エイベックス・ピクチャーズ株式会社様は、エイベックス・グループにおいて、「映像コンテンツを通じて、夢、希望、勇気、感動を世界の人々に。」をミッションとして、アニメを中心とする映像コンテンツおよび映像コンテンツ派生サービスを提供しているエンタテインメント企業です。
エイベックス・ピクチャーズ様では、ほぼ全社員を対象として2012年から5年連続シナプスの「マーケティング研修」を開催いただいています。
今回、エイベックス・ピクチャーズ代表取締役会長の寺島ヨシキ様に、「なぜエイベックス・ピクチャーズにとってマーケティングが重要なのか」 「なぜ5年にもわたり毎年マーケティング研修をおこなっているのか」「寺島様のマーケティングに対する考え方」などについて伺いました。
エイベックス・グループの映像ビジネスはパラダイムシフトが必要
売上の94%がパッケージ依存で、偏った売上構成に危機感
インタビュアー
まず2012年に最初の「マーケティング研修」が開催されたのは、寺島様がエイベックス・グループに入社されたときの課題感がきっかけと伺っています。当時の会社の状況や寺島様の課題認識などを教えてください。
寺島様
私がエイベックス・グループに入社して約6年になります。当時は、まだエイベックス・ピクチャーズが出来る前のエイベックス・マーケティング株式会社の時代です。
当時エイベックス・グループの映像関連の売上構成を調べると、どうもおかしいと感じました。売上自体はあがっているんですが、売上の94%がDVDなどのパッケージ商品。しかも、パッケージの利益の半分が「ワンピース」でした。非常に偏った売上構成ですよね。このままでは、必ず将来的に厳しい状況になるし、未来が描けない。と思いました。「事業のパラダイムシフト」が必要だと思ったのです。
事業のパラダイムシフトに必要な共通言語は、マーケティングとロジカルシンキング
インタビュアー
エイベックス・ピクチャーズの「事業のパラダイムシフト」とは、具体的にどういったことでしょうか?
寺島様
消費者の欲求が「モノ欲求」から「コト欲求」にシフトしています。モノからコトへ。エイベックス・ピクチャーズの売上もパッケージ比率が高すぎるので、ノンパッケージ比率を上げる必要があります。つまり、映像専門カンパニーへの事業パラダイムシフトが必要だったのです。
事業パラダイムシフトが必要な一方で、社内の共通言語がないと感じていました。社員に共通言語を植え付ける必要がある。そこからスタートしたいと思いました。「ロジカルシンキング」と「マーケティング」という共通言語がなかった。弱かったんですね。
ロジカルシンキングもマーケティングもなく、「エイヤッ」という感じで作ってしまう企画が多かった。企画会議では、私は「なんで、その企画なの?」「なんで、なんで?」と突っ込む役割でした。すると、質問される側は、大抵「フリーズ」するんですね。社員から相当いやがられていたと思います(笑)。
エンタテインメントは、「クリエイティヴ」+「マーケティング」
クリエイティヴに頼っていてはダメ。マーケティングで成功確率を上げる
インタビュアー
寺島様は、6年前から現在まで変わらない一環したマーケティングに対する考え方、ポリシーを持っていらっしゃるように感じます。 マーケティングに対して、あるいはエンタテインメント業界におけるマーケティングについての寺島様のお考えを教えてください。
寺島様
エンタテインメント業界で売上を上げていくには、大きくマーケティングとクリエイティヴの2つの要素があります。
やはりクリエイティヴの要素は大きいですよね。クリエイティヴさえよければ売れるという部分がある。しかし、クリエイティヴだけに頼っていてはダメなんです。アンコントローラブルな要素が大きく当たるか当たらないかが読めない。
そこで、ロジカルなマーケティングが重要になってきます。「マーケティングをやるから100%成功する」ってことは、ありえないですよ。しかし、ロジカルなマーケティングをしっかりやることにより、10%でも20%でも成功確率を上げることはできる。「マーケティングによって、下駄を履かせる」ことができるわけです。
また、失敗から学ぶことも重要だと思っています。アニメは毎年新作が200本出ます。そのうちヒット作品は、5%~7%という世界です。ヒットを当てていくのは至難の業、失敗の方が圧倒的に多いわけです。
しかし、失敗したときでも、しっかりマーケティングデータを取っておく。振り返られるようにしていくことが重要だと思っています。失敗から学び、同じ失敗をしないようにする。そのためには、マーケティングデータやマーケティングロジックがないと振り返ることができない。失敗時のマーケティングデータを分析することで、今後の事業リスクを低減できるのです。
未経験のノンパッケージ領域では、マーケティングロジックに従って全体像を把握
インタビュアー
さきほどパッケージに偏った売上構成から、ノンパッケージ比率を上げて事業パラダイムシフトが必要だというお話がありました。事業パラダイムシフトにおいて、マーケティングはどのような役割を果たしますか。
寺島様
マーケティング、ロジカルシンキング、データを使って成功確率を少しでも上げていくことは同じです。
しかし、ノンパッケージの事業を推進していくにはマーケティングの重要性は、ますます高まります。なぜなら、パッケージビジネスだったら、これまでの経験から全体像を把握していました。ノンパッケージビジネスでは、まず新たに全体像を把握するところから始まります。「エイヤッ」の世界ではなく、しっかりマーケティングロジックに従って環境分析をし、全体像を把握する。これを複数の事業でやっていく必要があります。
「継続は力なり」5年間でマーケティングとロジックが社員に浸透
「考え抜いた企画を出す文化を作りたい」寺島様の思惑と家弓の思考が一致
インタビュアー
わかりました。元々エンタテインメント業界でマーケティングが必要であるところに、ますますマーケティングの必要性が高まる状況にあったということですね。
