小説「下町ロケット」

シナプス後藤です。
シナプスでは、マーケティングコンサルティングやワークショップで、お客様企業の新規事業のお手伝いを多く行っています。

新規事業において、イノベーションは欠かせないものです。さて、「イノベーション」とは何なのでしょうか?

イノベーションについて、私は「新しいものの見方や考え方で市場で成功する事」と定義しています。

そのポイントについて、直木賞を受賞した池井戸潤さんの小説「下町ロケット」で考えてみたいと思います。「下町ロケット」は、小説としての面白さもさることながら、リアリティある新規事業のイノベーション事例としての見方もできます。

「下町ロケット」は、下町の中小企業である「佃製作所」が、大企業を相手にロケット部品製造で町工場の矜持を貫く、というお話です。特にメーカーの方にはとても共感されるようです。 詳細はネタバレを配慮して避けますが、ざっくり申し上げると、大企業である帝国重工が宇宙ロケットの開発をしており、その重要パーツの一部の特許が佃製作所に握られていた。それを巡って様々な人間関係が織りなすストーリーと言う内容です。

0.下町ロケットでは、なぜ「イノベーション」を起こせたのか

「下町ロケット」では、なぜ、イノベーションを起こせたのでしょうか。下町ロケットのエピソードを通じて、イノベーション(新規事業成功)に必要な3つのポイントについて解説します。

1.インベンションからイノベーションへ:Invention(発明)とInnovationの違い

1-1.佃製作所は、発明(インベンション)にとどまらず、成果を出し世の中を変えた

下町ロケットの主役である、佃製作所の水素バルブ特許は、研究開発の末に作られたもので、発明(インベンション=invention)として極めて優れたものです。ただ、ここで申し上げたいイノベーションとは技術開発に依るものでなく「それがビジネスの成果につながったもの」です。

もし、佃製作所が特許売却を選んでいたら大した話にはならないでしょう。自社の事業拡大を目指した「部品提供」というビジネスモデルを選んだからこそのイノベーションである、と申し上げたい。結局、イノベーションとは事業成果につながり、世の中を変えてこそ初めて意味があるものなのです。

1-2.青色LEDにみるインベンション(発明)とイノベーション

例えば、青色LEDは「イノベーション」と呼ばれます。日亜化学工業に当時在籍してた中村修二さんが発明したものです。

その結果として彼はノーベル賞を受賞しますが、日亜化学工業は中村さんが訴訟した当時で既に2000億円の売上を上げています。そして、いまでは夜のイルミネーションのかなりの割合が青色LED(の結果として白いLEDが作成できるようになった)になっています。これが世の中を変え、事業成果になった好事例でしょう。

対照的に、カミオカンデでニュートリノの観測に成功した小柴昌俊さんもノーベル賞を受賞していますが、彼が成し遂げたことはイノベーションとは(まだ)呼べません。彼の研究そのものは極めて優れていますが、それ自体が世の中を変えるに至っていない、事業成果に繋がっていないからです。

1-3.イノベーションとは、世の中を変えるに至ること、事業成果につながっていること

結局、重要なのは技術開発やインベンション(発明)ではなくそれが世の中を変えるに至ること、その結果として事業成果につながるがイノベーションになります。言い換えれば、イノベーションを実現するためには売上や利益にこだわる必要があるでしょう。

その点、「下町ロケット」の佃製作所」は、世の中を変えるにいたる、事業成果につながるという意味で「イノベーション」といえるでしょう。


1-4.イノベーションに必要な顧客ヒアリング、VOC把握

それらを理解するためには、本来であればその現場を観察することがベストでしょう。しかし、昨今はセキュリティが厳しくなり、なかなか現場に足を踏み入れることが難しくなっています。そこで、それに代わって徹底した顧客ヒアリングが必要となっています。

