あの方の凄さに迫る。スーパーマーケッターへの道
2月27日(月)、第1回シナプスCMOセミナーを開催しました。
講師は、日本マクドナルド株式会社上席執行役員 マーケティング本部長の足立光氏です。
業績の低迷が数年間にわたって続いていた同社。2015年の入社後、V字復活に大きな貢献をされた、足立氏の講演を下記に紹介します。
まずは、マーケティングの定義から。マーケティングは100人100様であって、明確な定義はありません。足立氏は本日の参加者との意識共有として、「マーケティング」を以下のように定義づけました。
- 人の心を動かす、動かして、何かをしていただくこと
- ビジネスのために必要なことは、直接・間接含めてなんでもやること
- 継続的に利益を出す「仕組み」をつくること
そして、「マーケッター」の定義は、上記を実行する人なので、以下のとおりとなります。
- 人の心を動かす「扇動者」
- なんでもやる「プロデューサー」
- 儲かる仕組みを作る「経営者」
例えば、選挙で1票投票してもらうのも、シャンプー1本買ってもらうのも、高価な装飾品を買ってもらうのもすべて、「人の心を動かす」という意味で、すべてマーケティングの範疇です。また、マーケッターには必ずしも専門的な知識は必要ありませんが、「プロデューサー」として、広い範囲での知見が必要です。
以降は、足立氏による「スーパーマーケッターになるために絶対にやってはいけない12のこと」+1、の内容を紹介します。
マーケッターがやってはいけない12のことは、以下のようにinputとoutput、attitudeの3つにわかれています。
input:1~4
1. 移動中にスマホでゲームをしない(Inputs & Practice EVERYDAY)
2. 朝から晩まで仕事に打ち込まない(DIVERSIFY Your Friends)
3. 仕事が順調なことに満足しない(Get Out from Your COMFORT ZONE)
4. 平和で安定した生活をしない(Stay Tuned to TRENDS)
output:5~8
5. 面白いアイデアを追わない(Start from OBJECTIVE & GOAL)
6. あれもこれもやろうとしない(Focus on BIG Things)
7. 「堅実」に積み上げようとしない(DIFFERENTIATE, or Die (Go Extreme))
8. 目の前の仕事だけに集中しない(Spend Your 20% to STRUCTURAL Changes)
attitude:9~12
9. いさぎよく負けを認めない(NEVER Give-Up)
10. 安易に上司に従わない(Never COMPROMISE Because of Boss/Consumers)
11. 革新的な計画にみんなの理解を得ようとしない(Permission-Less INNOVATION (Take your own risk))
12.マーケティング(自分)が主役にならない(Excite Your TEAM, not you)
input:1~3
1. 移動中にスマホでゲームをしない(Inputs & Practice EVERYDAY)
時間は貴重です。電車等での移動中とは、実はマーケッターとしてのインプットをしたり、訓練をするのに極めて最適な時間なのです。その貴重な時間を最大限、使わない手はありません(ゲームをしている時間がもったいない!)。マーケッターに必要なのは、インプットの量。というのも、アウトプットが、インプットを上回ることは絶対にないからです。とにかく、いっぱいインプットすることが重要です。
移動中は、本や雑誌からインプットするのはもちろん、マーケッターとしての訓練(プラクティス)もできます。例えば、電車の中は広告だらけです。その広告の「良い悪い」を、自分なりに、そのターゲットや理由も含めて「考える(練習をする)」ことが、マーケッターとしての訓練になります。
マーケッターの「基本」となる書籍と雑誌は以下の通りです。社内で「共通言語」を持つのが大切なので、これらは部下に読むことを進めています。
足立氏 マーケッター基本10冊
- マーケティングの革新―未来戦略の新視点 セオドア レビット (著)
- コトラーの戦略的マーケティング―いかに市場を創造し、攻略し、支配するか フィリップ コトラー (著)
- グロービスMBA マーケティング
- 独自性の発見 ジャック・トラウト (著)
