提案営業とは
提案営業とは、お客様の困りごとに対して能動的に提案してお客様が真に必要としているものを提供する営業スタイルのことです。
提案営業は、お客様が自分では気づいていないモノやサービスを提案してお客様に買っていただくスタイルです。したがって、「お客様のニーズを把握」し、「ニーズを満たすモノやサービスを選定」し、「お客様に提案しご納得いただく」ためのスキルが必要です。
御用聞き営業、ソリューション営業、コンサルティング営業との違い
営業スタイルには様々な形があります。よく言われるのは御用聞き営業、ソリューション営業、コンサルティング営業です。
人によって提案営業も含めて言葉の定義は異なりますし、お客様の状況や商材特性によって必要なスタイルは変わりますので、「提案営業がほかの営業スタイルに優れている」(あるいはその逆)ということはありません。また、特にソリューション営業と提案営業は同じものとして認識されることも多いので、厳密な言葉の定義自体はそれほど意味はありませんが、営業のスタイルを分類しておくことは自社の営業スタイルを考えるうえで意味がありますので、その観点でお読みいただくと良いでしょう。
御用聞き営業
御用聞き営業とは、「お客様が言ったこと」をそのまま100%叶える営業スタイルです。お客様が欲しいものを明確に持っている場合には御用聞き営業は極めて効果的に働きます。例えば、アニメ「サザエさん」に出てくる三河屋さん(のサブちゃん)が典型的な御用聞き営業です。お客様のお宅に訪問した際に「お米が切れているのでいついつまでに欲しいんだけど」と言われたら確実にその時までに持っていくスタイルです。御用聞き営業はお客様との関係性を維持し、日常的/頻繁に御用を聞き、欲しいものを欲しいタイミングでお届けできることがポイントです。
ソリューション営業
ソリューション営業とは、お客様の困りごとを解決するソリューションを提供する営業スタイルです。御用聞き営業に対する対義語として使われることが多いスタイルです。
この特徴は、「お客様は困っていることは認識しているが最適な解決策をお客様自身が分かっていない」ことです。ITが進化した現在においては、特定の業種や業界にある「よくある困りごと」を解決するソフトウェアのことを「ソリューション」と呼ぶこともありますが、この背景にはこれらのソフトウェアがお客様の困りごとを解決できるからです。
コンサルティング営業
コンサルティング営業とは、お客様自身が問題に気付いていなかったり、問題解決の手法が分かっていない場合に、お客様に対して問題解決を行うことにより問題を解決する形の営業スタイルです。
お客様自身でも「何かまずいことになっている」と感じていることは多いですが、その問題を言語化できないことは多々あります。これらの状況に対して営業がお客様に「あるべき姿はこれですよ」と提示して問題を明確にすることもあります。また、お客様が間違った解決策を取ろうとしているときに「お客様、それは違いますよ。本来はこちらが正解ですよ」と提示するものです。コンサルティング営業を行うためにはお客様に信頼される必要があり、お客様のビジネスを分析する力や、その領域に対する豊富な知見が必要なケースが多いです。
似たような言葉にチャレンジャーセールスモデル(マシュー・ディクソン、ブレント・アダムソン著)があり、これは、お客様に対して「チャレンジ」(≒問題提起)する営業スタイル、というものです。
それぞれと提案営業の違い
どのような営業スタイルであっても、能動的にお客様に「提案」していれば提案営業と言えるのでどれもあり得ますが、一般的にはソリューション営業やコンサルティング営業のことを「提案営業」と呼ぶことが多いです。
提案営業が必要とされる理由
御用聞き営業からソリューション営業に変わらなければならない、というのはかなり前から言われています。その理由は、モノ勝負では価格競争に陥りがちなので、お客様のそもそもの困りごとを解決しなければ良い商談にならないからです。
最近、それだけでなく、情報が多すぎてお客様自身が判断に迷う、ということも事情として追加されているように感じます。何かの困りごとを感じるとお客様はネット検索をします。すると、「〇〇の選び方」「〇〇のおすすめ10選」などの記事がたくさん出てきます。これらを読むとなんとなく良いものが出てくるような印象はありますが「結局のところ、自社に最適なものは何か?」がよくわからなります。そうすると、その上位のベンダー数社を呼んで提案を受けて選ぶことになります。
