研修の組み立て方

研修の組み立てにおいて迷いやすいポイントをコンサルタントが解説。人材開発・組織開発のプロフェッショナルとして必携の知識です。

社内で研修を組み立てるにあたり、いくつかのポイントがあります。研修の組み立てとして迷いやすいポイントを解説します。

研修の目的

今、その研修を企画されているのはなぜですか。上司から研修を考えるように言われたからですか?それとも毎年実施しているからでしょうか。
研修を組み立てる際、まず考えなければならないのは「研修の目的」です。
研修は「企業のあるべき姿」を実現するために、組織や社員に不足している意識や知識、あるいは能力を開発する手段の一つです。この企業のあるべき姿を実現するため、未来に向けた組織や人を作る考え方を「戦略的人事」といいます。

環境変化と変化対応

企業を取り巻く環境は変化しています。直近では2019年~現在まで続くコロナ禍で、多くの人の価値観や行動習慣が変わりました。例えば、コロナ禍以前、制度としては備わっているものの、なかなか浸透しなかった「在宅勤務」は、今や当然のように我々の生活スタイルに定着しています。家中需要が増えると、消費者のニーズは変わります。消費者のニーズが変われば、そこにビジネスチャンスが生まれる企業が出てきます。一方、ビジネスモデルの見直しを迫られる企業も出てきます。

研修業界はIT化が遅れていた業界の一つといえます。企業も研修会社も双方が「研修はリアルが一番だ」という価値観の下でサービス提供がなされていました。

しかし、今やほとんどの企業及び研修会社がオンライン研修や動画研修に対応しています。オンライン対応していない研修会社は今や生き残ることができないでしょう。当社も例外ではありません。オンライン研修をスムーズに行うためのITツールを活用したトレーニングや、リアルで行ってきた研修効果をオンライン研修でも維持できるようにするため、研修コンテンツの再開発など様々な対応を行ってきました。

人々の価値観や行動習慣が変わることで企業を取り巻く環境も変化します。企業はその変化にしなければ生き残っていけないのです。

求められるのは「攻め」の人事

ビジネスモデルを変えるためには組織や社員に求める意識・知識・能力が変化します。

研修の目的は「企業としてのあるべき姿の実現」であり、研修はその目的を達成するための手段の一つなのです。そして、求められる変化を組織や社員にもたらす研修の具体的な方法を考えることが「研修の企画」、ということになります。

環境変化のスピードが増す中、中期経営計画を当初予定より早く見直す企業が増えています。

経営戦略が変われば、研修の目的は見直す必要が出てきます。

「以前からずっとやっているから」という理由で研修を継続させるのではなく、限られた資源をどこに投資するのがあるべき姿実現に向けて最も効果的なのかを考える、「戦略的人事」という考え方で攻めの組織開発・人材開発を行う必要があるのではないでしょうか。

人材開発か組織開発か

組織開発はその組織に属する人同士の相互作用、働きかけにより、組織全体を活性化させることを目的とします。一方、人材開発は社員個人を対象に能力開発を行うことで組織全体のスキルを高め、目標達成を目指すことが目的です。

組織開発型アプローチの例

組織全体で意識や価値観を変えたいときは「組織開発型のアプローチ」をとることをお勧めしています。

代表的な組織開発に「ダイバーシティ&インクルージョン」があります。

「ダイバーシティ&インクルージョン」は欧米から始まっています。日本では2000年から議論が活性化され、組織の中に定着化させていこうという企業が増えました。働き盛りの日本人男性しかいなかった会社の中に、法律の後押しもあり、女性、高齢者、外国人、障害者が増えていきます。

多数派の価値観を押し付けるのではなく、いろいろな価値観を受け入れ、ともに助け合い、新たな価値創造につなげていくことがダイバーシティ&インクルージョンの目的です。もともとは人種差別の撤廃からスタートしていますが、現在においては新たな価値を生み出す競争優位の源泉と考えられています。

新しい価値観の浸透には時間がかかります。

時には新たな価値観を「異物」としてとらえ、組織の外に出そうとする動きが出てきます。現状を調査で把握し、問題がある階層や部署を特定し、研修やワークショップなどの施策を打ちながら、組織の価値観や行動を変えていく活動が組織開発型のアプローチです。