- そんなマーケティングなら、やめてしまえ!―マーケターが忘れたいちばん大切なこと セルジオ ジーマン (著)
- あのブランドばかり、なぜ選んでしまうのか――購買心理のエッセンス アンドレアス・ブーフフォルツ (著)
- 新しいマーケティングの実際 佐川 幸三郎 (著)
- マーケティングゲーム―世界的優良企業に学ぶ勝つための原則 (Best solution) エリック シュルツ (著)
- ブランドは広告でつくれない 広告vs. PR アル・ライズ (著), ローラ・ライズ (著)
- 戦略PR 空気をつくる。世論で売る。 本田 哲也 (著)
足立氏 マーケッター基本10誌
- 日本経済新聞
- 日経流通新聞
- Advertising Age
- 宣伝会議
- 日経トレンディ
- 販促会議
- ブレーン
- チェーンストア・エイジ
- 日経アジアンレビュー
- Harvard Business Review
2. 朝から晩まで仕事に打ち込まない(DIVERSIFY Your Friends)
本や雑誌からのインプットも大切ですが、実は、人に会うことは、さらに効果的なインプットになります。たとえば、あるキャンペーンを考えた方とお会いすれば、その背景や結果なども聞けます。それらの「生」で「深い」情報は、インスピレーションの宝庫=知恵の宝庫です。
いろんな人に会うためには、ランチも夕食も含め、食事を最大限に利用することで実現できます。できるだけ、社内や業界関係者ではなく、普段会わない人、仕事外の人に、意識して会うようにしています。
あまりお勧めしないのは、毎日、同じ部署や席が近い人たちと、ランチに行くこと。リラックスにはなるかもしれませんが、そこに新しいインプットは少ないです。ランチで社外の方に会うのは難しいという方は、ランチは「席が近い人」ではなく、社内でも普段なかなか会わない方とすることをお勧めします。「ランチ、行きましょうよ」とお願いして、断られることはまずありません。
また、仕事は期間限定ですが、友人は一生です。仕事より、大切な人に会うことを優先すべきだし、自分はそうしています。どうしても早い時間に仕事が終わらなければ、そのまま残業をするのではなく、仕事を一旦ストップして、会食などに行き、11時頃に戻ってきて(または家で)仕事をするようにしています。人に会うことは、それぐらい大事にしています。「仕事が忙しいから、なかなか人と会えない」なんて言っていたら、一生誰とも会えません。要は、優先順位付けの問題です。
3. 仕事が順調なことに満足しない(Get Out from Your COMFORT ZONE)
1と2でお話したインプットは、「疑似体験」としてのインプットでした。しかし、効果的・効率的なインプットとしては、やはり実際の体験に勝るものはありません。なので、マーケッターは、できるだけ短い時間で、多くの体験をすることを追求すべきです。それが、マーケッターとしての経験や視野を広げていきます。
マーケッターとして多くを体験し、早く成長していくためには、今の仕事で実績を出して、仕事の幅を広げる、今までと異なる仕事をする、昇進するなどして、どんどん次のステージに移ることが効果的です。日本の方は、「どんな仕事をするか」に関して受動的な方が多いですが、やりたい仕事を奪い取ることや、昇進することに対して、もっとアグレッシブでいいと思います。
仕事で結果を出して順調だと感じたら、間違いなく成長曲線が鈍化しています。なので「順調だ」と感じたら、変わり時です。順調な成果に安住することなく、新しい経験ができる新しい仕事を自ら奪いに行きましょう。
4. 平和で安定した生活をしない(Stay Tuned to TRENDS)
マーケッターとして人の心を動かす仕事をしている以上、人が「心を動かされていること」に対しては、常に敏感でなくてはなりません。毎日規則正しく、早い時間に家に帰って家族と団らんするのもたまにはいいですが、多くの人が心を動かされているような流行っていることを経験するために時間を使った方が、マーケッターとしての成長につながると思います。
新しいことに出会ったら、必ず手を出して1回はやってみましょう。流行っている場所には行ってみましょう。大勢の方が「心を動かされていること」を実際に自分で体験して、なんで流行ってるんだろう、と考え、自分の仕事への示唆を導き出すことが重要です。
マーケッターでありながら、昨年の世界的大ヒットとなった「ポケモンGO」を一度もやったこともない、というのは言語道断です。世界中で人気のスマホアプリ「SNOW」や「Snapchat」を一度も使ったことがないというのも疑問です。流行っていること、人が心を動かされることに出会ったら積極的に体験し、理解し、その流行りのメカニズムを考えてみることをお勧めします。
