「新規事業の立ち上げ」の確度を高めるには、「このような手順を踏むと新規事業が生まれやすい」というガイドラインを作ることが有効です。すると、慣れない現場のメンバーも何をすればいいかが分かり、有望な新規事業が生まれる確率が上がります。
「新規事業が生み出せない」という悩みを抱えていた製造装置メーカー・C社にも、この方法を提案。シナプスの担当コンサルタントが、企業の知見や考え方のクセなどを引き出し、加味することで、C社に合ったガイドラインを作成しました。
クライアントの新規事業開発背景・課題
新規事業開発のロジックと会社が持つ知見をミックス。
C社に合った独自の事業開発ガイドラインを作成する
「近年、新しい事業が生み出せていない」。製造装置メーカーのC社はそのことに危機感を覚えていました。技術力は高く、過去を振り返れば、業界に先んじて新規事業を生み出してきた経験も持っていましたが、知見は当時のプロジェクトメンバーが個々で持っているだけで、目に見える形で体系化されていませんでした。
そんなC社からの相談を受け、シナプスの担当コンサルタントは、「新規事業プロセスに関するガイドライン」の作成を提案しました。
ガイドラインとは、新規事業を開発するときに踏むべき手順を体系化したものです。
シナプスのガイドラインづくりの特徴は、 単に、新規事業開発の理論やフレームワークを提示するのではなく、
- 自社の過去の新規事業に関する知見を掘り起こす
- C社の産業特性や新規事業に対する考え方・ポリシーを加味する
というように、独自の要素を加えていくことです。
「『原理原則』だけでガイドラインをつくっても、使い物になりません。その産業や企業が持っている『クセ』を加えることで、初めて役に立つガイドラインがつくれます。原理原則とクセを融合させるのは難しいですが、それを実現するのが私たちの存在意義です」(担当コンサルタント・後藤匡史)
解決策・ソリューション
過去事例からのTips探しから基礎理論の提供、プラクティスのレビューまで。
ガイドライン作成を全面的にサポート
さまざまな部署から集まったプロジェクトチームと月1回、1年間にわたり、プロジェクトを進めました。シナプスからは、担当コンサルタントの後藤匡史がプロジェクトに帯同し、以下の4つの支援をおこないました。あくまでガイドラインの作成はC社のプロジェクトチームが主導し、当社の担当コンサルタントはそれを手助けする形です。
1.新規事業プロセスのレビュー、アドバイス
まずは、過去の新規事業プロジェクトについて、成功事例・失敗事例の双方を検証。当時の市場の状況や顧客ニーズ、競争環境、技術開発の状況、組織状況などの観点から整理していただきました。その内容を踏まえて、「あるべき新規事業プロセス」について、レビューやアドバイスをおこないました。
2.新規事業に関する基本的な理論の提供
ガイドラインを作成する際の参考にしてもらうために、顧客ニーズの把握を中心としたBtoB型の新規事業プロセスの理論について、1日半の研修をおこないました。
シナプスが新規事業開発において重視しているのは、VOC(Voice Of Customer)。顧客の声や顧客の実態から明らかになった、顧客の本質的なニーズです。単に取引先の要望を聞くのではなく、「こんなことを必要としているのではないか?」と仮説を立ててヒアリングすることで、VOCを抽出できます。
「とくにBtoB企業にとってはVOCが重要です。BtoB企業は、これまでやったことがない突飛な領域に飛び出すより、既存の技術・市場から新規技術・市場の領域に少しだけ染み出すくらいのほうが、お客様に支持される有望な事業を見つけ出せるからです。その際、最大のヒントになるのが、お客様のVOCなのです」(担当コンサルタント・後藤匡史)
また、新規事業のプロセスは、どのターゲットを狙うかによって、変わってきます。既存顧客に既存製品を売るなら、丁寧にニーズを聞き出す「顧客深耕」が必要ですが、同業界の新顧客に既存製品を売り出すには、横展開が必要になります。そうしたターゲット別の攻略方法についても、伝えていきました。
3.ガイドラインに関するレビュー、アドバイス
1と2をおこなった上で、C社のメンバーにガイドラインを作成していただきました。
ミーティングでは、毎回、シナプスの担当コンサルタントがテーマを提示。C社のメンバーに、そのテーマに沿った、過去案件や稼働中の案件の内容を話していただきました。
「たとえば、『顧客の別部署を攻略する方法について。基本的にはこのような考え方があるが、御社ではどうか』と私からテーマを提示します。そのテーマに沿って、プロジェクトメンバーに、知っている事例について話していただき、私が質問で深堀りすることで、具体的なTipsを顕在化させていきました」(担当コンサルタント・後藤匡史)
こうして現場で見つけ出した知恵と、2で学んだ基礎理論を、ガイドラインに落とし込んでいきました。
4.ガイドラインの実践に関するレビュー、アドバイス
本当に利用価値のあるガイドラインを作成するために大切なのは「実際に使うこと」です。すると、「もう少しこうしたほうがいい」「これは要らない」というように改善点が見つかり、ガイドラインが洗練されます。コンサルタントの後藤からもレビュー、アドバイスをすることで、より磨き上げていきました。
導入した成果・効果
ガイドラインとチェックシートが完成。
新規事業開発が始まり、好調に進捗しているものも。
新規事業立ち上げを効率よく行える、2つの最終成果物ができあがりました。
ひとつは「ガイドライン」。具体的には、以下のようなものを作成しました。
新規事業プロセス
- 新規事業の定義
- 新規事業プロセス全体像
領域ごとのポイント
- 既存領域の成功事例とポイント
- 新製品領域への拡大の成功事例とポイント
- 新市場領域への拡大の成功事例とポイント
VOC収集のスキル
事業計画書の項目と書き方
もう一つは「チェックシート」です。
事業計画を進める上では、何がOKで何がNGなのかを測る、評価基準をつくることが必要です。シナプスがチェックを推奨しているのは、次の4つの項目です。
1.売れるか?
- 適正な売り上げが確保できるか?
2.勝てるか?
- 競争優位性が構築でき、持続的に売り上げ、利益が獲得できるか?
3.儲かるか?
- コスト構造を鑑み、期待利益率が実現できるか?
4.出来るか?
- 技術的に実現できるか?
- 法的・コンプライアンス的なハードルはないか?
「この基準は個々の業界や企業によって異なります。たとえば『出来るか』については、『3年以内に単年度黒字にできそうか』『テストマーケティングは可能か』というような、その会社ならではのチェックポイントがあります。こうした意向やクセを考慮していくことで、表面的ではない、その会社ならではのチェックシートができあがりました」(担当コンサルタント・後藤匡史)
現在はこのガイドラインとチェックリストに沿って新規事業の開発が進められています。事業立ち上げに向けて、着実に進捗している事業も見られるようになり、C社内の期待感は大きく高まっています。