ところで、そのマーケティングを浸透させる上で、2012年から毎年継続して、ほぼ全社員に対して、シナプスのマーケティング研修を実施させていただいています。シナプスのマーケティング研修を選んでいただいたのは、なぜでしょうか。
寺島様
シナプスというより代表の家弓さんですね。前職で2005年から家弓さんとコンサルタントとして仕事をさせていただく機会がありました。そのときの家弓さんのやり方に、よい印象を持っていました。マーケティングでロジカルシンキングを重視して、何度も問いかけをします。家弓さんは、私のマーケティングの考え方、思考と合っていると思いました。エイベックス・ピクチャーズ全社でも「何度も自問し、考え抜いて企画を出すという文化」を作りたかったんです。
また、当時エンタテインメント業界の人間にマーケティングを教えられる講師は、なかなかいませんでした。加えて、当初はマーケティング初心者が多かったので、「何もわからないヒトにも教えることがうまい講師だな」とも思っていました。
「継続は力なり」5年連続で毎年マーケティング研修を開催
インタビュアー
御社では、2012年から、これまで5年連続毎年マーケティング研修を開催されています。
マーケティング研修を複数回開催される企業様の事例は少なくないのですが、「同じ対象者に対して」「社員ほぼ全員に」「毎年マーケティング研修」を行う企業様はなかなかいらっしゃいません。ここまで徹底して繰り返しマーケティング研修教育をされる理由をお聞かせください。
寺島様
一言でいうと「継続は力なり」ということですね。全員参加にしていますので、正直全員が前のめりでマーケティング研修に参加しているわけではありません。しかし、1回の研修で「一人でもマーケティングやロジカルシンキングの大切さに気づいてくれるヒトがいればよい」と思って継続しています。
実際に、マーケティングやロジカルシンキングの考え方が出来ている社員はどんどん増えています。全体が底上げされて成長している感じですね。
5年間のマーケティング研修事例テーマ概要
時期 | 研修内容 |
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2012年度 |
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2013年度 |
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2014年度 |
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2015年度 |
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2016年度 |
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企画会議でフリーズしていた社員が、マーケティングロジックを持った説明を返す
インタビュアー
具体的に社員の成長を感じるのはどういった場面でしょうか。
寺島様
特に企画会議のときですね。以前は、「この原作のマンガは本当に面白いんです。だから、この企画をやらせてください。」なんてプレゼンする社員が当たり前のようにいました。
しかし、今ではだいぶ会議のプレゼンテーションがうまくなってきました。ポイントからずれたことをあまり言ってこないんですね。
「この世代が何万人で、そのうちターゲットとなる層は、仮説として何万人いる。だからこの企画が成功する確率は高い」と、マーケティングロジックを持った説明をするようになってきました。
質問しても、以前は「フリーズ」する社員が多かったんです。私が質問すると上位職も含めてみんなフリーズです。それが、今では質問に対して、ちゃんと回答が返ってくるようになりました。「ターゲットは?」「原作の発行部数は?」「ターゲットはどういう意識を持っている?」。これらの質問に、「定量調査と定性調査からは、こういうデータがでています。類似作品の比較からすると、これぐらいの売上が見込めるでしょう」といった感じで、しっかり根拠をもって答えてきます。
インタビュアー
個人のスキル・意識面以外に組織として変わったと感じるところはありますか。
寺島様
たまたまの部分もありますが、実際にヒット作品がいくつかでています。仕事が山ほどあって、組織が活性化されている状態です。議論も整理された話が多く、私が議論でストレスを感じることも少なくなってきましたね。
マーケティング力は70点。合格点だが将来展望まで考慮できるようになってほしい
インタビュアー
現在のエイベックス・ピクチャーズ社員は、6年前と比べて点数でいうと何点ぐらいのところまできているのでしょうか。
寺島様
最初は何点というより、何もなかったですね。点数もつけられない状態。しかし、今は70点ぐらいまで来ていると思います。まあ、合格点ですよね。
インタビュアー
合格点までは来ているんですね。では、今後さらに社員の皆さんに期待することはなんでしょうか。
寺島様
今は、大半の社員は自分の目先の仕事にとらわれてマーケットを俯瞰できる時間もない状況です。一度改めて将来がどう変わってくか。何が起こるかを俯瞰して考えて欲しいですね。
IoT、AIなど、ここ数年でまたパラダイムが変わるときがくる。その将来展望を持ってもらいたい。マーケティングのフレームワークでいえば、3C分析の領域はできるようになってきたので、今度はマクロ環境のPEST分析の世界ですね。将来展望を持って、あらかじめ準備をしておき、潮目が変わったときにタイミングよくトレンドにのるといったことが必要です。
シナプスに対しての期待
インタビュアー
今後シナプスに期待することがあれば教えてください。
寺島様
まず、今まで期待通りじゃなかったら研修を辞めていますよね(笑)。今後も家弓さんの研修デリバリ、家弓さん独特の研修の流れには期待しています。
また、家弓さんは「良きパートナー」だと思っています。マーケティング研修はもちろん、将来の環境をどう見ているか。といったマーケティング談義もさせてもらいたいですね。