この時、あくまで組織を対象とするため、調査は個人を特定する形では行いません。

人材開発型アプローチの例

一方で、社員個人の能力開発を行いたい場合は、人材開発のアプローチをとることをお勧めしています。

成果を出すために、不足している能力を開発するためにOJT、OFF-JTを行います。

研修の効果を測定するため、「アセスメント」を実施する企業も増えてきました。研修の習得目標を測定項目として、研修の前と後で調査を行い、意識や能力の伸びをみることで研修の効果を測ります。

本人へのフィードバックや研修後の人事や上司からのサポートを想定する場合は、アセスメント結果は個人を特定して実施されます。一方で、純粋に研修の効果を測定する場合は個人を特定しない場合もあります。

対象によって組織開発型アプローチか人材開発型アプローチかは変わってきますが、両方に共通して言えるのは「時間がかかる」ということです。研修で組織や人が劇的な変化を遂げることはまずありません。だからこそ、未来に向けて働きかけ続けることが大事なのです。

オンライン研修かリアル研修か

前述の通り、コロナ禍以前は「研修はリアルに限る」というのが多くの企業や研修会社の考え方だったのではないでしょうか。しかし、IT技術が各段に上がったこともあり、リアル研修をオンライン研修に変えて実施される企業が増えました。

外部環境変化により多くの企業やその社員が半ば強制的にオンライン研修を経験したわけですが、リアルと比較したときの良い面も発見できたのではないでしょうか。

オンライン研修の3つのメリット

オンライン研修はリアル研修とは異なる3つの効果がありました。

  • ①参加がしやすい
  • ➁資料が見やすい
  • ③議論に集中しやすい

①つめの「参加がしやすい」は、移動時間がないことや、自宅から参加できるという理由から来ています。

リアル研修の場合、遠方から参加される場合、必ず宿泊を伴う移動となります。その結果、1日の研修であったとしても移動時間含め2日間を費やすことになります。多忙な管理職にとっては移動時間がないというのはとても効率が良いようです。

また、子育て中の社員の方は自宅から参加できるというのは大きなメリットです。「第1子の時は研修参加をあきらめたが、今回はオンライン研修だったので自宅から参加ができた」といった声を伺います。

➁つめの「資料が見やすい」についてですが、特にグループ演習の時にその良さを感じます。

通常、グループ演習は1グループ4~5名です。5名グループはレイアウト上、お誕生日席の方が一人出てしまい、人によっては物理的にも心理的にも疎外感を感じてしまう方がいらっしゃいます。また、事前課題の共有など課題を共有するときは、発表者がプリントアウトしてきた手持ち資料をみんなで頭を寄せ合ってみながら話をするという状況でした。

しかし、オンライン研修の場合、画面共有しながら議論ができるので、お互いに考えていることが理解しやすくなります。

③つめの「議論に集中しやすい」についてです。

リアル研修の場合、大きな部屋に島型のテーブルが並べられ、グループごとで話をしますが、隔てるものがせいぜいホワイトボードぐらいなので、周囲のグループの声が聞こえてきます。時には隣のチームの議論が気になって自分たちの議論に手中できていないチームがいたりもします。

しかし、オンライン研修の場合、ブレイクアウトルームに入ると他のチームの声が聞こえないので、議論に集中しやすくなります。➁で挙げた資料が見やすいという利点も議論への集中のしやすさを促進する要因といえます。

ネットワーク構築にはリアル研修がお勧め

一方で、研修効果としてネットワーク構築を目的にしている場合は、リアル研修のほうが良いです。

例えば、全国に散らばる同期とのコミュニケーションを目的とする階層別研修や、組織間のコミュニケーションを活性化させることを目的とする研修はリアルで実施されることをお勧めします。1日ではなく複数日程に分けて実施されるような場合は、最初だけでもいいのでリアルで実施しておくことで、そのあとオンライン研修に切り替わったとしても親密度が変わってきます。

リアル研修とオンライン研修、いずれもメリット・デメリットがありますので、目的や対象者に合わせた使い分けを行うことをお勧めいたします。

人事、人材開発の立ち位置

部分最適ではなく全体最適の視点を持つ

人事には大きく下記の4つの仕事があると考えています。

  • ①採用
  • ➁人事制度設計と運用
  • ③人材開発
  • ④労務管理

小さな企業だと一人で①~④を全部担当するということもありますが、大企業の場合、①~④がそれぞれ細分化され、分業体制になっていることが多い印象です。その結果、全体最適ではなく部分最適となってしまい、人事、人材開発の立ち位置を見誤ってしまうケースもあります。

