人材育成のポイント

企業内での人材育成には様々な手法があります。部下を持った、研修部門に配属になった、等、人材育成の考え方が必要になった方のために、ポイントを解説します。

シナプス西原です。

企業内での人材育成には様々な手法があります。また、新入社員として入社した、部下を持った、リーダーになった、管理職に登用されたなど、それぞれの立場で学ぶべき内容や手法も異なります。そこで、人材育成についてポイントを解説していきたいと思います。

人材育成の手法

個人の成長に影響を与える要素比率を特定した「ロミンガーの法則」。「7:2:1の法則」などと呼ばれており、7割が経験、2割がフィードバック、残る1割がOff-JTとされています。人材育成について検討を進める際には、研修などの狭義の人材育成手法に限って考えてしまいがちですが、広義の人材育成手法にも視野を広げて包括的に考える必要があります。



狭義の人材育成手法 ①OJT(On the Job Training):
 実務を通じて教育を行う手法
②OFF-JT(Off the Job Training):
 実務以外で教育を行う手法
③SD(Self Development):
 自己啓発
広義の人材育成手法 ④メンター制度:
 先輩社員が部下のメンタルをサポートする手法
⑤MBO(目標管理制度):
 事前に設定した目標達成を目指して管理する手法
⑥1on1ミーティング:
 上司が部下の成長のために行う1対1のミーティング
⑦ジョブローテーション:
 育成を目的とした人事異動

狭義の人材育成手法で挙げた3つは、ほとんどの企業で実施されている手法です。それぞれメリット・デメリットがありますので、目的に合わせて効果的な手法を組み合わせて計画を立てましょう。それぞれの手法の特徴は次のとおりです。

①OJTについて

OJTの到達イメージ

業務内容を肌で感じてもらい、実際に1人で遂行ができるようになること

OJTのメリット
  • 早期に実務能力を身に付けさせることができる
  • その場で各個人に合わせた指導ができる
  • 育成する側も指導を通じて考え方の整理をすることで学びを得ることができる
OJTのデメリット
  • 育成する人の考え方やスキルに左右されること
  • 育成する人に業務負担がかかること
  • 業務以外の学びや知識は得られにくいこと

②OFF-JTについて

OFF-JTの到達イメージ

研修などを受講することを通じて、新たな気づきや取組をするきっかけを作ること

Off-JTのメリット
  • 一度に複数の対象者を育成することができる
  • 業務以外の幅広い知識や学びを得ることができる
  • 参加者間の交流を通じて情報交換や学びを得ることができる
Off-JTのデメリット
  • 研修のコストがかかること
  • 受講者の業務負担がかかること
  • 単なる知識インプットで終わり実務に活かせない可能性があること

③SD(自己啓発)について

SDの到達イメージ

各個人の必要な能力開発をすることで、実践業務へ活用していくこと

SDのメリット
  • 学ぶ意識の高い人に適していること
  • 各人の業務状況に合わせて無理なく時間を活用できること
SDのデメリット
  • 強制力が弱いため習得度は個人で差が出てしまうこと
  • 疑問が発生したときに質問することができないこと
  • 知識の習得で満足してしまい、実務へ活用されないこと

人材課題の設定

前項では、主だった人材育成手法について概要をお伝えしました。ここでは、人材育成の取り組みにおいて設定しておくべき人材課題について3つの重要ポイントを述べていきます。

自社の目指す人材像を確認する

中期経営計画などを確認し、この先数年間で自社が何を目指そうとしているのか。そのためには、どのような人材が必要であるか、を整理してみることをお勧めします。

育成対象者を設定する

目指す人材像が決まったら、育成すべき対象者が見えてくるはずです。

例えば、3つの新規事業立ち上げをするという中期経営計画があった場合、この事業を担える人材を育成しなければなりません。場合によっては、それぞれの事業を統括する責任者を3名、企画・営業・管理部門の管理職を3名ずつの9名、それぞれの部下を数名ずつとして合計50名が必要になるかもしれません。

このように、戦略的に投資すべき対象者を明確にしていきましょう。

必要な育成メニューを考える

目的と対象者が決まったら、どのようなスキル・能力が必要か、が明らかになります。

海外の専従担当者には、マーケティングや語学、交渉スキルが必要となり、
新任管理職には、マネジメントやコーチング、ティーチングスキルなどが必要となる、
のではないでしょうか。

漫然と研修を設定し受講をさせると、受講者は自分ごと化ができず、受け身で研修を受講する可能性があります。だからこそ、対象者を絞り、受講目的と習得して欲しいスキルを明確に伝えることが重要になってきます。

