること、そしてそれを評価の対象としていることがポイントだと思います。
このプログラムを実施して人材育成投資を進めていること自体が経営からのメッセージであり、その本気のメッセージが組織全体に波及して、挑戦する価値観が醸されるのではないかと考えています。
東証プライム上場・電気機器メーカー様向けプログラムの概要
企業プロフィール | 電気機器製造、(連結)約7,000人 |
取り組みの背景 | 他部門の人と協力しながら多角的な視点で問題解決を行うスキルを身にさせたいという目的で実施 |
取り組み期間 | 7か月間 |
対象者 | 技術本部内で上長推薦で選抜された中堅社員 約16名 |
形式 | アクションラーニング形式(※) ※インプット(研修)と現場での課題実践(アウトプット)を繰り返しながら課題解決を体感する手法 |
課題テーマ | 当該企業のコア技術に関連するテーマ |
場所 | 地方工場 |
特徴的な点 | プログラムの取り組みが業務として位置づけられ、人事評価とも紐づいていること |
効果 | 新たな取り組みに挑戦する組織的な価値観の醸成 問題解決に対する技術本部内の共通言語化
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