これまでも述べてきましたが、人事とは「企業のあるべき姿を実現することができる人や組織を作る仕事だ」と考えています。「これまでずっとこうしてきたから」ではなく、経営に対して人事戦略を提言できるような立ち位置、ポジションを目指すべきではないかと考えています。

つまり、人事のメンバーは人や組織に関するエキスパートであり社内コンサルタントであるべきなのです。

人事は人や組織の専門家

現場に対しても同じことが言えます。例えば、人事部が主管となって従業員の満足度調査などを毎年実施される企業は多いのではないでしょうか。

しかし、その調査結果について積極的な活用はなく、現場の管理職に開示して終わっている企業も一定程度いらっしゃいます。そういった企業は、人事と現場には距離があります。

本来組織を活性化させていくこと目的に行っている従業員満足度の調査についても、管理職は「管理職の査定のために行っているんだろう」という印象を持ってしまうようです。

また、調査結果を見て現場の管理職は部門の改善策を考えたいものの、その施策が思いつかず悩んでいるケースも多いようです。

「相談したければ向こうからくればいい」という人事の方もいるかもしれません。でも、それでは現場との距離は開く一方です。

待ちの姿勢ではなく、問題が見受けられる部門に対して人事から能動的にサポートやアドバイスを提案するなどの動きをされると、現場からの人事への信頼感も高まり、また現場の問題も改善されることで組織は活性化されていくのではないかと考えています。

このように、人事セクションにおられる方には、社内における人や組織の専門家としての立ち位置を目指していくことをお勧めします。

支援企業の選び方

研修の設計や実施を外部に委託することも多いのが実情です。研修会社の選び方についてはこちらに詳述しています。


研修会社の選び方

研修の実施にあたって

研修実施に当たって考えるべきポイントは次の3点となります。

  • ①研修の告知と受講者の募集
  • ➁受講管理と欠席者対応
  • ③研修効果測定

研修の告知と受講者の募集

前述したように、研修目的と到達目標を決定したら、ターゲットに向けて研修の告知を行います。

募集の方法は、手上げ式、指名式、上長推薦などがあります。

研修の告知のためには、研修目的、到達目標、研修ターゲットや受講にあたっての前提条件、研修プログラム概要が記載された募集要項を作成すると、受講者と研修内容のミスマッチが少なくなります。

研修に期待する内容とのミスマッチは研修への満足度に大きく影響を与えます。募集要項の内容と研修に内容にずれが生じないよう記載することが重要です。

また、半年間にわたるような大掛かりな研修の場合は、募集についても少なくとも半年前には開始をしておかないと、業務都合で参加ができないという事態が発生してしまいます。欠席者が多く出てしまうのも、研修への満足度低下の要因の一つです。あまり開催機会がなく、かつ重要な研修の場合は、準備や告知は早めに行うことをお勧めします。

受講管理と欠席者対応

事前に募集を行うため、研修近くになると業務都合がつかなくなるケースがあります。特にまだ自分一人で業務を遂行できない若手社員などに多く見られます。

そのため、受講生の管理と併せて欠席者に対する対応などを決めておく必要があります。

欠席者対応で最近多いのが録画です。

オンライン研修の場合は録画を取りやすいこともあり相談が多いですが、研修会社、あるいは講師によっては録画不可の場合がありますのであらかじめ確認しておく必要があります。

録画不可の場合、複数回開催されるのであれば別回の誘導や、欠席者用の課題などでフォローアップを検討しておくとよいでしょう。

研修効果測定

教育は投資です。経営者が変わると突然「あの研修は効果がでているのか?」と質問が飛んでくるケースがあります。効果を数値で説明できるように準備しておくことをお勧めします。

研修の効果測定で有名な「カークパトリックの効果測定」によると、研修の効果は4段階あるとされています。
レベル1:反応(満足度)
レベル2:学習(理解度)
レベル3:行動(行動変容)
レベル4:結果(業績へ影響)

レベル1は研修直後のアンケートなどで測定します。

レベル2は研修内容に関する確認テストを行い確認します。

レベル3は研修で学んだことが日々の業務で活かされているかを確認します。行動変容についてはアセスメント形式で測定される行われることが多いです。具体的にはあらかじめ設定した研修の到達目標をベースにアセスメント設問を作り、研修の前と後で受講生に回答してもらいます。その回答結果の差を確認することで行動変容の有無を確認するという測定方法です。研修後のアセスメントは、研修直後と一定期間後(研修の3~6か月後)に測定することが多いです。

