更新日:2024年8月30日
マーケティング・コンサルタント西原良介
私は、過去に事業会社で営業を17年、その後5年間協力会社様からご提案を頂き、商品やサービス導入を意思決定する業務を経験してきました。言い換えれば「売る側」と「買う側」の両面を経験してきたことになります。そこで感じた営業プレゼンについて臨場感のある体験やコツをお伝えしていきます。
営業プレゼンの重要性
営業プレゼンは、自社の商品やサービスをお客様が導入することで、どのような価値やメリットを得られるかを伝える重要な場です。営業でプレゼンの場が与えられたということは、少なくとも顧客は自社の商品やサービスに興味を持たれており、プレゼンの内容次第で受注につながるかどうかが決まると言っても過言ではないでしょう。
良いプレゼンテーションとは?
良いプレゼンテーションの条件は下記3点です。
- 顧客側が知りたい情報でストーリーが組まれていること
- 腹落ち感のあるプレゼンテーションであること
- 顧客に期待感(夢)を持たせるプレゼンテーションであること
この3つを満たせれば、営業プレゼンとしては高い勝率を残すことが可能になります。裏を返せば、これらの条件を満たせないプレゼンの場合、顧客側は期待感どころか失望感満載で終了してしまうでしょう。
営業プレゼンのセオリー
では、具体的に何を意識すれば良いのか。前項で触れた3点をセオリーで示します。
- 主語を顧客にして実施すること
- 主張と根拠を明確にした論理的な構成にすること
- 導入後の成果を定量的に示し、KGI・KPIを明確に示すこと
顧客(聴き手)の立場になり、自社の商品やサービスはツールと思ったスライド作成や話し方を意識しましょう。それだけで、あなたのプレゼンは飛躍的に良くなります。
営業プレゼンのよくある失敗
営業プレゼンでよくある失敗例をご紹介します。なお、プレゼン資料には大きく2つあります。1つは同時に説明ができるプレゼン。もうひとつは、資料だけが独り歩きする資料型のプレゼンです。ここでは、前者の説明の場があることを前提にご紹介いたします。
ただの商品説明になっている
最初にはっきりと申し上げます。買手はあなたの会社や商品・サービスに直接興味はありません。プレゼンの冒頭で自社の紹介を10分も説明し始めると顧客の心は離れるばかりです。同様に商品やサービスの説明を延々と語られても「だから?」「それで?」という気持ちになります。なぜならそれは「手段」だからです。
私も買う側の時にこのような営業パーソンと何度となくお会いしました。その度に心の中で叫んでいました。
「私、あなたの会社のことなんてどうでもいいし、歴史を聴いているほど暇じゃない。」と。
顧客は、同様のプレゼンを何度も聞かされています。自社のスペックや他社との優位性だけを語っていてもそこに関心はないと思ってください。
それよりも、商品やサービスを導入することで、どんなメリットが得られるか、顧客を主語にしてプレゼンをしましょう。具体的に導入後のイメージをさせることができれば、あなたのプレゼンはかなり刺さっていると言えます。
スライドのつながりが悪い
プレゼンをするあなたは、スライドを何度も見返し内容を熟知していることでしょう。しかし、顧客はプレゼンの場で初めてスライドを見るケースも少なくありません。
顧客はたった1回のプレゼンを聴きながら腹落ちしていく必要があるのです。その際にスライドのつながり(流れ)が悪いと、「なぜこうなるの?」「今どこの話をしているの?」ということが頭の中に蓄積されます。そうすると、その理解にエネルギーを費やしてしまい、以降のプレゼンが全く頭に入らなくなります。これでは、モヤモヤだらけでプレゼンが終了してしまいます。
あれもこれも伝えなきゃという気持ちを抑え、シンプルで納得感の高いスライド構成を心がけましょう。
文字だらけの資料を読み上げてしまう
顧客に誤解のないよう正しく伝えることを最優先にスライドを作成すると、どうしても文章になりがちです。そしてスライドの文章をひたすら読み上げるプレゼンをし続けると、顧客は「それは読めばわかるよ。それよりも行間を伝えてくれよ!」という気持ちになります。
私は普段から5秒で伝わらないスライドは「poor(プア)なスライド」と言っています。
一度ご自身のドキュメントを見てみてください。それぞれのスライドの意図が5秒以内に伝わるように作られていますか。文字でびっしりとスライドが埋め尽くされていませんか。5秒以上かかるスライドに出くわすと、顧客はスライドの解読に走ります。そうすると、もうあなたの説明は耳に入らないでしょう。プレゼンの場では資料を読ませたら負けです。できるだけシンプルに表現し、あなたの言葉を聴いていただける状況を作りましょう。
聴き手の反応を見ていない
一生懸命伝えようという気持ちは大事なのですが、目的が手段になってしまうパターンです。それでも聴き手が興味を持ってくれていれば大丈夫ですが、興味のない部分を力説してしまうと逆効果です。聴き手の反応を見られるようになるには、ある程度場慣れも必要ですが、下記を意識してみてください。