普段お客様と接して会話を交わしているとしても、是非一度じっくり時間をとっていただき、お客様が現在直面している現実を綿密に聴取、理解しておきたいですね。

2.イノベーションは異質なものを受け入れることにより達成される

帝国重工は、多くの日本企業のメーカーに見られる「自前主義」を取っています。根幹となる部品や技術は必ず自社で用意する、と言うスタンスですね。

ところが、自前主義には限界があります。イノベーションは新しいものの見方や考え方が必要になりますが、自前主義だと「新しさ」が生まれにくいのです。20世紀はまだ技術進化の余地も大きかったため、粛々と技術開発を進めていれば、技術開発が主導するイノベーションが生まれやすかったのは事実です。しかしながら、これだけ世の中が成熟してきてしまうと、自前主義だけでは限界があります。そこで、「オープンイノベーション」と呼ばれるように外部を活用したイノベーションのやり方が一つの選択肢になります。

例えば、日本の携帯電話を変えたdocomoは、バンダイ出身の松永真理さんや東京ガス出身の夏野剛さんが主導しました。これはNTT docomoという会社が外部の異質な方を受け入れた結果です。また、P&GのConnect & Developmentは、オープンイノベーションの成功事例と言われていますが、そのコンセプトは「P&Gが持つ課題を公開するので課題解決の提案をして欲しい」というものです。これも外部の力を受け入れて成功につなげているものです。

外部の力、異質なものを受け入れる事がイノベーションに繋がります。

3.イノベーションを生み出すのは結局個人の情熱である


「下町ロケット」の佃製作所でのイノベーションを生み出した最大の要因は何か?

本やドラマを見て熱くなった方は感じたように、やはり「佃社長の情熱」が最大の成功要因と考えられます。勿論、技術力や環境要因等も影響しますが、例えば水素バルブの開発自体は帝国重工でも自前で出来たように必ずしも佃製作所にしか出来なかったわけではないからです。

新規事業などのように新しいことにチャレンジすると必ず抵抗がおきます。例えば、中小企業でもある佃製作所でも、利益部門であるステラエンジンを担当している部隊から抵抗を受けました。

既存事業、利益部門にとってみれば、成功するかどうかもわからないのに多大な金を使う新規事業は単なるお荷物でしかないからです。自分たちが汗水たらして稼いだ利益をなぜ彼らに浪費されなければならないのか、と考えてしまいます。

また、社外にも自前主義を含む「今までのやり方」という抵抗勢力が存在します。これらの抵抗を打ち破るパワーが必要なのです。

下町ロケットは、佃社長の情熱が会社を引っ張って行きましたが、必ずしも社長で無くとも「折れない誰か」が絶対に必要です。

まとめ:新規事業イノベーションに必要な3つのポイント

新規事業を生み出すには「イノベーション」が欠かせません。もし、新規事業にチャレンジしているのであれば、下記の3要素があるかどうかを考えてみてください。

  1. 事業成果を常に意識する
  2. 異質なものを受け入れる
  3. 新規事業リーダーには情熱が必要


参考情報

1.コラム著者紹介

株式会社シナプス 取締役 後藤匡史

1973年生まれ。1999年株式会社アイネス入社。 システムエンジニアとして、流通業、製造業、サービス業など幅広い分野の情報システムの開発業務に従事。
2007年、株式会社シナプスに入社。マーケティングコンサルタントとして、主にマーケティング戦略や新規事業開発などのコンサルティング、研修、ワークショップに携わる。


2.新規事業に関連する企業研修


新規事業アイデア創造ワークショップ


「新規事業アイデア創造ワークショップ」は、「事業アイデア創出」を体感するワークショップ型の企業研修です。ワークショップで、新規事業アイデア創造を実際に行い、事業アイデア創造のスキルとマインドを身につけます。

研修プログラム詳細は『新規事業アイデア創造ワークショップ』をご覧ください。


新規事業開発ワークショップ


「新規事業開発ワークショップ」は新規事業にフォーカスし、顧客の声を元にコンサルタントのサポートを受けながら事業計画を作成するワークショップです。事業アイデア(新規事業のタネ)を、実際に何度も顧客ヒアリング(VOC取得)し、新規事業計画書の作成や事業機会の発見を行います。

研修プログラムの詳細は 『【新規事業開発ワークショップ】顧客の声で仮説検証実践』をご覧ください。


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