徹底的に測定され企業の場合、受講生の自己申告評価だけでなく、他者評価として上司に受講生のアセスメント評価をしてもらう場合もあります。

研修は1回実施したら終わりでなく、常にPDCAを回して改善していく必要があります。もし当初想定していた知識定着や行動変容に至っていないのであれば、研修を改善していく必要があることが分かるからです。そのため、「レベル1:反応」だけではなく、「レベル2:学習」もしくは「レベル3:行動」について測定しておくことをお勧めします。

最後に、「レベル4:結果」は測定が難しいと言わざるを得ません。なぜなら企業の業績に影響を与える要因は多いこと、複数の要因が絡み合い、明確に因果関係を説明できないからです。但し、研修の種類によってはレベル4の測定が可能な場合もあります。ご興味がある方はご相談ください。

受講者の所属部門からの支援

受講者の所属部門からの支援タイミングは、研修前と研修後の2回あります。各々、どのような支援をもらえばよいのでしょうか。

研修前の支援

先日、弊社で研修に関するアンケートを取らせていただきました。研修において困っていることで最も多かったのが 「社員のモチベーションが低い」でした。

研修の目的や意義を理解しないまま研修に参加すると、受講生はやらされ感でいっぱいになります。ネガティブな状態から研修がスタートすると、ポジティブな状態に持っていくのはなかなか大変です。

また、雰囲気は伝播します。ネガティブな受講生がいるグループはどんどんネガティブな雰囲気になっていきます。やがてそれは教室全体に広がってしまいます。せっかく時間をかけて企画し準備してきたのに、研修の効果が得られないまま研修が終わってしまってはもったいないですよね。

できれば上司から受講生に対して研修参加の目的や意義、あるいは研修後に期待することを事前に伝えてもらうだけでも受講生の研修へのモチベーションはぐっと上がります。

ここで注意点は、前述した通り、現場の管理職は人や組織のプロではありません。すべての研修やその効果に精通しているわけではないのです。研修参加の目的や意義、あるいは期待の伝え方については文章で作成した上で研修前の動機付けを上司に依頼することをお勧めします。

研修後の支援

「7:2:1の法則」をご存知でしょうか。

アメリカの人事系コンサルティング会社であるロミンガー社のロンバルトとアイチンガーが、「個人の成長」が何から影響を受けるのかを研究し導き出した結果です。7割が経験、2割が先輩や上司からなされるアドバイス、2割が研修や書籍といわれています。「ロミンガーの法則」とも呼ばれます。

残念ながら、研修は気づきやきっかけを与えることしかできません。実際に研修を受けて、すぐに実務に活かせる人は全体の10数%程度だそうです。逆に言うと、大多数の人が研修を受けただけでは学んだことを自分一人で実務に活かせないのです。

そこで必要なのが研修後の上司からのフォローです。そのために上司は研修の内容を把握しておく必要があります。

上司に研修後のフォローを依頼する場合、人事部は上司に対して研修内容を説明しておく必要があります。また、併せて研修のアンケートなど効果測定結果を見せて、どこが理解できてどこが理解できていなのか、どのようなフォローをすればよいのかを具体的に上司に伝えることが大切です。

上司は学んだスキルが活かせる仕事をアサインし、仕事を通じて助言することで学びを定着化させ、部下の成長を促進するこができるのです。

以上、研修の組み立て方について、7つのポイントでお伝えさえていただきました。

研修を組み立てる際の参考にしていただければ幸いです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

この記事のライターは・・・


コンサルタント・村上美奈子

大学卒業後、ベネッセグループに入社。大学・短期大学向けキャリア教育事業に従事。大学・短期大学におけるキャリア教育導入・運用に関するコンサルティングを実施。
同事業が親会社ベネッセコーポレーションに事業譲渡されたのち、野村総合研究所グループ・NRIラーニングネットワークに入社。経営人材の育成及びIT人材の育成を手掛ける。
その後、有限責任監査法人トーマツグループの人材育成コンサルティング会社・トーマツ イノベーションに入社し、コンサルティングの傍ら年間100回程度の研修登壇を行う。
2018年より株式会社JTBコミュニケーションデザインに入社。組織開発コンサルティングに従事。その傍ら同社のデジタルマーケティング推進プロジェクトに参加、全社のマーケティング推進を行う。

2021年4月より株式会社シナプス。


企業研修・社員研修の基礎知識

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