強い営業組織を作るために、営業責任者・マネジャーが考えるべきこと

売上を向上するために営業組織を強化したい、と思うのは営業をマネジメントする立場の方、あるいは経営に携わる方であればだれでも考えることです。

では、営業組織を強化するためには何をすべきなのでしょうか。ここでは、営業組織の強化のためのポイントを次の順でご説明していきます。

  1. 営業が抱えている問題とは?
  2. 営業力を高めるために
  3. 強い営業組織の条件
  4. 営業マネジメントのポイント

営業が抱えている問題とは?

営業が抱える問題は様々あります。例えば、お客様のニーズが聞き取れない、とか、忙しくて一つ一つの商談に向き合う時間がない、とか、商談が長期化してしまう、等ですね。実際、多くの営業組織で次のような問題が見られます。

  • 御用聞き営業からの脱却・・・ソリューション提案ができる営業組織にしたい
  • 営業が忙しすぎて営業業務に時間が取れない・・・生産性向上が必要
  • 営業個々人のスキルがたこつぼ化してしまいスキルのばらつきが大きい・・・営業スキルの統一化をしたい

営業が抱えている問題は、総論で書くと上に挙げたように一見同じようなものに帰着しますが、具体的には、組織状況や商材、お客様の状況によって様々な問題点があるものです。まずはこれらを整理してみましょう。

一般に営業活動は次のプロセスで進められます。

  • ① 営業戦略の策定・・・ターゲット設定やアカウントプランの作成
  • ② 商談準備
  • ③ 一次訪問・・・顧客との関係性強化
  • ④ 顧客ニーズの把握
  • ⑤ ソリューションの組み立て
  • ⑥ 提案、プレゼンテーション
  • ⑦ クロージング、交渉力
  • ⑧ 製品・サービス提供と満足度向上

それぞれの工程でどのような問題が発生しているのか、ひとつずつ見ていきましょう。

① 営業戦略の策定・・・ターゲット設定やアカウントプランの作成

営業戦略の策定を怠ると、ターゲット顧客が決まっていない、顧客の攻略方針が決まっていないということが起こります。

その結果として、
「重要でないお客様に時間をかけてしまう」
「適切な顧客訪問タイミングを逃してしまう」

等が想定されます。これらが起こっている場合、営業戦略の策定を見直す必要があるでしょう。

② 商談準備

商談準備を怠ると商談品質が下がります。その結果として、

「商談回数が増える」
「お客様のニーズがつかめない」

等が起こりえます。

商談準備は営業個々人の行動スタイルにも大きく影響します。一般に優秀と言われる営業は事前に「お客様の情報を調べ」「仮説を立てて商談資料を準備する」ことが多いです。
組織的に対応する場合は、顧客情報や業界情報のデータベース化や商品紹介資料の整理などを行っておくとよいでしょう。

③ 一次訪問・・・顧客との関係性強化

一次訪問は、新規開拓営業とルート営業では難易度が変わります。

一般にルート営業業態の場合、お客様は営業に会う必然があります。(ルート営業は、お客様が商材を使い続けていることがほとんどだからです。)

それに対して新規開拓営業の場合、お客様は営業に会う必然が基本的にありません。気に入らなければ会わなければよいだけなので、言い換えれば、特に新規開拓営業には顧客との関係性強化が求められます。新規開拓営業では、

「アイスブレイクが苦手」
「顧客とコミュニケーションが取れない」
「顧客と仲良くなれない」
「顧客が情報を話してくれない」

等が良く出てくる問題でしょう。

④ 顧客ニーズの把握

顧客ニーズの把握は、一次訪問の際に行われるケースもあるし、具体的な引き合いを頂いた後に行われるケースもあります。

しかしながら、よほど製品力が強い場合を除けば、どんな状況であっても顧客ニーズの把握は常に行うべき、業種・業態に関わらず営業の必須行動の一つと考えても良いでしょう。

顧客ニーズの把握がうまくいかないと、
「顧客のニーズを把握できていない」
「顧客の課題発見ができない」
というダイレクトな問題はもちろんのこと、その結果として、
「提案が刺さらない」
「価格競争に陥ってしまう」
「受注率が上がらない」
等が想定されます。