スキルへの落とし込み

汎用スキルとして保有しておくべき階層別の能力をご紹介します。濃淡はあるものの、業種・職種に寄らず必要とされる重要スキルです。

①新入社員

ビジネスマナー

社会人としてのお作法は、どなたであっても心得ておくべきものでしょう。入社後直ぐにビジネスマナーの基礎やコンプライアンスを学ぶプログラムを導入されている企業も多く、学生気分から社会人としてのマインド変化のためにも不可欠な知識です。

PCスキル研修

実務で使うことになるWord、Excel、PowerPointなどのツールスキルとそれを伝える「アサーション」、「プレゼンテーション」なども、早いうちに身につけることが望まれます。

②若手社員

マーケティング思考

自社の商品・サービスの価値を改めて整理・再認識し、さらに高い付加価値を顧客に提供するための思考プロセスは早めに得ておきたいところです。また、自社の他部門の業務についての理解も進み、俯瞰的な戦略視点を持たせることも、早期育成には必要でしょう。

ファシリテーションスキル

会議で仕切りを任される機会も増えてくる時期ですが、自分より目上の方々を相手に時間内に結論を導き出すのは容易ではありません。場数も大切ですが、知っていればできるテクニックや意識すべきファシリテーションのポイント理解は、会議のみならず、商談や面談などでも活用できる有用なスキルです。

ロジカルシンキング

ビジネスに論理は欠かせません。企業活動のどのプロセスをとっても論理的な思考が必要とされます。また、自分の意見を伝え次に事実や根拠を説明するというように、順序立てて話すスキルは、社内外のステークホルダーとの関りが増える前に必ず身につけておきたい重要スキルです。

仮説構築力

業務の正確さを追求すると時間がかかり、スピードを追求すると正確性が落ちる可能性があります。このジレンマを解消するスキルが仮説構築力です。意思決定のスピードアップには、「仮説思考」が欠かせません。若手の時期から、さくっと考え実行して検証する、そういった仕事のスタイルを身につけておくと、大きな仕事を任されたときでもスピーディかつハイクオリティな実行が可能になります。

③中堅社員研修

問題解決スキル

中堅社員になるとビジネス領域が拡がり多くの問題にぶつかります。その問題を正しくスピーディに解決するには、ロジカルシンキングに基づいた正しいアプローチ方法の理解が不可欠です。また、問題発見・課題設定もこの階層に求められますので、標準的な思考プロセスをマスターしておく必要があるでしょう。

ニーズヒアリング(営業向け)

顧客が口にする言葉は「ウォンツ」であり、本質の「ニーズ」はその奥に潜んでいるケースが多いです。本質ニーズを引き出すために、現在把握している情報から顧客ニーズを仮説設計し、商談でヒアリングできるスキルは営業職にとっては必須中の必須スキルといえます。

リーダーシップ

リーダーシップは生来のものではなく、「チームビルディング」「コミュニケーション力」「コーチング・ティーチング力」などから成る、開発可能なスキルです。特に、管理職への昇進を望む中堅社員は、意識的に身につけておくべきスキルでしょう。

④管理職

経営戦略立案

管理職になると、経営層から提示された理念、ビジョン、戦略を現場の言葉に翻訳し、所属メンバーに伝わりやすい最適な方法で正しい行動を促すことが求められます。そのために自社の経営戦略を理解すると同時に、他部門のこともしっかりと理解していないといけません。全社の経営課題はどこにあるのか俯瞰的に特定するため、幅広い視野と高い視座をもつことが求められます。

部下育成

管理職は、部下各人のパフォーマンスを引き出して、組織としての総合的な成果を最大化させるためのマネジメントと同時に、部下の成長を促進させることが求められます。そのためには、個々の業務に関する理解の深さは当然のこととして、部下一人ひとりの個性と能力を把握すること、最適配置による人材育成や人材パイプライン管理など、人的資本に関する知識が必要となります。  

研修

「7:2:1の法則」では、わずか1割の影響力とされるOff-JTですが、人間の能力が段階的に発達することを踏まえると、実はこの手当てがないと次のステージに移ることが難しいとされています。Off-JTはおおむね企業内研修として行われます。研修の組み立て方については別記事で詳説しています。こちらをご覧ください。

フィードバック

個人の成長になくてはならない他者からのアドバイス。企業内では上司・先輩からのアドバイスが主となります。良いフィードバックは、部下に改善点の気づきを与え、自分に足りていない部分を自覚してもらうことができます。気づきや自覚があっても、フィードバック後に部下の行動に変化が起こらないと意味がありません。成長をもたらすフィードバックについてポイントをまとめてみます。

①フィードバックの効果

まず、フィードバックによる具体的な効果を見ていきましょう。

生産性が高まる

適切なフィードバックにより、部下の行動のズレを修正し業務の生産性を高めることができます。組織として見れば各個人へのフィードバックにより組織全体の生産性を高めることが可能になります。