output :5~8
5. 面白いアイデアを追わない(Start from OBJECTIVE & GOAL)
いろいろインプットをしていると、同じようなキャンペーンを自社でもやってみたいと考えることは、理解できますが、とても危険です。マーケティングもビジネスも「OGSM」の順番で考えることが大切です。OGSMとは、
- 目的 Objective
- 目標(値) Goal
- 戦略 Strategy
- 戦術&測定 Measures (Execution) & Measurement
この順番でいかないと、ほぼ間違いなく失敗します。面白いアイデアや施策に目が行きがちですが、それはあくまで戦術でしかありません。それを実行しようと考える前に、そのアイデアや施策が、自社や自身が担当しているビジネスの目的(Objective)や目標(Goal)と合致しているかどうかを考えてください。どんなに素晴らしいアイデアや施策でも、目的と一致していなければ時間とカネの無駄遣いでしかなく、また目標と一致していなければ十分な結果を出すことができずに終わるでしょう。
6. あれもこれもやろうとしない(Focus on BIG Things)
経営資源(リソース)は有限です。ヒト、モノ、情報、時間のすべてに限りがあります。戦略とは、目的、目標達成のために「何をするか」に加え、「何をしないか」を決めることでもあります。効きどころを見極めて、そこに資源を集中して投下すれば、予算や人員などの資源が少なかったとしても、勝利することは多いにあります。「なんとなく安心だから」と全方位の施策を実行するより、効くところに集中して資源を使うことが大切です。
私が就任当時、ネット上には、マクドナルドへの批判や、否定的な声が溢れかえっていました。なので、マクドナルドが自ら「いい品質の原料を使っています」という広告を出したとしても、誰にも信じてもらえない時期でした。
こうした状況だったので、いわゆる「会社からのメッセージ」である広告で、品質に対してお客様の信頼を得ようとすることはやめました。かわりに始めたのが「Love Over
Hate(愛は嫌悪を上回る)」という戦略です。「おいしい」「たのしい」といった、マクドナルドにポジティブな記事やニュースを、ネット上に圧倒的に増やして、ネガティブな記事やニュースがだんだん見えなくなるようにしました。
とりわけ注力したのは、「おいしさ」を伝えることでした。お客様が「美味しいもの」を探しに行くときのメディアである、と「dancyu」や「食べログ」といった媒体に積極的に取り上げられるようにしました。また、メディアやSNSが、マクドナルドにポジティブなニュースや投稿で埋め尽くされるように、メディア向けのPRイベントや、お客様の新商品試食会の回数を倍増しました。また、それまであまり取り組んでいなかったSEOを昨年開始しました。このような施策の結果、去年(2016年)夏ごろからポジティブなニュースや投稿が、ネガティブなものを上回るようになりました。
7. 「堅実」に積み上げようとしない(DIFFERENTIATE, or Die (Go Extreme))
いろいろな会社を見てきましたが、マーケティング計画を策定するとき、「これで+1%、これで+2%」というように、細かい施策をひとつずつ丹念に積み上げて、堅実な計画を立てる方が多いです。確かに、経営層に計画を提案するときには、積み上げ式で堅実な説明が必要かもしれません。しかし、野球選手のイチロー氏だって3割の打率しかありません。たとえ施策の半分くらい失敗しても目標数値は達成できるよう、できるだけ多くの「大成功」しそうな施策を仕込んでおくことが大切です。
では「大成功」させるためには、どうするべきでしょうか?1人が1日に、4000回もの広告メッセージに接触する、と言われています。「大成功」するためには、その大量の広告メッセージの中に埋もれずに、自社のメッセージが人々の心に留まるように、差別化されて目立つことが必須です。
「美味しい!」と言ったとしても、それは食べ物のCMとしては、あまりに普通で、目立ちません。そこで、昨年1月に発売した「マックチョコポテト」では、食べ物のCMでは決して流れることのない、「絶対に美味しくない」という言葉を使いました。これを見た方は「え?!」と驚きの反応をします。この広告を機に、ネット上では、「おいしい!」「意外とうまい」「激ウマ「まずい」「激マズ」と、論争が起こり、多くの方にご注目いただきました。。
