ポーターの競争戦略類型:3つの基本戦略
マイケル・ポーターは、競争戦略の類型として以下の3つの基本戦略があるとしています。
- コストリーダーシップ戦略
- 差別化戦略
- 集中戦略
マイケル・ポーターの基本戦略 ①コストリーダーシップ戦略
コストリーダーシップ戦略の定義
コストリーダーシップ戦略は、事業の経済的コストを、他の競合企業を下回る水準に引き下げることで、競争優位を確保する戦略です。
コスト優位の源泉
ある企業が競合他社に対してコスト優位を築くには様々な要因があります。企業間のコスト上の違いをもたらす要因をまとめます。
規模の経済
- 生産規模拡大による工場や設備のコスト(固定費の効率化)
- 生産規模拡大による従業員の専門化(専門化による作業効率化)
- 間接コスト(会計・財務コストなどの配賦が減らせる)
学習曲線による経済性
学習曲線は「累積生産量増加に伴って、製品1単位当たりの製造コストが低下する」という事実に基づいて概念化されたモデルです。経験曲線とも言います。
規模と無関係の技術上の優位
規模と無関係なコスト優位の要因として「技術」は重要です。まず、「物理的な道具」としての技術があります。いくつかの業界では、企業間に生産規模の差がなくても、物理的な技術の違いでコスト差が生まれます。たとえば、製鉄業界では、技術の発展によって製鉄コストを下げられる可能性があるでしょう。
また、物理的な技術(ハード技術)だけでなく、ソフト技術もコスト優位に関係します。たとえば、生産現場での改善活動やコスト削減を優先する企業文化などです。具体例として、トヨタ自動車は、ハード技術はもちろん、長年蓄積されたソフト技術によるコスト低減を得意としています。
コストリーダーシップ戦略を実行するための組織
組織構造
- 少ない階層の報告構造
- 単純な報告関係
- 少数の本社スタッフ
- 特定機能分野への事業集中
マネジメント・コントロール・システム
- 厳格なコスト管理システムの存在
- チャレンジングなコスト数値目標
- 材料・原材料・人件費などコスト項目に対する詳細なモニタリングの仕組み
- コストリーダーシップの価値観が社員に浸透していること
報酬システム
- コスト削減に対する報償金制度
- 社員へのコスト削減に対するインセンティブ制度
マイケル・ポーターの基本戦略 ②差別化戦略
製品差別化の定義
製品差別化とは、市場が認知する他社の製品・サービスの価値に対して、自社の製品・サービスの認知上の価値を増加させることです。製品差別化により企業が競争優位を獲得しようとする事業戦略を差別化戦略といいます。
「マイケル・ポーターの差別化戦略」のよくある間違え
- 一つのポイントは、製品差別化が「顧客の認知上の価値」だということです。自社がいくら価値があると主張しても、顧客が認知できなければ意味がありません。
- 次のポイントは、製品差別化とは「顧客にとって価値が増加すること」です。「差別化戦略」といったときに、「(価値向上を実現せずに)単に他社・他製品と違うこと」という文脈の記載は誤りです。あくまで「他より認知上の価値が高いことを実現する戦略」が差別化戦略です。
ポーターの差別化戦略の正しい理解
ポーターの差別化戦略では、「差別化により顧客が認知する価値が上がっていること」が、差別化戦略成立の絶対条件です。
ポーターの差別化戦略の間違った理解
一方、間違った差別化戦略の解釈をよく見かけます。図は、自社商品に対する「顧客が認知する価値が上がっていない」例です。
「顧客に、他社と異なると認知される」と「顧客に、他社より価値があると認知される」のは別の話です。
単に、「他社と違うことを行う=差別化戦略」と考える方がいますが、顧客価値が上がらない差別化は「差別化戦略」ではありません。
マイケル・ポーターの差別化戦略の7つの源泉
企業の製品やサービスの差別化の源泉となる要素をまとめます。重要な7つの差別化要素です。
- 製品の特徴
- 機能間の連携
- タイミング
- 地理的ロケーション
- 製品の品揃え
- 他企業との関係性の強さ
- 評判(ブランド)
差別化戦略を実行するための組織
組織構造
- 部門横断的/機能横断的な製品開発チーム
- 新たな機会を活用する組織構造を開発する努力
- 創造的活動への資金確保
マネジメント・コントロール・システム
- 幅広い意思決定が可能なガイドライン
- ガイドラインの経営的な柔軟性
- 実験を奨励する方針・企業文化
報酬制度
- リスクを取ることを奨励。失敗を罰しない
- 創造的な才能への報酬制度
- 多様な視点でのパフォーマンス測定
マイケル・ポーターの基本戦略 ③集中戦略
集中戦略の定義
「集中戦略」とは、企業の資源を特定のターゲット、製品、流通、地域、などに集中することです。
特定の領域に集中することで、少ない経営資源でもリターンの高い戦略実行ができます。
戦略理論としての「集中戦略」は死んだ
集中戦略は、ポータが提唱した3つの基本戦略の1つですが、戦略理論としての価値はなくなっています。「コストリーダーシップ戦略」と「差別化戦略」の2つだけ理解しておけばよいでしょう。
最大の理由は、「戦略とは集中である」「戦略とは捨てることである」と言われるように、どの戦略理論にも集中は必要なのです。戦略を決める上で集中することは大前提なので、基本戦略の選択肢として定義する必要性があまりありません。
実際、マイケル・ポーターも後年の論文では基本戦略としての集中戦略に触れていません。また、書籍「企業戦略論」の「代表的な戦略論」として上げられているのは、ポーターの基本戦略のうち「コストリーダーシップ戦略」と「差別化戦略」の2つだけで、「集中戦略」は上げられていません。
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