- スライドを見て話さない。聴き手を見て話すようにしましょう。
- 反応の良い人(頷いたり、メモをしっかり取る人)をベンチマークにして進める。
- 腕組みをしていたり、時計を見る人が多くないかチェックする。
特に②の反応の良い人は、プレゼン開始後できるだけ早く見つけたいです。しっかり頷いてくれると自信につながりますし、もしその人が首をかしげている場合は、全体に質問を投げかけてみるのも良いでしょう。
また反応が悪い場合、プレゼンのポイントがズレている可能性があります。その場合、全体に断りを得てからスライドを少し端折る(飛ばす)のもありです。
質疑応答ができていない
質疑応答は、最後に時間を設けるケースが多いですが、前述のように途中に織り交ぜるのも効果的です。いずれにしても、質疑応答が全く無いプレゼンは顧客の反応や意見を聴く機会を失うばかりでなく、顧客側からすると一方的な押し付けに感じ印象がとても悪くなります。キーパーソン、窓口担当者など複数の人と質疑で意見交換できる時間は確保しておきましょう。
営業プレゼンに失敗した場合の業績へのインパクト
営業プレゼンに失敗した場合、契約・受注成功率は大きく下落します。もちろん挽回の機会が無いわけではありませんが、そのために更なる時間とコストが必要になり、他の営業活動にも支障が出るでしょう。そのためにも、しっかりとした準備をしておきたいところです。
プレゼンテーションは準備が9割
プレゼンテーションはぶっつけ本番でするものではありません。顧客情報を把握した上で、資料作成をし、プレゼンの予行演習をします。また、大きなプレゼンの場合は、顧客の窓口担当者やキーパーソンとも打ち合わせや根回しを実施した上で、初めて本番を迎えるものです。1時間のプレゼン時間だとしても、事前準備にその10倍近くはかかると思っておきましょう。
営業プレゼンの目的とゴールを明確にする
プレゼンテーションにも目的とゴールがあります。
- 課題を共有したいのか
- 自社の商品やサービスの理解をしてもらいたいのか
- 契約を取りたいのか
などがよく挙げられます。当プレゼンテーションを終えた時にどうありたいのか、それにより内容も変わってきますので、目的とゴールを明確化しましょう。
聴き手のニーズを把握する
前述しましたように、顧客は直接あなたの会社の商品やサービスに興味があるわけではありません。顧客の現状、課題、目指すゴールをしっかりと把握し、それを解決するための手段としてプレゼンテーションを考えていきましょう。
伝えたいことを整理する
自社の伝えたいことはたくさんあると思います。しかしながら顧客もたくさんのプレゼンを受けており、全部を覚えきることは現実問題として難しいです。そこで、伝えたいことをシャープに絞り込んで印象に残すことを目指しましょう。そのためには、本当に伝えたいことを整理し、資料作成に臨みましょう。
予行演習する
資料作成がギリギリになり、予行演習をせずぶっつけ本番で臨んだりしていませんか。予行演習をするメリットを記載します。
① 時間配分がわかる
実際に話してみて、時間配分を把握しましょう。質疑応答の時間も考慮して全体の60-70%の時間内でプレゼンが終われるかしっかりと確認しておきましょう。
② スライドの順番をインプットする
スライドとスライドの間のつなぎ言葉はとても重要です。ぶつ切りの説明ですと、ぎこちないプレゼンになります。PowerPointを発表者モードにするのも一手ですが、全体の流れを把握する意味でも予行演習は重要です。
③ 誤字脱字チェック
たかが変換ミス、されど変換ミスです。誤字脱字があると、じっくりと真剣に作っていないと思われる可能性があります。予行演習をすることで致命的なミスが無いか確認ができます。
プレゼンテーション資料の作り方
プレゼンテーション資料を作成する際には、4つのSTEPを踏んで作成します。
STEP1:コンセプト立案
伝えたい内容の骨子を明確にします。
FAB分析というフレームワークで言語化すると良いでしょう。
Feature(概要は何か)
Advantage(優位性・独自性は何か)
Benefit(顧客のメリットは何か)
STEP2:シナリオ作成
コンセプトが決まったら、シナリオを作成していきます。情報を全て棚卸し、そこからスケルトン(骨組み)を作成し、全体構成をシナリオ化します。
STEP3:ドキュメント作成
ここで初めてドキュメント(資料)づくりに着手します。PowerPoint等のプレゼンテーションアプリにシナリオ化した内容を具体的に落とし込んでいきます。
STEP4:デリバリ
プレゼンの予行演習をしましょう。ドキュメントに問題が無いか、実際に話しながら改善ポイントを見つけ出し、最終化していきます。
この4STEPについて詳しくは、下記リンクを参照ください。
刺さる営業提案書の書き方-コンセプトから楽に営業企画書を作るコツ | 人材育成のポイント | シナプスビジネスナレッジ | 研修・人材育成・コンサルティングの株式会社シナプス
