新規事業が失敗する原因とは?うまくいかない理由や失敗のパターンを紹介

新規事業が失敗する原因を三つの観点から詳説。成功確率をあげるために知っておきたい、新規事業のよくある失敗と根本的な対策について、新規事業コンサルタントが丁寧に解説します。15分程度で読了頂けます。

更新日:2024年7月17日

新規事業開発は一般に千三つと言われる通り、成功までの道のりは険しく様々な難所があります。近年、新規事業に関する理論や書籍が多く紹介されており、少しずつリスクは回避できるようになってきましたが、それでもうまくいかない例を多く目にします。この記事では、事業性、進め方、組織・社内調整の三つの観点で新規事業が失敗する原因を考察。失敗例を分析し、新規事業の成功確率を上げるための必要条件を考えていきます。


新規事業コンサルタント・後藤匡史

コンサルティングや研修など様々な形で新規事業開発プロジェクトに関わらせて頂いています。コンサルタント・講師としての経験を踏まえ、新規事業でよくある失敗パターンを三つの観点から抽出。なにが理由で新規事業が失敗してしまうのか、その要因を分析し、成功確率を上げるための必要条件を考えてみました。

新規事業の失敗パターン抽出の三つの観点

新規事業の失敗例を挙げて原因を考察したところ、次の三つの観点で整理するとすっきりします。植物に例えると、事業性=種、進め方=栽培、組織・社内調整=土壌、と置き換えられるのですが、このように考えると、どれかがダメだと他がどんなによくてもうまくいかない=失敗となってしまう、と言えますよね。

  • そもそもの事業性が原因となる、新規事業の失敗
  • 進め方が理由となる、新規事業の失敗
  • 組織・社内調整による、新規事業の失敗

事業性が原因となる失敗とは、事業そのものの筋がよくないために失敗した、というものです。進め方が理由となる失敗は、言い換えると、プロジェクト推進の前提を取り違えているために起きてしまう失敗と定義できます。組織・社内調整による失敗については、新規事業推進の環境をうまく整えられないことによるもの、というカテゴリー分けをしています。

そもそもの事業性が原因となる、新規事業の失敗

事業性が原因となる新規事業のよくある失敗は、次の3つです。

  • 新規事業の領域選択を誤ってしまう
  • ニーズがないのに、あるものと勘違いしてしまう
  • ソリューションが受け入れられない

新規事業の領域選択を誤ってしまう

最初にご紹介するのは「領域選択ミス」です。例えば、「100億円の事業を期待しているのに、この事業領域では3億円が限界であることがわかった」「市場は大きいが競合も多く成長もしないため参入余地が全くなかった」といったケースです。

領域選択が誤っていた、というケースは、新規事業開発プロセスのどんなタイミングでも発覚しますが、多くの場合、「事業答申」の場で発覚します。(往々にして担当者は途中で気づくことが多いです。)

新規事業開発では、多くの場合、会社の期待値として「売上100億円」「営業利益率10%以上」のような何らかの基準を課されます。そして、100億円をつくろうと思ったら、当然ながら100億円以上の市場規模が必要になります。一方で、世の中には様々なニッチマーケットが存在しており、あまりにニッチな市場領域を選んでしまうと、そもそも期待値を超えられない事業の検討を(時間をかけて)していた、最初からやり直し、という状況に陥ってしまいます。

また、前提を明らかにしないままに進めてしまい、例えば、会社のミッション・ビジョンから大きく離れている/自社の強みが活きない、という理由で、その先のフェーズに進めないというケースもあります。いずれにしても、領域を誤って設定したために無駄に工数をかけた挙句にプロジェクトが中断する、という誰もが望まないことが起きてしまったと考えられます。

ニーズがないのに、あるものと勘違いしてしまう

新規事業アイデアは、多くの場合、「こういうこと困っているんじゃないか?」という仮説をもとにスタートします。初期段階では仮説という名の妄想と呼んでもよいかもしれません。

一般的な新規事業開発プロセスでは、仮説を立てた後には仮説検証を行います。具体的には、VOC:Voice Of Customer、すなわち、ユーザと目される方に徹底的にインタビューを行います。多くの場合、ここで妄想に近い仮説だったものが検証され、確かにPainが存在している、ということが検証されます。