⑤ ソリューションの組み立て

ソリューションの組み立ては、顧客のニーズを把握した後、自社が提案できる製品・サービスを整理し、顧客の課題を解決する提案をつくる作業です。

ソリューションの組み立てがうまくいかないと、
「顧客の課題は分かっているのに発注いただけない」
「結局物売りになってしまう」
ということが想定されます。

⑥ 提案、プレゼンテーション

提案、プレゼンテーションは受注を取るための華々しい舞台です。この成否によって受注率が大きく影響します。しかし、実態は、提案・プレゼン一発で決まるのではなく、その前後の様々なやり取りの中で受託企業が決まっていきます。ここがうまくいっていないと、
「良い提案だったが受注できなかった」
「結局コンペ負けしてしまった」
等が想定されます。
稀に提案でひっくり返されることのないようにプレゼンテーション力を上げるだけでなく、提案前後の活動もミスのないようにしたいものです。

⑦ クロージング、交渉力

クロージング、交渉力は顧客から自社を選択していただいた後、実際に受注、契約書にサインするまでの流れのことです。
業界によっては、製品選択、会社選択まではユーザ部門だが契約段階で購買部とのやり取りが始まる、ということも少なくありません。また、顧客が決定するまでには様々な条件を付けてくるケースもままあります。これらの無理な交渉に負けないようにしたいものです。ここがうまくいっていないと、

「かなりの値引きを飲まされてしまった」
「無理な条件で受託せざるを得なかった」
「商談が長期化してしまう」
「顧客の社内で検討がストップしてしまった」

等が起こってしまいます。

特に、提案から受注までのリードタイムを短くしたい、という場合には提案そのものというよりもクロージング活動が大きく成否を分けるものです。

⑧ 製品・サービス提供と満足度向上

業態にもよりますが、営業活動は売ったら終わり、ではなく販売後いかに満足いただきリピートにつなげるか、これも重要な活動です。
近年、Saas型ビジネスを中心に「カスタマーサクセス」というポジションがフォーカスされていますが、これはまさに製品・サービスを導入して顧客のビジネスを成功に導くことによって満足度向上を実現するポジションでもあります。ここがうまくいっていないと、
「リピートが頂けない」
「解約率が高い」
「他の部署をご紹介いただけない」
等が問題点として挙がってきます。

以上、営業が抱えている問題は様々ですが、自組織、あるいはご自身の問題がどこのプロセスで起きているのか、まずは具体的につかみたいところです。

営業力を高めるために

営業力をつけたい、これは多くの営業が望んでいることでしょう。また、営業マネジャーも部下に営業力を付けて欲しいと常に願っています。

とはいえ、簡単に「営業力」と言っても上述通り様々な力≒スキルが存在します。どのようなアプローチがあるのでしょうか?

また、先ほど同様営業のプロセスごとに考えていきましょう。

① 営業戦略の策定・・・ターゲット設定やアカウントプランの作成

まずは個々の営業、商談に入る前に戦略を組み立てていきたいものです。営業活動の時間には限りがあります。そのため、「どのお客様にどれくらい会うか」「どの製品にどれくらい時間を使って説明するか」は営業の重要な意思決定です。
ここをおろそかにしてしまうと、「頑張っているけど、なかなか成果につながらない」ということになりかねません。
個々の営業力の前に営業戦略を見直してみる、ということも重要です。

② 商談準備

お客様訪問前にあなたはどのくらい準備時間を取っていますか?

商談準備には様々なやれることがあります。例えば、目的・ゴールの設定や、お客様の企業課題の把握、自社商材の整理、顧客課題の仮説構築、提案ストーリーの検討、商談ロールプレイなどです。

この中でも確実にやっておきたいのは仮説を立てることでしょう。お客様はどんなことに興味がありそうで、どんな会話になりそうなのか。このイメージを持っておくと、持っていく提案資料や製品説明資料も決まりますし、事前に調べておかなければならないことも見えてきます。お客様訪問前や「明日、お伺いします」というリマインドメールを打つ前の10分で良いのでそのイメージを持っておきたいところです。