部下のモチベーションが高まる

適切なフィードバックは、部下の業務へのモチベーションを高めることができます。アドバイスをすることにより、部下は「自分を見てくれている」「きちんと評価してくれている」という安心感を持つようになります。まだまだ視野の狭い部下にとって、上司からのフィードバックは新たな視点で考えるきっかけになります。今まで苦戦していた業務をこなせるようになれば、自信を持てるようになり、より難易度の高い目標にチャレンジする意欲も湧いてくるでしょう。

信頼関係の強化

フィードバックにより対話が増えることで、互いの信頼関係がさらに深まったり、組織全体の雰囲気がよくなる効果も期待できます。上司や組織への信頼が高まると、仕事への意欲も自然と高まることが期待できます。

②フィードバックの方法

上司と部下が1on1や面談の場を設定して実施します。フィードバックのスキルとして大きく3種類あります。それぞれ特徴を理解して使い分けるようにしましょう。

サンドイッチ型(ネガティブな内容を伝えたいとき)

ポジティブ→ネガティブ→ポジティブの流れで話す方法です。本当に伝えたいネガティブな内容を前後のポジティブで挟み込むことで、部下のモチベーションを維持しながら伝えることができます。

SBI型(原因や改善策を伝えたいとき)

Situation(状況)→Behavior(行動)→Impact(影響)の順番で行う方法です。例えば部下が何かミスをした場合のフィードバックとして、
「どのような状況だったのか」
「どんな行動をしたのか」
「どんな影響(ミス)になってしまったのか」
を一緒に考えることで、事実確認をしつつ原因をつきとめ改善策を導きます。

ペンドルトン型フィードバック(部下に考えて欲しいとき)

会話のキャッチボールを通じて行う方法です。上司からの一方的なフィードバックではなく、コミュニケーションを取りながら進めることで、部下が自ら改善点に気づき成長につながっていきます。

③フィードバックのポイント

良い点をしっかり認め、改善点も伝える/実現可能なことを具体的に伝える

正しい内容であっても、物理的にできない、もしくは部下のスキルをはるかに上回るアドバイスをしてしまうと、部下は「それは上司だからできるのでしょ」「理想論だ」と感じて聞き流してしまう可能性があります。今の部下の経験やスキルに合わせ、少し頑張れば実現できる改善策を提案しましょう。

また、具体的に伝えることも重要です。
「あきらめが早いのでもっと執着しよう」
「気合と根性で乗り切れ!」
などと言っていませんか?部下もそれはわかっていても、どうしたらいいのかわからなくなってしまいます。

「メールの返信が無い場合は必ず電話もしてみよう」
「〇〇さんが似た案件で成功事例を持っているから相談するといい」
というように具体的に次のアクションを伝えることで部下はイメージがしやすくなります。

人格否定や他者との比較をしない

フィードバックは行動に対して行うもので、決して部下の人格を否定したり、他の人と比較をしないよう配慮ください。「〇〇さんは、性格が暗いからね」「△△さんと違って仕事遅いね」などはご法度です。

また、何気ない言葉として「なぜ?」も注意が必要です。上司としてはつい聞きたくなりますが、受け止める部下は追いつめられたと感じることが多いからです。
「なぜ、目標未達成なんだ?」
「なぜ失注したんだ?」
このような場合、問題の原因を探ろうとしていることが明確に伝わるような言葉で質問しましょう。

「目標未達成の原因はどこにあると思う?」
「失注した原因を考えてみようか」

このように、部下自身を責めるのではなく、問題の原因を見つけることが目的であるというスタンスですと、部下も客観的に自身を振り返ることができます。

適切なタイミングで伝える

フィードバックは、時間を空けずに行う必要があります。行動してから時間がたつと、お互い詳細を思い出せないケースがあるためです。あまりに遠い過去について指摘をされても、相手は実感が伴わず、学びにつながらないでしょう。

また、お酒の席でアルコールの力に頼るのは厳禁です。きちんと業務時間内に部下と向き合ってフィードバックをしましょう。

OJT

業務を通して行われる人材育成として最も一般的なOJT。OJTは第一次大戦時代のアメリカで始まり、日本には戦後の高度経済成長期に入ってきました。新入社員研修でひと通りの知識を学んで配属されたとはいえ、即現場で実践できるとは限りません。学んだ知識と現場での実務を結びつける実践的な育成方法がOJTです。

厚生労働省がまとめた令和2年度能力開発基本調査によると、OJTを実施している企業は国内企業の57%でした。これは前年より減少しており、新型コロナウイルス感染症の影響でリモートワークが広がるなど、働き方に変化が起き、企業内の学びの機会であるOJTが減少したと推察されます。

