大企業で新規事業を成功させるための4つのポイントと失敗を避けるための4つのポイント

上場クラスの大企業において、新規事業開発は今後の成長を進めるうえで重要な経営戦略上の投資です。

一方で、もともと難しい領域でもあることから、なかなか「こうやったら成功する」という成功法則が見いだせていないのも事実で、多くの企業が積極的に取り組みながら、なかなかうまくいっていないという悩みを抱えているのではないでしょうか。

 

新規に事業を起こすのは、大企業だろうと中小企業だろうと、スタートアップだろうと、難しいものです。しかしながら、スタートアップは投資に失敗すると死に直結するのに対して、大企業は余力がありますので、それが大企業の強みでもあるでしょう。

一方で、スタートアップのように「変える」「チャレンジする」ことがしにくいので十分に動けないと感じている方も新規事業開発担当者の中には多くいらっしゃいます。

 

では、大企業だからこそ成功する、そのやり方はあるのでしょうか?

 

大企業で新規事業を成功させるための4つの重要ポイント

大企業だからこそ、の新規事業成功のポイントのうち、重要だと思うポイントをご紹介します。

1.大企業の強みを使う

大企業が大企業たるゆえんは、「様々な強みがあること」です。典型的には資金力ですが、それだけでなく、既存事業が保有している様々な強みを使うことによって成功確率が劇的に上がっていきます。

 

新規事業を検討するうえで、成長マトリクスが良く使われます。

成長マトリクス

新規事業というと新市場×新製品を狙う多角化をイメージされる方が多くいらっしゃいますが、多角化は自社の強みが生きにくく、新規事業の成功確率はどうしても低くなってしまいます。

 

強みを生かす、ということで言えば、本来やるべきなのはいわゆる染み出し領域、すなわち、市場開拓:既存製品×新市場や、製品開発:新製品×既存市場を狙うべきです。

 

例えば、トヨタ自動車が新規事業として、車の定額課金サービス「KINTO」を展開し、急拡大しています。2025年3月期の時点で売上587億円、純利益約8億円と新規事業としては大成功の部類に入るでしょう。設立が2019年ですから、約6年間で黒字化ということになります。この理由は、トヨタ自動車の強みである「自動車」市場で展開したから、ということが大きいでしょう。

 

もちろん、多角化で成功するケースもあります。例えば、、富士フイルムの化粧品ビジネスであるアスタリフトは、多角化に当たります。ポイントは2つで、一つは技術の横展開です。アスタリフトを支える技術は、富士フイルムが写真フィルムビジネスで培ったナノテクノロジーや、コラーゲン研究によるものです。これらを「肌」に展開して成功しました。

もう一つは、もともとBtoC、消費者向けのビジネスを扱っており、「自分を美しくみせたい」という消費者ニーズに触れていた点です。つまり、おおもとのビジネスモデルは変えていないということでもあります。

一時期、技術力のある製造業のクライアントから「アスタリフトみたいな事業を立ち上げたい」という相談を何度か受けたことがありますが、その手の事業者の多くはBtoB型の事業であって、富士フイルムのようなBtoC事業を成功させたことがないため、それだけ難易度が上がってしまいます。

 

大企業の新規事業創出コンテストに関わってみると意外と出てくるアイデアが、「既存のお客様(あるいはチャネル)に新商品を売り出したい」というものです。

これらは、新規事業創出コンテストでは新規事業とみなされず、事業部預かりになることもよくありますが、一方でこのような新商品は「新しい売上を作り出す」という点においては極めて有用に働きます。

例えば、日本全国にあるスーパーやコンビニの棚においてもらうのはスタートアップでは極めてハードルが高いのですが、すでに棚を確保できているプレイヤーだと展開が早いでしょう。例えば、日清食品は即席ラーメンの棚やカップ麺の棚を圧倒していますが、それを使って完全メシを展開しはじめました。これは典型的な新商品開発の成功パターンといえましょう。

 

2.TAMの大きな市場を狙う

大企業の新規事業では、事業規模が大きくないと認められないことがほとんどです。実際、クライアントと話をすると、「最低数十億円はないと事業として認められない」という話も聞きます。

大企業の新規事業の場合、一つの目安は「売上100億円」です。

では、この100億円を作るためには何をするか。

大きな市場を狙うしかありません。

 