研修・人材育成・コンサルティングの株式会社シナプス
「あなたは、営業提案書を書くための、『型』を持っていますか?」 「コンセプトから、楽々に刺さる提案書の書き方を知っていますか?」 提案書作成の基本が「提案書コンセプト作成」です。…
営業プレゼンの具体的なテクニック
次にプレゼンの場でのテクニックをご紹介します。与えられたプレゼン時間が長いほど、聴き手の集中力も途切れがちです。人間は他人の話を聴き続けるのはとても苦痛だからです。そこで集中力の維持に効果的なテクニックをご紹介します。
① 間を取る
大事なことを伝える前に数秒間の「間」を取ってみてください。これだけで下を向いていた聴き手は顔を上げてあなたを見ることでしょう。その後重要なことを話すだけで、本当に伝えたい内容を意識的に刷り込むことが可能です。
② 質問を投げかける
一方通行のプレゼンは緊張感がなくなります。そこでプレゼン開始早々に、聴き手に質問を投げかけるのです。これだけで「いつ質問が来るかわかないぞ」という気持ちを植え付け、集中力が持続しやすくなります。
③ 考える時間を設ける
予めプレゼンの中で、シンキングタイムを設けておくのも一つです。重要な論点について考えていただくことにより、プレゼンの伝えたい部分が明確になる効果も期待できます。
プレゼンテーションスキルの磨き方
引き続き話し方についてのコツをお伝えします。プレゼンの成否を大きく左右する要素として話し方はとても重要です。話し方で意識したいのは「3S」です。
- Short:できるだけ短く
- Simple:端的に
- Straight:言い回しを多用せず、ストレートに伝える
一つひとつの話が長いと、聴き手も疲れてきます。これは終始意識してください。ワンセンテンスは、10秒以内で区切ることを心がけましょう。
また、多少ぎこちなくても自分の言葉で伝えることを重視してください。営業パーソンはアナウンサーになることがゴールではありません。あまりにも流暢に話過ぎると、印象に残らないばかりか、言いくるめられそうという印象になる場合もあります。
ご自身の言葉で伝えることが一番心に響きます。
ロールモデルを見つける
良いお手本は、身近に居ることが多いです。社内会議などで色んな人のプレゼンを見る習慣を持ちましょう。そして良いところを盗みましょう。
- ドキュメントの上手い人
- 話し方の上手い人
- タイムマネジメントの上手い人
それぞれ秀でている人が居るはずです。まずは模倣からスタートしましょう。
私も、若い時に営業上司のプレゼン資料を見て、初めてPowerPointの本当の使い方を知ることができたと感じました。それからしばらく、その上司の資料を徹底的に分析しました。スライドの構成だけではなく、フォントの使い方、グラフの見せ方、チャートの活用方法など。
真似をすることは、決して恥ずかしいことではありません。基本を押さえてからご自身の色を出して独自性を磨いていきましょう。
ドキュメント作成スキルを上げる
ドキュメントは「美しく作る」ことも重要ですが、背景デザインや色合いにエネルギーを注ぐことではありません。それよりも「わかりやすく作る」ことです。
1枚のスライドに情報を詰め込み過ぎると、それを整理するドキュメントスキルや話術が必要になってきます。それよりむしろ、シンプルにわかりやすいスライドを作成した方が遥かに効果的です。顧客目線でパッと見て意図が伝わるか、自分だけが解読できる謎のチャートを作成していないか。客観的な目でご自身のドキュメントを見直してみてください。その繰り返しでドキュメント作成のスキルは向上するでしょう。
上司や先輩、同僚など周囲からフィードバックをもらう
その意味でも、作成したドキュメントは社内で見てもらいフィードバックを受けましょう。できれば、その商談に関わっていない人の意見の方が客観的な意見をもらえますので、複数の目で見てもらいましょう。
また、プレゼンのロールプレイも実施し、自分のクセも押さえておきたいです。
- 「えーとー」「あのー」など、余計な言葉が毎回冒頭に出る
- やたらスライドを前後に送りながら説明する
- 言葉の語尾が聴き取りにくい、逆に言葉の語尾が強いと圧力を感じさせる
- ついついポケットに手を突っ込んで話してしまう
- 説明が長くて聴き手を疲れさせる
よくある例を記載しましたが、気にする人は気にします。ネガティブな印象につながる要素は、極力排除しておきましょう。
ただし、完璧を求めると逆にぎこちなくなることも事実です。大切なことは、聴き手の集中力を阻害しないことなので、多少のクセは個性と思って自信を持ってプレゼンをしましょう。
ロジカル・プレゼンテーション研修 | 研修・人材育成の株式会社シナプス
研修・人材育成・コンサルティングの株式会社シナプス
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