お客様自身でも調べる手段はたくさんありますが、最後は提案を受けて決めたい、というシーンが多々あるわけです。言い換えれば、こちらから能動的に提案していくことでお客様の「考えなければならないストレス」を軽減させることにもなります。
提案営業のメリット
提案営業の最大のメリットは、価格競争に陥りにくいことでしょう。モノ勝負になってしまうと、モノの差別性がほとんどない昨今ではお客様は価格以外での比較ができなくなっています。そのため、こちらから能動的に提案することで、お客様にとっての評価ポイントや自社の優位点などを選択の根拠にしてもらいやすくなります。
また、良い提案ができれば、最初からコンペにならず指名受注のチャンスになったり、提案そのものに価値を感じて頂くことで継続的に採用頂けたり、他の商談機会を頂けるなどのメリットもあります。提案営業は、営業にとっての腕の見せ所ともなるでしょう。
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提案営業の流れと重要ポイント
提案営業を行うには大きく次の6つのステップがあります。それぞれの重要ポイントとともにご説明します。
- お客様の事業・業務の理解
- お客様の課題・ニーズの把握
- インタビューによる仮説検証
- 提案内容の組み立て
- 提案シナリオの構築
- 提案プレゼンテーション
1.お客様の事業・業務の理解
最初に必要なのはお客様の事業・業務の理解、すなわちビジネス理解です。BtoB型の営業においては、お客様は自社のビジネスをより良くすることが本質的なニーズになることがほとんどですので、お客様のビジネス理解は必須です。
そのため、顧客の業界・事業・業務の知識を持っておくことは提案営業にとって重要ポイントと言えましょう。また、同時にビジネス分析力も必須スキルとなりつつあります。
MBAのようなビジネススキルを身につけることも必要ですが、必ずしもそれが必須なわけではなく、例えば、お客様との関係性を強化することによってお客様に業界や業務の知見を教えて頂くことも一つの選択肢です。
いずれにしても、最低限のお客様理解としてお客様の事業・業務を知る、ということが第一ステップです。
ビジネス分析については、「マーケティング戦略の立て方の基本とポイント、使えるフレームワーク」で解説しています。
2.お客様の課題・ニーズの把握
続いては、お客様の課題・ニーズの把握です。お客様に提案をするためには「お客様が提案を必要とする理由」を知ることが必須です。それがお客様の課題でありニーズであるわけです。
お客様の課題・ニーズとは、一般にビジネス上の困りごと、さらにはその困りごとを発生させている原因のことを指します。したがって、先のステップで理解したお客様の業務の中でも、ビジネスを成長させるうえでのボトルネックや、他社と比較して不十分な箇所、そしてその原因を明らかにすることが必要です。
お客様がそれを言語化し、教えてくれれば分かりやすいですが、その場合はよほど関係性が取れているケースでなければ、(自社にとっての)競合他社にも開示されているはずで、いわゆるコンペ状態になってしまいます。それを避けるためには、お客様が課題そのものを理解する前に、お客様の課題を仮説立てする必要があるのです。
3.インタビューによる仮説検証
お客様の課題の仮説がたったら、それが確かに困り事なのか、解決すべきなのかを明らかにしたいものです。それを行うのがインタビューによるニーズ仮説の検証です。シナプスではこの作業を「ニーズヒアリング」と呼んでいます。
ニーズヒアリングは、「お客様は何に困っていますか?」と聞くのではなく、困りごとに対する仮説を立て、その仮説を検証するために、「こういうことは起こっていませんか?」「このKPIはいくつですか?」等、具体的な状況把握をしていく作業です。もしお客様との関係性ができているのであれば、現場を見に行ったり、現場の方にヒアリングすることも有効です。これらの質問力が重要ポイントともいえましょう。
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提案営業のキモは「顧客ニーズヒアリング力」。仮説検証で潜在ニーズを掴むコツを掴みます。
4.提案内容の組み立て
課題が分かったら次は提案内容、ソリューションの組み立てです。ソリューションの組み立てには、自社商材も含めて、世の中にある様々な商材や技術、あるいは実現事例などの知識が必要になります。最低限、自社の商材・サービスは何が出来るかを知っておくべきですが、それだけでなく競合商材も含めて世の中にある類似商材や関連商材等を組わせるとどのようなことができるのか、も知っておきたいところです。その意味では、最新事例などを知っておくと提案内容の幅が広がることでしょう。
