社内で新規事業を立ち上げる方法とは?4タイプの制度と成功の分かれ道

更新日:2026年2月17日

多くの企業で成長戦略の一つとして新規事業を立ち上げようとする試みがなされています。社内新規事業は、ゼロからビジネスを創造する独立起業と異なり、既存のリソースやネットワーク、信用を活用して事業創造できるなどのメリットがあります。その一方で、社内に新規事業開発経験者がいない、ナレッジが蓄積されていないなど、手探りで推進しなければならないことも多く、実行者をはじめとする関係者に大きな負荷がかかるのも事実です。

このweb記事では、社内新規事業推進を類型化したうえで、立ち上げの難しさの本質と乗り越え方を考えていきます。

社内新規事業の2つの起点

社内で新規事業が始まる起点は、①制度起点型と②現場起点型の大きく2つに分けられます。

① 制度起点型

会社が用意した制度や枠組みの中で始まるタイプです。典型的には次のような形で推進されています。

  • 社内コンテスト
  • 社内アクセラレーター
  • 新規事業部署
  • 経営テーマ直轄プロジェクト

この制度起点型は、会社として公式に進められるもので、人員や予算などのリソースも一定程度確保されます。純粋に事業創造を目的とするばかりではなく、人材育成や組織風土改革を兼ねている場合も多くみられます。

② 現場起点型

顧客ニーズや業務の延長線、もしくは個人的な問題意識に端を発するタイプで、多くは非公式に始まります。例えば次のように小さなことから始まることが多いようです。

  • 営業現場での違和感
  • 顧客からの強い要望
  • 小さな実験・観察の積み重ね

例えば、『Soup Stock Tokyo』(株式会社スープストックトーキョー)は三菱商事株式会社の社内新規事業として1999年に1号店が開業されています 。社内ベンチャーの典型例として挙げられることの多い『Soup Stock Tokyo』ですが、オフィシャルに社内起業制度がない中で創業者の遠山正道氏の思いを起点に立ち上げられた事業です。

同社のホームページによると、1997年に企画書が上程されて2年後の1999年にはお台場に1号店がオープンしました。このように、このタイプの社内新規事業は推進力があることが特徴です。一方で、制度化されていない分、実行推進者の力量やコミットが成否を分けるという現実もありそうです。


本記事では、多くの企業が採用している①制度起点型にフォーカスして、難所と対応の方向性を考えてまいります。

制度起点型の4つのタイプ

社内新規事業の制度といっても、あり方は一様ではありません。次の4タイプが代表例です。

  • A.選抜型(社内コンテスト型)
  • B.育成型(社内アクセラ型)
  • C.常設組織型(新規事業部型)
  • D.特命戦略型(経営テーマ直轄型)

A.選抜型(社内コンテスト型)

社員からアイデアを公募し審査で選抜する方式。次のような特徴があります。

  • ボトムアップ色が強い
  • イベント化しやすい
  • 通過後の支援が弱い場合がある

B.育成型(社内アクセラ型)

一定期間、仮説検証を伴走支援するプログラム型。次のような特徴があると言われます。

  • MVP検証が前提
  • メンター制度あり
  • デモデイ後に“谷”が生まれやすい

C.常設組織型(新規事業部型)

新規事業専門部署を設置し、専任チームで推進する方式のことです。特徴は以下のとおりです。

  • リソースが安定
  • 既存事業との分断が起きやすい
  • 長期視点を持ちやすい

D.特命戦略型(経営テーマ直轄型)

中期経営計画などの重点領域を特命チームで推進します。次の特徴があります。

  • 経営スポンサー明確
  • 期待値が高い
  • 戦略整合性に縛られやすい

これらの4つのタイプを横並びで比較すると次のように整理できます。

観点 A.選抜型 B.育成型 C.常設型 D.特命型
仮説作成者 提案者 チーム 部署 経営+チーム
専任度 低い 中〜高
スピード 遅め 速い
構造的な停滞ポイント 通過後孤立 終了後の谷 既存分断 期待値過多

タイプ別:必ずぶつかる停滞ポイントと突破の方向

これらの型には、それぞれに新規事業推進が「止まりやすい」難所があります。以降、タイプごとに「止まり方」の典型パターンと打開の方向性を見てまいりましょう。

A.選抜型(社内コンテスト型)の場合

社内新規事業コンテストが開催される。
多くの応募の中から数件が選抜され、役員審査を経て受賞案が決まる。社内報で紹介され、表彰され、大きな拍手で終わる。

しかし、その後が続かない。

提案者は専任化されず、通常業務との兼務のまま。上司からは「まずは本業を優先して」と言われ、与えられる予算は小規模な実証費のみ。月次報告の場はあるが、具体的な伴走支援はない。半年後、プロジェクトは静かに停滞する。

