LTVとは?計算方法や重視される理由、LTVを最大化するための5つの施策を解説

マーケティング指標のなかでも注目されることが多くなってきた「LTV」。この記事では、複数あるLTVの定義や計算方法について使い分けを整理。LTVが重要視されるようになった背景や、LTVを最大化するための具体策も解説します。

橋向講師

マーケティングの様々な指標のなかでも「LTV」が注目されることが多くなってきました。LTVの定義や計算方法が複数あるため、混乱する状況も見られるようになりました。

本記事ではまず、これら複数のLTVについて、定義や計算方法を整理します。どういうときにどの定義・計算式を使い分ければいいかまとめます。そのうえで、LTVが重要視されるようになった背景や、LTVを最大化するための具体策についても解説していきます。

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LTVとは?

LTVとは、Life Time Value(ライフタイムバリュー)の略です。日本語では「顧客生涯価値」と訳されています。顧客1人または1世帯、1社などの取引単位が、特定の企業や商品・サービスの取引を開始してから終了するまでの間にもたらした価値です。ここでいう価値は、売上や利益の総額として確認できる定量的な指標です。

この定義を土台にしつつ、実際に現場の実務では、次の3種類のLTVを使い分けるケースが多くみられます。



① LTVを年間平均顧客単価としてとらえる 計算方法:
LTV 
= 年間平均顧客単価
= 年間売上÷年間取引顧客数
② LTVを粗利ベースで管理する 計算方法:
LTV
= 年間平均顧客単価×粗利率×購入頻度(回/年)×継続期間(年)
③ LTVを厳密な利益重視で管理する 計算方法:
LTV
= 年間平均顧客単価×粗利率×購入頻度(回/年)×継続期間(年)−(新規顧客獲得コスト+既存顧客維持コスト)
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現在はこの3つを使い分ける傾向がありますが、「LTV」という概念が最初に提示された際の定義は視点がやや違っていました。

LTVの最初の定義

LTVという概念が初めて発表されたのは1990年代です。ドン・ペパーズとマーサ・ロジャーズによる『One to Oneマーケティング ― 顧客リレーションシップ戦略』で初めて提示されたといわれています。もともとは、顧客1人(または1世帯、1社など)が生涯のうちに取引する商品・サービスのシェアを「LTV」と定義していました。視点を自社に置くのではなく、市場シェアに置くのでもなく、個別の顧客視点でシェアを見ていくことが提唱されました。
(出典:ドン・ペパーズ、マーサ・ロジャーズ『One to Oneマーケティング ― 顧客リレーションシップ戦略』ダイヤモンド社、1995年)

現在も変わらないLTVの根本的な考え方

現在のLTVと、もともとのLTVで視点が異なっていても、根本的に変わらない考え方は次のようなものです。

  • 企業と個別の顧客との関係を、満足度の高い状態で長期的に維持する
  • 満足度の高い関係を維持することで取引を長期間続け、アップセルやクロスセルにつなげる
  • 結果的に、売上や利益を最大化させる

個別の顧客の中で自社のシェアを伸ばすというもともとの定義と、自社が各顧客のLTVを最大化させるように施策を実行することは、結果的にはほぼ変わらない状態といえます。そのための施策として、例えばマス広告のように、潜在顧客にも顕在顧客にも、既存顧客にも一律で同じメッセージを届けるのではなく、個別の顧客の事情に適した情報やサポートを提供し続けることが大切です。

こうした施策を細かく実行・管理していくのがCRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)です。CRMでは個別の顧客の状況・事情に合わせて適切なサポートを提供しつつ、機会に応じてクロスセルやアップセルを促していく施策です。このようにして、顧客のLTVを高めていきます。

「LTV」と似ている「CLV」という用語

CLVとは、Customer Lifetime Value(カスタマーライフタイムバリュー)の略です。日本語では「顧客生涯価値」で、LTVと同じ訳になっています。訳のとおり、CLVとLTVは同じものを指す同義語です。「LTV」は実務寄りのビジネス書でよく使われる一方、「CLV」は学術論文や大学・大学院で使われる教科書でよく使われる傾向が見られます。

LTVが重視されるようになった理由

LTVが重視されるようになった背景は、ビジネスにおいてインパクトの大きい指標だという認識が広まったからです。ビジネスにどのように影響するのか、解説していきます。

新規顧客の獲得はコストがかかる

新規顧客は獲得するまでのハードルが高く、その分コストがかかります。ここでのコストには、広告宣伝費だけでなく、マーケティング・営業部門の人件費も含まれます。新規顧客を獲得して、売上発生までにかかるコストは、既存顧客に再度購入してもらうためにかかるコストの5倍必要になる、という調査があります。これを「1:5の法則」といいます。「1:5の法則」は、米国の戦略系コンサルティングファーム、ベイン・アンド・カンパニーの名誉ディレクター、フレデリック・F・ライクヘルド氏の調査で発表されたものです。