当然ながら提案の中には見積も含まれますが、お客様の予算感に合わせて最適なものを導き出したいものです。
5.提案シナリオの構築
そして提案シナリオの構築です。お客様の課題に対して、組み立てた提案内容を提案しますが、どのような順番で何を訴求するとお客様に納得して頂けるのか。そのシナリオを構築し、提案書を作成しましょう。一般に「提案書」「提案プレゼン」というと、パワーポイントの作り方や説明の仕方に問題意識を持つ方が多いのですが、提案がうまくできていない場合、提案シナリオの検討不足であることがほとんどです。言い換えれば、提案書の多少の不備や、たどたどしい説明であっても、提案内容とシナリオがしっかりしていればお客様にご納得いただけるものです。
6.提案プレゼンテーション
最後は提案プレゼンテーションです。説明力に長けているほど、お客様は納得しますし、場合によってはお客様の上長に対してプレゼンテーションするケースもあるでしょう。プレゼンテーション力も、提案営業にとっては一つの重要スキルと考えてよいでしょう。
提案営業に向いている人の特徴とスキル
提案営業は競争が激しい業界やお客様が自分で課題を解決できないケースでは力を発揮します。逆にモノ不足の業界や営業のスピード勝負の業態においては提案営業よりも御用聞き営業の方が効果を発揮するケースも多いです。
提案営業に向いている人やスキルとしては次の4つが挙げられます。
- ①お客様と関係を築くのが上手
- ②仮説思考ができる
- ③質問力がある
- ④説明力がある
①関係を築くのが上手
お客様との関係性を築くのが上手なタイプは提案営業がやりやすいです。提案営業のベースにあるのはお客様が「何に対する提案を欲しがっているのか?」の理解です。そのためにもお客様との関係性を早期に築き、お客様の課題を把握する力が求められます。コンサルティングスタイルで臨むタイプの方の中には、その持っている知識と分析力によってお客様の信頼を勝ちうるタイプの方もいらっしゃいますが、そこに至るにはそれなりの経験が必要になります。
②仮説思考ができる
お客様の課題を考えるうえで仮説思考は必須のスキルといえるでしょう。前提としてお客様の事業・業務の知識や理解は必要になりますが、そこから「どんなことに困っていそうなのか?」「なぜその困りごとが生じているのか?」という仮説を組み立てることによって提案のきっかけとなる顧客の課題を見出すことができます。
③質問力がある
顧客のニーズヒアリングの際には質問力も重要です。「何かお手伝いできることはありますか?」というようなありきたりな質問ではなく、お客様にとってビジネスを推進するうえでのボトルネックになっている箇所の特定や、お客様の真のニーズをあぶりだすためのお客様に「考えて頂く」ための質問等、様々な質問が必要になるでしょう。
④説明力がある
提案プレゼンテーションのベースにあるのが説明力です。特にBtoB型のビジネスにおいて、目の前の担当者にご納得いただくだけでなく、その上司、はたまたその上の上司を説得しなければ受注出来ないケースは多々あります。その際、営業自身は説明せず、お客様担当者が上申することも当然あるわけです。そのためにも、お客様が自分の言葉で語れるほど平易で納得感のある説明が求められるケースもあります。そのためにも、強固でわかりやすいロジックを組み立てる説明力が提案営業には必要です。
提案営業の基本動作、ニーズヒアリングで気をつけたいこと
提案営業の基本動作であるニーズヒアリングで最も気を付けたいのは、仮説と検証です。
「営業」という職種は売上(または受注)を上げることが役割であり、ミッションでもあります。そのため、売れる匂いを感じると、すぐに「提案」したくなってしまいます。場合によってはこれが押し売りにつながってしまうこともあるわけです。
提案営業では、お客様に最大限満足いただくための提案を組み立てる必要があります。そのためにも分かりやすいお客様の欲しいものに飛びつくのではなく、課題に対して仮説立てをし、ニーズヒアリングによって仮説を検証する、というプロセスが必要です。
検証時に注意したいこととしては、「こちらが出したい結論を導く」のではなく、お客様の実態を把握することです。いわゆる確証バイアス(見たい事実だけを見て結論をミスリードする)に陥らないように注意したいものです。
いずれにしても、提案営業にとって、ニーズヒアリングが中核となるスキルですので、ニーズヒアリング力を高めることが提案営業力を高めることになることにつながるでしょう。