このタイプでは、「受賞」が事実上のゴールになってしまう現象が起きがちです。

選抜型は、本来「優れたアイデアを見つける」ための制度です。一方、新規事業推進の本質は完成度の高い構想を競うことではなく、仮説を検証し続け事業化することにあります。

ところが審査過程では、まだ市場検証をしていない構想の完成度やプレゼン力が評価されやすい。その結果、検証前の段階で勝敗が決まってしまいます。

さらに言うと、この型による新規事業推進は往々にして選抜後の設計が弱いケースが多いものです。前述のとおり、優れたアイデアの発掘を目的とするだけに選抜フェーズは丁寧に設計されています。一方で、実行フェーズについては「良いアイデアがでれば」という条件付きであるため、設計が曖昧になりがちです。専任化の基準がなく、社内のスポンサーも明確でない。つまり、「通す仕組み」はあるが、「育てる仕組み」が整えられていないことが多いのです。

では、どうすればよいのでしょう。

この場合、審査の評価軸を「構想の完成度」から「検証の実績」に移すという対応が望ましいでしょう。具体的には、応募条件や通過条件に顧客インタビュー件数や簡易的な実証実験の実施を組み込む。また、受賞後は一定期間の専任化や予算確保を制度として明文化する。さらに、伴走支援や定期的なレビュー体制を設け、「選抜後の実行フェーズ」を制度の中に組み込むなどです。

選抜型がうまくいかないのは、アイデア選抜で終わってしまう制度設計にあります。受賞をスタート地点にできるかどうかが、アイデアコンテスト型による新規事業推進の成否を分けるのです。

B.育成型(社内アクセラ型)の場合

社内アクセラレーターが始まる。
3か月間のプログラムで、チームは集中的に仮説を磨く。顧客インタビューを重ね、MVPを作り、メンターの伴走を受けながら検証を進める。最終日のデモデイでは高評価を得て、社内の期待も高まる。

しかし、その後が続かない。

次フェーズの投資判断は先送りされ、専任化は未決定のまま。チームは元の部署に戻り、プロジェクトは「継続検討中」という曖昧な状態に置かれる。半年後には、事実上止まっている。

ここで起きているのは、事業として“続ける条件”が定義されていない状態です。

社内アクセラ型は、仮説検証を高速で回す仕組みとしては優れています。期間を区切り、メンターが伴走し、MVPを作る設計は合理的です。一方で多くの場合、アクセラ型は「検証期間」までしか設計されていません。制度上はステージゲートがあるとしても、探索段階に適した判断基準が明確になっていないため、どの指標を満たせば専任化するのか、だれが追加投資を判断するのか、どの段階で事業フェーズへ移行するかの判断が先送りされるのです。

その結果、検証は進んだにもかかわらず、意思決定の基準と責任が曖昧なままプロジェクトが宙に浮く。

これを避けるためには、検証と事業化のあいだに明確な“橋”をかける必要があります。具体的には、段階的な投資設計(ステージゲート)を導入し、フェーズごとに評価指標と次フェーズへの進級条件を定義する。また、スポンサーを制度上明文化し、投資判断とリソース調整の責任を持つ主体を明確化させることが不可欠です。

前述のとおり、育成型(社内アクセラ型)は、検証の場としては有効です。その実効性を高める鍵は、検証の“その先”までを制度として設計できているかどうかにあります。

C.常設組織型(新規事業部型)の場合

新規事業部が設立される。
優秀な人材が集められ、専任チームとして探索に集中できる体制が整う。1年目は仮説検証も進み、いくつかのPoCも実施される。外から見れば順調に見える。

しかし2年目に入ると、空気が変わる。

既存事業との連携が思うように進まない。PoCは実施したものの、本格導入には至らない。売上はまだ立たず、経営からは「成果はいつ出るのか」と問われる。既存事業側からは「あの部署は何をしているのか分からない」という声が出始める。次第に孤立が進み、社内の支持が弱まっていく。

ここで起きているのは、探索は進んでいるものの既存事業との接続不全に陥っている状態です。

常設組織型は、探索に専念できるという大きな強みがあります。一方で、組織を分けた瞬間に分断が生まれやすくなります。人的交流が少なくなり、KPIも既存事業とは別軸になる。扱う時間軸や文化も異なるため、相互理解が進みにくい。その結果、「新規事業は別世界」という認識が社内に広がってしまうのです。

この分断状態の何が問題なのでしょうか。新規事業の多くは、既存事業領域からの“染み出し”領域で拡張します。既存リソースや顧客基盤を活用できなければ、推進スピードは大きく落ちます。PoCは実装に進まず、顧客データも十分に共有されない。やがて「成果が見えない部署」というレッテルが貼られてしまう。