しかし、インタビューを実施したとしても、失敗するケースもあります。多くは2パターンです。

  • ① 思い込みから抜け出せず仮説検証できなかった
  • ② 善意からの「それ、いいね」に騙されてしまう

① 思い込みから抜け出せず仮説検証できなかった

新規事業のアイデアを練るのに時間をかければかけるほど、そのアイデアに思い入れが出来ます。思い入れが出来ると、実際にユーザの困りごとの存在を確認しなくても「絶対にユーザは困っているはずだ」という信念に近い思い込みが出来上がっていきます。そうなると何を聞いてもバイアスがかかってしまい、ユーザの声を素直に受け取ることが出来なくなってしまいます。その結果として、ちょっとした「いいね」を拡大解釈してユーザニーズがあると誤認してしまうパターンです。

② 善意からの「それ、いいね」に騙されてしまう

もう一つはインタビュー時に「それ、いいね」というコメントを得られてしまうケースです。インタビューには「機縁法」と呼ばれる知り合いを通じたインタビュー手法があります。その際、一生懸命に事業を成功させようと奮闘している方が来たらどうでしょう?「それ、いいね!出来たら買うよ」と言いたくなりませんか?

インタビューを受けてくださる方は基本的に善意で対応してくれる「いい人」です。いい人だからこそ、一生懸命な方にはポジティブな反応をしたくなってしまいます。その結果、「それ、いいね」をユーザにニーズがあると誤認してしまうのです。

なお、ごくまれに思い込みでスタートしてユーザインタビューを全くせずに思い込みだけでモノを作ってしまうケースがあります。その結果として「ニーズが無かった」ということになるわけですが、これはセオリーを踏まえずにやみくもに推進してしまっただけ、というのが一般的な評価ですのでここからは割愛しています。最低限ニーズの有無は確認しておきたいものです。

ソリューションが受け入れられない

3つ目は「無理なソリューション」を取り上げてしまうケースです。ムリなソリューションにはいくつかのパターンがありますが、代表的なものは次の3つです。

  • 技術的に不可能
  • 法的に無理
  • 社会的に受け入れられない

技術的に不可能なソリューション

まず、技術的な観点は例えば、「タイムマシンを作りたい」というようなケースです。少なくとも現在の人類の科学技術では不可能で達成できません。さすがにここまで無理筋は過去見たことがありませんが、意外と落とし穴にはまりやすいのが、「試作は出来るが量産が難しい」というケースです。技術的な課題は多くの場合、「絶対に無理」とは証明しにくいものの、事業立ち上げに必要なスピードが得られないと結果的にプロジェクト停止になります。

法的に無理なソリューション

続いて、法的に無理というパターンです。最近だと、民泊(AirBnB)や乗り合いタクシー(Uber)などがそれにあたるでしょう。様々なロビー活動などによって少しずつ変わってきていますが、法的にNGな事業アイデアはよほど力を持ったプレイヤーでない限り突破が難しくなります。

社会的に受け入れられないソリューション

最後は「社会的に受け入れられない」というものでしょう。倫理的にNGなものは勿論ですが、ここでは「今までの常識的な行動を変えることが難しい」ケースについて取り上げます。例えば、ダイエットソリューションが分かりやすいのですが、ダイエットは多くの方がしたい、すなわちニーズはあります。ただ、半年間おいしいものを我慢し辛いトレーニングをしてダイエットしたい、とは思っていないのです。従い、ソリューションの形態がまずければユーザは受け入れません。(その意味ではライザップはとてもうまくソリューションを提供したと思います。)

では、ソリューションを受け入れてもらうにはどうしたらよいか?一つはPoCでしょう。特に技術的な検証とユーザが受け入れるかどうかの検証は欠かせません。出来る限りライトにPoCを進めていきたいところです。 また、法的な確認については、特に大企業で新規事業を行っている場合は法務部門の支援を受けると良いでしょう。スタートアップでは弁護士への相談にもコストがかかりますが、大企業であることのメリットは最大限活用したいものです。