③ 一次訪問・・・顧客との関係性強化

一次訪問、特に初めて訪問するお客様とどう接するか、どう関係性を構築するかは重要な営業行動の一つです。
一般には「コミュニケーション能力」とひとくくりにされてしまうところです。


コミュニケーション能力をつけるには
コミュニケーション能力には様々な要素があります。言語(言葉の内容、意味)、非言語(見た目や動き、声や雰囲気など)の両面が影響があるでしょう。重要なポイントは様々ありますが、最低限、次の3つは気を付けて改善したいですね。

清潔感のある見た目

まずは最低限のこととして「嫌われないための見た目」は必要です。美男美女でなければダメということではなく、見るからに不潔な恰好や相手をリスペクトしていない恰好(例えば、スーツを基本とするお客様先にTシャツ短パンで行く、等)はその場で「この営業はダメだ」と思われてしまう可能性が高いです。

お客様と「会話」する

続いて会話です。当たり前の話ですが、こと数字を背負っている営業は「自分の商材を売らんがため」のトークが多くなってしまいます。お客様の質問に回答したり、お客様が話している内容に興味を持ちそれに質問する、等のごく当たり前の会話が必要です。
そのためにも、まずはお客様が話している内容を正しく理解する、正しい言葉で話す、等、日本語コミュニケーションの場合は中学校卒業程度の国語力を駆使する必要があるでしょう。

約束を守る

3つめは約束を守ることです。お客様との約束、例えば訪問日の設定や資料の提示など、を取り交わしたら確実に実行することです。

上に挙げた3つは極めて初歩的なことで多くの方が「出来ている」と感じておられることでしょう。それだけに出来ていなかった場合にお客様との信頼関係が作れない、ということが多々あります。改めてご自身の普段の行動を見直してみましょう。


一次訪問時に出来れば確認しておきたいこととして、商談に関わる基本事項があります。すなわち、BANT(あるいはBANT-C)の項目です。

B:Budget・・・顧客の予算状況
A:Authority・・・意思決定権限状況、誰が意思決定者か
N:Needs・・・顧客ニーズ
T:Timeframe・・・お客様の商品検討、あるいは導入の時間軸
C:Competitor・・・(自社にとっての)競合、既存利用製品
この情報は確実に把握しておきたい情報ですね。

④ 顧客ニーズの把握

顧客ニーズの把握には「ニーズを引き出す話し方」が必要です。話し方、と言っても単なる話法ではなく、いかに相手に話をしていただくか、相手に話していただくためにテクニックとして、ヒアリング力が必要になるでしょう。では、ヒアリング力をつけるにはどうしたらよいでしょうか。


ヒアリング力は、単なる「質問の仕方」だけではありませんよ。こちらもまた3つのポイントで記載します。

プロフェッショナルであること

大前提として、お客様にGoogle検索(最近では生成AI含むChatGPTなども含めて)という手段があり、表層的な知識は求めていないことがほとんどです。では営業に期待することは何か?それはプロフェッショナルとしてお客様の課題を整理してほしい、ということです。

その製品・サービスのプロとして、あるいは、様々なお客様を見てきた中で共通して起こりやすい課題などをベースとして話をしたいものです。

例えば、「一般的には〇〇についてお困りのお客様が多いですが、貴社はいかがですか?」いうような問いかけです。あるいは、医師が患者を問診するように様々な質問から顧客がどういう状態にあるのか、を明らかにすることで、お客様の中でより課題が明確になっていきます。

仮説を立てる

より良い質問には事前により良い仮説を持つことが必要です。

「お客様は以前〇〇だと言っていた、ならば〇〇に困っているに違いない」
「この業界では△△課題だ、ならばこのお客様も同じく△△に困っているに違いない」

などですね。仮説を立てるためにはお客様との会話からヒントを見つけたり、事前準備でお客様情報を整理することで見えてくることが多いものです。だからこそ、事前準備を怠らないようにしたいですよね。

お客様の言葉から掘り下げる

良いヒアリングとは、こちらが聞きたいように質問することではありません。お客様自身から自然に話して頂く必要があります。そのためにも此方から用意した質問をぶつけるのではなく、お客様から出てきたキーワードを使って掘り下げていきたいものです。そのために使えるのが「リフレーズ」というテクニックで、お客様が言ったフレーズをそのまま繰り返す、というものです。