既存顧客のロイヤリティ向上がビジネスにとって重要

既存顧客はすでに関係性ができており、メール等によって情報発信することができるため、広告費などの追加コストが発生しません。顧客維持のためのコスト(営業部門の人件費)も、新規顧客ほどはかかりません。

前出のフレデリック・F・ライクヘルド氏の調査では、顧客の解約率を5%改善すると、利益は最低でも25%改善される、ということもわかっています。これは「5:25の法則」といわれるものです。このように、既存顧客のロイヤリティを向上させることで、さほどコストをかけずに売上を伸ばすことができるのです。つまり利益を伸ばすことにつながります。

出典:
・Frederick F. Reichheld and W. Earl Sasser, Jr., “Zero Defections: Quality Comes to Services” Harvard Business Review, September–October 1990.
・Frederick F. Reichheld and Phil Schefter, “E-Loyalty: Your Secret Weapon on the Web” Harvard Business Review, July–August 2000.



LTVの計算方法

現場の実務で使われやすいLTVの定義は3種類あります。各定義に沿った計算方法を確認しつつ、どのように使い分けるか見ていきましょう。

① LTVを年間平均顧客単価としてとらえる計算方法



LTV = 年間平均顧客単価 = 年間売上÷年間取引顧客数

最も簡易的にLTVを確認するのがこの定義です。年間平均顧客単価を算出し、顧客1人・1社あたりの売上がどれぐらいかを確認します。

この定義のLTVは、広告にどれだけコストをかけられるか判断するための指標である「限界CPA」「限界CPO」を算出する際によく使われます。「限界CPA」「限界CPO」とは、なるべく赤字にならない範囲で最大限に新規顧客を獲得しようとした場合、CPAやCPOといった獲得単価の上限をいくらまで許容できるか、その基準を確認するために用いられる指標です。

「限界CPA」「限界CPO」について詳細は別の記事で解説いたします。これらを用いた成果をお急ぎの方は、研修やコンサルティング、デジタルマーケティングのインハウス化支援を行っていますので、お気軽にお問合せください。

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② LTVを粗利ベースで管理する計算方法



LTV = 年間平均顧客単価×粗利率×購入頻度(回/年)×継続期間(年)

売上ではなく、粗利を基準にしたLTVの計算方法です。売上が伸びていても粗利が伸びていなければ、ビジネスとして堅調とはいいがたいです。粗利を基準にしてLTVを見ることで、利益もしっかりついてきているか確認しながら業績を管理することができます。

③ LTVを厳密な利益重視で管理する計算方法



LTV = 年間平均顧客単価×粗利率×購入頻度(回/年)×継続期間(年)−(新規顧客獲得コスト+既存顧客維持コスト)

粗利を基準にした②のLTVから、さらに新規顧客獲得コストと既存顧客維持コストを引いて、厳密な利益重視で算出するLTVです。新規顧客獲得コストは、新規顧客を集めるためにかかった広告費とマーケティング部門の人件費、契約・初回購入するまでにかかった営業部門の人件費の総額です。既存顧客維持コストは、すでに契約・購入したことのある既存顧客との関係を維持し、再購入を提案するためにかかる営業部門の人件費の総額です。

LTVを最大化する5つの方法

LTVの構成要素を分解すると、前述の計算方法③のとおり「年間平均顧客単価」「粗利率」「購入頻度」「継続期間」「新規顧客獲得コスト」「既存顧客維持コスト」の6つになります。各々の要素を上げたり下げたりするにはどうすればいいかを考えることで、LTVを最大化するための打ち手が見えてきます。その一例を以下で紹介していきます。

「顧客単価」を上げる

LTVを最大化するため、まずできることは顧客単価を上げることです。顧客単価を上げるためには、次の3つの方法があります。

商品・サービスの値上げをする

顧客単価を上げるための施策で最も簡単なものが値上げです。ただし、顧客から見ると、しっかりした値上げの理由がないと、解約につながるリスクの高い打ち手になります。値上げした分、商品・サービスの品質が上がり、満足度を高められる状態になっている必要があります。

クロスセルを促す

クロスセルとは、一度自社の商品・サービスを利用した顧客に、関連する別の商品・サービスを一緒に利用してもらうことです。自社の商品・サービスを1つしか契約・購入しないかもしれなかった顧客に、一緒に2つ以上の商品・サービスを購入してもらえるため、顧客単価が上がることになります。