進め方が理由となる、新規事業の失敗


新規事業コンサルタント・後藤匡史

新規事業の進め方は既存事業とは大きく異なります。つまり、新しいものを作る、スケールさせるからこその重要なポイントがあるのです。そのポイントを外してしまったがゆえに失敗となるパターンを3つご紹介します。

進め方に起因する新規事業の失敗パターンは、次の3つです。

  • Stage・Gateの枠にとらわれ過ぎ
  • プロダクトを作りこみ過ぎ
  • 勝負ポイントを逃してしまう

Stage・Gateの枠にとらわれ過ぎ

新規事業でよくある進め方の一つがステージゲート法です。ステージとゲートで構成したこの進め方は採用している企業も多く、上手く使えばかなり有効に働くのですが、間違った使い方をすると硬直的になり、その枠組みに縛られてしまいます。

一般に、ステージゲート法では、ステージごとに検証すべきことを検証し、その検証が出来たらゲートでKPIチェックし、合格したら次のステージに進む、というやり方が採られます。この仕組みが強く効きすぎると、「一回ゲートを通過したらそこで決めたことは変えられない」ということが起こります。

例えば、顧客ニーズの検証ステージで「A」というニーズの存在がある程度見えたのでゲートを通過させた。ところが、次のステージでの検証中に、「実はニーズAが薄弱だった」、「Aを満たすソリューションができないことが分かった」という2点が判明したと仮定しましょう。

こうした場合、前のステージに戻ってニーズ仮説から再度建て直せばよいのですが、往々にして「Aは前提として他に満たす方法はないか?」を一生懸命に考えてしまい、そこから抜け出せない、といった状況に陥ってしまうのです。

新規事業では事業計画等「計画」を提示することがほとんどでしょう。なにごとも計画通り進められるに越したことはありませんが、特に新規事業においては、「計画」はあくまでもその時点での「仮説」であって、かなり早い段階でうまくいかない、あるいは別のうまくいくやり方が見つかります。

したがって、ステージゲート法で進めている場合でも、必要に応じて前工程に戻るということも含め、柔軟に対応するスタンスでいることが肝要です。

重ねますが、新規事業の進め方のポイントは、計画を柔軟に変えていく=臨機応変に物事を進めることです。それは、ステージゲート法のような仕組みも柔軟に活用していく、そうしたスタンスでいることを意味します。


プロダクトを作りこみ過ぎ

たまに知り合いから「PoCを行う上で検証ポイントをどうしたらよいか?」という相談を受けることがあります。PoCの進め方を最初から相談いただけるのであれば適切にアドバイスできるのですが、困るのは「こんな感じでスマホアプリを作ってみたんですけど、これでどこまで検証すればよいでしょうか?」といった相談です。

スマホアプリを作りこんでしまってユーザと目される方に使ってもらう形のPoCでは、最初に検証されるのは「そのアプリが使いやすいか」でしょう。そのアプリのUI(ユーザインターフェイス≒使い勝手)がダメとなると、その段階で「このアプリは使えない」という評価を下されてしまいます。しかし、多くの場合、ここで検証したいのは「ユーザが持っている困り事に対するソリューションになり得るか?」です。「このアプリが使いやすいか?」はもっと後のフェーズです。

このように、あるタイミングでプロダクトを作りこんでしまうケースをよく見かけます。これの何が問題なのでしょうか?

新規事業は分からないことだらけです。つまり、不確かなことが多い。既存事業ならば前提をそのまま是として進められますが、不確かなことの上に不確かな仮説を重ねても、早晩瓦解することは目に見えています。したがって、少しずつニーズの把握、ソリューションの組み立てを進めていく必要があるのです。まだ仮説の検証が不十分な段階でプロダクトを作りこんでしまうと、問題点として次の二つが挙げられます。

  1. 本来検証したいことが検証できない
  2. 予算を使いすぎてしまいこの後リカバリできない

発明王トーマス・エジソンは「私は失敗したことは一度もない。1万通りのうまくいかない方法がわかっただけだ。」という名言を残しています。この名言を裏返すと、成功に至るには、数多くの「うまくいかない方法」を検証していく必要がある、とも言えます。

