シナプス後藤です。
我々シナプスでは、新規事業コンサルティング支援を数多く行っています。
その際、論点の一つに上がるのが、「どの領域の事業テーマを取り上げるべきか?」というものです。
よく質問されたり議論になることも多いので、簡単に纏めておきます。
新規事業領域選択における2つのポイント
私は、「あらゆる領域に新規事業の種は存在している」が「領域によって可能性の多寡はある」という信念に近い仮説を持っています。一方で、市場の特性を考えると、潜在需要以上の市場規模は絶対に存在しない、ということも同様に信念に近い仮説として持っています。 したがって、新規事業の領域として選ぶ事業テーマは、
- 十分に大きな潜在市場規模であり
- 適度に自社の強みが生かせる
領域を選択すべし、と考えています。
新規事業領域選択のポイント:十分に大きな潜在市場規模とは?
例えば、1000億円くらいのビジネスを作りたいと思ったら、産業として大きなところを狙うのが基本になるでしょう。ですので、上記のサイトの「文字が読めるくらいのサイズの産業」が一つのベンチマークになるわけです。 一方で、例えば、(アニメやアイドルなどの)フィギュア市場を狙おう、と考えると2016年時点で320億円程度(矢野経済研究所調べ 「オタク」市場に関する調査2016年)ですから、1000億円のビジネスを作るのが極めて難しいということになります。
まず、新規事業としていくらくらいの売り上げが必要なのかがわかると採りうる選択肢が見えてきます。 なお、私の肌感覚で申し上げると、一部上場クラスの企業ですとおおむね売上規模で100億円以上程度を期待することが多いようですが、100億円以上の事業となると「まず市場規模を考える」というところから始めないと、領域の選択はうまくいかないでしょう。 一方で、10億円程度でOK、ということであれば、なんでもよいと言うわけではありませんが幅広い選択肢が存在します。 既存の産業が存在しない事業アイデアももちろん存在するでしょう。その場合は、ユーザ数×単価、という基本的な算数を利用することが多いです。 例えば、四半期で4-5000万台販売するiPhoneのユーザがターゲットで幅広いユーザが利用することが想定される場合、1億人程度のユーザ数が期待できます。一人100円ずつ利用するとそれだけで100億円ビジネスになるわけです。 (実際はiPhoneユーザ1人当たり100円という皮算用をすると相当痛い目を見ますが、仮定の計算と思ってみてください。)
新規事業領域選択のポイント:適度に自社の強みが生かせる領域とは?
一方で、自社の強みが生かせるか、という点です。 私は、「頑張ればNo.1になれる領域」を目安にしています。
この観点は、過去にその企業がどの程度新規事業に取り組んできているか、によって若干異なりますが、ほとんどの企業は「概ね期待できる事業分野には拡大してきた」のが実情でしょう。 つまり、自社の強みが生かせる魅力的な領域は、もう何等か取り組んでいるはずでうまくいっていないのであれば、致命的な問題点がある、はずなのです。よって、「自社の強みが生かせる魅力的な領域」はもう残っていない、ぱっと考えても出てこない、ということを前提にしています。
ところが、社内で新規事業のアイデア出しをしようとすると、その会社の強みから逃れられない方が非常に多いのも事実です。 なぜか? 強みを使う発想は楽なのです。例えば、郵便や新聞にかかわるビジネスモデルを考えると、「郵便局」や「新聞販売店」を利用しようという話が出ます。 全国で、郵便局は約2.4万局、新聞販売店は約1.6万店あります。1店舗100万円売り上げると、それだけで、100億円ビジネスを越えてしまうわけです。(これまた甘い皮算用なわけですが。) また、「わが社にはこんな技術がある」ということもアイデアの立脚点です。特にメーカーの場合、技術の強みの立脚点がありますので、その技術を活用するだけで競争優位が自然に築きやすいのです。