アップセルを促す

アップセルとは、一度自社の商品・サービスを利用した顧客に、買い換えのタイミングでより高品質・アップグレードした商品・サービスを提案します。より高い価格帯の商材を提案し、購入してもらうことで、顧客単価が上がることになります。

「粗利率」を上げる

粗利率は、売上に占める粗利の割合です。

粗利率=(売上高-売上原価)÷売上高×100(%) という計算式で算出されます。

粗利率を上げるためには、売上を伸ばしながら、売上原価を維持したり下げたりする必要があります。売上を伸ばすための打ち手は、前項の顧客単価を上げる施策です。売上原価は、売れた商品・サービスの仕入れや製造にかかったコストです。売上原価を下げるには、仕入先との価格交渉や、一度の仕入れ量を増やし、まとめて仕入れることで割引してもらうといった手法が挙げられます。ただし、売上原価を下げたことで、自社から提供する商品の品質が悪化するなどの影響が出ると、顧客満足度が低下し、解約につながるリスクもあります。

「購入頻度」を上げる

購入頻度もLTVに影響します。年1回しか購入していない顧客が、同じ商品・サービスを年2回購入すると、他の要素が一定の場合その顧客のLTVは2倍になります。購入頻度を上げるには、メルマガを活用し、過去購入した商品の関連情報を届けつつ、顧客が興味を持ちそうな商品・サービスの最新情報やお得な情報をお知らせするような施策が挙げられます。

「継続期間」をのばす

継続期間をのばすのは、同時に解約率(Churn Rate:チャーンレート)を下げることを意味します。自社の商品・サービスを利用してくれる期間をのばすことも、LTVの最大化につながります。先述の「5:25の法則」のとおり、「顧客の解約率を5%改善すると、利益は最低でも25%改善」されます。継続期間をのばすことにはそれだけのインパクトがあります。

「顧客の新規獲得・維持コスト」を下げる

顧客の新規獲得コスト・維持コストを下げることも、LTVの最大化につながります。新規獲得コストは、広告宣伝費やマーケティング部門・営業部門の人件費が該当します。顧客維持コストは、営業部門・マーケティング部門の人件費が該当します。

まずは、大まかに「顧客の新規獲得」と「既存顧客の維持」のどちらに力を入れるべきかという判断があります。先述の「1:5の法則」「5:25の法則」があるとおり、既存顧客を維持することを優先した方が、利益重視のLTVを最大化しやすくなります。

一方で新規顧客をまったく獲得しない状態もリスクがあります。既存顧客との関係維持を優先していても、永久に解約されない保証はないからです。新規顧客についても、あまりコストをかけずに効率よく獲得する方向でも打ち手を用意しておくとよいでしょう。

そのための打ち手としては、例えば広告を出稿している場合には、CPAを改善していく必要があります。また、広告に頼らず新規顧客を獲得していく場合には、自社で保有するホームページをはじめとするオウンドメディアでSEO、LPO、EFOといった施策が必要になってきます。

まとめ:「LTV」を理解し、使いこなして最大化させるために

LTVの定義と計算式は大きく3種類あります。根本的な考え方は同じです。LTVを細かく要素分解すると6つの要素に分けられるため、それぞれの要素を上げたり下げたりするための施策を考えることで、LTVを最大化するための打ち手を見つけていくことができます。

ただし、各要素を上げたり下げたりすることだけを考えて数字だけを見ていると、思わぬところで顧客が離れてしまうこともあります。あくまでも顧客との良好な関係を維持し続け、満足度や顧客ロイヤリティを高めていくことが重要です。そうすることで結果的にLTVという定量的な指標に表れてくることは念頭に置いておく必要があります。

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この記事のライター


橋向隆広(株式会社アガルート マーケティング統括)

デジタル領域を中心にマーケティング業務16年目。広告代理店と事業会社の両面で、スタートアップから中小企業、ナショナルクライアント、多国籍企業まで幅広くマーケティング業務を行う。多角的なマーケティング手法の中から、ビジネスモデルや事業規模、予算規模に応じて適切な打ち手を組み合わせて考案し、実行までできることが強み。

<略歴>
2008年 株式会社アイレップ入社、SEOグループディレクター
2012年 株式会社CyberZ(サイバーエージェントグループ)入社、運用型広告コンサルタント、動画サービス新規事業立ち上げ参画
2015年 グループエム・ジャパン株式会社(WPPグループ)入社、シニアプランナー、ソーシャルメディアリード
2018年~ 事業会社2社でマーケティング責任者
2022年 株式会社アガルート入社



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