いわば、成功のために失敗が必要ということでもあるのですが、注意しておきたいのは、「再起できない失敗」はしない、ということ。例えば、食品事業を立ち上げようとしているときに「食中毒を出す」等は再起できない失敗に近いでしょう。また、スタートアップの場合は調達したすべてのお金を成果が出る前に使い切る、ということが再起不能に当たるかもしれません。すなわち、「これがダメになったらおしまい」という状況は避けたいのです。

新規事業ではうまくいかないことが当たり前なので、どれだけ「簡単に試せるか」が重要です。試してみて失敗しそれを利用する、そのスタンスをもって新規事業を進めてください。

勝負ポイントを逃してしまう

事業がうまく進んでいる場合、どこかのタイミングで勝負ポイントが訪れます。勝負ポイントとは大きく投資をして事業を伸ばすタイミング・ポイントのことです。勝負ポイントを外してしまうパターンは二つあります。早すぎるか、遅すぎるか、です。

新規事業における勝負ポイントは、(1) PMFを達成している状態で、(2)市場が急速に成長するとき(正確にはその少しだけ前)、です。特に(1)のPMFはかなり重要で、PMFが達成する前に投資を始めるとトラブルの拡大再生産になってしまいます。


PMFとはProduct Market Fitの略で「製品・サービスが市場に受け入れられた状態」のことを指します。自分たちの製品・サービスが顧客ニーズに対して適切な価値提供ができ、お客様が「価格を支払っても欲しい」という状態であり、それに対して製品・サービスを提供できる状態のことです。

新規事業では早く成果が欲しいので、どうしても広告投資だったり営業強化だったりを先行したくなります。しかし、まだPMFが達成されていない場合、「顧客ニーズに合っていないが広告を打ちまくる」≒広告投資の無駄遣い、や、「モノが出来ていないのに顧客に売ってしまう」≒販売後に山のようなクレーム対処に追われてしまう、ということになってしまいます。

また、逆に市場が急激に成長しているのに拡大投資に踏み切れなければ、「需要を取り逃す」ということになってしまいます。多くの場合、自社がやらなければ競合が市場を席巻しますので、遅れて取り返せなくなってしまうのです。

事業プランが良ければどこかで勝負ポイントは来ます。その時までにいかに早くPMFを達成するか、すなわち失敗をしながらPDCAを回しておくか、そして、勝負ポイントが来たと思ったら一気に投資をして勝負をすることができるか、この決断力も重要です。

組織・社内調整による、新規事業の失敗


新規事業コンサルタント・後藤匡史

新規事業を進めるうえで、避けては通れない社内調整。ここを誤ると、せっかくの事業プランが日の目を見ることがなくなる可能性も。コンサルタントとして新規事業についてご相談をお聞きする中で見えてきた、組織・社内調整による失敗パターンをご紹介します。

組織・社内調整が原因となる、よくある新規事業の失敗は、次の5つです。

  • 的外れなアドバイスに翻弄される
  • 既存事業から邪魔者扱いされる
  • 適時に投資が受けられない
  • 作った計画に縛られる
  • トップ交代によるプロジェクトの中断

的外れなアドバイスに翻弄される

それは、アドバイス?個人的な意見?

新規事業を進めていると、社内の方からアドバイスを頂くケースがあります。

「それ昔やったけど、そのやり方だとうまくいかなかったんだよね。」 「こういう感じが今どきの女子には受けるんじゃない?」

みたいなアドバイスという形をとった極めて個人的な意見です。

悩ましいのは、この手のアドバイスを頂ける方は善意であり、しかもそれなりに役職が上の方だったりすることです。

原則論として、役に立つアドバイスは受け入れればよいし、役に立たないアドバイスは無視すればよいだけなのですが、これが役員の発言だったりすると、役員自身は単なる思いつきで軽く言ったものが「会議の議事録として記録され」「経営管理部隊が進捗確認をしてくる」ようになってしまうことも。