ところが、簡単にできそうなものは当たり前ですが、過去に検討され、実際にチャレンジされて(往々にして致命的な問題があり失敗して)いますので、すでに良い領域など残っていないのです。それでも、「わが社の強みが生きるところ」を一生懸命探したくなりますが、そこから新しいものが出てくる確率は極めて低いです。
もともと、企業の強みというのは、0から立ち上げた事業を徐々にそのビジネスで利益が出るように積み重ねてきたものです。長い年月をかけて「強みにしてきた」ということです。言い換えれば、「強みは作るもの」と考えた方が健全なのです。 ただ、大きな会社であれば、既存の資産がありますので、その強みを作りきるのに他社が行うよりもうまくできるケースは往々にしてあります。 つまり、「今は弱いかもしれないが、他社よりも一生懸命投資をし続ければ、No.1になれる領域」であればよいわけです。
なお、私がワークショップのファシリテーターをやる場合、参加者の皆さんには、「皆さんの会社の強みが生きないところを探してください」という言い方をします。これくらいの言い方をすると、ちょうど「No.1になれる領域」に行きつくことが多いようです。
新規事業領域選択における悩み
新規事業領域選択に関しては、多くの場合、次の二つの問いが発せられることが多いようです。
- 「今上がっているテーマ以外にもっと魅力的なテーマが存在するのではないか?」
- 「どこまで自社の強みが生きるテーマを選ぶべきなのか?」
これらは、新規事業コンサルティングで中間報告をトップマネジメント向けに行うと良く出てくる質問でもありますし、新規事業の担当者も常にこの悩みと戦っている印象があります。
①新規事業領域選択における悩み:「今上がっているテーマ以外にもっと魅力的なテーマが存在するのではないか?」
はい、おそらく存在します。 でも見つからないかもしれません。
これは、一般に「青い鳥症候群」と呼ばれるものの一つでしょう。 時間も資源も有限なので、その魅力的なテーマを発見しようとしている間に、今目の前にあるテーマに取り組んで置いた方が確実に結果が出ると考えます。 ですので、新規事業のテーマ設定はトーナメント方式ではなく「足きり」と考えた方が良いのですよね。ある一定上の魅力があればやるし、そうでなければやらない。あくまでもポートフォリオ投資と同じ感覚で見ておくのが妥当と思います。
②新規事業領域選択における悩み:「どこまで自社の強みが生きるテーマを選ぶべきなのか?」
これは新規事業検討の段階において回答が変わります。
まず、初期段階の新規事業領域選択、つまり「どの方向に行こうか?」と考えているときにはあまり強く意識しなくても良いのではと思っています。 どれくらいジャンプしたいか、だけの問題で、強みが生きそうなところはジャンプ感が少ない≒今まで何度も検討されており、強みが生きなさそうなところはジャンプ感が多い≒考えたことがあまりない、という程度のものです。
最終的には、強みは作るもの、あまり「自社の強み」を意識しすぎない方が良い、というのが私の考え方です。
上述通り、「本当に強みが生きるところ」はほとんど残されていないと思うのが自然かと思います。また、本当に強みが生きるところは、新規事業というよりも、顧客開発か新商品開発と呼ばれる領域になることがほとんどです。 ですので、事業として新たに立ち上げたいと思うのであれば、投資することでNo.1にしていく、という考え方をされるのが現実的ではないかと思います。
一方で、事業計画をレビューするような段階ではやはり何らかの強みが生きていて欲しい、あるいは、事業計画の中に新たな強みが設計されている必要があります。 強みが生きなさそうな領域を初期段階で選択した場合には、「なぜわが社がこの事業をやるのか?」という問いが事業検討の中で常に付きまといますが、ある意味でそれを考えればよいだけ、という割り切りも出来るでしょう。
繰り返しますが、初期段階の新規事業領域選択では、決めの問題なのであまり強く意識しなくても良いと思います。 一つの目安を上げておくとすれば、「頑張ればNo.1になれる領域」となりますね。