世の中のすべての事業は(顕在、潜在含めて)市場規模以上の売上には絶対になりません。例えば、新しいジグソーパズルを新規事業として始めよう、としたとしましょう。一般社団法人 日本玩具協会によると、ジグソーパズルの市場規模は2024年度で約127億円なのだそうです。これでは、「ジグソーパズル」の市場を狙ったところで大した売上を見込めないでしょう。

一方、トレーディングカード市場は3000億円の市場だそうです。とすると、最初からトレーディングカードに参入した方が売上が期待できる、ということになります。

もちろん、大きな市場であればあるほど競争が厳しくなりますが、それでも小さな市場では「事業」として認められない、ということです。

 

成功している新規事業では金融や決済関連事業が多いのですが、これも市場が大きいのがその理由でしょう。

例えば、セブンイレブンのセブン銀行、JR東日本のSUICA、ソフトバンク・ヤフージャパンのPaypay等が金融・決済で大成功している事業ですね。

 

3.時間軸を長めにとる

大企業が新規事業を始めると、どうしても短期で成果を求めがちです。理由はいくつかあるのでしょうけど、大きなところで言えば、①経営が変わると方針がかかわる、②既存事業と同じ評価基準で評価され赤字が許されない、③社外向け説明が年度単位、あたりがありそうです。

①経営が変わると方針が変わる

新規事業は経営者の発案でプロジェクトが開始されることが多く、寛容な経営者であれば、新規事業を「じっくり育てる」「多少の赤字は目をつぶる」ことが往々にしてあります。しかし、大企業の経営者、社長はおおむね4-6年で交代しているのが一般的なイメージです。そうすると、人気の途中で設立した事業が社長交代とともに整理される、ということが起こってしまいます。

 

②既存事業と同じ評価基準で評価され赤字が許されない

企業の成果は何らかの評価基準で評価されます。一般に既存事業を基準として評価しますので、例えば投資評価言えばIRRやROIなどが基準になります。既存事業の場合はすでに「儲かるモデル」が出来上がっているので評価がわかりやすいですが、新規事業の場合はモデルができていないことも多く、正確な投資評価がしにくいところです。

③社外向け説明が年度単位

上場企業の場合は、毎年株主方向があり、年度単位で説明責任が発生します。投資が小さなうちは説明不要ですが大きくなってくると株主への説明が必要になり、IRで発表することになります。

全体の数字からすれば微々たるものであることがほとんどなのですが、「きれいな数字」を求めようとするとどうしても新規事業もきれいにしたくなってしまいます。

 

新規事業を育てるには時間がかかります。実際、多くの上場企業の現在の柱は10-20年程度かかって、ようやく売上100億円を達成した、ということも少なくありません。大きな事業を育てるにはそれだけ時間も投資もかかります。

100億円達成まで10-20年、単年黒字も10年程度はかかるものと思ってゆっくり待つのが本来の大企業の考え方でしょう。

これができるのは大企業だからで、スタートアップの場合はゆっくりやっていると資金が尽きてしまいますので、早期の成長が求められます。ベンチャーキャピタル(VC)のファンドも10年が一つの区切りであることも多く、VCからのプレッシャーもきつくなることがありますが、大企業はそのプレッシャーがないのですからじっくり育てたいところです。

 

4.パイプライン的考え方をしておく

新規事業の成功確率は千三つ、すなわち、0.3%程度とよく言われます。

実態としてはもう少し高く、数%程度かと思われます。(分母をどこにするか、分子をどこにするかでも結論は変わりますが)

どんなにうまくやったとしても、せいぜい1割程度の成功確率なのが一般的です。とすると、「新規事業を成功させる」には10個くらいの新規事業をスタートさせる必要がある、ということでもあります。

新規事業開発には段階があり、

アイデア創出→事業企画→事業計画→ローンチ→0-1→1-10→10-100

とするのがよくあるパターンでしょう。0-1、1-10、10-100は売上規模の億円をイメージいただくとわかりやすいと思います。

10-100を実現できた時を成功、と定義したとして、ローンチから100億円までを10%とすると10個の事業をローンチさせないといけません。

さらには、10個の事業をローンチさせるには、アイデア創出の段階で千から1万個程度の事業案を出しておく必要があるでしょう。

 

新規事業開発では、よくステージゲートモデルで管理してしているのを見かけますが、だとすると各ステージに何個の事業の種が存在しているのか、それを管理していく必要があります。

スタートアップの場合は、回せる事業は一つでそれにかけるしかありませんが、大企業の場合は一つにかける必要は全くなく、複数の事業を並行して動かしていく、その資金的、人的リソースがあるはずです。