また、新規事業担当者としても手探り状態であることも多いので、適切に取捨選択することができず、これらのアドバイスを真に受けたくなることはあるでしょう。

アドバイスに対する基本の考え方

まず、冒頭に挙げたようなアドバイスは一つの意見として取り扱いましょう。「昔やってみたがうまく行かなかった」というアドバイスは、その当時なぜ失敗したのか、を確認して環境が変化していれば取り合わなければよいし、同じ環境なのであれば「どうやって回避するか」を考えたいところです。

また、「こういう感じが受けるんじゃない?」はその方がターゲットに対する深い理解があるなら真摯に受け止めるべきでしょうし、ターゲットを理解していないなら無視すべきです。誰が言ったのか(どの肩書の人が言ったのか)は関係なく、事業において重要な問題提起か、重要でない問題提起か、という視点から判断すればよいでしょう。

感謝の気持ちを表すことを忘れない

ただし、新規事業をうまく進めていくうえで、対応そのものは丁寧にしておきたい。なぜなら、彼らは(的外れであっても)善意で言っていることが多く、本来的には成功して欲しいという気持ちの表れでアドバイスをしてくれているからです。したがって、アドバイスに対しては「貴重なご意見をありがとうございます」という感謝の気持ちは素直に示しておきましょう。

既存事業から邪魔者扱いされる

既存事業にとっての新規事業

インターネットでの取引が拡大し、多くのメーカーがECでの販売を指向するようになっています。近年はD2C(Direct To Consumer)という名称で事業が立ち上げられています。これらの取り組みは、多くの企業の中で「新規事業」の形をとります。

EC事業は、既存事業にとってはカニバリゼーションを起こす、つまり、既存のお客様の売上をスイッチする邪魔な存在になりかねません。例えば、メーカーがD2Cを始めるとスーパーやコンビニなどの小売にとっては自分たちの売上をとられることになるので困ります。そうなると、「どうしてくれるんだ!」と担当営業を責めたり、場合によっては「こちらの方が魅力的になるように値引きしろ」という圧力になったりするわけです。

既存事業側の協力が得られない理由

また、特にBtoB型の新規事業では顧客ヒアリングを行うために、既存顧客を訪問するケースもあります。当然ながら、既存事業の担当営業に紹介してもらう必要があるでしょう。ここで注意したいのは、お客様にとっても担当営業にとってもヒアリングに付き合うメリットは何もない、ということです。

これらは、新規事業が既存事業の人たちにとって邪魔以外の何物でもない、と思われている可能性があるということを示唆しています。したがって、放っておくと事業開発に協力してくれないばかりか邪魔されるということにもなりかねません。

既存事業に快く協力してもらうには

対策方法として、一つは、トップマネジメントから新規事業の重要性を説明するなどもありますが、もう一つ、心がけておきたいのは、新規事業の担当者自身が既存事業のキーパーソンと関係性をもっておくことでしょう。端的に言えば、仲良くなっておけば、協力も得やすいですし、何かあったときにもキーパーソンから既存事業の方に「まあまあ」ととりなして頂けるかもしれません。

企業全体としては、既存事業がキャッシュを生み出すからこそ新規事業に投資ができるわけです。そのリスペクトを忘れずにおきたいものです。

適時に投資が受けられない

新規事業開発に必要な投資

事業を立ち上げるためには投資が必要です。しかも、必要なタイミングで投資する必要があります。スタートアップ(ベンチャー企業)の場合は、必要な投資を行うために資金調達活動を行います。大企業の中での新規事業の良いところは、「資金ショート(*)」がないことです。したがって、お金がない心配をする必要はそれほどありません。

*資金ショート:お金が無くなって倒産すること

そうはいっても、必要なタイミングで必要な投資はしたいものです。例えば、調査費、プロトタイプ開発費、生産ライン投資、広告投資、等ですね。事業が形になり大きくなるほどより投資が必要になります。

予算確保のためにやっておくべきこと

一方で、企業活動においては子どもが親におやつ代をもらうような気軽さで投資予算を出してもらうわけにはいきません。企業の予算計画に従って投資されるわけですから、出来れば前もって予算を確保しておきたいものです。