しかし、それでも半数以上の企業が実施していることからも、OJTは変わらず重要な育成手法であるといえるでしょう。

①OJTの効果

OJTの主な効果は次の3点です。

効率のよい育成が可能である

実務を通じた育成方法であるため、知識やノウハウを短時間で効率よく吸収できます。また、トレーナー(教える先輩)とトレーニー(教わる後輩)がマンツーマンで実施するため、質問もしやすく、気軽にコミュニケーションが取れるのも特徴です。

個別指導で業務に対する不安が解決できる

トレーニーにとって、新しい環境で未知の業務を遂行していくのは不安でいっぱいです。OJT制度は、マンツーマンで実務を学ぶ段階からスタートするため、仕事で生じた些細な不安や疑問をその場で解消でき、トレーニーの心理的な不安も和らげることが可能になります。その結果、トレーニーの帰属意識が向上し定着率も高まるといわれています。

OJTトレーナ―の成長につながる

トレーナーにとっても、トレーニーを目の前にして無様な姿は見せられないですし、質問にも真摯に答える必要があります。ひいては、トレーナーの成長にもつながります。

②OJTの方法

・Show(トレーナーが見本をやってみせる)

まずは、トレーナーが見本としてその仕事をトレーニーに見せてあげましょう。トレーナーの姿を見本としてトレーニーは業務の具体的な流れや方法を理解することができます。

・Tell(トレーナーがトレーニーにやり方を説明する)

見本を示したあとで、やり方をトレーニーに教えます。その際にマニュアルを説明するだけではなく、ポイントとなる部分について注意するべきことや、それぞれの意味合いを教えてあげることが重要です。トレーニーは「なぜ?」という疑問をたくさん持っていますので、丁寧に教えましょう。

・Do(トレーニーにやらせてみる)

では実際にトレーニーにやってもらいましょう。もちろん1回で上手くできることは珍しいですし、できたとしてもたまたま上手くいっただけの場合が多いです。あまりプレッシャーをかけず、失敗して当然。そこから学んでいきましょうというスタンスで見守ってあげてください。

・Check(フィードバックをする)

最後にトレーニーにフィードバックをします。フィードバックのポイントは、改善点や間違った点を指摘するだけではなく、良かった点も必ず見つけて褒めること。
「まず落ち着いて丁寧に話せていたのが良かったですね。・・・・」

また、失敗した点については責めるのではなく、原因を考えさせるようにしましょう。
「できなかった原因は何だと思う?どうすれば改善できそう?」

このような形で、反復させて一歩一歩着実にクリアしていき、次の目標へチャレンジしていくような形を目指してください。

③OJTのポイント

目指す人材像を描き共有すること 

OJTはトレーナーの考え方やスキルに左右されやすく、現場任せでは偏った育成方法になってしまいます。会社としてゴールとなる人材像を明確にし、計画的に育成プログラムを立案しておくことが重要です。配属前にトレーナー研修を実施し、トレーニーを受け入れる体制を整えておきましょう。

プロセスを明確にすること

OJTは半年~1年間かけてじっくりと取り組むので、途中で何となく気持ちが緩みがちになります。OJTを実施する場合は、日々最初に必ず目的や目標を共有できるようにしましょう。「今回のゴールは、顧客企業の他部門の人にも名前を覚えていただくこと」と理解できていれば、お互い同じ目的に意識をむけてOJTを実行できます。そして振り返りポイントも明確になります。

STEP by STEPで段階的に成長させていくこと

OJTの効果が実務で現れるまでには、一定の時間を要します。それだけに、単発のトレーニングではなく、繰り返し成長ポイントや改善ポイントを確認しつつ、成長したら次のステップへ進むという段階的トレーニングの実施が重要です。トレーニーは、試行錯誤をしながら継続と反復により、少しずつですが、着実に実力をつけていくのです。

この記事のライターは・・・


シニアコンサルタント・西原良介

1973年生まれ。1997年山之内製薬会社入社。一般用医薬品の領域で主にドラッグストアへの提案営業に従事。その後事業統合による合併で、第一三共ヘルスケア株式会社に転籍。全国チェーンのドラッグストア本部商談を担当。消費者ニーズや売上データからソリューション提案を積み重ね、成果をあげてきた。

2015年よりマーケティング部に異動し、オーラルケア領域のブランドマネジャー業務と新規社会貢献の事業を担当。新規社会貢献事業では、抗がん剤治療で起こる皮膚障害でお困りの患者様に、病院や展示会を通じてスキンケア商品を紹介する活動を開始、サンプリング活動から商品購入への新しいチャネル開発の足掛かりをつくった。

2021年1月、株式会社シナプスに入社。これまでの営業とマーケティング活動の両視点からお客様の課題解決に貢献。論理的なフィードバックを得意とするがソフトな語り口で研修及びコンサルティング・研修の現場で高い評価を得ている。



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