 

スタートアップは、生きるか死ぬか、しかありませんが、そこに資金を投下するベンチャーキャピタル(VC)は、まさにパイプラインのように管理しています。しかも、シード/アーリー/ミドル/レイター、とステージ毎にVCがすみ分けており、生態系としてパイプライン管理をしている、とも言えるでしょう。

 

大企業は、スタートアップそのものをまねるのではなく、この生態系を模した形を作るのが一つのやり方です。

 

大企業ならではの失敗を回避する4つのポイント

大企業は、大企業であるがゆえに知らず知らずに新規事業推進の阻害要因になっているケースがあります。

成功のポイントの裏返しの部分ももちろんありますが、ありがちな下記の点を注意しておく必要があるでしょう。

 

1.部長クラスに任せない

大企業の場合、物事を動かすのに主体的に動くのは、おおむねミドルマネジャー、すなわち部課長クラスです。部長になると多少の決裁権を持つので、新規事業の推進を部長が担っているケースも見られます。

しかし、新規事業は将来的に100億円規模の事業を目指すものです。100億円規模の事業のかじ取りができるのは、大企業の場合、役員クラスであることがほとんどでしょう。本部長クラスでも事業管理をしているケースは多々ありますが、最終責任の多くは役員クラスに帰着します。

つまり、部長に任せては新規事業は成功しにくい、ということでもあります。

実質的な運営者は現場に任せるということは多々あります。これは役員クラスが顧客インタビューをしたり、PoCを回したりするわけではない、ということです。(それをやっているとリソース不足で立ち上がらないでしょう)

しかし、タイミングタイミングで投資判断も求められますし、やはり「大きな事業を動かせる能力」が求められるということでもあります。新規事業の責任者は最低役員、できれば社長の責任で動かすことをお勧めします。

 

2.邪魔しない

新規事業部隊の「あるある」ですが、既存事業や斜め上の上司に横やりを入れられる、ということが多々あります。

明示的に邪魔をしてくるケースももちろんあります。例えば、既存事業とカニバリゼーションを起こすもの等、マイナス影響を及ぼすものについては既存事業側から待ったをかけてくるケースがあります。

それだけでなく、「良かれと思って」口出しをしてくるケースも見られます。既存事業の感覚で役員や本部長クラスが、「その新規事業を運営するなら〇〇をやった方が良い」と発言したとします。公式な会議では議事録に残されますので、それを取り仕切る経営管理的な立場の方は、確実に実行されたかどうかを進捗管理し始めます。常に状況が変わり、しかも既存事業とは異なる文脈で動いている新規事業側からすると、「役員へのご説明」のための仕事が追加されるわけで、新規事業を推進する以外の仕事ですから邪魔以外の何物でもないわけです。

 

うまく機能している新規事業開発室では、室長が防波堤になって、既存事業からの口出しを押さえる機能を担っているケースをよく見ます。

これによって、新規事業部隊が事業推進に集中できるということでもあります。

 

3.「優秀な人材」の定義を既存事業をベースに考えない

大企業の新規事業では途中で担当者が追加でアサインされることが多々あります。スタートアップの場合は、事業拡大とともに採用して人が増えていきますが、大企業の新規事業の場合は、「異動」という形で人数が増えていきます。

この時に、有望に見える新規事業であればあるほど、優秀な人がアサインされます。しかし、この「優秀」の定義がかなりあいまいで、新規事業に向いていない方がアサインされ、事業は進まず、アサインされた本人はパフォーマンスが上がらずモチベーションも上がらない、という誰にとっても不幸なことが起こりかねません。

 

シナプスは、人材育成の仕事もしていますので、「どういう方をアサインするとよいでしょうか?」という質問を受けます。その際にお応えしていることとして、望ましいスペックと、望ましくないスペックを伝えています。

望ましいスペック:

A.その領域(市場領域や技術領域)に対する知見がある

B.社内の状況をよく知っている(支援してほしい部署に対してリーチできる)

C.新しい企画をつくったり、新しいことを仕組化する能力が高い

望ましく無いスペック:

D.既存のフォーマットをうまく利用して効率よく仕事を進められる

E.言われた仕事をきちんとこなしたい

 