可能であれば、新規事業開発室などの新規事業部隊の中で予算を多めにプールしておいて、必要に応じた投資を機動的に行っていきたいものです。それが難しいようであれば、ある程度前もって先読みしながら予算確保しておくことが必要になります。

新規事業開発では目の前の課題のクリアに追われがちですが、一歩先回りして考えておくことも必要でしょう。

作った計画に縛られる

事業計画どおりに進まない新規事業

新規事業を上市するタイミングでは、必ず社内に事業計画を提示します。ところが、困ったことに、書いた計画通りにはほぼ間違いなく進みません。理由は二つあり、一つは元々新規事業は読みにくく難しいことに加えて、もう一つの理由として「ある程度魅力的な事業計画にしておかないと承認されない」という側面があるからです。

しかし、無理な事業計画を書いてしまったとしても、承認されてしまった以上、会社内ではそれが「正」として進みますので、必ず年度末には目標達成できたのかを説明する必要が出てきます。

計画未達の場合の対策

もちろん、計画通り、あるいは計画以上の成果が出ることが理想です。しかし、ほとんどの場合、計画通りに進むことはなく、特に売上計画において未達が続く可能性が高いです。対策として計画提出時に「低い目標」で出してしまうとそもそも事業案が通らない可能性もありますので、出してしまった後の対策について説明します。

出してしまった後でも、全社的な計画を変えるのは難しいです。なぜなら、既存事業なども併せた全社計画になっているので、新規事業のブレを期中に反映させるわけにはいかないからです。そのための対策としては「新規事業組織内で妥当な修正計画を作っておく」ことです。以下にご紹介するweb記事で詳説していますので、よろしければご覧ください。


トップ交代によるプロジェクト中断

トップ交代は新規事業存続の危機

ほとんどの企業で経営トップや新規事業開発の担当役員が定期的に変わります。上場クラスになると概ね5-6年程度でトップが変わることが多いのではないでしょうか?新規事業はトップが変わると「止める」判断が下されやすいものの一つです。止めることが簡単なのに加えて、止めればすぐにコストカットに繋がるからです。

新規事業では担当者は「いける」と思っているが、それ以外の人は確信がない、というケースが多々あります。そんな時に、上から「この事業は大丈夫なのか?」と聞かれると「難しいです」と答えたくなってしまうかもしれません。

それでも新規事業を継続する、2つの方法

そうならないようにするには一番の対策は立ち上げてしまうことでしょう。何らかの形でお客様がついている状態になっていれば、つぶす判断がしにくくなります。検討中、PoC中だとつぶされてしまう可能性がありますので、経営トップの任期、役員の任期は意識をしておきたいものです。

また、役員内に支援者を別途作っておく、ということも一つのやり方です。取締役レベルの役員が支援者になっている場合には、取締役会で「あの新規事業をどうすべきか?」という議論になったときに進めるべきという意見を出してくれる方がいる、ということになります。

新規事業の成功確率を上げるための三つの必要条件

ここまで新規事業の失敗要因を三つの観点から詳細に考察してきました。この章では、新規事業の成功確率を上げるための必要条件として三つの重要ポイントをあらためて強調しておきます。

  • 適切な領域を設定する
  • 事実把握に徹底的にこだわる
  • 高速で仮説構築検証のPDCAを回す

適切な領域を設定する

失敗の項で述べたように、売上高や成長性など会社の期待値を織り込まずに新規事業の領域を設定してしまうと、そもそも検討に値しない事業案を上申してしまいかねません。

領域選択に由来する失敗を避けるためには、期待する売上高や想定される成長性(未来の話も併せて)を明示し、「期待に満たない事業案は最初から検討しない」という線引きをしておく必要があるでしょう。

なお、成長性については、新規事業が会社の成長戦略であり、「成長市場」の方がチャンスが大きいため、前提とされている印象をもっています。もちろん、成熟市場でも新たな価値を提供することによって再活性化することは可能です。(例えば、ほぼなくなりそうになっていたレコード針がDJブームによって再燃した、というケースのように。)ただ、こういったケースは稀であるため、売上規模と併せて成長性についてもあらかじめ期待値を明確にしておく方がよいでしょう。

領域選択ミスは、新規事業開発のスタート地点、すなわち、事業アイデア検討の段階である程度決まってしまいます。場合によっては、会社の新規事業戦略方針として領域(ドメイン)を決めるケースもあるでしょう。この際に、期待売上や成長性も必ず加味して設定しておくべきと考えられます。

事実把握に徹底的にこだわる

事業性に由来する新規事業の失敗として、「ニーズがないのにあるものと勘違いする」パターンをご紹介しました。

この失敗はどうすれば回避できるのでしょうか?