例えば、
お客様:「最近、わが社でもコストダウンが厳しくなって来てね」
営業:「コストダウン?」
お客様:「そうそう、昨今の原料高の影響でこの部門にも。だから生産性向上が求められているんだよね」
営業:「生産性向上が求められていると」
お客様:「特に事務作業の生産性が低い、ということが課題に上がっていて」

というような流れです。

⑤ ソリューションの組み立て

ソリューションの組み立てに必要なのは「課題解決力」です。

◆課題解決力を身につけるのは
課題解決力のためには大きく3つのポイントがあります。

(1)    課題を捉える

「ソリューション提案」と言いながらお客様の課題に向き合っておらず自社製品を売りたいだけの提案をたまに見かけます。これではお客様の困り事は解決しませんよね。
通常、課題解決のためには問題解決のプロセス、すなわち、
問題の定義-問題点の発見―原因分析-解決策立案
のプロセスで考えていきます。顧客のニーズが把握出来たらそこから、「なぜその事象が起こっているのか、解決すべきポイントはどこか」を明らかにしたいです。そのためにも問題解決のスキルが必須になるでしょう。

(2)    オープン思考で考える

営業は今日の売上を考えるととかくすぐに売れる「自社製品」で提案を組み立てたくなるものです。そのこと自体を否定するわけではありませんが、お客様にとって必要でないものを売ろうとすればそれは押し売りになってしまいます。お客様にとって必要なものを自社で取り扱っていなければ、他社品を調達してでもご購入いただく、すなわち「オープン思考:自社で出来なければ他社と協業してお客様の課題を解決する」というスタンスが必要になるでしょう。

(3)    トータルソリューションを考える

お客様の困り事は一つではありません。困り事を出来るだけ多く解消するためには、一つの課題だけでなく複数の課題に対する解決策を提案したいものです。すなわち「トータルソリューション」の提言です。

通常、トータルソリューションを作ろうとすると営業だけの努力ではままならないことがほとんどです。そのため、お客様の課題を発見したら、今の自社にはできない解決策を製品開発し、自社のソリューションをトータル化していく、ということも必要になるでしょう。

⑥ 提案、プレゼンテーション

提案力、プレゼンテーション力を上げるにはどうしたら良いか。提案やプレゼンテーション、と言われると多くの方がイメージするのは、「パワーポイントのつくり方」「感動する話し方」ではないでしょうか。実際、当社のプレゼンテーション講座を受けたい方でも「話すのが苦手でプレゼンテーションの勉強をしたい」という方もいらっしゃいます。
勿論、資料のつくり方、話し方は大事ですが、その前に重要なのは「何を提案するか?」「どういうストーリーで提案するか?」です。

プレゼンテーションは、
「コンセプト(何を提案するか)」
「シナリオ(どういうストーリーで提案するか)」
「ドキュメント(パワーポイントのつくり方)」
「デリバリ(話し方)」
という4つのプロセスから構成されます。

提案力を上げたい、というときにまず取り組んでいただきたいのは「コンセプト」です。当社ではコンセプトを作るためにFABフレームワークを推奨しています。

F:Feature・・・提案の概要(≒提案書のタイトル)
A:Advantage・・・他社と比較してなぜ当社を選ぶとよいのか?
B:Benefit・・・この提案を採択するとお客様にとってどんないいことがあるのか?

です。このFABフレームワークでしっかりコンセプトをつくることでシャープで訴求力のあるプレゼンの土台が出来上がります。それにより、一段上の提案力を手にすることができるでしょう。