このような事態を避けるためには、組織を分けること以上に、接続を制度として設計する必要があります。具体的には、一定期間でのローテーション制度を導入し、人材の往来を意図的に生み出す。また、定期的な接続会議を制度化し、PoCの共有や共同実験の機会を設ける。さらに、探索KPIと既存事業KPIを分離しつつも、接点となる指標を設けることで、対話の共通基盤を作ることが重要でしょう。

常設組織型の成否は、組織を分けること自体で決まるのではなく、探索と既存事業をどうつなぐか、その設計にかかっているのです。

D.特命戦略型(経営テーマ直轄型)の場合

中期経営計画で重点領域が発表される。
「この分野で新規事業を立ち上げる」と明確に打ち出され、特命チームが発足する。経営会議での定例報告も組まれ、最初から「次の成長の柱」「数年以内の黒字化」といった大きな目標が掲げられる。

立ち上がりは速い。経営の後押しもあり、リソースも比較的集まりやすい。

しかし、次第に違和感が生まれる。

小規模な実験は後回しになり、まずは戦略との整合性が厳しく問われる。既存事業とのシナジー、市場規模、将来の収益性など、複数の前提条件を同時に満たす事業構想が求められる。仮説を修正しようとすると、「当初の戦略テーマとずれていないか」という議論が先に立つ。結果として、顧客検証よりも説明資料づくりに時間が割かれるようになる。

ここで起きているのは、前提条件が多すぎるために、仮説を小さく分解して試せない状態です。

特命戦略型の問題は、目標が大きいことそのものではありません。スタート時点で、領域・戦略テーマ・既存事業とのシナジー・収益目標など、多くの与件が固定されている点にあります。これらを同時に満たす整合的な構想を作ろうとすると、仮説は複雑化し、検証単位を小さく切り出すことが難しくなります。

さらに、経営直轄であるがゆえに説明責任も大きいものとなります。不確実性を扱う探索段階でありながら、確実性の高い説明を求められる。この構造が、仮説修正やピボットを心理的にも組織的にも難しくするのです。

特命戦略型は、推進力は強いが、修正余地が狭まりやすい構造を持っていると言えるでしょう。

これを避けるためには、与えられた前提をいったん分解し、「何が固定条件で、何が検証可能な仮説か」を切り分ける段階を設ける必要があります。具体的には、90日単位の探索フェーズを明確に区切り、小規模実験を前提としたスプリント設計を行う。また、「戦略との整合性」は最初から完全一致を求めるのではなく、検証結果に応じて戦略側も調整する余地があることを合意しておくことが重要でしょう。

特命戦略型は、与件を抱えたまま硬直するのか、それとも前提を分解しながら柔軟に検証できるかで成否が分かれるのです。

まとめ:4タイプの停滞ポイントと突破の方向性

ここまで見てきた4タイプは、それぞれ異なる形で止まります。しかし、いずれも「制度があるのに動かない」という共通点を持っています。あらためて整理します。

A.選抜型(社内コンテスト型)

通す仕組みはあるが、育てる設計がない。

  • 停滞ポイント:
    受賞がゴールになり、通過後に兼務のまま停滞する。
  • 構造的原因:
    選抜フェーズは設計されているが、実行フェーズ(専任化・伴走・投資)が制度化されていない。
  • 突破の方向性:
    ・検証実績を通過条件に組み込む
    ・選抜後の専任化・予算確保を制度として明文化する
    ・実行フェーズまで含めて制度設計する

B.育成型(社内アクセラ型)

続ける条件が定義されていない。

  • 停滞ポイント:
    検証は進むが、プログラム終了後に宙に浮く。
  • 構造的原因:
    検証期間は設計されているが、専任化や追加投資の判断基準と責任主体が明確でない。
  • 突破の方向性:
    ・フェーズごとの進級条件を明文化する
    ・段階的投資設計(ステージゲート)を探索型に最適化する
    ・投資判断の責任主体を明確にする

C.常設組織型(新規事業部型)

探索はできるが、接続設計がない。

  • 停滞ポイント:
    PoCは進むが、既存事業に実装されず孤立する。
  • 構造的原因:
    組織分離により、人材・KPI・文化が分断され、既存事業との接続が制度化されていない。
  • 突破の方向性:
    ・人材ローテーションで往来を生む
    ・接続会議や共同実験を制度化する
    ・探索KPIと既存KPIを分離しつつ接点指標を設ける

D.特命戦略型(経営テーマ直轄型)

前提条件が多すぎる。

  • 停滞ポイント:
    戦略整合性が優先され、仮説を小さく試せない。
  • 構造的原因:
    領域・シナジー・収益目標など複数の与件を同時に満たす構想が求められ、仮説が複雑化する。探索段階にもかかわらず確実性の説明が求められる。
  • 突破の方向性:
    ・固定条件と検証可能仮説を分解する
    ・90日単位の探索フェーズを明確に区切る
    ・戦略側も検証結果に応じて調整余地を持つ

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