前述したようにニーズの把握には、ユーザインタビューは必須ですが、その際、必ず「困り事」を確認することで、勘違いを回避することができます。つまり、欲しいかどうか、ではなく、「困っているかどうか」を確認したいのです。

「欲しいですか?」「買いますか?」の回答は善意でYesというケースでも「困っているか?」という問いに対して善意でYesと答える人はほぼいないんでしょう。余計なバイアスがかかりにくいのです。

また、一つの成功パターンとして、「自分自身が当事者である」ことも一つのやり方です。自分自身がニーズがある、すなわち困り事があり、何とかしたいと思っている。誰が買わなくても自分が絶対に買うのだ、というペインがあれば、一つのニーズにはなるでしょう。

高速で仮説構築検証のPDCAを回す

新規事業は高速でPDCAを回すことが成功の近道です。顧客のニーズを知るために知らない方に話を聞いたり、とりあえずモックアップを作ってPoCを行ってみたり、中途半端な製品、サービスの状態でローンチしたり、ということが求められるケースがあります。

その時に出てくるのは「こんなことをやってよいのか?」という既存事業で培った常識的な良心です。既存事業では何かの失敗をすることで失うものがたくさんあります。そのため、失敗を回避しようとする傾向があります。これは既存事業ではある意味で正しい行為です。その結果として、事業計画も半年かけて作ったりするわけです。

一方、新規事業では半年かけて作った事業計画でも、1週間くらいの顧客インタビューの最中で修正せざるを得ないことに気づかされることもままあるわけです。

すなわち、行動してPDCAを回さなければ新規事業はうまくいかない、そのために「Do」が重要なのです。

前述のエジソンの名言「私は失敗したことはない。一万通りのうまく行かない方法を発見したのだ」が表すとおり、新規事業は新しいチャレンジを繰り返しながら成功確度の高い方法を組み立てる活動です。

一点、注意点として「再起不能の失敗」は回避してください。スタートアップの再起不能のほとんどのケースは「資金ショート」ですが、大企業の場合は既存顧客や既存事業に大ダメージを与える、大きな投資に失敗して事業の固定費に乗せられる、等です。

軽微な失敗そのものは問題にならず、だいたい、1か月もすればみんな忘れますが致命的になると新規事業をつぶさざるを得なくなります。

「再起不能の失敗」にさえ気をつければ、失敗をこなしたほうが良いことが多いです。失敗を恐れず、高速で仮説構築検証のPDCAを回しましょう。

新規事業の失敗に見出す、成功の必須条件|ライターご紹介


新規事業コンサルタント 後藤 匡史(ごとう まさふみ)

株式会社シナプス 代表取締役社長/コンサルタント

10年以上のマーケティング・コンサルタントの経験を有し、化粧品、外食、エンターテイメント、メディア、サービス、精密機器、電子機器、電気部品、医療機器、農業など数多くの領域を支援してきた。多くの企業が陥る「顧客不在の戦略立案・実行」に対して提言し、真のニーズを中心とした組織へと生まれ変わらせることをミッションとして、数多くの企業を変貌させてきた実績を持つ。研修では、マーケティング研修のほか、問題解決スキル研修やファシリテーション研修での実績が豊富で、「すぐに使えるビジネスの実践的なスキル」を伝える講師として評判が高い。SMBCコンサルティング セミナー講師。
1973年生まれ、2007年シナプス入社、2008年取締役就任、2024年より現職。2021年よりアグリテックスタートアップのテラスマイル株式会社の非常勤取締役を兼任。



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