⑦ クロージング、交渉力

最終的な契約に至るにはクロージング、交渉力は重要なスキルです。
◆クロージング力をつけるには
クロージングを確実に行うには3つのポイントがあります。

①    タイミングの見極め

お客様には適切な「買いたいタイミング」があります。特にBtoB型のビジネスの場合、お客様は予算決定タイミングで購入の意思決定をすることが多く、それより早くても遅くても意思決定が出来ない、ということが往々にしてあります。
したがって、お客様がいつ意思決定したいのか、その見極めを行っておく必要があります。BANT-CのT:Timeframeを把握していればそれに合わせた意思決定が行われる、と考えましょう。
また、お客様の予算決定タイミングとは関係なく、お客様が買いたいかどうか、その状況を把握する必要もあります。その時によく使われるテクニックがテストクロージングです。クロージングを無理にやろうとするとお客様は「押し売りされた」と感じて逃げてしまうことが多々あります。そのため、クロージングに至るチェックポイントを確認することでクロージングができるかどうかのテストをするわけです。例えば、「ご提案は良いと感じましたか?」「お見積書にはご納得いただけましたか?」「もし条件が合えば購入の検討をしたいと思いますか?」などです。直接「買いますか?」と聞く前に感触を探るための質問です。これによってお客様側の感度が上がっているかどうかもわかるでしょう。

②    DMUの見極め

BANT-CのA:Authorityの確認ですが、複数の方、場合によっては複数部署が意思決定に関わる製品・サービスの場合、意思決定構造、DMU:Decision Making Unitを理解することをお勧めしています。誰が意思決定に関わっているのか、キーパーソンは誰なのか、誰が当社を押していて、誰がバリアになっているのか、等を把握し、お客様内で検討がスムーズに進むよう心がけたいものです。

③    バリアの確認

お客様担当者が購入したい、と思っても社内で様々なバリアが合って購入できない、ということは多々あります。例えば、「今期は予算がもうない」「隣の部の部長が反対している」「ユーザ部門の協力が得られない」「忙しくて検討に時間がさけない」等です。お客様が導入したいと思っていてもバリアが大きければその結果として検討が止まる、終わる、ということがありえます。そうならないためにも、営業はお客様担当者と協力して社内バリアを超えるように進めていきたいものです。また、お客様担当者が渋っている場合には素直に「何がバリアになっているのか?」を聞いてみるのも選択肢でしょう。

◆交渉力をつけるには

交渉とは「駆け引きのテクニックを駆使して相手から利益を奪うこと」ではなく、自社とお客様の両方がWinWinになるようにお互いの利害関係を調整することです。そのためにも、二つの理解をしておきたいところです。すなわち、相手の要求の理解と交渉カードの創出です。
まず、相手の要求は確実に理解をしておく必要があります。何が譲歩出来て何が譲歩できないのか、相手にとって重要なものは何か、これが分かると交渉がしやすくなります。
また、一方で自分の手札、交渉カードは出来るだけ多い方が交渉を有利に運ぶことができます。値引き余地は勿論、追加のサービスや他の取引でお客様にとってのメリットを付ける、等が考えられるでしょう。

⑧ 製品・サービス提供と満足度向上

製品・サービス提供時には、お客様が期待されているものを確実に納品することです。当たり前のようですが、営業とは別に納品部隊がいる場合、営業が納品後のフォローをしていないケースが散見されます。もし、納品時にトラブルがあった場合、お客様が最初に頼るのは営業です。なぜなら、今まで営業と会話をしてきたからで、もし営業がその状況を知らなければお客様にとっては「売り逃げされた」と思ってしまうかもしれません。
お客様がリピートをするのは購入した製品・サービスに満足するからです。営業の心構えとしてお客様がご満足いただくまでフォローする、ということが必要でしょう。

営業力を高めたい、というときに次のようなことで悩まれているケースを見かけます。その対策も記載しておきましょう。

◆値引きをしない売り方

どんな営業でも一度は値引き交渉を受けたことがあるでしょう。業界によっては、特に製品差別性が無い場合には値引きが常態化しているケースがザラです。それでも値引きを回避するにはどうしたら良いか?
まず提供するものが他社と全く同じ場合には値引きから逃れるのはかなりハードルが高いです。それは製品そのものだけでなく、例えば納期や納品の仕方、あるいは営業の情報提供やコミュニケーション力まで含めて、ということです。通常、そこまで同じになるというケースはないので、お客様が自社を選んでくださっているポイント、すなわち自社の他社にはない独自のウリ:USP・・・Unique Sales Proposition を見つけておきたいものです。それがあれば次にやるべきなのはお客様の「判断基準」を変えて頂くことです。通常、他と差が無ければ価格以外で選ぶ要素がない、ということになります。とすれば、「他との違い」が見えてくればよいわけです。