既存事業でも新規事業でもA、Bの能力は「優秀」の定義によく入ってきます。

一方、既存事業では、DやEが「優秀」の定義に入っているケースがあります。例えば、営業でも既存のフォーマットを使って既存事業に深く入り込み部長の意向に合わせて売上拡大できる人材は、とても貴重です。ですが、その人材は、「既存顧客に既存フォーマットを使った営業」だからこそ伸ばせる、とも言えます。この手のタイプの優秀さはフォーマットが決まっていない新規事業ではパフォーマンスが出せないことがほとんどです。

むしろ、カオスの中を楽しんで、新しいものを作り出していく能力、つまりCの能力が新規事業に求められる能力です。この手の能力は、既存事業の中ではルールを逸脱することになり、仕事の効率を損ねることもあります。つまり、既存事業にフィットして優秀、よりも「優秀そうなんだがなぜか既存事業にフィットしない」人の方が新規事業に向いている可能性が高いです。

 

4.撤退基準を明確にする

新規事業はかなり高い確率で失敗します。失敗したときに、撤退する、ということがそこに投下していたリソースを無駄にしない一つのポイントです。そこで、撤退基準を明確に決めておきたいのです。

 

撤退基準を決めることで、「やめるべき事業をやめることができる」ようになります。

もう一方で、残すべき事業を残す判断もしやすくなります。

新規事業は、事業拡大、黒字化までに時間がかかります。従って、簡単に撤退してしまうと将来の大きな果実がなる木を新芽のうちに摘み取ってしまうことにもなりかねません。

 

したがって、基準をベースに「撤退する」「しない」を判断する必要があるのです。その時の経営者の気分や、単年度業績によって撤退が決まってしまうと「将来の大きな果実がなる木」を切ってしまったり、「実る可能性のないゾンビ事業」を残してしまうということが起こってしまいます。

 

では、撤退基準はどのように決めるのか?

よくあるのは、結果指標によるもので、例えば、売上や利益等ですが、新規事業は結果のコントロールや見積もりが極めて難しいです。ですので、あまりお勧めしません。むしろ、「仮説と検証」と「全社戦略的視点」をもとに組み立てることをお勧めします

①仮説と検証

新規事業開発プロセスの初期段階では、ニーズ仮説(お客様はこのようなニーズを持っているに違いない)やシーズ仮説(この技術が実現できるに違いない)を検証していきます。さらにローンチ後は、ビジネスモデル仮説(この収益モデルだと利益率が〇%作れるに違いない)や市場仮説(この市場は〇億円規模になるに違いない)などが検証されていきます。

これらがもし間違っていたら(想定されたニーズがない、想定される利益率をどうやっても達成できない、等)、撤退する、ということが一つの判断基準です。

この際、「〇年後まで」という期限を付けるケースもありますが、あまり無理な期限を付けるとせっかくの芽がつぶされるケースもありますので、ある程度余裕を持ったスケジュール感にはしたいですね。

 

②全社戦略的視点

新規事業を単なる事業の柱を作る、というだけでなく、「〇〇業界に参入する橋頭保とする」「海外展開の橋頭保とする」という大きな目的のもとにスタートするケースがあります。

海外展開はその典型で、例えば、ASEAN進出を行いたい、等がそれにあたるでしょう。

ところが、例えば、途中でM&Aを行った結果として、シンガポールに拠点が作れた、インドネシアに拠点が作れた、ということがあると新規事業に無理にリソースを投下しておく必要が必ずしもないわけです。全社的に目的が達成された場合には、新規事業の役割はそこでストップ、すなわち撤退としてもよいでしょう。

 

まとめ

以上、大企業だからこそのポイントを記載しました。

大企業で新規事業を成功させるための4つの重要ポイント
1.大企業の強みを使う
2.TAMの大きな市場を狙う
3.時間軸を長めにとる
4.パイプライン的考え方をしておく

大企業ならではの失敗を回避する4つのポイント
1.部長クラスに任せない
2.邪魔しない
3.「優秀な人材」の定義を既存事業をベースに考えない
4.撤退基準を明確にする

 

新規事業に関連する理論は、スタートアップから転用されることが多いです。例えば、リーンスタートアップなどがそれにあたりますが、「事業を起こす」ということにおいてはそれほどの差はなく、スタートアップの方が研究が進んでいる、ということがその理由でしょう。

しかしながら、何でもかんでもスタートアップの真似をするよりも、大企業「だからこそ」のポイントを理解することによって成功確率を大きく上げられます。

 

皆様の新規事業開発の参考になれば幸いです。

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