8. 目の前の仕事だけに集中しない(Spend Your 20% to STRUCTURAL Changes)
ビジネスマンとして、目の前にある(短期的な)仕事を追うのは、当たり前です。しかし、目の前の仕事だけに集中していては、構造的な大きな変化は起こせないし、何より「自転車操業」から抜け出せません。
短期的な業績を追うだけでなく、中長期的に業績が継続し、利益が出る「仕組み」や「組織」を作ることも、マーケッターがやるべき重要な仕事です。基本的に人は「やりたいこと」か「やらなくてはいけないこと」しかやらないので、マクドナルドでも、必要な変更が戦略的にできるよう、仕組みや組織を見直しました。
マクドナルドの仕組みづくり ポイントその1 考える順番を変える
まず、マーケティング施策を考える順番を変えました。これまでは、「商品ができてから、キャンペーンを考える」という順番でしたが、この開発の順番だと、「そもそも、この商品をどうやって話題にするか?」と、(商品はもう変更できないタイミングになってから)悩まされることもありました。そこで「まずキャンペーンを考えて、それを実現できる商品を開発する」というように、キャンペーンの仕掛けをまず初めに、それから商品名、パッケージを決めていくように、考える順番を変えました。例えば、「チキンタツタ」に「強力なライバル登場」というコンセプトがあったので、「チキンタルタ」という、同様のライバルとなりえるような名前・企画の商品を開発してもらうことができました。
それから、コミュニケーションプランを考える順番も変えました。これまでは、「まずマスを考えて、予算と時間があればデジタルとPRも」という、ごく一般的な順番で考えていました。でも、SNS全盛となった今は、これではうまくいきません。時系列的に「PRでの打ち出しをまず考え、それをさらに発売前にデジタル(SNS)で話題にして、最後にマスでブーストする」をいう順番を方程式にしました。メディアで言うと「アーンド⇒シェアド⇒ペイド」という順番に再構築し、広告代理店にもこの順番でプレゼンしてくださいと、お願いしました。この変更も、昨年のマクドナルドのメディアやSNSでの露出の激増につながりました。
マクドナルドの仕組みづくり ポイントその2 KPI(目標)を変える
マクドナルドでは、マーケティングが責任を持つ数字は売上と顧客数でした。一方で、赤字だった時期もあった関係で、収益性の向上が喫緊の課題でした。また、ソーシャルネットワーク上での露出が戦略のひとつだったので、売上と顧客数に加えて、粗利率と商品が出る前にどれだけソーシャルで話題になるかといった「プレバズ」の量を目標値に加えました。
これにより明確な数値目標ができたので「収益性をいかに担保しようか」とか「いかにプレバズを最大化しようか」といったような議論が、普通にマーケティング部や広告代理店の中で起こるようになりました。ちなみに、ある程度決め打ちで始めた「プレバズ」でしたが、結果として売上に対しても絶大な効果があることがわかりました。
マクドナルドの仕組みづくり ポイントその3 組織を変える(専任制に)
それまでのマクドナルドのマーケティング部は、期間限定の商品や販促を開発・実施するのが使命でした。しかしこれだと、なにしろ多くの販促が並行して走っているので、なかなか「期間限定の販促」の枠に収まらないアライアンスや、来年以降を見据えた中長期的な戦略を考える余裕がありませんでした。そこで、期間限定の販促を担当するチームと、アライアンスや中長期戦略を考えるチームを明確に分けました。これにより、アライアンスのチームにより「ポケモンGO」やガソリンスタンド等のアライアンスが次々と実現しました。また中長期戦略のチームは2017年のマーケティング計画を早い段階から検討できたので、今年の「マクドナルド総選挙」のような仕込みが必要で複雑なキャンペーンを、余裕をもって実現することができました。
attitude:9~12
マーケッターは、経営者であり、結果がすべてです。自分の価値や貢献として残せるものは、自分が担当になった時と、担当を外れた時の「数字の差」のみです。どんなに素晴らしい人でも、結果(数字)がなければ「ただのいい人」です。なので、数値目標達成のために、自分が「これは!」と思ったことは、最後まであきらめないことが大切です。