◆アップセル、クロスセルのやり方

アップセル、クロスセルとはそれぞれ、

アップセル:より多くのモノを買っていただく、あるいはよりハイグレードのモノを買っていただく
クロスセル:他の製品も買っていただく

というものです。今まで買っていただいたもの以外に新たに購入いただくため、お客様にとっては「追加予算を取る」ためそれなりのハードルがあるでしょう。

アップセル、クロスセルのいずれも第一条件は「既存の製品に一定のご満足を頂く」ことです。満足しなければ、アップセル、クロスセルの前にリピートすら危ういです。

一方、単に満足するだけだと、なかなかアップセル・クロスセルにはつながりません。「より良いもの・多くのもの」や「他の製品」を購入することでお客様にとってよりメリットがある、ということを期待して頂く必要があります。

特にリピート性の高い製品・サービスでは、製品・サービス提供時に「今までの課題は〇〇だったが、それは今回の製品・サービスで解消された。しかし、より良いものにしようとすると新たに△△が課題ではないか」というようにお客様と課題について合意を取っておく必要があります。この課題に合意が出来ればそこから先は新たな商談として動いていくことになるでしょう。

強い営業組織の条件

営業力は個々の営業がつけるべき力≒スキルです。これを組織的に行っていくのが「強い営業組織」でしょう。

強い営業組織には4つの共通要素があります。

  • ① 営業の行動が多い
  • ② 営業の質の共有
  • ③ 勝ちパターンがある
  • ④ 人材育成の仕組みがある

①    営業の行動力が多い

営業のスキルは様々ありますが、営業が実績を上げるためには「最低限の行動力」が必要になります。当たり前ですがお客様と会話しなければ商談にはなりませんし、訪問しなければ会話にもならないわけです。昨今、直接訪問しない「インサイドセールス」型の営業も増えてきていますが、これもお客様にメールや電話で連絡しなければお客様との会話は出来ません。

そして、行動量に比例して受注量が積みあがるのも当たり前のことです。したがって、強い営業組織とは、「営業が確実に行動量を保っている」状態を作り出せている組織と定義できます。

②    営業の質の共有

量が出来たら次は質です。

営業は慣れてくると自分一人で完結できることが多く、その結果として成功事例や失敗事例が共有されにくい傾向があります。特に営業インセンティブが営業同士の競争によってできている組織(例えば、売上No.1にはボーナスが普通より多く出る)であれば、自分のテクニックを他の営業に公開したりしないでしょう。

ノウハウの独り占めを防ぎ、具体的な営業行動、例えば営業トークや商談に利用した資料、ソリューションなどを共有することで全体の質向上につながります。

どんな営業組織でもトップセールスがそれなりに存在し、一人でかなり売上を上げているシーンも多々あります。しかしながら、強い営業組織は営業の平均値が高い、すなわちトップセールスとその他の営業の間の差がそれほど大きくなく全体的に高いレベルにある状態が保たれています。

そのためにも営業の質を高めるための具体的な行動を共有化する仕組みが必要です。

③    勝ちパターンがある

質の高い行動が要素として集まってきたら、「勝ちパターン」すなわち、「お客様のこういう状況にはこうやったら売れる」という型をつくることができます。強い営業組織は、自組織の勝ちパターンを形式知として蓄えているものです。そして、お客様にも様々なタイプがいますので、通常はいくつかの型がパターン化されています。

④    人材育成の仕組みがある

こうしたことを実現するには、やはり個々の営業が一定以上のスキルをもっている必要があります。とかくスキルアップは個々人任せになりがちですが、強い営業組織は人材育成の仕組みが組織内につくられ、Off-JT、OJT問わず、しっかり運用されています。

営業マネジメントのポイント

強い営業組織のために何が必要なのか、それが営業マネジメントです。

営業マネジメントは、営業活動をより健全に適切に進めるために行うものです。決して、マネジャーが怒鳴り散らすためにあるものではありません。
では、営業マネジメントとは何を行うべきなのでしょうか?

営業マネジメントでやるべきことは次の4つです。

  • ① 営業戦略の作成と浸透
  • ② 行動管理
  • ③ 勝ちパターンの策定
  • ④ 人材育成

①    営業戦略の作成と浸透

営業戦略とは、「どのお客様にどれくらい会うか」「どの製品にどれくらい時間を使って説明するか」を決めることです。個々の営業の方針として持っているべきものですが、組織全体としても決めておきたいところです。営業組織は事業全体の売上拡大機能を担うべきところでもあり、事業戦略やマーケティング戦略で決められた「ターゲティング」「ポジショニング」とも連動させるところでしょう。
この意思決定が営業マネジャーの仕事の一つでもあり、それを個々の営業に浸透させる必要もあります。
個々の営業への浸透は一度説明すればよい、というものではなく日々営業の行動管理をする中で実現したいものです。

◆営業戦略を策定できない場合はどのようにしたらよいか?

 営業戦略の策定は片手間で出来るものではありません。できればそれ用に時間を取りたいものです。特に営業組織で見るべきはターゲット顧客の優先度でしょう。良く取られるのは、
・ポテンシャル(お客様の予算規模が大きいかどうか)
・親密度(顧客内シェア)
の2つの観点で判断していきます。一般に、ポテンシャルが大きく顧客内シェアが高いお客様は「重要なお客様」と考えてよいでしょう。

◆営業戦略が伝わらない場合はどのようにしたらよいか?

営業戦略の浸透には、単に説明するだけでなく行動管理の中で浸透させていきたいものです。そのときによく用いられるのが「ABCランク」と呼ばれるものでお客様をAランク、Bランク、Cランクなどとランク分けをし、Aランク顧客は例えば週に1回以上訪問しましょう、等ルール決めをすることによって営業戦略の浸透を実現します。

②    行動管理

行動管理は通常、KPI(Key Performance Index)を設定してその状況を測ります。よく使われる指標は、

・コンタクト数:お客様に連絡を取った回数
・訪問数:お客様と面談した回数
・提案数・見積提示数:お客様に提案、見積を提示した数
・受注数:受注した数

あたりでしょうか。

例えば、ルート営業型の営業の場合、平均して1日で4-5件のお客様を訪問することが可能です。あるいは、インサイドセールスのような架電を中心とした営業の場合は1日10-20コール程度を実践することもできるでしょう。これらの標準的な目標を社内で設定し、行動目標の達成を指示します。

また、行動の質については、次のフェーズに進むパーセンテージ、すなわち、

・訪問獲得率:訪問数/コンタクト数
・見積機会獲得率:提案数・見積提示数/訪問数
・受注率:受注数/提案数

等の指標で確認します。これらの率が組織内で低いようであれば、改善すべきポイントになるでしょう。

◆情報共有が遅い、案件進捗がわかりづらい場合どうしたら良いか?

近年、SalesForce.com等のSFA(Sales Force Automation)システムがかなり浸透してきています。また、以前から営業日報はどこの組織でも当たり前に利用していることでしょう。これらを活用して個々の案件の進捗状況を把握するのが一般的です。その時に必要になるのは、営業が毎日報告を行うことです。営業は「お客様対応が忙しい」という理由で報告作業を後回しにしがちになりますので、行動習慣にしていただく必要があるでしょう。
そのために、営業マネジャーとしては毎日チェックして営業の行動に興味をもつ、ということが必要になります。営業としても毎日見られていることが分かればなるべく入力しようという気持ちになるでしょう。

◆営業プロセスを見える化したいがどうしたら良いか?

上述通り、KPIの設定がポイントになります。その前に、自社の営業プロセスの整理が必要になるでしょう。ポイントになるのは、「なにがチェック出来れば営業進捗が分かるのか?」「何がチェック出来れば受注率が上がるのか?」を整理することです。

◆ヨミの管理が出来ていないがどうしたら良いか?

「ヨミ」とは、売上(または受注)の着地予測のことを指します。よくリクルート式ヨミ表というものが使われますが、各案件ごとに受注確度を示した一覧のことです。ポイントになるのは、

・どのような案件があるのか?
・想定金額はいくらか?
・売上(受注)確度はどの程度か?