マクドナルドでも、昨年は商品のパッケージやネーミングを、SNSを意識して大幅に変えましたが、当初は誰もが「こんなパッケージやネーミングが、承認されるのか?」と半信半疑でした。でも、きちんと説得することで、ほぼすべてに承認を得ることができましたし、これらの革新が昨年のSNSでの露出に貢献したと考えています。
あのマイケル・ジョーダンは、極端な負けず嫌いで知られており、プライベートでトランプをした時でも絶対に負けなかったそうです。数字がすべてのマーケッターにとって、負けず嫌いは絶対条件です。いつでも、どこでも、採点カラオケでも、飲みでも、絶対に勝つんだ、という意気込みで臨み、「勝ちぐせ」をつけることが大切だと思います。
10. 安易に上司に従わない(Never COMPROMISE Because of Boss/Consumers)
この前の項目で説明した通り、マーケッターは結果(数字)が全てです。失敗したら、すべて自分のせいです。なので、ビジネスに正しくないと思うことを、上司に言われたという理由で、安易にやってしまうのはやめましょう。「正しくない」と思うことをやるのは、おおむね失敗するので、自分のキャリアという結果に繋がりませんし、楽しくないし、そもそも職務規定違反です。各社で職務規定を読んで頂ければわかりますが、たいていの職務規定には「ビジネスを伸ばすために全力を尽くす」と書いてあり、「上司のために全力を尽くす」とは書いてありません。ただし、もちろん上司は尊重すべきなので、自分が「正しくない」と思うことは、「やりたくない」と突き放すのではなく、お互い納得するまで話すことが重要です。ビジネスを伸ばすという共通の目標があるので、どこかで両者が納得する落としどころがあるはずです。
また同様に、消費者の声に耳を傾け過ぎないことも重要です。消費者の声を聞くことは大切ですが、消費者ニーズからは既存の選択肢の中での改善しか生まれません。イノベーションを起こせるのは、「顕在化していない消費者の潜在的な洞察」に基づいて、消費者には想像がつかないサプライズなソリューションや商品を提供できたときです。実際、消費者の声を安易に聞きすぎると、大きな失敗に至ることもあります。大企業が、大規模調査に基づいて開発した新製品や新サービスが大失敗に終わった、という例は枚挙にいとまがありません。
11. 革新的な計画にみんなの理解を得ようとしない(Permission-Less INNOVATION (Take your own risk))
基本的に、保守・本流からイノベーションは生まれません。なので、先進的なことは、すべてに誰かの承認を得ようとしないで、自分の決裁権限を最大限利用して、自分自身のリスクで、勝手にやることがおすすめです。
自分自身、今までずいぶん、誰の承認も得ないで始めた商品や活動がありました。ヘンケル時代に始めた「未来をつかむ夢はさみ」という、美容師さんをカンボジアなどの国に送って、そこの恵まれない子供たちに髪の切り方を教えて、手に職をつけてもらい、ひとりだちを助けるという社会貢献活動です。当時、新製品の開発・発売にはグローバルの承認が必要でしたが、販促や社会貢献活動には特に承認が必要ない、という規定を理解した上で、日本で勝手に始めたものでした。それが大成功して、いまではヘンケルのグローバルの活動になりました。
http://www.schwarzkopf-professional.jp/skp/jp/jp/home/social-responsibility/shaping-futures/shaping-futures-top.html
昨年話題になった、マクドナルドとポケモンGOのコラボレーションも、「絶対にうまくいく」という確信はあったものの、まだ存在しない「ポケモンGO」の構想を話しても、社内を説得するのは難しいと考え、自分の判断で少数のメンバーにしか知らせずに、どんどん進めてしまいました。結果として、想定以上の効果がありました。世界の社会現象になった「ポケモンGO」に、世界で唯一、日本マクドナルドだけがローンチパートナー(サービス開始時のパートナー)企業となることができたのです。
12. マーケティング(自分)が主役にならない(Excite Your TEAM, not you)
マーケティングは、実はひとりでは何もできません。また、マーケッターは、リーダーでもあり、仕事がうまく進むように、必要なことはなんでもやるプロデューサー(裏方)でもあります。なので、社内・社外ともに、支えてくれるチームの皆さんが気持ちよく働いてくれる風土や環境を作ることが、とても重要です。
そのためには、いくつかポイントがあります。まず、人は論理ではなく、感情で動く動物だということを認識して、「こいつが言うなら、やってやろうか」と言ってもらえるような、仕事外での関係を作ることがとても大切です。
また、人間関係は「引き出し」です。いずれ引き出しから物を出すように何かやってもらいたいのならば、まずは先に、引き出しに物を入れるように、何かやってあげてください。いざという時に何かやってもらうためには、損得を考えないで、常に「give、give、give」で、周りの皆さんに与え続けてください。
そしてもうひとつ。自らの情熱、やる気を、周りに撒き散らしてください。「内に秘めた情熱」とか、意味がありません。「頑張っている人を、助けたい」という世界共通の感情に働きかけるのが重要だからです。
そして、プラス1
13. 仕事はつらいものと諦めない(ENJOY, Everything)
誤解を恐れず言えば、マーケティングという仕事は、「信長の野望」のような、シミュレーションゲームに似ています。というのも、マーケティングは売上や利益などの目標値、「信長の野望」は勝利という目的のために、考えて、あれこれ試行錯誤しながら、進めていくものだからです。
ゲームの場合、お金を払わないといけませんが、マーケティングという仕事は、なんとお金(給与)をもらいながらできるのです。なので、マーケティングという仕事は、つらいものではなく、思いっきり楽しみながらやることです。
最近「ワーク・ライフ・バランス」なんて言葉を聞きますが、私はこのコンセプトには賛同しません。1日の大半の時間は仕事をしていますので、ワークが楽しくなければ、人生、楽しくありません。なので、ENJOY,
Everything!
80分にわたる熱い講演のあとの、質疑応答はさらに熱いものになりました。
アライアンスを組む場合の条件はありますか?に対して、明確に3つの回答。プレスイベントについては何を意識していますか、に対しても、明確に3つに回答。何か質問されると、「(答えは)3つあります」と言って、結論から簡潔に述べるのは、どうやら足立氏の確立されたスタイルのようです。
また、あの記憶に新しい「マクドナルド総選挙」を仕掛けた真の目的は何か、というような質問に対しても、笑いが溢れる、大変興味深い回答を頂いたのですが、それは「オフレコ」ということで、セミナー参加者のみの秘密としておきます。
なお、今回の足立氏のセミナーは、シナプスのセミナーの長い歴史の中で、過去最高の参加者満足度スコアを獲得した、とてもユニークで印象的に残る、参加者の言葉を借りれば「ぶっ飛んでた」セミナーでした。足立氏という稀有な人材を獲得した日本マクドナルドの、今後のさらなる躍進を確信しましたし、参加者はみな、マクドナルドのファンになりました。足立氏の今後のご活躍を、応援しております。
(筆:村上佳代)
※本セミナーのサマリー記事を、株式会社スペースシップ社のMarketing Base「マクドナルドをV字回復させたマーケターの流儀――第1回シナプスCMOセミナー報告」でご紹介頂きました。
こちらも合わせてどうぞお読みください。
講演者:日本マクドナルド株式会社 足立光(あだち ひかる)氏
日本マクドナルド株式会社
上席執行役員 マーケティング本部長
P&Gジャパン(株)、戦略コンサルティングファームを経て、ドイツのヘンケルグループに属するシュワルツコフヘンケル(株)に転身。2005年には同社社長に就任。その後、2011年からはヘンケルのコスメティック事業の北東・東南アジア全体を統括。(株)ワールド
執行役員 国際本部長を経て、2015年より現職。 一橋大学商学部卒業。
プログラム概要
- 8時30分:受付開始
- 19時~19時5分:ご挨拶 株式会社シナプス代表取締役 家弓正彦
- 19時5分~19時15分:シナプスのマーケティングソリューションについて
- 19時15分~20時25分:日本マクドナルド株式会社 足立光氏 講演
- 20時25分~20時40分:質疑応答(訊き手 株式会社シナプス 村上佳代)
- 20時45分~22時:懇親会
開催内容
- 日程:2017年2月27日(月)
- 時間:19:00~22:00
- セミナー料金:4,000円(税込み)
- 懇親会料金:無料
会場 : TKP東京駅八重洲カンファレンスセンター 7F
〒104-8388 東京都中央区京橋1-7-1
http://www.kashikaigishitsu.net/facilitys/cc-tokyo-yaesu/access/