を示すことです。

ヨミの精度が上がると、自社が期末にどの程度売上を上げられるのかが予測できるとともに、数字が足りない場合のアクション検討や、目標を大きく超えそうな場合の手当てが容易になります。想定金額はお客様の予算の確認を行っておくことがポイントになるでしょう。

また、売上(受注)確度は個々の営業の感覚を信じるしかありませんが、例えば「意思決定者の内諾を取れていれば〇%」などのように確度の定義を社内で統一しておくことも一つの選択肢です。ヨミの管理を始めると徐々にメンバーの感度が上がり、より精度の高い予測になっていきます。

③    勝ちパターンの策定

勝ちパターンの作成は、基本受注した案件を振り返ることで行います。
なぜ受注できたのか、その時のお客様の状況と営業側の行動を整理していきます。その結果として自社が受注できるパターンが明確になるでしょう。
同時にその際にチェックしておきたいのが競合他社の状況です。寡占業界でない限り、案件ごとに競合が異なることでしょう。そのため、その案件にどういうプレイヤーが関わっていたかを確認しておきたいところです。

◆競合他社の分析をどうやってやるか?

競合他社の分析には情報収集が欠かせません。情報収集の仕方としては、一つはお客様から情報を教えて頂く、ということと、公開情報などから探るということの2点です。特にお客様は冷静客観的に各社を見ていることが多いので、その評価を聞いておきたいところです。

④    人材育成

行動管理が出来ているとそのまま人材育成に活用することができます。
行動量が少ない場合、なぜ少ないのか、どうやって増やすのか。
営業の質が低い場合、なぜ低いのか、どうやって上げるのか。
営業自身がどこが苦手なのかはKPIをチェックすることで見えてきます。それに対してなぜ低いのか、何が苦手なのか、をマネジャーが一緒に考えることで営業自身のストレッチポイントが見えてきます。

◆フィードバックが苦手だがどうやってやればよいか?

マネジャーの中には、「部下にフィードバックするのが苦手」と考えていらっしゃる方もいます。ほめるのが苦手な方、しかるのが苦手な方、いずれもあるかもしれません。

いずれの場合にもまずは客観的な事実からスタートするのが良いでしょう。社内の標準的なKPIの状況と比較してその営業の状態はどうか?どこが足りないのか。適切なフィードバックを行うには営業の活動そのものが見えていないと難しいものです。そのためには同行営業をするなど、営業の活動を詳細にチェックすることによって何が出来ていないのかを確認したいところです。

なお、新米営業の場合は、「基本」が出来ていないことが多く、手取り足取り教えてしまったほうが良いケースが多いです。一方で、ベテランの営業になると問題点が分かれば自分で改善できることが多いので、いわゆるコーチング型のアプローチが向いているでしょう。

以上、営業組織を強化するためのポイントを記載しました。
営業は組織の置かれた状況や業界、商材によって活動の仕方はかなり変わります。自社にとって何が必要なのかを見極めるのも営業マネジャーの役割でしょう。
まずは自社の問題を整理したうえで何が足りないのか、を参考にしてみてください。

この記事のライター紹介


コンサルティング事業責任者 後藤匡史

株式会社シナプス 常務取締役 コンサルタント。

10年以上のマーケティング・コンサルティングの経験を有する。化粧品、外食、エンターテイメント、メディア、サービス、精密機器、電子機器、電気部品、医療機器、農業など数多くの領域を支援してきた。

多くの企業が陥る「顧客不在の戦略立案・実行」に対して提言。真のニーズを中心とした組織へと生まれ変わらせることをミッションとして、数多くの企業を変貌させてきた実績を持つ。

研修では、マーケティング研修のほか、問題解決スキル研修やファシリテーション研修での実績が豊富で、「すぐに使えるビジネスの実践的なスキル」を伝える講師として評判が高い。SMBCコンサルティング セミナー講師。

1973年生まれ、2007年シナプス入社、2008年取締役就任、2021年より現職。2021年よりアグリテックスタートアップのテラスマイル株式会社の非常勤取締役を兼任。


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